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2025.06.22

MGAのシンプルで美しいデザインは憧れの年上の女性のような妖しい魅力で僕の心を揺さぶった

筆者の長いクルマ生活の中で、もう一度乗りたいと思うクルマの筆頭格がMGAだと言います。その美しくも妖しいロポーションに魅入られた筆者がMGA、そしてMGBと過ごした思い出深きカーライフを振り返ります。

BY :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト)
CREDIT :

イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第260回

もう一度乗りたい「MGAとMGB !」

イラスト 溝呂木 陽 もう一度乗りたい「MGAとMGB !」
僕の車歴はかなりの台数になるが、もう一度乗りたいと思うクルマは少なくない。

21歳(1961年)の時、必死になってお金をかき集めて買ったMGA1500 マーク1はその筆頭クラスだが、姿の美しさに惹かれた。その思いは今でもまったく変わっていない。

その姿、、僕の目には「美しい年上の女性」を見るような、強い憧れの混じった感覚で映り込んだ。
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買ったのは1955年型。デビュー直後のモデルだ。1961年当時では、もっとも安く買えたMGAだったが、それでも価格は104万円。当然、僕の財布は空っぽになり、親兄弟に必死に頼みこんで、なんとかかき集めた。

幌をつけた時のプロポーションもまた美しかった。ただし、初期モデルの幌の構造は原始的で、脱着作業にはかなりの時間と労力がかかった。

オープン走行中に突然雨が降り出したら、幌を装着し終えるまでには、コクピットも、作業する人間もずぶ濡れになった。そんなことだから、オープンで出かける時はかなりの覚悟が必要だった。

でも、夜のパーティーなどでは、怪しい空模様でも、会場にはカッコを付けてオープンで乗り付けたかった。それで、当然、ひどい目にあったこともあったが、、。

たぶん、「あいつアホか!」と思われていた確率は高かっただろう。でも、それでも、自分では、「どうだ、カッコいいだろう!」と思っていたし、ハッピーでもあった。
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エンジンはBMC BタイプのOHV4気筒1500cc。パワーも低く、回転感にも粗さがあり、「スポーツカー エンジンの快感」はなかった。4速MTをフルに駆使しても、「スポーツカードライビングの悦び」には遠かった。

今だったら、腕のいいチューニングショップにでも持ち込めば、かなり違った答えを引き出せただろうが、当時はまだ、そんなことは望むべくもなかった。

僕がMGAを買った1961年当時には1600も出ていたし、外観に手を加えたマーク2も出たが、とくに欲しいとは思わなかった。

むろん高出力エンジンに魅力はあったが、金銭的に「買えっこない」という諦めがあったからかもしれない。

でも、オリジナルデザイン=素のデザインの1500が、「もっとも美しいMGA」だと僕は感じていたのが、新型モデルにあまり惹かれなかったいちばんの理由だったと思う。

そう、僕がMGAに惹かれたのは「シンプルで美しいデザイン」であり、それがもっとストレートに感じられたのが、デビュー時のモデルだったということだ。
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MGAは特にサイドシルエットが美しく、ドアハンドルのないデザインが、さらにその美しさを際立たせていた。

MGAが生まれて70年の年月が経つが、今、最新のクルマが溢れる街で出会っても、「旧さで目を引く」のではなく、シンプルに「美しさで目を引く」クルマであり続けていると僕は思っている。

上記したように、MGAには「ドアハンドルがない」。ドアを開ける時は、ドア内側上部に張られたケーブルを、引き下げるような操作でロックを開く。

幌をかけ、サイドウィンドゥを取り付けた場合は、スライド式ウィンドゥを開いて手を突っ込み、ケーブルを操作する。

僕は、この、シンプルかつエレガントな美しさをMGAにもたらしている、ドア開閉システムが大のお気に入りだ。

MGA1500はスポーツカーだが、走りに関しては自慢できるところはない。ジムカーナには何度かエントリーしたがみな惨敗だった。でも、そんな結果は初めからわかっていたので、怒りも悔しさもなかった。
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MGAの美しさには強く惹かれながらも、その一方では、やはり「もう少し進歩的なクルマがほしい」という気持ちが徐々に強くなり、たしか1年半ほどでMGBに乗り換えた。

