2026.02.26
「Pure McLaren Arctic Experience」
北極圏でオーロラと犬ぞりとドリフト体験。「マクラーレン」のユニークなラグジュアリープログラムとは?
フィンランド最北の地域ラップランド、いわゆる北極圏で氷上ドライビングにチャレンジし、マクラーレンの全開パフォーマンスを味わうことができる、そんなドライビングレッスンがあるという。しかもラグジュアリーなホテルや食事をはじめ、ドライブしない同伴者も楽しめるさまざまなアクティビティも用意。知る人ぞ知るプログラム「Pure McLaren Arctic Experience」に参加してきた。
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写真/マクラーレン・オートモーティブ 編集/森本 泉(Web LEON)
よりラグジュアリーに進化したドライビングレッスン

スーパーカー、ハイパフォーマンスメーカーのビジネスは、ただ高性能なモデルをつくって売ればいいというものではない。その本来の性能を味わう場所や運転スキルを提供することも、ある意味では義務である。現にフェラーリもランボルギーニもアストンマーティンもポルシェも、いわゆるドライビングレッスンを顧客に対して積極的に行っている。その先にはカスタマースポーツとしてレーシングカーの供給、レースサポートなどまで行う。
日本ではまだあまり知られていないかもしれないが、マクラーレンも例に漏れず、この10年間ほどそうしたドライビングレッスンを精力的に行っている。モンツァ、シルバーストーン、ホッケンハイム、スパ、ポールリカール、サーキットオブジアメリカズ、バーレーンなど、世界中の名だたるサーキットでドライビングエクスペリエンスを実施。そして昨年には富士スピードウェイで初めて上級者向けのプログラム「PURE McLAREN DYNAMIC EXPERIENCE」を開催した。
これらのプログラムはドライブの精度を高め、サーキットでのタイムアップを図る、純粋に速さを追求することが目的だが、「Pure McLaren Arctic Experience」は、それらとは少しばかり趣向が異なる。

▲ ヘルシンキから約2時間、フィンランド最北のちいさな空港イヴァロ。
イベント名にArcticとあるように、舞台は北極圏。ヘルシンキ・ヴァンター国際空港から約2時間のフライトで、フィンランド最北にある空港イヴァロに到着すると、一面白銀の世界が広がっている。この日の外気温はマイナス15度、寒い日にはマイナス30度にもなるという。マクラーレンのF1マシンのパワーユニットの供給元として提携関係にあるメルセデスのシャトルが出迎えてくれる。プログラムはここからスタートする。

▲ プログラム期間中はオーロラの町として知られるサーリセルカの森の中のあるヤブリロッジに滞在。外観はログハウス、中身はスカンジナビアデザインのモダンラグジュアリィホテル。

雪景色の中、シャトルで40分ほど走ると、サーリセルカの大自然に囲まれたヤブリロッジに到着する。プログラム期間中滞在することになるこのホテルは、聞けば元フィンランド大統領の別荘をリノベーションしたもの。
外観は重厚な木材で組まれたログハウスで、中はスカンジナビアンデザインのモダンな設え、ゲストルームはわずか13室のみ。プライベートプールやサウナを備え、レストランでは気鋭のシェフによる地元の湖で取れる淡水魚や野菜、乳製品などオーガニック食材を使ったノルディックキュイジーヌが味わえる。
このサーリセルカはオーロラの町としても有名で、そのためだけに世界中から観光客が訪れる。天候が良ければいつもは夜の9時頃見られるということで、ウェルカムディナーの締めのイベントとなるはずだったのだが、あいにくの吹雪で見ることができなかった。しかし、一面の雪と静寂に包まれた森の中では、これまで感じたことのない没入感を味わうことができた。
専有のアルトゥーラと専属コーチとともにドリフト三昧

▲ 面積は約6.6k㎡の凍結した湖上に19ものコースを用意。

翌日はプログラムのメインコースである氷上ドライブに向かう。レッスン会場はイヴァロ空港の西にある面積は約6.6k㎡の広大な湖(Pasasjarvi)。凍結してからもっとも氷が厚くなる1月から2月にかけての期間をマクラーレンが専有しているのだという。そこにハンドリングコースやダイナミックコース、定常円旋回コースなど実に全長25kmを超える19ものオリジナルコースが用意されていた。
この日の参加者は8名で、1人に1台V6ハイブリッドのアルトゥーラが用意された。そしてレッスン中はマンツーマンで助手席にドライビングコーチ(プロのレーシングドライバー)がついてくれる。
まずはコーチの運転でコースインする。マクラーレンにはドリフトのスライド量を調整できるモードが備わっているが、ここではESCもVDCも、いわゆる横滑り防止装置は完全オフでいくからと笑顔でサムアップする。
ハンドリングコースでのデモ走行は、すべてのコーナーで華麗にドリフトしてみせてくれる。それと同時にアクセルは全開なのかパーシャルなのか、アクセルをオフにする際のペダルコントロールの量、ブレーキのタイミングと量、ステアリングさばき、目線の送り方などを丁寧の解説してくれる。

