2026.06.17
『急に具合が悪くなる』で注目! 24歳、黒崎煌代インタビュー。「できるだけ長く、日本映画に関わりたいです」
カンヌ国際映画祭で主演のふたりが最優秀女優賞を獲得したことでも話題の映画『急に具合が悪くなる』。同作で重要な役どころを演じた黒崎煌代さんは、他にも近年出演するドラマや映画でいずれも強烈な印象を残し「あの人誰⁉」と注目を集めています。その24歳の素顔とは?
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文/長谷川あや 写真/興梠真穂 スタイリング/能城匠(TRON) ヘアメイク/窪田健吾(aiutare) 編集/森本 泉(Web LEON)

黒崎煌代さん──。連続テレビ小説『ブギウギ』での俳優デビューから約3年。現在はテレビドラマ「サバ缶、宇宙へ行く」(フジテレビ系)に出演するなど、さまざまな作品で重要な役どころを演じている、いま絶賛注目の若手俳優のひとりです。
第79回カンヌ国際映画祭で、ヴィルジニー・エフィラさんと岡本多緒さんの2人が最優秀女優賞を受賞し、話題を呼んでいる映画『急に具合が悪くなる』(濱口竜介監督)にも出演。6月19日(金)に公開を控える同作で、黒崎さんは重度の自閉スペクトラム症の青年という難役を演じています。そんな黒崎さんに濱口組での体験、俳優という仕事への向き合い方、そして休日の過ごし方など、たっぷりと語ってもらいました。
自分が俳優になれるとは思っていなかった
── デビュー作の朝ドラ「ブギウギ」が2023年の放映でした。そこから3年あまりで多くの作品に出演されています。デビューから現在までを振り返ってみていかがですか。
黒崎煌代さん(以下、黒崎) 3年ですか。早いのか遅いのか──、あまり実感がないんですよね、正直。
── デビュー当初から演技で高い評価を得ていますが、その評価をどう受け止めていますか。
黒崎 本当にありがたいんですけど、そういったお言葉は素直に受け止めつつ、まだまだだぞ、と自分では思っています。 満足していただけるならもちろんうれしいのですが、調子に乗ったらおしまいだとも思っていて。もっともっと頑張って行かないと。
── めちゃくちゃ謙虚ですが(笑)、俳優を志したのは、いつ、どんなきっかけで?
黒崎 オーディションを受けて事務所に入ってからです。オーディションを受けたのも、俳優になりたかったわけではなく、映画関係の仕事に就きたいなと思っていたのがきっかけで。父が映画関係の仕事をしていたので、子どもの頃からその世界に憧れがありました。それもあって、俳優がどういうものか知っておきたくて。
── 子どもの頃から映画の英才教育を受けられていたわけですね?
黒崎 いや、そんなことはないです(笑)。ただ、子どもの頃、父と一緒に『スター・ウォーズ』シリーズなどを見ていた記憶は鮮明に残っています。中学生くらいの時に配信サービスが主流になってからは、自分で選んだ作品を観ていました。
── オーディションはいかがでしたか?
黒崎 最終審査がワークショップのようなもので、楽しかったです、すごく。しかもオーディションの合格者は、1年間無料でワークショップを受けることができるという特典があって。それである意味満足していたんですけど、ご縁があって、俳優という仕事をやることに。まさかですよね。憧れはありましたが、なれるものだとは思っていなかったので。すごく幸せなことだと思っています。

