2026.09.20
【特別寄稿・試乗リポート】BYD RACCOをレジェンドジャーナリスト岡崎宏司はどう評価したのか?
今年の6月末に最終回を迎えた本連載ですが、単発の特別編という形で早くも復活! 「BYD RACCOに試乗するので、印象が良ければ書きたい」というお話を受けたのが数週間前、晴れて寄稿いただけた次第。というわけで、新車のレビューはかな〜り貴重!な岡崎教授の精緻かつエモーショナルな試乗リポートをお届けいたします!
- CREDIT :
イラスト/溝呂木 陽 編集/高橋 大(atelier vie)
岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第285回(特別寄稿)
BYDの軽EV「RACCO」、、、1度は自分で触れてみる価値ありです!

知っての通り、BYD Autoは中国メーカーカーであり、今やEVカテゴリーではテスラを抜き、世界の頂点に立つ。
1995年に設立したバッテリーメーカー、BYD Companyの子会社として2003年に独立。自動車事業に参入。
ちなみに、2025年のEVの年間販売台数は225万台。PHEV等を含む乗用車全体では460万台を販売している。
26年の歴史しか持たない新参の自動車メーカーとしては、まさに驚くべき数字が並んでいる。
安全性、寿命、コストで高い評価を得ている自社製バッテリーを積み、原材料の調達から車両組み立てまでを一貫して行うことでコストを抑え、強い競争力を生んでいるとされているわけだが、、、果たしてそれだけなのだろうか。
ちなみに、現在の僕は基本的にはリタイアした身で、「やりたいことだけやる」というワガママをさせていただいている。つまり、BYD RACCOは、僕がどうしても乗りたかったから乗ったということになる。
試乗したのは「300 Premium」。最上級モデルで、価格は249,7万円。国のCEV補助金(諸々の理由で、国産軽EVよりずっと低い15万円)を差し引いた実質価格は234,7万円。
しかし、RACCOユーザーの多くが、この最上位モデルを買っているということは、彼らがその額を支払う価値を認めているからに他ならない。
RACCOを目の前にした時、まず驚いたのは「軽とは思えない、強い存在感と高い質感」だった。
上記したように、ユーザーが価格と価値を天秤にかけた時に出した答えの多くが「イエス‼」だった理由の多くも、ここにあるのだろう。
全高の高さが存在感を強くしている大きな理由になっているのは間違いないが、ただ高いだけではない。
背が高く、爽やかで洒落たスーツに包まれてはいるが、その中には、がっしりした骨格と鍛えられた筋肉が組み込まれていることが、感覚的に伝わってくる。
男と女に例えれば、RACCOからは間違いなく男を感じる。それも、よく鍛えられた男を、、。
さらには、そんな男が、仕立てがよく、モダンだが稀を衒わない、それでいてピンポイントで際立つ個性をも見せるデザインのスーツを隙なく着こなしている、、、。
「褒めすぎだろう!」と言われそうだが、僕がそんな印象を受けているのは事実だ。
BYDは新参メーカー、、なのに、RACCOからは、どこか、「長い伝統と深い経験」を持ったメーカーの製品のように感じさせられる点が多い。ちょっと不思議だ。
モダンなデザインというと、とかく軽々しさが同居しがちだが、RACCOのそれには「精緻さと重み感と厚み感」を感じる。
さらに言えば、、RACCOの前に立つと、なにか威圧感めいたものを感じはするものの、それがネガティブな要素になっていないのも、デザインの巧みさゆえだろう。
キャビンに入ると、天井の高さが快適さに大いなるプラスをもたらしていることがすぐわかる。それも、ただ高いだけではなく、優しい丸みを帯びた天井のデザインが、なにか「ホッとする」ような寛ぎ感をももたらしてくれる。
インテリアもモダンで、デザインも、素材のクォリティ感も高い。新参者で、軽で、価格もかなり安いのに、、、いったいどうして⁉、、と思ってしまう。
運転席もすんなりと馴染む。ステアリングホイールは高さと角度が調整できるし、シートは心地よい座り心地に加えて、安心感を抱かせるホールド性をも持っている。
ペダルレイアウトにも違和感はない。運転席に座り、各部を調整して、すぐに、心地よいドライビングポジションが決まる。
