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2020.02.11

いま、NYでもっともHOTな写真家、チャド・ムーアを知っていますか?

現代アメリカを代表する写真家ライアン・マッギンレーのもとで経験を積み、広告を中心にNYで大活躍する気鋭のフォトグラファー、チャド・ムーア。イベントのため来日した彼にライアンとの関係や作品づくりの秘密を聞いた。

CREDIT :

写真/川越まどか(本人ポートレート)、チャド・ムーア 取材・文/矢吹紘子

写真家とは、リアリティとファンタジー、その両方を巧みに扱う仕事だ。なぜなら、夢のように美しく儚い、そしてリアルな一瞬を切り取ることで、極上の物語を紡ぎ出すのだから。と、思わずそんな回りくどい話を語りたくなるくらい、最高にノッている写真家が来日。NYからイベントのために来日したチャド・ムーアに話を聞いた。
白いシーツが敷かれたベッド。おそらくすっぴんと思われる女性が、カメラ目線で微笑む。体をぎゅっと丸めたその体勢は、母親の胎内の子供のよう。一方で、カジュアルな服装でリラックスしつつこちらを見る様子からは、情事を連想させる記号も散りばめられているようで、見る者の視点に艶やかさを与える──。

まるで誰かの日常生活をそのまま切り取ったようなこの1枚。撮影したのは、NY・チャイナタウンを拠点とする写真家のチャド・ムーアだ。30代前半といまだ若手ながら名だたるクライアントを抱え、東京をはじめとしたアートギャラリーでもコンスタントに作品を発表。

被写体の女子たちがみんな可愛くて、エロくて、生々しい、ってだけで思わず目を留めてしまうのに加え、“師匠”は、あの『ホイットニー・ミュージアム』において史上最年少で個展を開催し、常に第一線で活躍する世界的なフォトグラファー、ライアン・マッギンレー。


興味を抱かせるような“タグライン”が満載の彼に、師走の東京・表参道でインタビューを敢行した。

ライアン・マッギンレーがNYでのサバイバル法を教えてくれた

「僕はもともとフロリダのタンパ出身。ティーンエイジャーの頃はBMXに熱中してたんだ。写真に興味をもったのは、その試合に雑誌の取材班がよく来ていて、彼らの仕事ぶりを身近で見ていたから。高校では恩師の計らいで、週に3時間写真の授業を受けられたから、プリントの仕方やネガの扱い方といった基本的なことはそこで学んだ。

NYに移ったのは卒業してしばらく経ってから。ある日、運転しながら窓ガラスの写真を撮っていたら、事故を起こしちゃってね。でも、ラッキーなことに保険金が入ったから、そのお金を使って憧れの地に引っ越したってわけ。ライアンと知り合ったのは、マンハッタンのチャイナタウンでのこと。アパートをシェアしていた友達を通じて仲良くなって、撮影の手伝いをすることになったんだ。

ただし、世に言うアシスタントというよりは、正直何でも屋みたいな感じ? 過酷なロケに同行して、荷物を運んだり車のバッテリー交換をしたり、どちらかというと写真以外の作業が多かった気がする(笑)。師匠っていうよりはビッグブラザーって感じかな。

でも彼を通じて、フォトグラファーとしての立ち振る舞いやクライアントとのコミュニケーションのとり方、業界内のパーティーでのアピールの仕方まで、いろいろなことを学んだのは事実。尊敬する先輩であると同時に、彼の仕事を一緒に手伝った仲間たちも、大切な友人さ。僕らの関係性は、ひと言で言うなら『Big dysfunctional family』(大きくていびつな家族)かな」

ヒューマニティというアングルで空を捉える

「これまでずっと、人にフォーカスしてきたんだ。過去に出版した写真集やエキシビションの内容も、ポートレートや人物を捉えた写真がほとんど。若い女性を撮るフォトグラファーと認識されることも多いのだけれど、特に限定しているわけではなくて、たまたま身近にいた被写体がそうだったから。

インスタにアップしている写真は、プライベートな友達ばかりだし、母親とか、自分よりも上の世代の女性を撮ることもある。使うカメラはYashicaのT4。僕だけじゃなくて、ライアンも、その周りの仲間たちの定番カメラでもあるんだ。理由はシンプルだから。フラッシュのオン・オフくらいしか機能がないくらい。そこが良くてね。

でも最近は、少しだけ違ったことをしたいって気持ちもある。ハマっているのは空の写真、特に夜空や星。空は言うまでもなく、僕らの手の及ばない自然の一部だけれど、自分が撮影することで人間の視点が加わる。つまりネイチャー、ひいてはユニバース(宇宙)という要素に、ヒューマニティをブレンドすることができる。自分がこれまでやってきたことが、意外なところでつながっている実感があるし、何よりも純粋に楽しい! 

