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2022.11.13

こんなクルマがほかにあるか? 小型車に革命をもたらした「ローバーミニ」

2000年に生産が終了してから今もなお多くの人々から愛され続けているローバーミニ(初代ミニ)。決して運転は楽でないのに、ステアリングを握る人をこれほど楽しくワクワクさせるクルマがあったろうか。愛らしさと類い稀な個性によって紡ぎ出されてきたミニの物語を振り返ります。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第197回

ローバーミニには今も魅了される!

VW T-Roc イラスト
ローバーミニ(初代ミニ)は1959年に生まれた。僕が19才の時だ。そして2000年、、僕が60才になった時まで、一度もモデルチェンジすることなく生産され続けた。

もちろん、マイナーチェンジはあったし、進化も続けた。しかし、移り変わりの激しい時代に、基本を変えず41年間も生き続け、加えて、多くの人たちに愛され続けたのだから素晴らしい。

いや「愛され続けた」のは2000年までではない。生産が終了してから22年経った今でもなお、多くから愛され続けている。

それも、ガレージの奥に置かれ、大切に保護されているといった形でではない。日々を楽しく過ごす相棒として愛されている、、そんな形が少なくない。

僕の友人も1992年のクーパー1.3 i を持っているが、日常の足として使っている。メルセデスベンツ Cクラス ステーションワゴンとの2台持ちだが、素敵なコンビネーションだ。

軽井沢に別荘を持っていて、夏はほとんど東京にいないが、軽井沢での日々の足として重宝しているようだ。

使い方も「旧いクルマを大切に、、」といった節はまったくみえない。「なにも気にせず使いっぱなし」のように見える。
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わが家に遊びに来る時はたいていミニで来る。その理由を聞いたことはないが、ミニで来ると僕が喜ぶと思っているからだろう。

たしかに、ミニで来てくれるとうれしい。ミニの音が聞こえると、僕は反射的に駐車スペースまで迎えに出て行く。

そして、ミニの周りを回りながらおしゃべりをする。他愛のないおしゃべりなのだが、これが楽しい。

僕が最新のEVに乗っているのを指して、彼は「さすが岡崎さんは進んでる!」という。でも、ローバーミニを前にソワソワしている僕を見て、なんと思っているのだろうか。

もし問われたら、「新しかろうが旧かろうが、いいものはいい。好きなものは好きなんだよ!」と答えるしかない。

しばらく「ミニトーク」を楽しんだ後、彼は必ずキーを差し出す。僕も遠慮せずキーを受け取る。

エンジンはスッとかかる。、、が、クラッチは重く、ミートポイントも狭い。この種のクルマを知らない人が乗ったら、エンストを繰り返してしまうかもしれない。

足がヤワになっている人が渋滞にはまったら、、ちょっと大変だろう。彼は定義上では後期高齢者だが、ゴルフが大好きな健脚の持ち主だから、なんとも思っていないだろう。

クーパー 1.3 i の排気量は1271cc。62hp/5700rpm、9.6kgm3900rpmのパワー / トルクを引き出す。加えて、スムースにトップエンドまで回るし、引っ張るのが楽しいエンジンでもある。

4速MTとのコンビネーションもよく、690kgの重量を軽快に引っ張る。タイム的にはさほど速くはないだろうが、回転感と伸び感と音がいい。なので、気持ちがいいし楽しい。
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身のこなしもキビキビ、、とにかく、街乗り領域は楽しい。ふつうに運転しているだけでも、なんとなく心が弾んでくる。

ワインディングロードを追い込んだ時の挙動はわからない。だが、昔、兄が持っていたクーパー1275Sの走りを重ねて想像すると、、、ある程度のドライビングスキルがなければ持て余すかもしれない。

もちろん、友人の1.3 i でそれを試す気はない。でも、乗っているとムズムズしてくる。半世紀以上前、1275Sで、兄や走り屋仲間と箱根を攻めまくった記憶が蘇ってくる。

それにしても、、1959年に誕生して、1度もモデルチェンジ(フルモデルチェンジ)しなかったクルマが、ステアリングを握る人を今なお、これほど楽しくワクワクさせる、、素晴らしいとしか言いようがない。

