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2019.03.01

可愛くて楽しかった小さなEVたち!

いまや、あらゆるメーカーがEVを発表している。だが、じつは20年前にここ日本で商品化されたEVがあった? その思い出と顛末を語ります。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第85回

可愛くて楽しかった小さなEVたち!

カンガルー クルマ イラスト
20年ほど前、日産が送り出した「ハイパーミニ」と名付けられた超小型EVを覚えていらしゃるだろうか。

スリーサイズは2665×1475×1550mm。軽自動車よりはるかに小さく、最小回転半径は3.9mでしかない。素晴らしいシティカーだった。

ルックスもよかった。未来を予感させるようなルックスであり、街を走っていると多くの目を引いた。後にアウディに移り大きな足跡を残したデザイナー、和田智が日産在籍時に取り組んだ最後の仕事でもある。

1996年、運輸省は産官学共同プロジェクト、「次世代都市用超小型自動車研究会」を立ち上げ、僕も委員に任命された。そして、同会がまとめ公表した具体案に沿って、1997年の東京モーターショーには複数のメーカーから試作車が展示された。

そんな中、ひときわ目立っていたのが日産のハイパーミニ。観客の反応もよかった。そんな状況に日産は素早くアクションを起こした。2000年春、EVでは日本で初めて型式指定を取得。発売に踏み切った。

当時は非常に高価だったリチュームイオン電池(120kg)を床下に積み、軽量なアルミスペースフレームの専用ボディを採用するなど、かなりの意欲作だった。

日産に依頼され、そんなハイパーミニに3週間ほど試乗したことがあるのだが、シティコミューターとしてはかなりの可能性を感じた。

わが家のガレージには、すでに200VのEV用電源を引いていたので充電も問題なし。

ルックスがよく、小さいのにかなりの存在感もあった。街を走っていると多くの視線が集まった。いい気分だった。
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EVのいちばんの問題点は航続距離だが、ハイパーミニの公表値(10・15モード)は115k m。しかし、実際に毎日の足に使ってみての実力は50km程度といったレベルだった。

ヘッドライトとヒーターをつけ、ちょっと早めのペースで走るといった状況(例えば首都高速を使う)になると、安全圏は40km程度に短縮される。

横浜のわが家から、仕事でよく行く都心までの距離は25km前後。途中充電なしで往復するには微妙な距離だった。

最近は充電可能な場所を探すのは簡単だが、当時はそうはゆかない。でも僕は頑張って、できるだけハイパーミニを使った。

長期試乗した時期が不幸にも冬だったので、ヒーターを使えないのもきつかった。ヒーターはかなり電気を食うからだ。

そんなことで、都心にゆく時はしっかり防寒対策をして、ヒーターなしで走った。それでもけっこう寒かった。EVの限界を否応なく突きつけられた感じだった。

でも、近場の足としては魅力的だった。わが家の日常的なショッピングエリアは、遠くても往復10km程度だったので、なんの不安もなく使えた。そして、帰って充電パドルを差し込んでおけばすぐ満充電になる。

僕も家内も、近場はハイパーミニを使った。お洒落な感覚も含めて楽しいし、駐車の楽さは天下一品だったからだ。たいていのところは、頭から一発で駐められてしまう。
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走りもよかった。力強くて、速くて、静か。
ハイウェイ以外では、走りの面で不満を感じたことはなかった。

ランフラットタイヤを履いていたが、ボディ骨格がしっかりしているので、乗り心地もよかった。ホイールベースの短さを考えると、上々の乗り心地といえた。

ハイパーミニ最大の弱点は400万円という価格。補助金を受けても250万円。最新の日産リーフなら、4人が快適に乗れて、箱根往復くらいは楽にできる性能で350万円。20年前のハイパーミニと重ねると、EVがいかに大きく進化しているかがわかる。

ハイパーミニからほぼ10年後、再び、小さく魅力的なEVがわが家のガレージに数週間滞在した。1台は「Smart ed」で、もう1台は「MINI E」。

ホワイトとライムグリーンの2トーンカラーを纏ったSmart edもカッコよかった。Bピラーに描かれた充電プラグが、とてもお洒落に見えた。

航続距離は135km。横浜と都心の往復はヒーターを使っても不安なくこなせたし、シティコミューターとしては、いろいろな意味で十分なパフォーマンスの持ち主だった。

しかし、、くり返しになるが、なにより魅力的だったのは「カッコよさ!」。文字通り「スマート!」そのものだった。

MINI Eは、「一般的ユーザーが日常の足として一定期間使ったデータ」を集めることを目的とした実証実験車だが、最高に楽しかった。
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チタングレーのボディに、トーンを抑えた黄色でEVをアピールしたデザインもカッコよかったし、後席を潰して250kgの電池を積み、2シーターにしてしまった潔さもカッコよかった。

発進時、下手にアクセルを踏み込むと、前輪は激しく空転。強いトルクステアもでる。そんなヤンチャっぽさもまた潔く、楽しかった。

とにかく、0~30k m/h 、0~50k m/h といった短距離発進加速の速さはハンパではない。

初めのうちは「こんなのってあり!?」と戸惑ってしまったほど強力な回生ブレーキも、馴れると楽しくてしょうがない。アクセルのコントロールだけで、「縦横無尽に!」加減速をコントロールできてしまう楽しさに、僕は依存症になってしまいそうだった。

「あのMINI E」が、実証実験車そのままのヤンチャぶりで発売されたら、僕は間違いなく買ったと思う。

そんなことで、10年、20年前に乗った「可愛くて楽しかった、小さなEVたち」を、僕は今もことある毎に思いだしている。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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