2019.01.18

ピンクパレスとC4コルベット

アメリカの自動車文化を体現する一台といえば、コルベットだろう。ふとした縁からC4コルベットのコンバーチブルで、西海岸に一週間滞在する機会を得た著者が体験した90年代のアメリカの様子とは?

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

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シボレー・コルベットとの忘れ難い思い出がある。1993年の秋だったと思う。大好きなコルベットとともに、大好きなLAで1週間ほどの時を過ごした。

その1ヶ月ほど前、コルベット生誕40周年を記念したアニバーサリーモデルが発表され、
ミシガン州ミルフォードにあるGMのテストコースに乗りに行ったのだが、この試乗がひどく退屈で面白くなかった。

テストコースのゲスト向け走行ルールは厳しく、走行スピードはありえないほど低く抑えられていた。にも関わらず、ヘルメットの着用(ベルのジェット型)はマストだった。背の低い(164cm) 僕が好みのドライビングポジションに合わせようとすると、ヘルメットを被った頭はルーフぎりぎりで、ヘッドレストが頭を前に押すような感じになる。なので、ストレスあるポジションで妥協せざるを得なかった。

ドライビングポジションは運転の基本だから、ここでピタリとこないと自信がもてないし、やる気も失せる、もっとも、やる気が失せてもまったく影響ない速度制限なので、どうでもよかったのだが、、。

まあそんな状況ながら、とりあえず走りはしたが収穫はなかった。そこで「申し訳ありませんが、記事は書きません」と広報担当者に伝えてテストコースを後にした。

広報担当者とはその夜のディナーを共にしたが、僕の言い分は十分理解してくれており、何度も謝りの言葉をくれた。もちろん、僕もその言葉を受け容れた。そんな中、彼から「自由に乗っていただく機会がぜひほしい」といわれたのだが、上手いことに、1ヶ月ほど後、仕事でLAに1週間滞在する予定があった。クルマに乗る仕事ではなかったので、レンタカーが必要だった。

それを言ったら、彼は即断した。僕のLA滞在に合わせてコルベットを用意するという。しかもコンバーチブルを。最高の提案だった。ミルフォードでのテストは退屈しごくだったが、ミルフォードに来てよかったと思った。
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1ヶ月後、LA空港でコルベットを受け取った。
ライトイエローのコンバーチブルは、明るいLAの陽射しの下で、鮮やかな、強烈な存在感を放った。

1週間の滞在の間、泊まったのはビバリーヒルズ・ホテル。俗称ピンクパレス。EAGLESの大ヒットアルバム「HOTEL CALIFORNIA」のカバーになったホテルとして有名だ。

LA空港のパーキングを出るときからオープンにした。いつも混雑してはいるが躊躇なく405号線に乗った。405号線を走ると、「LAに来たな!」という実感を強く味わえるからだ。

とりあえず、ホテルに向かった。オープンのコルベットで405号線を走り、ビバリーヒルズ・ホテルに向かう、、最高のコンビネーションだな、と思った。ホテルに着くとバレサービスのスタッフが、いつものように笑顔で迎えてくれた。クルマ好きの若いスタッフも駆け寄ってきて、「今日はコルベット!!」みたいな感じだったと記憶している。

ビバリーヒルズ・ホテルはLAでの定宿のひとつで何度も泊まっていた。加えて、いつも違うクルマ、わりにいいクルマ、わりに珍しいクルマ、に乗っていっていたので、バレサービスのスタッフには顔を覚えられていた。
彼らはクルマ好きが多いのだろう。珍しいクルマや、まだ触ったことがないような新型車に乗ってゆくと、明らかに嬉しそうなのだ。
そんなことで、C4コルベットも歓迎された。

この時の仕事は、広告代理店に依頼された「LA最新クルマ事情の客観的評価と分析」的な内容だったと思うが、この類の仕事はけっこう多かった。
基本的に行動は自由でチェックポイントも僕の判断に委ねられる。同行者がいることもあればいないこともある。この時は一人旅。なので制約は一切ない。コルベット・コンバーチブルを楽しむのには最高の条件だ。

もちろん、LA市内もあちこち足をのばしたし、サンセットプラザのカフェでの定点チェックにも時間をかけた。カフェの前に「僕のコルベット」を置けたのもラッキーだった。僕のコルベットはかなりの人目を集めた。すごくいい気分だった。
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サンセットプラザに面した大通りは、高級車、スポーツカー、クラシックカー等々が多く行き交う。それをカフェで寛ぎながら見るのはなんとも楽しい。

で、コルベットで行ったその日その時、僕はめったには出会えないクルマに出会った。C1コルベット、、そう、初代コルベット、それも初期型の方だ。

1960年代に日本でも放映され大人気だったアメリカのTVドラマ、「ルート66」の主人公の青年二人が乗っていたコルベット(途中から後期型に変わった)である。
一瞬だが、僕と僕のC4とC1が一直線上に重なり合った。「ルート66」の主人公を演じたジョージ・マハリス、マーチン・ミルナーのイメージが、霞のかかったような状態だったが、頭を過ぎった。素晴らしい瞬間だった。

そして、20代の頃、夢中になって見ていたアメリカのTVドラマのシーンが、これまた霞んだようにだが、次々浮かんできた。「ララミー牧場」、「奥様は魔女」、「サンセット77」、「弁護士ペリー・メイスン」、「アンタッチャブル」、、こうしたアメリカのTVドラマは僕に大きな影響を与えた。

コーストハイウェイは何度も走った。大好きなサンタモニカはもちろん、マリブビーチにも、ハンティントンビーチにも、ダナポイントの「お気に入り」にも行った。最高の夕景が見られるビューポイントだ。
コルベットはハイパフォーマンス・スポーツカーだが、仕事で乗る時以外には飛ばした記憶はほとんどない。いつも、流れに身を任せてゆったり走る。そんな大らかなところも、コルベットが好きな理由のひとつなのだろう。

C4と共に過ごしたLAの1週間でも同じだった。ミルフォードのテストコースでは飛ばせないことに苛立ったが、LAの1週間でその返礼をしようと思ったことは1度もなかった。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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