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2026.07.04

染谷将太インタビュー。「いろんな価値観に触れられる俳優という仕事がすごく好き」

コンビニという空間を日本社会の縮図として捉え“社会批評的ホラー”とも称される映画『チルド』で日々を無感動に過ごす店員の堺を演じた染谷将太さん。“終わりのない、ぬるま湯のような地獄”を描いた本作から染谷さんは何を感じたのでしょう?

CREDIT :

文/真島絵麻里 写真/中野修也 スタイリング/清水奈緒美 ヘアメイク/光野ひとみ 編集/鎌倉ひよこ、森本 泉(Web LEON)

染谷将太 チルド LEON 岩崎裕介

「虚無をまとった空気、感情が爆発した時の圧倒的な力。彼でなければ、この役は成立しなかったと確信しています」。7月17日(金)公開の映画『チルド』で、岩崎裕介監督にそう言わしめた俳優の染谷将太さん。


これまで多彩な役柄に挑んできた彼がこの作品で演じるのは、コンビニという空間で同じ作業をただ繰り返すだけの日々を過ごす店員の堺。その眼差しや佇まいで作品の持つ陰影をいっそう深める稀有な俳優が、“終わりのない、ぬるま湯のような地獄”を描いた本作から感じたこととは──?

どこかアンニュイで飄々とした雰囲気を漂わせながらも、インタビューでは一つひとつの質問に真摯に向き合ってくれた染谷さん。“社会批評的ホラー”と称される衝撃作『チルド』や、ご自身の価値観や仕事観について、たっぷり語っていただきました。

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人間のふとした瞬間の滑稽さに愛おしさを感じます

── 岩崎裕介監督のコメントを拝見すると、染谷さん演じる主人公の堺は監督自身でもあるとのこと。役柄について監督とどのようなお話をされて、どのように理解を深めていったのでしょう?


染谷将太さん(以下、染谷) 監督からは、堺は監督自身であり、西村まさ彦さん演じるコンビニのオーナーは監督のお父様がモデルだと伺いました。ご実家が実際にコンビニを経営されているそうで、「同じ毎日の繰り返しの中で、父親がだんだん虚無化していった」とお話しされていて。監督は、子供ながらにそれを面白いと感じていたそうなんです。もう、生まれた時からセンスがある方なんでしょうね。

この作品は人間らしさというものが削がれていく話でもあると思うんですが、自分は空っぽになっていくということはすごく恐ろしいことだと感じたんです。一方、監督は「自分は伝えたいことや描きたいものがない」とおっしゃっていて。

染谷将太 チルド LEON 岩崎裕介
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染谷 それを聞いた時に、自分が考えていることと監督の概念が乖離しているなと思ったんです。伝えたいことは確実にあるんだけれども、監督自身はそれを伝えたいものとして捉えていないんだなって。それはある意味、監督なりの虚無なのかなって思いました。


お芝居に関しては、監督がおっしゃっていた“自分は何も伝えたいことはないんだ、0なんだ”という感覚だけを大事にして、台本に描かれている堺をどう成立させていくかを考えながら演じました。

── 監督からはどのような演出がありましたか?


染谷 ご自身が「こんな感じです」って感じで実際に演じてくださったりもするのですが、それがすごく面白かったです。基本的に堺という役は“何もしない”ということをしなければいけなかったので、自分としてはそこがすごく難しかったんです。


監督も「主人公はただそこにいるだけにしたい」とおっしゃっていたのですが、突拍子もないことが多々起きていく中、堺という人間がただ立っているだけで成立するような環境を作ってくださって。なので、自分としてはいちばんの特等席で現場を観て楽しんだという感覚が近いかもしれません。


カメラワークも、あえてキャラクターに寄り添った撮り方をしていないんですよ。ものすごく冷たい距離感だからこそ、逆に自分は立っているだけで大丈夫なんだなと、初日のサラダチキンを見ているショットで感じましたね。“なんて冷たい映画なんだ”と思う反面、“自分はただボーッとここいればいいんだ”って安心しました。

染谷将太 チルド LEON 岩崎裕介
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── そんな堺も唐田えりかさん演じる小河と出会うことで心境に変化が生じますが、そのあたりのシーンの演出はいかがでしたか?