ミニクーパー ブームは、1964年、モンテカルロ ラリーを初制覇した頃から始まった。そして、1275Sのデビューが、一気に熱気を押し上げた。

当時のわが家には連日クルマ好きが集まっていたが、その中からも1275Sのオーナーが3人誕生した。トヨタのワークスチーム入りを果たした高橋利明、若き日の松田芳穂(世界的自動車コレクター)、そして義兄(家内の兄)の3人だ。

ミニクーパー 1275Sはヤンチャでジャジャ馬だった。下手な運転でコーナーを追い込んだりすると、タップリ冷や汗をかかされた。

まずは強烈なアンダーステアに見舞われる。そこで慌ててアクセルを戻すと今度は強烈なタックインが、、。後輪が軽く浮き上がるくらいならいいが、それを越すと転倒の危険が待ち受けている。
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短期間で閉じてしまったのは残念だが、タイトで難しいコーナーが連続する船橋サーキットでは、、ヒヤリの3輪走行、ウァーッの2輪走行、ヤッターの転倒を何度も見た。

でも、そんな光景が僕にはすごく刺激的だったし魅力的だった。そして、とても小さいクルマなのに、たいていの大きなクルマより強烈な存在感を放つことに強く惹かれた。

英国では、「ミニがファーストカーでRRがセカンドカー」だとアピールする人を雑誌等でたびたび見たし、エリザベス女王もミニのオーナーだったとのこと。

ローバーミニは、庶民、中間層、富裕層、富豪、そして女王までを惹きつけ虜にしてしまう、、、そんな、規格外、想像外の引力を持っていたということに他ならない。

こんなクルマが他にあるだろうか。僕には思い当たらない。

ローバーミニが小型車の世界に多大な影響を与えたことも忘れてはならない。いや「多大な影響」、、ではとても言葉は足りない。そう「革命をもたらした」というのが妥当な言葉だろう。

ミニの誕生と成功は、その後の小型車を一気に「エンジン横置きの前輪駆動」へと転換させた。そしてその波は、中型車から大型車にまで波及していったのは知っての通りだ。

ローバーミニの成功は、合理性 / 経済性に秀でていたからだけではない。ローバーミニの成功の理由として絶対見過ごせないのは、世界中の多くから「愛されたこと」にもある。

そして、愛された理由の最上位に挙げられるのが「ルックス」だ。
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「どんなに才能あるデザイナーをもってしても、ミニをより魅力的な姿に変えることはできない」と言われるが、僕も無条件で頷く。

ある意味「究極の合理的デザイン」ともいえるが、それにもかかわらず「無表情でも無機質でもない」。ミニは、愛らしく豊かな表情を持っている。明るくほのぼのとしたキャラクターを演じるのも得意。そしてなにより、人々をハッピーにする。

そんなことを強烈に印象付けられたイベントがある。1989年、シルバーストーン サーキットで行われたミニ30歳の誕生パーティーだ。

集まったのは2.5万台のミニと15万人のミニファン。僕はただ圧倒されるばかりだった。

ビカビカのミニからサビサビのミニまで、結婚式のパーティーに出るような身なりの人から、エプロンを付けたままキッチンを飛び出してきたような人まで、、、ミニがいかに多くの人々、多層な人々から愛されているかを、改めて思い知らされた。

パーティーには様々なプログラムが用意されていた。、、が、集まった人々の多くは、セレモニーやアトラクションとは無関係に、自由に気ままにパーティーを楽しんでいた。

解放された広大な芝生の駐車場では、いろいろなパフォーマンスが演じられ、家族や友人たちがピクニック気分を楽しみ、子供達が元気に走り回っていた。

「ミニ蚤の市」も最高に楽しかった。サビついたネジ、潰れかけたようなマフラー、ひんまがったホイール、、、ありとあらゆるものが並んでいた。ミニファンなら、一つや二つの宝物は必ず見つかるはずだ。

僕の見つけた宝物は、雪のチュリニ峠?を走る「小さなブロンズのミニ」。台座には、「MINI COOPER 1st 1967 MONTE CARLO RALLY」と刻まれたプレートが。ゼッケンナンバーはついていないが、僕は大好きなアルトーネンのミニと決めつけている。

1989年のあの日、広大なシルバーストーンはハッピーな風、、熱風!? に包まれていた。

ローバーミニが誕生して63年。世界の様々な人たちと無数の物語を紡いできた。愛らしさと類い稀な個性によって紡ぎ出されてきた物語は永遠のもの、、僕にはそう思える。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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