▲ 今回筆者に用意されたアルトゥーラのボディカラーは「Tokyo Cyan(トウキョウ・シアン)」。 東京の夜景や都会の雰囲気をもとにつくられた特別色。
アルトゥーラは、マクラーレンのエントリーモデルといっても最高出力700PS、最大トルク720Nmを発揮するミッドシップのスーパーカーであり、4WDではなく後輪駆動である。最初はおそるおそる走り出してみたけど、助手席のコーチから「Gas!Gas!(踏め踏め)」と檄が飛ぶ。慣れてくるとわかってきたが、ハイブリッドの利点でモーターのアシストによって低速から瞬時にトルクが立ち上がるため、ペダル操作に対してラグタイムがほとんどなくレスポンスする。体がスライドすることを覚えると2速から3速を使って高速ドリフトにもトライできるようになる。

▲ マクラーレンのクルマに共通する特徴として、ドライブに集中させるためステアリングには一切のボタンを配置しない。またシフトパドルは左右が連結しており、表示上は右に「+」、左に「ー」とあるが実は右を奥に押せばシフトダウンする。これはいざという時に片手でシフト操作が行えるF1マシン由来のもの。
コースから飛び出してクルマが壊れることはないのかと尋ねたら、飛び出すことは日常茶飯事だが、壊れることはめったにないという。たしかにまわりを見渡しても、いきなりスタックして動けなくなっている参加者がいた。コースにはいわゆる側壁がない。コース外には飛び出した車両を停止させる(スタックさせる)、けれども衝突してダメージを与えないちょうどいい量の雪が積まれている。よくみると車両のフロントのリップスポイラーはあらかじめ養生されている。気兼ねなくアクセル全開にしろというわけだ。万が一コース外に飛び出してスタックしても無線でレスキューチームを呼べばあっという間にかけつけ、見事な手際でコース復帰させてくれる。

▲ このプログラムのために用意された特注のスパイクタイヤ。氷上とは思えない抜群のグリップ性能を発揮する。
午前10時からランチをはさんで午後3時まで、湖の畔にあるロッジで休むのも、走るのも参加者次第。時間を忘れてひたすらに走り続け、コーチのアドバイスの耳を傾けていると最終的には定常円旋回のコースで途切れることなく1周の円が描けるようになっていた。
マクラーレンオーナーでなくても、日本からも参加可能
このプログラムのユニークなところは、この氷上ドライビングレッスンだけで終わらないところ。なんとここからシャトルでカート場へと向かう。その名もFrozen Ring。一面雪に覆われたマイナス20度の中、スパイクタイヤ付きのカートでレースを行った。参加者だけでなくドライビングコーチも交えてのレースにみなヒートアップし大マジである。寒さを忘れるとはこのことだ。

▲ マイナス20度の中、予選を経て決勝レースがスタート。参加者はみな大マジ、激アツである。

▲ 犬ぞりは2人一組で、ひとりが操縦を、もうひとりは座って荷重移動を行う。素晴らしい景色と犬たちの献身的な働きに感動。

さらに翌日は、ハスキー犬による本格的な犬ぞり体験が用意されていた。体重移動やブレーキなど一連の操作方法のレクチャーを受け、いきなりそりの操縦を託された。ルートである森の美しさはもとより、犬たちの力強さとかしこさに感動を覚えた。
今回はあいにくオーロラ鑑賞はできなかったけれど、ドライビングレッスンにとどまらない北極圏だからこそ得られる体験が凝縮されている素晴らしいイベントだった。この「Pure McLaren Arctic Experience」は今年で10年目を迎えるというが、コーチにこれまで日本人の参加者はいたのか尋ねたところ、毎年数名いて先週も来てたよと。実はマクラーレンオーナーでなくても参加可能なこともあって、知る人ぞ知るプログラムのようだ。すでに2026年の受付は終了しているが、公式サイトでは2027年の案内が出ているので確認されたい。

ちなみにもっと暖かい地でさらにラグジュアリーなプログラムがお好みなら、今年6月のF1モナコGPにあわせて「PURE HOSPITALITY MONACO GP」というプログラムが用意されている。ボー・リヴァージュ・ストレートの真上に位置する、モナコを象徴するホテル・エルミタージュのプライベートテラスで、美味しい料理とフリーフローのシャンパンを片手にF1観戦。夜はヨットクラブでのディナーなど、フリー走行から決勝レースまでフルに観戦する贅を尽くした内容でまだコチラで予約可能。
ブランドのカスタマーに対する責務は、性能を味わう場所や運転スキルのみならず、さまざまなラグジュアリー体験の提供へと範囲が拡大しているようだ。















