2022.02.08

featuring 黒部和夫

父から息子へ継承された63年前のIWC

お洒落好きなら誰もが素敵な時計を持っているものです。そこでこだわり男子に、こっそり愛用時計にまつわる想いをインタビュー。実に興味深いエピソードがアレコレと飛び出します。

CREDIT :

写真/小澤達也(Studio Mug) 文/T.Kawata 構成/長谷川 剛(TRS)

父から息子へ継承された63年前のIWC

ファッション・コンサルタント、評論家としてご活躍中の黒部和夫さん。ファッション業界人なら誰もが知る大御所的な存在です。トラッドを振り出しに、さまざまなファッションの変化を見つめてきた人物だけあって、大人の男性の装いについては、アメリカンでもイタリアンでもお手のもの。酸いも甘いもかみ分けた、豊富なファッション知識を頼りにしている関係者も多いんです。

形見として譲り受けた宝物は、こう身に着ける

そんな黒部さんが愛用している一本が、自動巻きのIWC。拝見すると、なかなか年季が入っているような……。注目すべきは筆記体の旧ロゴです。それだけで、時計通の皆さまなら昨日今日買ったものでないことはお判りでしょう。
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▲ 黒部和夫さんが愛用するIWC。1958年に購入されたもので、ベルトは今回の撮影を機にカミーユ・フォルネで新調されています。

父君がシンガポールで購入した理由とは?

「外交官をしていた父が、1958年にシンガポールで購入したものです。当時、父はインドネシアに駐在しておりまして、月に一度シンガポールへ生活用品や母へのプレゼントなどを買いに出かけていたそうです」

聞けば、そのころのシンガポールは英国領であり、お洒落な品々が取り揃えられていたのだとか。その後、黒部さんはこのIWCを父君から譲り受けられ、現在は大切な形見の品となっているわけです。
▲ 黒部さん愛用の時計を一堂に拝見。メディア初公開のものもあるので、最後までじっくりとお読みください。
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黒部さんは1958年、インドネシアのジャカルタのお生まれ。「もしかしたら、その時計は私の誕生記念のつもりだったのかもしれませんね」と黒部さん。なにせ形見の品ですから、思い出は数あれど、印象的な逸話になんとLEONが関わっておりました。

「LEONが創刊されたのが2001年でしたよね。その時に時計を受け取りまして。なにしろ湿度の高い場所で使われていたものなので、すぐにオーバーホールとリダン(文字盤の修復)をしたんです。それがLEON創刊のタイミングだったので、すごく印象に残っています」

それはうれしいお話じゃありませんか。そこからも黒部さんの時計談義は続きます。

「オーバーホールは自由が丘にあったアライ時計店にお願いしましてね。ここの親父さんがとにかく凄腕で、地方では手に負えない修理なんかが持ち込まれるほどで……」

黒部さんが頼りにしていたアライ時計店も気になる部分。で・す・が・肝心の黒部さんならではの時計のお洒落術をぜひお聞きしたいところです。このIWCは、スーツにコーディネートしていらっしゃるのでしょうか?

「いえ、合わせません。この時計は、意外と厚みがあるんですよ。なので、今日のブレザー&タートルセーターのような、スポーティなスタイルに付けたいんです。あとは時代に合わせて付け方も変わりました。創刊当時のLEONはゴージャスなスタイルをすごく打ち出していたでしょ。世の中もそんな気分で、私もそのころはIWCのベルトをカミーユ・フォルネの白いクロコダイル素材に付け替えて、足元はセルジオ ロッシのパイソンブーツといったエキゾチックコーデを楽しんでいました」
▲ 側面を見せて厚みを説明する黒部さん。厚いとはいえ、充分スーツにも合わせられそうですが、そこはスタイルに妥協を許さぬジェントルマンです。
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ああ、不況なんか知ったこっちゃなかったアノ時代。思い出しますとも。それが今回、お持ちいただいたのは白いステッチの入った黒ベルトに変わっております。実は黒部さんは時計ベルトにも、ただならぬ美意識をもつ方なのでした。

「ベルトは随時、交換しています。あれから20年ほど経って、改めて黒ベルトかなと。でも、真っ黒じゃなく、白いステッチのほうが少しカジュアルでバランスがいいでしょ? そうそう、これ、カミーユ・フォルネの限定品だったんですよ」
▲ 新宿伊勢丹メンズ館の一階にあるカミーユ・フォルネのコーナーで購入したと言うレザーベルト。普通なら妥協するであろうラグ(ベルトを固定するケースの突起)の歪みによる、ベルトのわずかなゆるみを女性スタッフは見過ごさず、ピン選びにてピタリと抑えたそう。その職人魂を黒部さんは大絶賛していました。

え、まん丸!? こんな時計、見たことない!