── 「俳優になる!」と伝えた時のお父さまの反応は?
黒崎 オーディションに受かったことは、親に事後報告でした。当時、僕は大学生だったのですが、就職活動もしていなかったので、わざわざ言うことでもないかなと。受かると思っていませんでしたしね(笑)。報告した後も、最初は親も「就活で書けることが増えるんじゃない?」くらいの感じで。でも、朝ドラに出ると言ってから、どうやら本気だぞと察したようです。めちゃくちゃ喜んでくれていますし、応援してくれています。僕自身も、朝ドラに出るとなってから、「これは俳優になるのか」と思ったくらい(笑)。自分でも驚いています。
── 今も “作る側”への関心も?
黒崎 ありはするんですけど、おいおいですね。同世代の監督とも仕事をして、生半可な気持ちではできないと思ったし、逆に俳優も生半可ではできないと感じました。今はとにかく俳優という仕事を貫いていきたいです。
「でも、障害のある人には見えませんでした」と言われ終わったなと
── 6月には、濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』の公開が控えています。撮影を終えてみての率直な感想を聞かせてください。
黒崎 最高の体験でした。濱口竜介監督とご一緒できたのは、本当にありがたい経験でした。
── 参加が決まった経緯を教えてください。
黒崎 オーディションです。以前、僕のデビュー作の『さよなら ほやマン』を濱口監督が観に来てくださって、その時にご挨拶をさせていただいた以来のオーディションでした。
── オーディションの手応えは? 今回、黒崎さんが演じた、窪寺智樹(くぼでら・ともき)は自閉スペクトラム症のある難しい役柄ですよね。
黒崎 手応えはどちらでもないというか……。ただ、オーディションが終わったあとに監督から、「素晴らしかったです。でも、障害のある人には見えませんでした」と言われたんですよ。
── その場ではなく、しばらくしてからの合格通知だった⁉
黒崎 2週間後くらいですかね。年末だったんですけど、おかげで快く年を越すことができました(笑)。

── 濱口監督との出会いのきっかけとなった、『さよなら ほやマン』でも障害のある役柄を演じていますが、今回、智樹という役柄にはどのようにアプローチしたのでしょう?
黒崎 最初に、濱口監督が智樹のキャラクターシートを作ってくださいました。監督は、智樹だけでなく、各役柄のキャラクターシートを作っていらっしゃるんですよ。
── 濱口監督、さすがですね。
黒崎 ですよね! それがかなり分厚くて。これをベースとしながら、プロデューサーと一緒に、自閉スペクトラム症の方々が過ごされている施設に伺いました。当事者でも、関係者でもない僕が持っている情報量には限りがあります。お芝居のクオリティは情報の多さに直結すると思っているので、情報収集には力を入れました。
── 集めた情報を、自分の中で咀嚼して表現していく、ということですね。
黒崎 そうですね。ないものを「ある」ことにするのはやはり難しい。だから「ある」ものを、「ある」ように見せる──。これは濱口監督もよくおっしゃっていたんですけど、「ない」ものからのお芝居には、どうしたって限界がある。どこまでいっても智樹は黒崎煌代である事実は変える術がありません。だから、「ない」ものから偽りを生むのではなく、「ある」ものを「ある」ように見せる偽りでないといけない。それが今回学んだことです。
── 濱口監督は、感情を入れずにセリフを読み合わせる「本読み」で知られています。実際に体験していかがでしたか。
黒崎 不思議な体験でしたね。今回、共演した長塚京三さんは、「いわゆるテキストに戻るということなんだよね。すべてはテキストにあるってことだと思うよ」と、おっしゃっていました。一度、素晴らしい脚本に立ち戻って集中して作っていく──、今まで体験したことのないことでした。
── 濱口組の撮影で、ほかに印象に残っていることはありますか。
黒崎 たくさんあります!そうですね、例えば、時間通りに終わることかな(笑)。そして、当日起こったことを受け入れて、その状況下で頑張るというスタンスも、斬新に感じました。雨が降ったら「雨が降ったシーンにしちゃおう」、みたいな。フランスの撮影には予備日というものがなくて、そういう違いは面白かったですね。
── 濱口監督との時間で、見えてきたものはありましたか
黒崎 デビューして3年。正直、未だに「お芝居」がなんであるか、わかっていないところもあるのですが、濱口監督とご一緒させていただいたことで、見えてきたものもたくさんあります。なんていうのかな、演じるということの限界性みたいなものです。

