アストンマーティン「ヴァンテージ ロードスター」で行く！ 初秋のノスタルジック温泉旅

むかーし、越後の国のある山の中にたいそう大きくて立派な温泉宿があってのう、その名を貝掛温泉といって、方々から集まる湯治客で賑わっておったそうじゃ──。

つい昔ばなし口調になってしまったのは、切妻屋根をのせた、いかにも古風な外観のせい？ せせらぎの音に誘われて裏手を覗くと、こちらにもノスタルジーをそそるような水車がありました。

貝掛温泉は鎌倉時代の開湯以来、戦国時代には上杉謙信が関東攻略の際に将兵の英気を養い、江戸時代には眼病を患う人たちが訪れるなど、長きにわたって湯治宿として知られてきました。

そう、ユニークなのは全国でも珍しい“目の温泉”であること──。片や、ドライブ旅の相棒を務めてくれたアストンマーティン ヴァンテージ ロードスターは、“眼福”を享受できる美麗なルックス。どちらも見ることの幸福を享受させてくれる存在なのですね。

もしこのクルマを運転して、隣に彼女を乗せて、ドライブ旅に出るなら。ルーフを開け、風を感じ、美しい風景の一部となるなら。あなたはもう、ただの贅沢なコロガシオヤジではなく、世のため人のために役に立っていると自惚れてもいいでしょう。なぜって？ その姿はとても優雅で洗練されていて、多くの人にとっての“目の保養”となるだけでなく、さらに、自分ももっと頑張ろうと思わせてくれるような、誰かの生きる力にすらなっているかもしれないからです。

オラオラ系の見た目で、甲高い排気音を上げるような押しの強いスーパーカーには、思わず眉間にシワを寄せる御仁でも〝英国車だけは別〞として、目を細めてうっとり眺める——、そんな場面を何度か見たことがあります。アストンマーティン ヴァンテージ ロードスターも、ご多分に漏れることはないでしょう。

ルーフを開けても閉じても、力強くも優美なフォルムはまさに走る彫刻。野太くも張りのあるエキゾーストサウンドは、英国で“奇跡の歌声”と謳われたポール・ポッツのテノールボイスのごとし。レザーにしろメタルにしろカーボンにしろ、なんちゃってではない本物の選りすぐった素材のみを用いた内装も、まさに英国伝統のビスポーク・テーラーリングを彷彿させるクオリティ。恍惚として眺めつつ指をすべらせ、触覚でも愛でたくなるような官能的なものとなっています。

ここまでアストンへの陶酔的な愛をお伝えしてきましたが、あえてひとつネガティブ面にも触れておきましょう。普段はこのうえなく紳士な顔をしていながら、ひとたびアクセルを踏みこめば、そこからわずか3.6秒で時速100㎞に達してしまう加速は、アドレナリンフル放出レベル！ ましてや、山道に入れば細い橋を渡ることもあり、運転は終始スリリングなものとなってきます。

なので、彼女を乗せてドライブ旅に出るにしても、遠すぎない目的地を選んだほうがいいでしょう。なにしろ、クルマとの対話だけで十分に官能的ですから、運転時間が長すぎると、あなたよりもクルマのほうへと彼女の愛が移ってしまいかねませんからね。

心を洗うせせらぎの音をベースラインに、アンサンブルを奏でるのはシジュウカラのさえずりと、秋虫の声。時折、アカガエルが割って入って、ビブラートを効かせたソロを高らかに歌い上げます。

貝掛温泉は「日本秘湯を守る会」の会員でもあり、狭く急な坂道を下り、ハラハラするような一本橋を渡ってたどり着くような山奥にあります。ゆえに、耳に心地よい自然の音以外は何も聞こえてきません。にもかかわらず、訪れてみて驚かされたのは、実は都心からの距離が200㎞を切っていて、非常にアクセスが良かったこと。時間のゆとりは心と体のゆとりにつながります。

錦鯉が泳ぐ池を眺め、川辺を歩き、水車の庭園を散策したあとは、ドライブの疲れを癒やすべく温泉へ、といった具合に、彼女との待ちに待ったリゾート時間は優しく、ゆっくりと、親密に流れていきます。

さて、こちらがどんな温泉かといえば、開湯700年の歴史を誇り、古来、眼病に効く“目の温泉”として多くの湯治客を受け入れてきたという歴史をもちます。そうしたなかで、現在の５代目の当主は少しずつ、さり気なく手を入れ続け、“山奥の秘湯”の感覚を大切に残しながら、より快適かつ清潔感のある宿へと改装。田舎風情に免疫のない都会のお嬢様をお連れしても安心な環境に整えてあるのも、「彼女の笑顔を守る会」のオヤジさんにはうれしいですね。

ここの源泉温度はおよそ37℃とぬるめなのが特徴で、じっくり、ゆっくりと浸かることで副交感神経が優位となり、体の芯からくつろげます。仕上げに加温した湯船に浸かり、温まってから上がれば、整いは完璧です。眼病に効くと伝えられてきた温泉を堪能したあとは、お部屋に帰って、今度は浴衣姿の彼女で心ゆくまで目の保養をどうぞ。

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