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2021.10.29

当代一の人気噺家・春風亭一之輔の本音「笑わせすぎるのも嫌だし、でも笑ってほしいし」

コロナ禍によって人と人とのリアルな繋がりが大きく毀損され、コミュニケーションは大きな危機を迎えています。でも、こんな時だからこそ、我々オトナはいい笑顔を忘れてはならない。そんな思いを込めて皆で笑顔について考える特集です。今回は「笑い」のプロである落語家の春風亭一之輔師匠にお話を伺いました。

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文/井上真規子 写真/トヨダリョウ 撮影協力/ザ・ゲートホテル雷門

いま落語界で人気、実力ともにトップクラスをひた走り、もっともチケットが取りにくい噺家のひとりでもある春風亭一之輔師匠。滑稽話から人情噺まで200を超える古典落語のネタを持ち、自らの言葉と現代のユーモアを織り交ぜた今までにない高座で多くの客を魅了しています。

コロナ禍でのYouTube生配信も大きな話題となり、師匠の落語に救われた人も多かったようです。そんな多くの人々に笑顔を提供し続けてきた一之輔師匠にとって「笑い」とは?

初めて見た寄席は、みんなユルくて気だるい感じが自分にちょうどいいなと

── 今日の撮影では満面の笑顔を作っていただきましたが、師匠は普段からよく笑いますか?

一之輔 いや、ほとんど笑わないですね。だから落語にいたら嫌な客ですよ。テレビでお笑い番組を見たって、今はどうしても仕事目線で見ちゃうし。最近大笑いしたのは、酒の場で仲間のしくじり話とか、くだらない下ネタを聞いた時ぐらいですかね(笑)。

── なのにあの笑顔(笑)。さすがです。昔からそんな感じですか?

一之輔 子供の頃の写真も笑っている写真がほとんどなくて、どれも眉間に皺寄せてばっかり。ただ、当時からお笑いを見るのは好きでしたね。年の離れた姉たち(4人兄弟の末っ子)の影響もあって、『オレたちひょうきん族』とか深夜のお笑い番組はよく見てました。『笑点』も毎週やってるからなんとなく見るって感じで、面白いとは思わなかったけど、空気のような存在でしたね(笑)。

── そんな師匠が本格的に落語に興味を持ったのはいつですか?

一之輔 高校生の時にラグビーをやっていたんですが、引退して暇になった時に、ふらっと寄席に行ったんです。テレビでお笑いは見ていましたが、ライブで見るのは初めてで。そしたら出てる人はおじさんばっかりだし、シャカリキな噺家もいたけど、基本みんなユルくて気だるい感じで、面白いなと思ったんです。あとは交代制で、責任感もあまりなさそうなのが自分にはちょうどいいなと思いました(笑)。
── その後、高校で落語研究会を復活させ、大学でも落研に所属。卒業とともに春風亭一朝師匠に弟子入りしたんですね。一朝師匠からはどんな教えを受けたのでしょう。

一之輔 古典落語だから「最初は教わったままやれ、笑わそうとするな」って言われるんです。笑わそうとするのは自分が後から余計なものを加えるってことで、そういう自我が入ってない落語をまずはきちんと身につけなさいと。なるほどと思いましたね。それでも古典落語はよくできてるから、教わった通りやれば大体ウケるんです。誰でも1カ月頑張れば笑ってもらえると思いますよ。

── 本当ですか(笑)。

一之輔 ただ、それを前座で繰り返し話すうちに、自分の中で「こうしたほうがいい」とか「このセリフは普通言わないんじゃないか」とか色々思うようになって。二つ目に昇進する頃になると、自由にやっていい空気になるので、自分なりに話すように工夫して。落語にだんだん自分の色が出てくるのがわかって、それがすごく楽しかったですね。
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落語は、役になりきって演じるわけじゃない

── 2012年に真打になられて、来年で10年。今はどんな気持ちで臨んでいるのでしょう?

一之輔 今もシャカリキにやっていますよ。今日はこの後、浅草演芸ホールの寄席に出るんですが、自分は20組中7〜8組目くらい。その時点でお客さんが静かなら盛り上げなくちゃいけないし、それが寄席での自分の役目だと思ってます。そういうことも自分で考えてやっているので、迷う時もあるし、反応がイマイチな時もあって、まだまだだなと思いますね。

── それにしても落語家はその場その場で判断することが多くて大変そうです。

一之輔 話している時は、いつも斜め上ぐらいからもう一人の自分が演出家として見ていて「客の反応が悪いから間を取れ」「ここは時事ネタ一つ入れてもいいんじゃねえか」とか指示を出してくるんです。それを登場人物に言わせるんですが、やりすぎると話が壊れてしまうので、サジ加減を見ながらやっています。俳優さんの場合は役になりきって演じるけど、落語家は完全になりきるってことはないんです。落語は、演じるというよりおしゃべりの延長という感覚かもしれませんね。
── 同じ話を繰り返しするなかで、飽きずに聞いてもらえるよう工夫しようとか思うこともあるのでしょうか。

一之輔 そこは難しいですね。古典芸能だから、判で押したようにきっちり話す人もいるけど、僕はいつもセリフが変わるふわふわした芸風で、それを好んでくれるお客さんもいます。どちらが正解とかはないと思いますが、新しいことばかりに囚われるのもよくないですよね。媚びすぎると、お客さんに伝わってしまうので。だから、そんなにお客さんにおもねる必要はないんだと思います。

──  一朝師匠の「笑せようとするな」という教えは、媚びるなという意味もあるのでしょうか?

