2026.04.10
【第44回】
日本の抹茶がイタリアで大ブーム⁉ 日本人でも考え付かない抹茶の深イイ魅力とは?
イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。
BY :
- 文/マッシ
- CREDIT :
写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)
地中海の太陽を愛するイタリア人が、日本の抹茶に夢中になっている
「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのマッシさんが、今回はイタリアでブームになっているという日本の抹茶についてお話しします。
イタリア・ミラノのモンテナポレオーネ通り。かつてはエスプレッソの香りが漂っていたこの街に、いま、凛とした「緑」の香りが混じり始めている。
ファッション、クルマ、そして美食。常に「粋」であることを何よりも大切にするイタリアの男たちが、いま熱い視線を送っているものがある。それはヴィンテージのワインでもなければ、流行のジンでもない。日本が世界に誇る伝統、「抹茶(MATCHA)」だ。
なぜ、地中海の太陽を愛するイタリア人が、日本の静かな粉末茶にこれほどまで夢中になっているのか。そこには、LEON読者のような大人の男性にこそ知ってほしい、イタリア流の「抹茶の楽しみ方」がある。

▲ ミラノで流行っている抹茶ラテアート。
抹茶の力強いグリーンは自然が作り出した最高のアート
イタリア人にとって、コーヒーはただの飲み物ではない。それは人生のリズムを作るものであり、隣人と楽しくお喋りするための潤滑油だ。一日に何度もバールへ立ち寄り、くいっと飲み干すエスプレッソ。それはもはや、イタリア人の生活の一部と言ってもいい。
しかし今、ミラノやローマのカフェでは、そのお決まりの光景に変化が起きている。いつものコーヒーの代わりに「抹茶ラテ」や、ストレートの「抹茶ショット」を注文するお洒落な男たちが、当たり前のように増えているのだ。
イタリア人に抹茶の魅力を聞くと、まず返ってくるのは「鮮やかな色」への褒め言葉だ。イタリアの高級ブランドを思い出してみてほしい。カラフルなアイテムが多いと思わない? 色彩感覚が鋭いイタリア人だから、抹茶の持つ、深く、力強いグリーンは、イタリア人の美意識をストレートに刺激したのだ。
「見てくれ、この鮮やかさを。これは自然が作り出した最高のアートだよ」と語るミラノの友人は、特注の器に入った抹茶を、まるでヴィンテージのフェラーリを眺めるような目で見つめていた。イタリア人にとって抹茶は、飲む前にまず「視覚で楽しむ」流行の飲み物なのだ。

▲ エスプレッソの感覚で抹茶を楽しんでいるミラノ人。
抹茶は「東洋の神秘的なスパイス」。その意義とは
イタリア人は、単に「健康にいいから」という理由だけで抹茶を選んでいるわけではない。抹茶を「東洋の神秘的なスパイス」として、自分たちの文化に自由に取り入れてしまったのだ。
【1】お酒と一緒に楽しむ
夕暮れ時、仕事終わりの一杯。イタリアの習慣である「アペリティーボ(食前酒)」に、抹茶のカクテルが登場している。ジンやスパークリングワインに抹茶を合わせることで、ハーブのような爽やかさと、独特の苦味が食欲をそそる。現地のイタリア人に言わせれば、「抹茶の苦味は、大人の楽しみ」なのだという。
【2】スウィーツの新しい主役
伝統的なティラミスに抹茶を加えた「抹茶・ミス」。チーズの濃厚なコクを、抹茶の苦味がピリッと引き締める。甘さと苦さのバランスを大切にするイタリア人にとって、これは進化だ。ジェラートでも、抹茶はピスタチオに並ぶ「高貴な緑」として人気を集めている。
【3】集中するための「勝負水」
イタリアのビジネスマンたちは、大事なプレゼン前の「勝負水」として抹茶を飲む。エスプレッソのように一時的にテンションを上げるのではなく、静かに、そして深く集中力を高めてくれる。彼らはその効果を、自分を整えるためのエネルギーとして賢く使っているようだ。
▲ Find your blueの抹茶ラテは、抹茶を立てるところから始まる。
抹茶を点てるプロセスは瞑想であり、儀式
イタリア人の人生に欠かせないのが「甘い生活(ラ・ドルチェ・ヴィータ)」だ。しかし、現代のイタリアもデジタル化が進み、誰もが忙しい日々を送っている。そんな中で、抹茶はイタリア人にとっての「心の避難所」になりつつある。
イタリア人が驚くのは、お茶を点てるという動作の美しさだ。一杯の茶のために時間を使い、無駄のない動きでお茶を点てる。僕が住む石川県金沢市に遊びに来た日本好きイタリア人の友人は、「忙しくエスプレッソを飲み込む毎日に、抹茶は『ゆっくり休む』という贅沢を教えてくれた」と、ひがし茶屋街のお茶屋さんで目を輝かせていた。
四季を愛で、旬の食材に感謝するイタリアの食文化は、実は日本の精神とよく似ている。抹茶を点てるプロセスそのものが、イタリア人にとっては一種の瞑想であり、自分を取り戻すための儀式になっているのだ。

▲ 宮古島で発見した抹茶ソルト。アイスクリームにかけて食べる。
さて、一方、日本人はどうだろう。抹茶を「作法が難しそう」「観光地で飲むもの」として、日常から遠ざけてはいないだろうか。イタリア人たちが教えてくれるのは、抹茶はもっと自由で、もっとクリエイティブな存在だということだ。日本の伝統を敬いながらも、それを自分たちのライフスタイルに合わせて大胆に塗り替えていく。その姿勢こそが、伝統を「使いこなす」という真の贅沢かもしれない。
例えば、週末の朝。お気に入りのボウルを使って抹茶を点ててみる。あるいは、夜の静かな時間に、抹茶を少し垂らしたウイスキーを楽しんでみる。そんな「抹茶のある風景」は、今の日本で最高にカッコいい大人の嗜みになるはずだ。
イタリアを席巻するこの緑の波は、ただのブームではない。古い知恵を現代の感性で楽しむ、新しい生き方の提案なのだ。
さあ、読者のみなさんも一杯の抹茶を手に取ってみてほしい。その緑の向こう側に、いつもの日常が少し違って見えるはずだ。イタリアの男たちが気づいた「緑の魔法」に、今こそ僕たちも身を任せてみよう。
▲ 近所のカフェFind your blueの抹茶ラテでまったりするマッシ。

● マッシ
本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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