まるでミルフィーユな大トロにぎり鮨

パイ生地、唇、経験、密会、年齢、布団、努力、用心、カ・ラ・ダ♡ そして、大トロ──。この世に“重ねる”モノは多々あれど、にぎり鮨、しかも大トロ！ は、あまり聞かない話。でも、東京・勝どきの老舗「はし田」のまるでミルフィーユな大トロにぎりは、見ても食べても重ね重ね納得の一品かと。

客が見るだけでも楽しめるようにと、江戸前気質の洒落で始めたにぎり鮨の改良を重ね、より薄～く、より長～くこそげるように特注した蛸引包丁で、大トロを長さ25㎝、幅5㎝ほど包丁の上にのせてまず三つ折りに。

ワサビ適量とシャリを包むように優しくにぎり、刷毛で醤油を塗って完成するまで時間にして約40秒。写真や動画を撮ろうが嫌な顔ひとつせず、提供してくれるのです。

実はこそぐことで、よくある厚みのある大トロにぎりに比べて①脂が食べ頃に溶ける②薄いから食べやすい③客に合わせてこそぐ部位を変えたり赤味部分を足したり味のコントロールがしやすい④マグロの冊を横方向ではなく縦方向にこそぐので、おかわりと言えばほぼ同じ味が再現できるなど、メリットがたくさん。

なのですが……。そんな野暮なウンチクを重ねるよりも、黙って彼女を連れて行けば、女性のハートを盗むという罪も、またひとつ重ねてしまうかもしれませんけどね。

その日、仕入れたマグロの状態と客の胃袋の状態とを見極めつつ握りはじめる。

● 一流の江戸前鮨を食べる前に知っておきたいこと