2026.03.03
渡辺 謙インタビュー【後編】「エンタテインメントが今の世の中に示唆できることとは?」
話題のミステリー時代劇映画『木挽町のあだ討ち』に出演した渡辺 謙さんにインタビュー。海外の現場を体験して得た気づきや、近年の仕事を通じて新たにした思いを語ってくれた前編に続き、後編では作品との出会いや渡辺さん流“人生の歩み方”について伺いました。
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文/浜野雪江 写真/トヨダリョウ スタイリング/JB ヘアメイク/倉田正樹(enfleurage) 編集/森本 泉(Web LEON)

2003年の『ラスト サムライ』で初めて海外の映画に出演して以降、20年以上にわたって国際的に活躍する俳優・渡辺謙さんが、主演の柄本佑さんとともに重要な役どころを演じるミステリー時代劇映画『木挽町のあだ討ち』(源孝志監督・脚本)が公開中です。
海外の現場を体験して得た気づきや、近年の仕事を通じて新たにした思いを率直に語ってくれた前編(こちら)に続き、後編では作品との出会いや渡辺さん流“人生の歩み方”について伺いました。
源監督の作品は観るのも出るのも好き
── 『木挽町のあだ討ち』は原作小説も傑作と誉れ高い作品ですが、今作で、芝居小屋の職人たちを束ねる立作者・篠田金治役の依頼があった時はどう思いましたか?
渡辺 謙さん(以下、渡辺) きっかけは、監督の源さんと別の作品で打ち合わせをしている時に、僕から「そういえば『木挽町のあだ討ち』って本、面白いよね」という話をしたんです。そしたら源さんがニヤっと笑って、「実はやろうと思ってるんだけど」と言うので、「あ、そうなの!?」みたいな(笑)。そういう始まりだったので、僕が出ることは最初に決まっていたのですが、どの役をやるかや、監督がどういう風にしたいかは、脚本ができ上がってからわかりました。
源さんの脚本は、原作を踏まえつつもわりと自由に書かれていて、終盤のちょっと遊びもある篠田の立ち回りなどは原作にはない部分です。「プロデューサー陣から渡辺 謙の立ち回りを見せたいと言われて書いたんだ」と言われて、こっちも面白がってやりました。

── 源監督とは、ドラマ「TRUE COLORS」や、放送中の「京都人の密かな愉しみ Rouge 継承」でもタッグを組むなど、お仕事が続いています。
渡辺 源さんとは年代も近いし、割と好きなものが似ている感覚があるんです。今回の映画に関しても、こういう素敵なお話をやりたいという思いはすごくコネクトできました。僕が思うに、源さんの作品は一貫して優しいんですよね。物語の中でどんなに辛いことが起きても、その奥にある優しさみたいなものがずっとフレームの中にある。僕もさすがにこの歳になって(笑)、切った張ったのものよりも、どこか心温まるものにどうしても気持ちがいくし、目もいってしまう。そういう点では源さんの作品は観るのも出るのも好きなんです。
── 現場でも、その監督の優しさがにじみ出ているのでしょうか。
渡辺 いや、現場は結構シニックで、ある意味クールに全体を見てらっしゃる気がします。でも源さんはキャパもすごく広くて、僕の提案が的を射ていない時は「いや、そっちじゃなくて」と言いますけど、色んな幅を持って自由を与えてくれるので、面白がってやれるんです。
金治は『七人の侍』の志村喬さんを思い浮かべて演じた
── 今回演じられた金治は、すべてを見抜く鋭さと深い愛情で、誇り高い職人たちを束ねますが、どのような人物だと解釈して役を作り上げていきましたか?
渡辺 まず前提として、当時の芝居小屋の人間たちは、どこかから逃げたり行き場をなくした、社会からあぶれた存在で、“戯場国”はそうした者たちが肩寄せ合って作っている社会だったりするわけです。そして金治自身も、武士の家系に生まれながら、ある種のルールやしがらみみたいなものからドロップアウトして芝居の世界に入ったので、芝居小屋のみんなの精神世界を共有できる男のような気がするんです。

物語の流れ上、金治は必然的にみんなを俯瞰的に見るポジションに立ちますが、あまり僕がぐ~っと引っ張っていくというよりも、みんなを包み込んで「こうしていこうぜ」と導く男じゃないかと思うんです。源さんの脚本も、そういうニュアンスが非常に色濃いものでした。なので、どうあの中にいられるか?というのは、作品全体の中の位置づけとして作り込んでいったところです。
── 役の衣装や外見も、演じる役ごとに細部にわたって作りこまれている印象ですが、金治に関してはいかがでしたか?
渡辺 なんとなくのイメージとして、みんなといろんなことを成し遂げる、(黒澤明監督の映画)『七人の侍』の志村 喬さんを思い浮かべて演じましたが、外見的には、侍からドロップアウトしてるので、ちょんまげをのせるのは嫌だなと。かといって、長髪の立作者というのもなぁ……と思ったのがひとつ。もう1つは、結構暑い時期の撮影だったので(笑)、「坊主がいいんじゃない?」と言ったら、源さんも「ああ、いいね!」と言ってくれて。衣装も、長い羽織や、洒脱で独特な色味の着物などを、衣装部のみんなが面白がってあれこれ作ってくれました。
── 金治を始め、個性豊かな登場人物が揃う中でも、仇討ち事件の真相を探偵さながらに探る遠山藩の侍・加瀬総一郎を演じた柄本 佑さんの演技は絶妙でした。
渡辺 この物語は、まずは加瀬の目線で話が進み、彼が芝居小屋の人間たちと出会っていく中で少しずつ謎も解けていくという構造です。つまり加瀬は、原作を読み進める読者の立場も担っているという、ややこしくて難しい役なんです。佑はちょっと底が知れない俳優で、ネタバレもせず、一緒にお客さんを引っ張っていくという、リードする力もある。すごく素敵で、いいアプローチだったんじゃないかなと思います。