漆黒の四角いメーターパネルは機能的で、妙な、あるいは無駄な遊びがないのがいい。ダッシュボート中央に置かれた10.1インチ タッチスクリーンも同じ印象だ。
軽や小型車は、とかく「デザインに遊びを入れる」傾向があるが、「オモチャっぽい」印象を招いてしまう例は少なくない。
そうした観点から見れば、RACCOのインテリアは「無駄を廃した大人のデザイン」に仕上がっている。
ただし、センターのタッチスクリーンの操作性というか、、機能を多く入れているためか、扱い勝手が少し複雑になっている点だけは気になった。
後席も広い。RACCOのキャビンには、180cmクラスの4人がリラックスして乗れるスペースがある。ただし、後席シートは前席ほどのホールド性はない。コーナーでは上半身が左右に動くのを支えなければならないケースが度々出てくる。
乗り味、走り味も「これが軽なの⁉」と思わされることが次々出てきた。
EVだからエンジン車より静かなのは当たり前だが、RACCOの静かさは、そんな単純なレベルではない。
EV車にありがちな、モーターの高周波系の音もよく封じ込められているし、タイヤノイズ/ロードノイズもハイレベルで抑え込まれている。
タイヤも中国製だが、刻々と変化するような路面状態に対しても、ロードノイズの絶対値と音質、そして路面感触の変化は、意識しないとほとんど気にならないレベルにまで封じ込められている。
サスペンション系もまた、ロードノイズの抑制に大きな効果を引き出している。
加えて驚かされたのは風音の低さだ。高速道路を走っていても、風音を不快に感じさせられることはほとんどない。
乗り心地もいい。感触的には全体に硬めだが、フラット感はあるし、不整路面でも、前輪はほとんどそれをいなしてしまう。感覚的にはドイツ車のイメージに似ている。
後輪は時にそれなりのリアクションを伝えてはくるものの、それにも、角の立った、あるいは音を伴った類の不快さはない。
とにかく、快適性は間違いなく「A級」だとお伝えしておく。
バッテリー容量は22,4kWhと35.84kWhの2種が用意され、ユーザーが選べる。一充電走行距離は(WLTCモード)、前者で210Km、後者で320km。
今回は流れのいい高速道路と一般路を使って、横浜から三浦半島を往復する150kmほどを走った。が、大型バッテリーを積んだ試乗車にとっては楽勝で、ほぼ半分の消費で走りきった。
道路は空いていたが、大人4人が乗っての答えだから、RACCOのカタログ電費は、十分、実走行の参考にしていいだろう。
走りも、大人の4人乗車を考えると、十分に力強かった。1人~2人の乗車なら、EVのレスポンスの良さも加えて、スポーティな領域の走りも十分楽しめそうだ。
最後にハンドリング/ブレーキングの印象にも触れておこう。
PSの操舵感はやや重め。、、だが、切り始めから確実に応答し、後輪の追従性も素直。意図通りの動きを示してくれる。
ブレーキ踏力も同様にやや重めだが、リニアに確実に反応し、しっかり減速してくれる。つまりステアリングもブレーキも不安感なく操作できるということだ。
限界領域での挙動や安心感/安全性などは今回はチェックしていないが、全体感としてのリニアで安定した挙動を考えると、ネガティブなイメージは浮かんでこない。
もう10年ほど前のことだが、欧州をリードするメーカーの技術部門のトップに、「将来、もっとも作ってみたいとお考えになっているのはどんなクルマですか?」と聞いてみたことがある。
すると、「日本の軽自動車のようなクルマをイメージしている」との答えが返ってきた。そしてさらに「あれほど厳しい制約の中で、あれほどユーザーのニーズに真面目に懸命に応えようとしているクルマは他にはない」とも加えた。
元々大好きで、もっとも尊敬していたエンジニアだったが、この一言で、好意と尊敬の度合いは、さらに大きく跳ね上がった。
BYD RACCOを見つめ、触れ、走りながら、僕は彼のことを思い出した。
残念ながら、彼はもう引退した。だが、もしも現役で、RACCOを見て、触れて、走ったら、どんなリアクションを示しただろうか。想像しただけでドキドキする。
BYD RACCOは、軽の本家である日本にも少なからぬ影響を与えるだろう。僕は真面目に、真剣にそう思っている。