これもむろん中古車だったが、幸いにも「極上のコンディション」のもので、すぐ飛びついた。そこでまた、わが家の財政状態は火の車になったが、当時は家内の親の家に同居していたので、日常生活には困らなかった。

なにより有り難かったのは、家内が僕のクルマへの「身の程知らずの散財」を、文句のひと言もいわずに許してくれたことで、これには今も感謝している。

加えて、彼女は家の仕事を手伝って給料を貰い、家計を大いに助けてくれもした。

まぁ、家内もクルマ好きで、どんなクルマでも平気で運転するような、当時としては「ごく少数派の女性」だったことも幸いした。

MGBは1962年にデビューしたが、ボディがラダーフレーム式からモノコック式に変わったことを始めとして、大きく進化し、近代化されていた。
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絶対的な美しさという点ではMGAが勝るし、個性的という点でも同じだが、オーソドックスでバランスが良く、破綻の無いデザインは、誰にでも好感が持たれる、、そんな仕上がりだった。

MGAのような、「美しい年上の女性」といった、妖しく心揺さぶられる類の容姿ではなかったものの、MGBもまた均整の取れた魅力的な容姿の持ち主だったということだ。

ボディカラーはライトブラウンといった平凡なものだったが、僕は気に入っていた。

インテリアもオーソドックスながら、スポーツカーらしい構成とデザインを満たしていたし、快適性も大きく引き上げられていた。

ステアリングホイールはナルディのウッドに交換したが、それだけで十分満足できた。

幌も簡単に開閉できるものになり、精度感も剛性もグンと引き上げられていた。だから、存分にオープンを楽しめるようになった。

特に冬のオープンは家内共々好きで、晴れていさえすれば、どんなに寒い時でもオープンで走った。厚手の上着とマフラー、足元からのヒーターの温風だけで十分だった。
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MGAではあまり遠出もしなかったし、箱根に走りに行ったりもほとんどしなかった。だが、MGBに乗り換えてからは、頻繁な箱根通いが始まった。

曲がりくねった箱根の道を大いに楽しんだ。もちろんオープンで、、。家内も喜んでハンドルを握り、けっこう飛ばしもした。

直列4気筒OHVエンジンは1800ccまで排気量アップされ、加えて、モノコック化されたボディによって、MGAと同じ910kgと軽量化も果たされていた。

そんなことで、性能的にもスポーツドライビングが楽しめる領域に入っており、それが頻繁な箱根詣の理由にもなった。

ただし、絶対的には「速いスポーツカー」とは言えず、ジムカーナでも、ヒルクライムでも、上位に入ることはほぼ無理だった。

でも、MGBはいろいろな点で平均点が高かった。箱根のワインディングロードから、日々の買い物用の足としてまで、心地良く寄り添ってくれた。
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ある時、家内が近くの食糧品店に買い物に行き、長葱や葉のついた大根の入った紙袋を無造作に助手席に置いて帰路に着いたらしい。

それをたまたま友人が見ていて、「MGBの助手席に、大根の葉っぱや長葱が載っている光景はなかなかいいモノですね‼」と、笑いながら電話をかけて来た。

僕もその光景を思い浮かべながら大笑いしたが、家内はそれ以降、買い物袋は、外から見えない助手席フロアに置くようになった。

MGBのHT( ハードトップ)付きも大好きだった。だが、最初に買った時は、まだガレージに余裕がなく、HTを釣り上げたり、外したHTを置いたりするスペースもなかった。

なので諦めたが、たしか90年代半ば頃、念願だった4台の駐車場付の家を建てたので、日常的に使う3台に加え、HT付MGBを手に入れた。このことは前にも書いた。

MGBはすぐ見つかったが、HTを手に入れるのには時間がかかった。
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ボディカラーはブリティッシュグリーン、HTはオールド イングリッシュホワイトの2トーンに。そして内装もきれいに仕上げた。

このHT付MGBは、乗って行った先々で評判になり、雑誌にも紹介された。その時の写真は、今も僕の大切な宝物になっており、居間の出窓に飾ってある。

そんなことで、MGAとMGBは、数多い僕の車歴の中でも、もっとも大切な思い出になっている。
岡崎宏司(自動車ジャーナリスト)
1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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