続いて、黒部さんが取り出したのは、こちらも父君が1958年に購入なさったタイタスの時計。なんと、機械式ムーブメントを半球の無垢のクリアパーツで前後から挟みこんだ球体時計というから驚きです。
▲ 屈折率の関係で、斜めからでは文字盤が見えません。もちろん裏面も半球のシースルー。チェーンとキーリングは純正で、オリジナルの状態から装着されていました。
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▲ 実物は特殊な風防によって、文字盤が大きく立体的に視認できます。
「父はゴルフの時に、付属のキーリングでベルトループにぶら提げて懐中時計風に使っていました。でも、それだと目立たないので、私はもっぱらパーティー用に、ジャケットのラペルホールに通してぶら提げるんです。これだと目につくし、会話の切っ掛けにもなりますから。妻によれば『あなた、自分の結婚式でも、タキシードに付けていたわよ』ですって(笑)」
▲ こちらは黒部さん流の使い方。このアイデアは、さすがベテランの洒落者です。
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シンプルな文字盤のクラシック顔の名品がズラリ

ほかにも名品を多数お持ちの黒部さん。秘蔵の品を駆け足でご紹介しちゃいます。

パテック フィリップのカラトラバは、長年勤めた会社から独立した記念として2014年に購入。愛してやまないチフォネリのスーツに合わせるのはもちろんのこと、夏はTシャツ+ショーツのリゾートスタイルを、ゴージャスに格上げするアイテムにもなるのだとか。
▲ 2014年購入のパテック フィリップ カラトラバ。ベルトは純正でクロコダイル素材に交換済み。「これ以上、デザインを触る必要がないほどに完成されたルックスが魅力です」と黒部さん。
そして1980年代、大学生の時に購入したロンジンは、スターリングシルバーのケースにフラットなサファイアガラスを組み合わせたエレガントな逸品です。こちらは1930年代の復刻モデルだそう。クラシックな顔立ちゆえ、夏はリネン、冬はツイードと季節感あるジャケットに合わせて使われています。
▲ アラビア数字文字盤の時計が欲しくて、奔走した末に巡り会ったのがこちら。「当時、銀座のソニービルにあったショップ、ソニーライトアップで一目惚れしました」
いずれの時計も特徴はシンプルかつクラシックなデザインであること。これが黒部さんのお好みのスタイルなのだそう。きっとそれは、時計とともに父君から受け継がれたものに違いありません。
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▲ シブミ フィレンツェのブレザーは、英国のアンティークボタン、フォックスブラザーズの一番重いフランネル生地など、こだわり満載のビスポーク。そこに、ポロ ラルフ ローレンのカシミアニット、アラン・フラッサーのチーフ、グラミチのパンツ、スタンスミスが混在。そんなスポーティとドレスの入り混じったスタイルが、愛用のIWCにもよく馴染みます。
「私が生まれた63年前、父はきっと背伸びをしてIWCやタイタスを手にしたのだと思います。時計は継承するものといいますね。時計と同時に、特別な思いを受け継いだと感じます。皆さんも何かの記念すべきときがあれば、時計を買っておかれると良いのではないでしょうか」

黒部さんのいいお話で、読者諸兄も時計が思いや絆を伝えるツールだと気づかれたのではないでしょうか。記念日を迎えることがあれば、ぜひ時計をお探しくださいまし。 

● 黒部和夫 (カルロ インターナショナル代表/ファッション・コンサルタント/評論家)

学生時代を過ごした1970年代からファッション業界に携わり、雑誌での取材やスタイリングを経験。青山学院大学を卒業後、1983年オンワード樫山に入社。国内外の有名ブランドの企画を経験後、商品開発室長として新商品の開発やPRマーケティング戦略を担う。メディアや全国百貨店でのイベントなどに多数出演。2014年、ファッション・コンサルタント/評論家として独立。小売業のMDやバイヤー向けトレンド分析、広告ディレクションを手がけるほか、教育やアパレル業界団体で活動。日本流行色協会メンズカラー選定委員も務める。

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