暗闇での撮影はシャッタースピードが遅くて1カットに40秒くらい費やすから、結構根気のいる作業ではあるんだけど、そのおかげで予想外の仕上がりになることも。フラッシュが赤く、絶妙な色に変化して写ったりね。これまでモロッコやチリで壮大なミルキーウェイを撮影したし、今回の日本滞在中には箱根に夜空を撮りに行く予定なんだ。

中米のベリーズにもまた行きたい。メノナイトっていうアーミッシュみたいな昔ながらの方法で暮らすコミュニティがあって、そのカルチャーに迫ってみたいんだ。バケーションにも最高の場所だしね」

写真はパスポートみたいなもの。人と人を瞬時につなぐツール

「正直、雑誌はそれほど買わないのだけれど、プリント(紙媒体)は好きだし、このカルチャーを残すのは大切だって思ってる。誰もがインスタで気軽に写真をアップできる時代だからこそ、僕はエキシビションを開いて作品を発表したいし、写真集として紙に残したいんだ。

写真は人と人とのコミュニケーションを生むメディアであり、それこそが写真を撮る意義だって信じているから。以前、パリのストリートで撮影していたら、その辺の子供達が寄ってきて、即席セッションみたいになったことがあるんだ。考えすぎって思われるかもしれないけれど、もしかしたらそれがきっかけで、彼らの中に将来写真家を志す人が出てくるかもしれない。僕がかつて、BMXの取材チームから影響を受けて、大人になったら絶対NYに行ってフォトグラファーになる、って決意したようにね。

それに文章を扱う作家やライターと違って、写真には言葉のバリアがない。誰もがパッと見て、理解して、感じることができる。いわば、パスポートみたいなもの。だからこの先も、いろんな場所を旅して、いろんな人たちと交流しながら生きていきたい。

とは言っても、時には気が乗らない仕事も受けなければならない時もある。特にチームワークはやっぱり大変。例えばファッション雑誌の撮影は、スタイリストやヘアメイク、エディターといったスタッフ達と動かなければならない。そこで自分のテイストや方向性が合わないと、フラストレーションが溜まるけれど、逆にうまくいくと、新たな視点や考え方に触れたり、これまでにないものを、結果として生み出すことができる。

見方を変えれば自分の新たな面を切り開くチャンスでもあるんだ。じゃあどうすればいいのかっていうと、僕の処世術は信頼できるチームを作ること。幸いなことに周りには素晴らしい才能に溢れた人がたくさんいるからね。例えばヘアメイクは友人でもあるLizzie Arnesonだけって決めてるし、ビッグメゾンからも引っ張りだこのクリエイティブディレクターFerdi Verderから声をかけられたら、決してノーとは言わない。

ちなみにFerdiは偉大な人物で、納得できない時は、どんなに大きなクライアントにも『F**K』って平気で言ってのける(笑)。彼からは、相手が誰であろうとも、恐れずに、自分のカラーを出していくことの大事さを学んだよ」

NYと東京は、予想不可能で人との距離が近いってところが似てる

「東京は、旅行先としては世界で一番好きな場所。これまでに何回も来ているんだけど、毎回予想もしないことが起こるんだ。お気に入りは、『パーク ハイアット 東京』の『ニューヨーク グリル』と、新宿三丁目のノイズバー『ナイチンゲール』。

友達がやっている中目黒の朝食ダイナー『ブレックファストクラブ』は絶品だし、渋谷の『ビートカフェ』は、隣に座った人と友達になって、2軒目を一緒にはしごしたことも。NYとかパリとか、世界の大都市には大抵似たような風景があるものだけど、東京は東京でしか見られないもので溢れている。

でもやっぱり、僕が今後も住みたいのはNYかな。マジカルで、エナジーに溢れた場所だから。友達とコーヒーショップに行って、たまたまカウンターにいた人に声をかけられて、彼のスタジオにその足でお邪魔する、なんてことが普通に起こる街。そしてその出会いが、これまでの人生をガラリと変えてしまう、ってこともあり得る。

世界中どこを探しても、そんなパワーを秘めた街はないだろうって思うよ。物価は高いし、ストリートはゴミだらけで臭いけど、こんなクレイジーな環境に住めるのは本当にラッキーだし、クリエイティブであることを恐れない人にとっては、最高の場所だって、心底思ってる。街自体が『Big dysfunctional family』。ライアン達との関係性と同じように、刺激的で、たまに理不尽なこともあるけれど、最高に面白くて、離れられないんだ」
最後に、いつか撮りたい人物は? と聞いたら、少し照れながら「ブラッド・ピット」と意外なひと言が。逆にこちらも質問されたので「オノ・ヨーコにいつかインタビューしたい。でも繋がりがない」と答えたら、「Just ask!」(当たって砕けろ)と真剣な顔で励ましてくれた。聞けば、それもライアンから学んだ、写真家として生きる術なのだとか。それにしても、チャドと話をしていると、この先また一緒に仕事をしてみたいという気持ちになるから不思議。きっとそれこそが、NYでクリエイターとして生きていくために一番必要なものなのだろう。

■Chad Moore(チャド・ムーア)

フロリダ州タンパ出身。NYチャイナタウンを拠点に活動。これまでアムステルダムの『Foam Museum』、パリの 『Galerie&co119』、東京『agnès b. galerie boutique』 などでエキシビションを開催。二階堂ふみの写真集『near, far』 (SPACE SHOWER BOOKS)も手がける。
HP/http://chad-moore.com

■矢吹紘子(やぶきひろこ)

日本語・英語を使った取材や撮影、インタビュー通訳などを生業とするライター・エディター。日本を訪れるアーティストの取材や、海外メディアへの寄稿・コーディネーションのほか、通訳案内士としてインバウンダーを対象にしたコンサルティング・アテンドも行う。『Hanako』にて旅行者とのエピソードを綴ったコラムを連載中。
Instagram:@tokyoai_hiroko 

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