染谷 作品内で小河と2人で話すシーンがあるんですが、そこだけ撮り方とかもトーンが若干変わっているんですよ。「いわゆる日本の恋愛映画みたいなことをちょっとやりたい。本当はやりたくないけど」みたいなことを監督がおっしゃっていたのですが、現実なのかどうかもよくわからないそんな“いい雰囲気”すらも、とある人の動きによってぶっ壊される。


すごくウィットに富んでるなと思いましたし、堺自身も1回爆発するけれど、結局何も変わらない。それがすごく現代を表しているし、堺ってある種最強だなって自分は思いましたね。自分たちの世代特有の、冷たい強さみたいなものを感じました。

── 岩崎監督(1993年生まれ)と染谷さん(1992年生まれ)は同世代ですが、時代に対する感覚や世界を捉える視点などに共感する部分はありましたか?


染谷 台本をいただいた時はまだ監督とお会いしたことはなかったんですが、この台本を書く人、つまりこの感覚を持っている人は人として多分信頼できるなと思ったんですよね。堺のマイナスでもプラスでもない、ずっと0地点にいる感覚というのは自分もわからなくもないと言うか……。


自分は現場で冷静さを保ちたい時に、0でいようという心構えをすることがわりとあるんです。世代で区切るのはあまり好きじゃないんですが、そういった冷たくもなく、熱くもない温度感というのは、自分の年代あたりから00年代くらいまでの空気としてあるのかもしれない。


熱がないとかではないんですけど、わかりづらいんですよね。多分きっと。自分もよく「何を考えているのかわからない」と言われるんですが、そのわかりづらさのようなものがこの世代にはあるのかなと思ったりしました。

──自分を守るためにフラットでいようとしている感じなのでしょうか? 堺も変化を求めないことによって、自分を保っているのかもしれないですね。


染谷 そうですね。自分を保つためにある種、虚無になるという、堺の気持ちは自分もわかる気がします。さとり世代なんて呼ばれたりもしますが、自分を守る術なのかなって。ただ、堺という人物はずっとその状態でいる人間なので、自分はこうはなりたくないなって思いましたね。

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染谷将太 チルド LEON 岩崎裕介

── 本作はホラーというジャンルで紹介されていますが、ベルリン国際映画祭などで上映された際は観客が大爆笑していたという話を聞きました。染谷さんも「この作品を観て笑ってください」といった内容のコメントをされていますが、ご自身が印象に残っているシーンがあればお聞かせください。


染谷 さっきお話しした小河とのシーンは、現場で笑いを堪えるのが大変でした。堺が小河を見ているその奥で確実におかしなことが行われているのに、それには一切反応しない……という異様な状況で(笑)。試写の時に自分も観ている方々もそのシーンで笑っていたんですが、人間のふとした瞬間を一歩引いた視点で見た時のある種の滑稽さを、自分は若干愛おしく感じたんですよね。“人間ってホント面白いな”って。


この映画を通してそこに好感を持つ自分もなんかイヤだなと思いつつ、面白いと言わざるを得なくて。それがこの映画の妙であるからこそ、怖いと感じる方もいれば、もはや笑えたという方もいて。いろんな感想を耳にするので、そうやって楽しんでもらえたらうれしいなと思っています。

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何が起きても的確に対処できる、機転の利く人に憧れる

── 染谷さんが憧れる大人の男性像をお聞かせいただけますか?


染谷 なんだろうな……。(しばらく考えて)冷静な大人が好きですね。現場のスタッフの方などもそうですが、何が起きても臨機応変かつ的確に対処できる方に憧れます。自分は冷静ではあるんですが、対処できないことも多々あって……。だからこそ、機転が利く人に憧れるのかもしれません。

── 対処できない時はどのように乗り越えてきたのでしょうか。


染谷 堺じゃないですけど、それこそ“無”ですね(笑)。ことが過ぎるのを待つ。ただ、自分の職業はいろいろな環境が日々本当に変わるんですよ。そこでベストなパフォーマンスをするためには、対応する力が大切だなとは思います。経験値が増えればそれなりに引き出しが増えることは増えますが、性格的には逆に緊張や不安が増す部分もあって。自分をリラックスさせながら、そこと上手く付き合っていかなきゃなと思っていますね。

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── リラックスするために欠かせないものはありますか?


染谷 シンプルに目をつぶって深呼吸したり、簡単なマインドフルネスを取り入れる感じですね。緊張する場面になると、頭の中がパンパンになりがちなんですよ。そういう状態が逆に有効な時もありますけど、自分はリラックスした方がいいパフォーマンスができるタイプ。できるだけ力を抜くことを大切にしています。


── キャリアを重ねるにつれて、仕事の価値観で変化した部分はありますか?


