• TOP
  • GOURMET
  • 残念! はやくも幻と化してしまった本物の「うま味」を湛えたラーメンスープ

2024.12.29

【第67回】 塩ラーメンの美味しい革命2024

残念! はやくも幻と化してしまった本物の「うま味」を湛えたラーメンスープ

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

CREDIT :

文・写真/山本益博 編集/森本 泉(Web LEON)

日本初の料理評論家、山本益博さんが、B級グルメから一流の料理へと変貌を遂げつつある街のラーメンに注目し、自ら実食リポートする連載です。
山本益博 ラーメン革命! WebLEON  RamenRouge 府中 

「褒めるばかりが能じゃない」というひと言がうれしかった

今から40年ほど前、東京の飲食店ガイドブック「東京・味のグランプリ」を上梓した時、自分の本をもって挨拶がてら書店を歩き回った。今は東急プラザになってしまった数寄屋橋の交差点にあった東芝ビルの一角に旭屋書店があり、そこに売り込みに出かけ、店長が店頭に平積みするほど本を仕入れてくださった。
その時、平積みされた本にポップが付けられ「褒めるばかりが能じゃない」と書かれてあった。私がガイドブックで言いたかったことをひと言で射抜いてくださり、これほどうれしいことはなかった。

今のラーメン界を眺めていて、ラーメン評論家、ラオタ(ラーメンオタク)と称するラーメンフリークの面々に最も欠けているのは、この批評精神ではなかろうか。
PAGE 2
山本益博 ラーメン革命! WebLEON  RamenRouge 府中
▲ 湯河原「飯田商店」を訪れた筆者。
例えば、「塩」ラーメン。私の思うところ、はじめにひと口スープをいただいて、「塩」を感じたら、それは失格である。日本料理では「椀刺しが華」と呼ばれているが、お椀をいただいても、ひと口目には「塩」を感じない。続けて二口目、三口目に至って、優しく穏やかな「うま味」を感じる。これが、「華のお椀」の極致である。
今年、この手の塩ラーメンには、湯河原「飯田商店」、荻窪「五稜郭」、高井戸「時空」、喜多方「うえんで」以外、ほとんどお目にかかれなかった。昨年も含めれば、青梅「Ramen FeeL」荏原中延「多賀野」ぐらいである。
PAGE 3
▲ 湯河原 「飯田商店」の塩らぁ麺。
▲ 荻窪 「五稜郭」のラーメン。
▲ 高井戸 「時空」の塩そば。
PAGE 4
▲ 喜多方「うえんで」の会津山塩らぁ麺。
山本益博 ラーメン革命! WebLEON  RamenRouge 府中
▲ 青梅「Ramen FeeL」のわんたん入り塩らぁ麺。

「うま味」は「UMAMI」と違う、清澄で端麗で、儚いもの

そんな折、今年の11月、白糸台「Ramen Rouge」で、それはそれは見事なスープに出合った。塩ダレのない、フランス料理でいうフォン、ブイヨン(出汁)をそのままスープにしてしまうラーメン。「塩味」はパンチェッタ(生ハム)から摂っている。ひと口目二口目三口目とスープをいただくと、ようやく「塩味」が微かに現れる。私にとっては、日本料理でしか体験したことのない天下極上のスープだった。
PAGE 5
▲「RamenRouge」の中華そば。
いま世界中で話題になっている「UMAMI」は、油脂が介在していて、古来より私たちが「うま味」と考えたものとは一線を画す。「UMAMI」は、極旨、濃厚につながるが、「うま味」は、清澄で端麗で、儚いものである。これを、ラーメンで初めて実現させたのが「Ramen Rouge」だったと言える。
山本益博 ラーメン革命! WebLEON  RamenRouge 府中
▲「RamenRouge」の特製上湯そば。
ところがである。「だった」と書いたのも、すでに過去形になってしまったからである。

12月下旬に出かけると、スープの味が、ひと口目から「塩味」を感じた。ラーメンを食べ終えたところで、主人の坂田さんに伺うと、お客様どなたも、味が薄い、塩気が足らないというので、塩分調整したというのである。実に、なんとも残念ではないか。あの本物の「うま味」を湛えたラーメンのスープが、はやくも幻と化してしまったのだ。
PAGE 6
▲ 左が新しい品書き。右は元のもの。新しいものでは中華そばが上湯そばに変わっている。
日本最高峰のラーメンのスープが、2024年暮れに府中の白糸台で誕生し、誰もがいただけると思っていたのに、本当に残念である。

2024年ラーメンの美味しい革命が誕生したと思った矢先、本当に悔しい。玄関先に掲げてある品書きが「中華そば」から「上湯そば」に代わったというのに。

追伸

この原稿を書き上げた後に、「Ramen Rouge」の坂田さんからスープの味を元に戻すという連絡をいただいた。

3度目の訪問で感じたことを本人に伝えたところ、「考えた結果、やはりブレずに自分の美味しいと思う味で勝負する事に決めました」とあった。

うれしい限りだ。近々、改めて食べに行って来ようと思う。
山本益博 Web LEON ラーメン革命!

● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

山本益博 YouTube  MASUHIROのうまいのなんの!

山本益博さんのYouTubeが好評稼働中!

日本初の料理評論家、山本益博さんが、美味しいものを食べるより、ものを美味しく食べたい! をテーマに、「食べる名人」を目指します。どうぞご覧ください!
YouTube/MASUHIROのうまいのなんの!

「山本益博のラーメン革命!」、他の記事はこちらから!
PAGE 7

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

Web LEONの最新ニュースをお届けします。

SPECIAL

    おすすめの記事

      SERIES:連載

      READ MORE

      買えるLEON

        残念! はやくも幻と化してしまった本物の「うま味」を湛えたラーメンスープ | グルメ | LEON レオン オフィシャルWebサイト