正直、「俳優って何なんだろう」と思うことも多いです
──そんな風に日々成長している黒崎さんが、俳優という仕事に向き合うなかで、今いちばん大切にしていることはなんでしょう?
黒崎 情報収集です。ただひたすら見る。それに尽きます。
── 先ほどもおっしゃっていましたよね。それはたとえば映画とか?
黒崎 映画に限らず、面白い人のSNSでもいいですし、ニュースをしっかり見るとか。24歳の僕が今、いちばん大切にしていることかもしれません。
── インプットの時間は意識して取っている、と。
黒崎 移動中とか、寝る前、お風呂に入りながら、テレビをつけてご飯を食べながらとか。それ以外はすることがないというハナシもありますが(笑)。正直、「俳優って何なんだろう」と思うことも多いです。でも、インプットは大事だなと思って積極的にやっています。
── LEON世代のオジさま方は、若い男性が普段どう過ごしているのか、少なからず興味があるかと思うのですが……。お休みの日はどう過ごしているか、教えていただいてもいいですか。
黒崎 最近、岬にドライブに行くのが楽しくて(笑)。早朝、家を出て、日が昇る前に着いて、(日が)登っていくのを見ながら波が打ち寄せるのを眺めて、浄化されてかえってきます(笑)。先ほどお話しした情報収集とは無縁の、ただ波を見ているだけの時間です。で、帰宅して、その後、情報収集の時間を持つ。最近、お気に入りのすごし方です。
── 映画のワンシーンのようですね。
黒崎 一度、日中に、ドライブで岬を通った時、すごくいいなと思って。「いや、これ、朝だともっといいんじゃないかな?」と行ってみたら期待以上に良くて、すっかりハマってしまいました。

── LEONらしい質問もさせていただくと──、黒崎さんが「カッコいい」と思う大人とは、どんな人ですか。
黒崎 自分でミッションを作って、それに取り組める人でしょうか。ダラダラしていたらできないことを、あえて「これをやる」と自分で決めて取り組む。趣味でも仕事でも、それができる人はカッコいいなと思います。具体的な名前を挙げると、長塚京三さんはやっぱりカッコいいと思います。
── 改めて、どんなところに、「俳優」という仕事の楽しさを感じていますか。
黒崎 普通に生きていたら、「自分とは何か」なんて、あまり考えないじゃないですか。でも、役を作るうえで自分というエッセンスは絶対に必要になってきます。役作りをしている段階で、「自分にこういう面もあったんだ」と気づく。これは、俳優という変な職業だからこその体験で、そこが面白いですね。向き合う役柄も共演者も監督も毎回違うので、いろんな気づきがある。楽しいですね、すごく。
── そんな黒崎さんが、今、俳優として目指していることとは──?
黒崎 できるだけ長く日本映画に関わること。それが一番大きく、そして、唯一の目標です。

● 黒崎煌代(くろさき・こうだい)
2002年生まれ、兵庫県出身。俳優。2022年、レプロエンタテインメント30周年企画「主役オーディション」に約5000人の中から選ばれ芸能界デビュー。2023年、連続テレビ小説「ブギウギ」で主人公の弟役に抜擢され俳優デビューを果たす。映画デビュー作『さよなら ほやマン』では日本映画批評家大賞新人男優賞を受賞した。以来、映画を中心に、連続ドラマ「サバ缶、宇宙へ行く」(フジテレビ系)、Netflix『九条の大罪』など数々の話題作に出演している。

『急に具合が悪くなる』
『ドライブ・マイ・カー』『悪は存在しない』の濱口竜介監督が、着想から5年をかけて完成させた最新作。日仏独ベルギーの国際共同製作で、監督初の海外ロケ作品となる。パリ郊外の介護施設「自由の庭」の施設長マリー=ルーと、がん闘病中の日本人演出家・森崎真理。同じ名前の響きを持つ二人が偶然出会い、友情を超える絆を結ぶ。原作は、多発性がんを患い、2019年に亡くなった哲学者・宮野真生子と人類学者・磯野真穂が交わした20通の往復書簡からなる同名書籍で、映画では舞台をパリに移し、まったく新たな物語として描かれる。主演はヴィルジニー・エフィラと岡本多緒、長塚京三と黒崎煌代が脇を固める。第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品。エフィラと岡本が女優賞をW受賞した。日本人の同賞受賞は史上初となる。 6月19日(金)公開
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