染谷 価値観はあまり変わらないかもしれないですが、年齢を重ねていくうえで捉え方であったりとか、責任の感じ方が変わったりということはあります。そういった部分に対して、何も考えずにいるのではなくて意識的に過ごしたいなとは思っていますね。自分の中でもっともプライオリティが高いのは、役割を全うするということ。与えられた役柄に対して、言われたことを何倍にも膨らませて、それを全うする。そこに尽きますね。

── 染谷さんご自身は、反省によって成長するタイプでしょうか? それとも褒められた方が伸びるタイプですか?


染谷 “こうすればよかったな”とか“こういう可能性もあったな”みたいなことはすごく考えますね。でも同時に自己肯定感も高い人間なので、“あの時はそれしかできなかったんだ”と思う部分も。いろんな可能性を考えるのは好きですが、引きずったりはしないですね。

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── 大役を務めたり話題作に出演されたりと、これまで多くのものを手にされてきたかと思います。人生を生きるうえで、絶対に手に入れたいものはありますか?


染谷 ないかもしれないです。でも仕事はすごく好きなので、今の職業をずっと楽しんでいられるように過ごしていきたいなとは思いますね。それが、最大に手に入れたいものかもしれない。ちゃんと全うし続けないと仕事がなくなると思っているので、常に今を頑張るしかないのかなと。すごくシンプルですけど、自分がこの仕事をやり続けるためにやるべきことはそれなのかなと思います。

── 物質的に手に入れたいものはありますか?


染谷 モノですか……。最近あんまりなくて……モノというより、旅行に行きたいですね。最近まったく海外に行っていないから、久々に海を越えたいと思ったりします。食べることが好きなので、旅に行く時は事前にすごくリサーチするんです。どこのお店に行くべきかとか、いろんな人に聞いて計画を立てると思います。


今一番行きたいのはタイ。あと久々にアメリカのモニュメントバレーに行きたいですね。ネイティブアメリカンの特別自治区に『The View Hotel』というホテルがあるんですが、そこの景色がすごいんですよ。目の前に岩山が広がっていて、そこをもう一度訪れてみたいっていう気持ちはあります。

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── 俳優という仕事を通してさまざまな人生を演じてこられたかと思いますが、生きるヒントや学びを得たことがあればお聞かせください。


染谷 たくさんありますが、一番は“いろんな人がいるんだな”っていうことでしょうか。その役を演じるということは、人を理解するということだと自分は思っているんです。世の中には本当に多種多様な人がいて、個人個人の価値観がある。そして、それがすべてだと思ってそれぞれ生きているんだなと改めて感じますね。

── さまざまな人生や価値観を理解して自分の中に受け入れることで、相対的に自分の人生や価値観に対する執着や比重が軽くなってしまったりはしないのでしょうか?


染谷 自分は逆に豊かになっている気がします。いろんな価値観であったりとか、考え方であったりを経験できる仕事でもあるので、自分自身はできるだけ頭が固くならないようにいることを心がけているんです。常に広く世界を捉えて生きていきたいなと、この仕事を通して考えていますね。

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染谷将太 チルド LEON 岩崎裕介

● 染谷将太(そめたに・しょうた)

1992年9月3日生まれ、東京都出身。7歳で子役として活動を開始し、9歳の時に映画『STACY』で映画デビュー。2011年に映画『ヒミズ』で第68 回ヴェネツィア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞。主な出演作に『寄生獣』(2014年)、『空海-KU-KAI-美しき王妃の謎』(2018年)などがある。待機作としては7月17日公開の主演映画『チルド』に加え、映画『国境』が2027年に公開を控えている。

HP/https://www.shotasometani.jp


染谷将太 チルド LEON 岩崎裕介

『チルド』

都内のコンビニで日々を無感動に過ごす店員の堺。異様なまでに秩序に執着するオーナーのもとで同じ作業をただ繰り返す中、新人アルバイトとして現れた小河の存在によって店の秩序が揺らぎはじめーー。コンビニという空間を日本社会の縮図として捉えて警鐘を鳴らす“社会批評的ホラー”。CMディレクターとしてキャリアを重ね、短編『VOID』で国際的評価を受けた岩崎裕介監督による長編デビュー作。7月17日(金)よりテアトル新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国公開。配給/NOTHING NEW

HP/映画『チルド』公式

©︎『チルド』製作委員会 (NOTHING NEW・東北新社)

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