まるで人気デザイナーの最新モードのようなフィッシングジャケット！

世界を舞台に活躍するDJ田中知之（FPM)さんが自らの美意識に叶った「男の定番」をご紹介する連載。今回のテーマは……。

「それ何処のブランド??」最近着用していて、そう一番たずねられるのがこのジャケットだ。

「1980年代終わり頃から1990年代にかけて、イギリスの中東部ノーサンプトンにあった『Bob Church & Co』というメーカーが作ったフィッシング用のジャケットだよ」と答えると、みんな一様にびっくりした表情をする。そのボリューミーかつオーバーサイジングな、それでいて着丈が短いポッテリしたシルエットと、たくさん付いた大小さまざまな形状のポケットが、まるで最近の人気デザイナーの最新モードに見えたからだろう。

かく言う私も一昨年、奥渋谷にある「AWASE」という古着屋でこのジャケットと出合った時、まるでヴァージル・アブローの新作みたいだなぁと思った。“Bob Church”とGoogleで検索を掛けてみると、 1987年と88年に2年連続でフライ・フィッシングの世界チャンピオンになったイギリスの伝説的なフライ・フィッシャーで、釣りに関する著作が20冊くらいあるという情報は出てくるが、アパレルに関する情報はほとんど出てこない。

聞くところによると、彼の全盛期に、家族経営で釣具やウエアをわずかな期間だけ作って販売していたのだけれど、ビジネスとしては上手くいかずで、ブランドとしては21世紀を待たずして消滅してしまったようだ。

ミリタリーは当然として、各種スポーツやハンティング、今回のようにフィッシング用のアイテムだったり、とにかく私はプロユースに特化した古着に強く心惹かれることが多い。用途に応じて、通常あり得ないデザインや素材使いやシルエットをもっていることが多く、それが時代の変遷のなかで、我々のニーズや審美眼とシンクロして、とんでもなくカッコいいデザインとして蘇ることがあるからだ。

私が古着を愛するのは、過去の人たちのコスプレをしたいからではなく、過去のデザイナーたちが、時に偶発的に残したデザインを、現代のモードのなかで再解釈してコーディネートしたいからだ。

このジャケットも世界的な釣り師ならではのこだわりを集積した仕様で、釣り用のルアーやテグス、タックルボックスなどを仕舞う為に、アウター、インナー合わせて25個のポケットが付いている。私は鍵や小銭やのど飴や目薬をいろんなポケットに仕舞って出かけるのが楽しいのだが、いざ必要となって取り出そうとすると、何処のポケットに仕舞ったのかがさっぱりわからなくなっているのだ。いやはや。

アウトポケットが前面に15個、背面に1個、インナーポケットが9個、総計25個。さらにDカンが4個、襟に収納フードが付く。両方の袖はファスナーで着脱可能。

生地は裏側に薄くゴム引きされているから防風性に優れている。言い換えると通気性は良くない。ポケットの内側がゴム引きされた面になるのは、濡れた釣具をそのまま仕舞うためだろう。

なかなかヴィンテージショップでも見かけない、Bob Churchのタグ。