── 柄本さんとは、意外にも初共演だったそうですね。
渡辺 僕は彼の親父さん(柄本 明)と仕事する機会が多くて、佑のことは(手のひらを膝上くらいにかざして)こんな頃から知ってるんです。親父さんとはちょっと違うタイプの俳優さんなんだろうなと思っていましたが、ガガガ!っと語気を強める時に親父のDNAが垣間見える。そういう時は、後ろに明がいるみたいな感じがして、僕は遠い親戚みたいに(笑)ほくそ笑んで見ている感覚もありました。
── 武士の掟である「仇討ち」の使命を背負う若侍を演じた、なにわ男子の長尾謙杜さんもキーマンの一人です。
渡辺 彼は、時代劇の経験は2本目だったようですが、すごく努力をする人。それは現場でも感じていたし、実際の画面を通して見ても、学んだことがきちんとこの映画の中に生きていたので、非常に好感の持てる若手だなと思いました。
知恵と機転で誰も傷つけずにことを成就する
── 本作は、人情とミステリーが見事に融合した作品ですが、長年、時代劇に関わってきた渡辺さんから見て、この映画のどんなところに魅力や新しさを感じますか?
渡辺 ことの発端は非常に凄惨なお話ではあるのですが、最終的に誰も傷つけないというのはなかなか新しいですよね。今、やられたらやり返すという精神世界が強くなってきている世の中で、知恵と機転で誰も傷つけずにことを成就する。それを芝居小屋の人間たちが行うというのが壮大な二重構造になっていて、映画や舞台といったエンタテインメントが、世の中の角を取ったり、人と人ってもう少し融合できるんじゃない?みたいなことを示唆できるのではというふうに思います。それを僕はこの映画で体現したような気がします。

── 渡辺さんは俳優のお仕事に加えて、東日本大震災後には、宮城県気仙沼市で復興支援のためのカフェを12年に亘って経営するなど、さまざまな活動をされてきました。今後の人生でやっていきたいのはどのようなことですか?
渡辺 あまり既定路線はないんです。僕は常に“今、面白がれることは何か?”というアンテナを張って、興味の方向を向いているだけなので。今はたまたま、Netflixの2026 WBCのアンバサダーでお声掛けをいただいて、事務所に「(スケジュール)空いてる?」と訊いたら「空いてる」と返ってきたのでお受けしています。
もちろん熱くサポートしていきますが、世界のトップクラスの選手たちの戦いを目の前で見られるというのは、もう野球ファンの一人として面白い!に決まってる。仮に、「次はこうして、その次は……」という既定路線があったら、そんな仕事はできないわけで。
── 5年先、10年先を見据えて何かをやってこられたというよりは……。
渡辺 全然(笑)。今動きたいという衝動や、面白そうな方向に棒を倒して進んだら一所懸命やるだけ。その繰り返しです。


● 渡辺 謙(わたなべ・けん)
1959年生まれ、新潟県出身。87年、NHK大河ドラマ「独眼竜政宗」に主演し、一躍全国的な人気を獲得。急性骨髄性白血病を克服後、2003年公開の映画『ラスト サムライ』でハリウッドに進出し、米アカデミー賞助演男優賞にノミネート。以降、国内外で映画、ドラマ、ミュージカルなど数々の作品に出演。代表作に映画 『硫黄島からの手紙』『SAYURI』『インセプション』『明日の記憶』『怒り』『国宝』『盤上の向日葵』ほか。舞台『王様と私』のシャム王役ではトニー賞にノミネート。

『木挽町のあだ討ち』
原作は直木賞と山本周五郎賞をダブル受賞した永井紗耶子による同名小説。時は江戸時代、文化七年(1810年)。ある雪の降る夜、木挽町の芝居小屋「森田座」のすぐ近くで、美しい若侍・菊之助が父の仇討ちを見事に成し遂げ、現場に居合わせた目撃者たちにより事件は美談として語られる。 1年半後、菊之助の縁者だという元藩士・加瀬総一郎が、仇討ちの顛末を知りたいと森田座を訪れる。菊之助に関わりのあった人々の証言から、やがて仇討ちの裏に隠された「秘密」が浮かび上がる。
監督・脚本/源 孝志、出演/柄本 佑、⻑尾謙杜、瀬戸康史、滝藤賢一、山口馬木也、愛希れいか、イモトアヤコ、冨家ノリマサ、野村周平、 高橋和也、正名僕蔵、本田博太郎、石橋蓮司、沢口靖子、北村一輝、渡辺 謙
公式HP/映画『木挽町のあだ討ち』
Ⓒ2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会 Ⓒ2023 永井紗耶子/新潮社
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