• Twitter
  • Facebook
  • Instagram
  • LINE
  • YouTube
  • Feedly
  • TOP
  • LIFESTYLE
  • イタリア人はなぜ一日中ご飯の話ばかりしているのか?

2026.06.26

【第49回】

イタリア人はなぜ一日中ご飯の話ばかりしているのか?

世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさんが、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。

BY :

文/マッシ
CREDIT :

写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)

「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのマッシさんが今回お話してくれるのは、イタリア人にとっての「食事」の意味について。イタリア人にとって「食事」の楽しみは「食べる」だけでなく「語る」ことで何倍にも増すのだとか。それってどういうこと?

 どれか選べない時には思いっきり全部頼むのがマッシのスタイル

▲ どれか選べない時には思いっきり全部頼むのがマッシのスタイル。

PAGE 2

イタリア人にとって食事は最高にハッピーなコミュニケーションツール

「イタリア人はね、昼ごはんを食べながら夜ごはんの相談をして、夜ごはんを食べながら明日の昼ごはんの思い出話を語り合うんだよ」


これは、よくあるジョークのようだけど、僕たちにとってはリアルな日常だ。ミラノのバールでエスプレッソを飲んでいるビジネスパーソンも、ローマの下町の広場でおしゃべりしているおじいちゃんたちも、耳を澄ませば聞こえてくるのは「昨日どこで何食べた?」「あそこのパスタの茹で加減、最高だったよな!」なんて話ばかり。


イタリア人にとって、食事はただお腹を満たすためだけの時間じゃない。それは人生そのものであり、文化であり、何よりも「イタリア人としてのプライド」を確かめ合う、最高にハッピーなコミュニケーションツールなのだ。

PAGE 3
パニーニを選ぶ時も、食べる時も、常に食べ物についてアツく語る。

▲ パニーニを選ぶ時も、食べる時も、常に食べ物についてアツく語る。

一方、僕が大好きな日本はどうだろう。世界中が羨むような美味しいお店が街に溢れていて、みんな食へのこだわりが非常に強い。けれど、日常会話の中で、食の「思い出」や「愛」をイタリア人のように熱く、身を乗り出して語り合う場面には、実はそれほど出会わないように思う。美味しいお店の情報をシェアすることはあっても、「なぜそれが好きなのか」を、まるで恋人の魅力を語るみたいに熱弁する人はちょっと珍しいかもしれない。


日本のみなさんにとっては少し不思議に映るかもしれない、この「食を語る」というカルチャー。実は、人生を何倍もワクワクさせてくれる、一番手軽で極上のエンタテインメントなのだ。今回は、僕たちイタリア人がなぜそこまでごはんの話に命を懸けるのか、その楽しい秘密をお話ししたい。

PAGE 4

料理は名刺と同じ。食を語ることは生きている証拠そのもの

イタリアの有名なパスタメーカーのバリラ社が行った、食と会話にまつわる調査によると、なんとイタリア人の約75%が「普段の会話で一番よく話すテーマは『食べ物』だ」と答えている。しかも、ほとんどの人が「いま食べているものや、これから食べるものについて熱く語るのは、あたりまえで絶対に欠かせないこと」だと思っているのだ。


なぜ、そこまで話す必要があるのか? 答えはカンタン。僕たちにとって料理は、「自分がどこから来て、誰なのか」を表す大事な名刺のようなものだからだ。

 レストランでテラス席まで案内されている最中、すでに食べたい料理を注文するのはイタリア人あるある。

▲ レストランでテラス席まで案内されている最中、すでに食べたい料理を注文するのはイタリア人あるある。

PAGE 5

イタリアは、小さな都市国家が集まってできた国。だから、今でも各地方の街への愛がものすごく強い。トスカーナの人間とシチリアの人間では、お袋の味も、使うチーズも全然違う。「うちの田舎のトマトソースはね……」と語ることは、「僕はこの故郷を愛している!」という最高の自己表現になるのだ。

もし、イタリア人から「食の話をする自由」を奪ってしまったら、僕たちはきっとひと言も喋れなくなって、魂が抜けたみたいに静かになってしまうだろう。それくらい、食を語ることは生きている証拠そのものなのだ。それに、食べ物の話をしている時は、難しい仕事の立場も、年齢も、ちょっとしたギスギスした空気もすべて消えてしまう。ただ「美味しいね」「あそこ最高だよね」という気持ちだけで、みんなが満面の笑みでひとつになれる。これって、世界中で一番平和でハッピーなコミュニケーションだと思わない?

 実家で料理をしながら、軽く「何か食べたいね」と言うだけで食べ物が増える。

▲ 実家で料理をしながら、軽く「何か食べたいね」と言うだけで食べ物が増える。

PAGE 6

体験した感動は言葉にすることで一生モノの楽しい思い出に変わる

この世の中は、残念ながら誰もが毎日きらびやかな贅沢を楽しめるわけではない。高級なスポーツカーをガレージに並べたり、プライベートジェットで世界を飛び回ったりするのは、ごく一部の人間だ。しかし、「食」というエンタテインメントだけは、いつでも僕たちを両手を広げてウェルカムしてくれる。

仕事を頑張ったご褒美や大切な記念日に、少しオシャレをして星付きの素敵なレストランを予約する。優雅な空間に座り、ピカピカのカトラリーを眺め、シェフが魔法をかけたようなひと皿を味わう。その空間に身を置いている時間、僕たちはたった一晩だけでも、世界中のリッチな人たちの仲間入りをしたような、最高にスペシャルな気分を味わうことができる。


スーパーカーを買うのは無理でも、世界最高の食を体験して、その夜の「主人公」になることなら、僕たちにだって手が届く。これほどコストパフォーマンスが良くて、一瞬で心が満たされる贅沢は、ほかにないはずだ。

イタリアの地方レストランで食事をしながら、席の隣の名物品コーナーを見て、また喋る。

▲ イタリアの地方レストランで食事をしながら、席の隣の名物品コーナーを見て、また喋る。

PAGE 7

そして、この贅沢の本当のお楽しみは、次の日に「語る」ことで何倍にも膨らんでいく。


「あの店で食べたお肉、ナイフがいらないくらい柔らかくてさ……」「ソムリエのお姉さんが選んでくれたワインが、もう運命の出会いかってくらい合ってたんだよ!」


そうやって、体験した感動を言葉にして誰かに伝える。そうしていると、僕たちは頭の中でもう一度、あの幸せな時間をアンコール上映しているのだ。言葉にすることで、一晩で消えてしまうはずだったディナーが、一生モノの楽しい思い出に変わる。

日常会話に「ピッツァ」という言葉が出ると、無意識のうちにピッツァを食べている。

▲ 日常会話に「ピッツァ」という言葉が出ると、無意識のうちにピッツァを食べている。

PAGE 8

食事は語ることで誰でも気軽に行ける最高の遊園地になる

日本の読者のみなさん、もしこれまでの食の話が「あそこ美味しかったよ」「あそこ安かったよ」という情報交換だけで終わっていたなら、少しもったいない! 次に感動するほど美味しいものに出会ったら、スマホで写真を撮るだけではなく、そのハッピーな気持ちを自分の言葉で心のポケットにしまってみてほしい。そして、大好きな人や友達に、少し身振り手振りを交えながら、楽しそうに話してみてほしい。


料理を熱く語ることは、決して気取ったことでも、独りよがりでもない。「僕は今、人生を最高に楽しんでいます!」という心の余裕であり、チャーミングな魅力そのものなのだ。


食は、毎日の暮らしや人間関係をガラリとカラフルに変えてくれる、誰でも気軽に行ける最高の遊園地。僕たちイタリア人がいつも陽気で楽しそうに見えるのだとしたら、それはいつでもこの遊園地を120%遊び尽くしているからだろう。


今夜は誰と、どんな美味しい話をしよう。お腹を満たすだけではもったいない。僕たちの人生には、もっともっと、美味しい言葉が必要なのだ。

PAGE 9
マッシ 思考する食欲 WebLOEN

● マッシ

本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。

公式X

こちらの記事もいかがですか?

PAGE 10

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

Web LEONの最新ニュースをお届けします。

SPECIAL

    おすすめの記事

      SERIES:連載

      READ MORE

      買えるLEON

        イタリア人はなぜ一日中ご飯の話ばかりしているのか? | ライフスタイル | LEON レオン オフィシャルWebサイト