一之輔 それもあるかもしれませんね。「落語は話芸だからお笑いでひとくくりにするな」っていう噺家もいるし、「落語ってそんな面白いものじゃない、ずっと笑い続ける落語なんて笑わせる道具に使ってるだけ、少し笑うぐらいがいい」って先輩に言われたこともあります。

一方で『M-1』とか『キングオブコント』のようなお笑い番組と並べても遜色ない笑いの取り方をする噺家もいます。僕自身は、落語はお笑いのジャンルに入れていいと思うし、ひとつのジャンルとしても見てもらえるのはすごく有難いこと。そして、そういう噺家がいなきゃいけないなとも思います。
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笑ってくれればうれしいけど、笑いすぎだよって思う時もある

── 師匠といえば、今風のギャグや言葉遣いを使った斬新なスタイルも魅力ですが。

一之輔 無理に現代的な言葉を使っているわけではなくて、自分の言葉で喋っているという感覚なんです。一度腹に入れて話すというか。そうすると覚えたまま話すより、登場人物が生き生きしてくる。それでもちゃんと落語っぽく聞こえるから不思議ですね。

ただ、話によってその度合いは変えていて、台本をぶち壊すぐらい極端に現代的なネタを入れる落語もあるし、崩さずにちゃんと取っておく落語もあります。例えば「千早振る」って落語は、博識の隠居さんに馴染みの八五郎が和歌の意味を訪ねてきて、隠居さんが知ったかぶりして適当に答えるという話。で、僕はふたりの人間関係がわかるように冒頭に話を入れるんです。

はっつぁん(八五郎)が隠居さんを訪ねると、ずっとテレビのリモコンをいじってる。で、何してるんだって聞いたら『録画の容量がいっぱいだから消してんだ、いっこいっこ。朝ドラをね』って言う。するとはっつぁんが『こんなの一発で消えるじゃん』って言うとこから始まるんです。全部思いつきなんですけどね(笑)。
── やっぱりお客さんが笑ってくれるとうれしいものですか?

一之輔 そりゃうれしいですよ。ただ勝手なもので、笑いすぎだよって思う時もあります。そんなに面白いかって、不思議に思ったり。笑わせすぎるのも嫌だし、でも笑ってほしいし、ちょうどいい笑いの量ってどのくらいだろうと考えたりします。あとは枕やフリの部分とかで最初から笑われるより、最初はクスクス笑いから始まって、だんだん大きな笑いになっていく方が話す方としては気持ちいいですよね。

── とはいえ師匠の枕は非常に面白いので、爆笑してしまいます。

一之輔 枕はお客さんが50%以上共感できる内容じゃないとウケないんです。例えば、普段思っていても言えないことを言ったり、ある人の違和感を言い当てたりした時なんかは笑ってもらえますよね。小学校や中学校で落語をやる時も同じです。落語が好きな子なんてひと握りだから、みんな初めは壁がある。そこで「この学校、駅から遠いよな」とか「周りに何もないし」とかディスってるんだけど、いつも自分たちが思ってることだなって共感してもらえる話をすると、少しずつ心を開いてくれますね。

── 師匠にもお子さんが3人いらっしゃいますが、家族もそうやって笑わせてる?

一之輔 うちの家族は頑なに笑わないですよ。笑いがとれる時間帯に僕が家にいないっていうのもありますけどね。朝、飯食う時は一緒なんだけど、みんなもう眠くてイライラしてて、無口で飯を押し込んでる(笑)。夜に仕事が終わって帰ってくると、また眠くて半分目を落としてる。僕が酒を飲みながら何か言ってると、うるせえなみたいな感じで見られてちっとも打ち解けないです。でも、子供がだんだん成長していく様を見てると面白いなと思います。ネタにも使いますしね。
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僕の落語に出てくるおばあさんは、志村さんのひとみ婆さんへのオマージュ

── ところで、この2年はコロナで多くの人が辛い思いをして落ち込んだりしました。そんななか、笑いに救われたという人も多いのではないでしょうか?

一之輔 僕自身も去年は落語がお休みになって、子供たちも学校が休みだったので、家族みんなでドリフの『8時だヨ!全員集合』のDVDを見てましたね。子供もみんな笑ってくれて、なんか救われたな〜って。あと志村さんが亡くなって、YouTubeで昔の『だいじょうぶだぁ』が配信されたじゃないですか。ドリフとは少し質が違うけど、やっぱり面白くてみんなで笑いました。

ちなみに僕の落語にはお婆さんがよく出てくるんですけど、完全に志村さんの『ひとみばあさん』を真似てるんです(笑)。オマージュに近いですかね。やってて楽しいんですよ。真似したくなる笑いっていい笑いだなって思いますね。

── コロナ禍で、師匠ご自身もYouTubeで落語をライブ配信されましたね。

一之輔 まさにこんな時に少しでも笑ってもらえたらって思って始めたんですけど、配信の反応は予想外に大きかったですね。最初の緊急事態宣言が出された去年の4月頃から始めて、あの頃はほとんどの人が家にいる状況だったので、「ご飯食べてから画面見てます」ってメッセージとかたくさんいただきました。そんなに見てもらえると思わなかったけど、徐々に反応が増えてきて、うれしかったですね。

── でも無観客での配信は難しい面もあったのでは?

一之輔 最初は本当にし~んとした中でやっていたんですが、3〜4回目から現場のスタッフが自然と笑うようになって、やりやすくなりましたね。話芸は少しでも笑いがあったほうが間を図れるし、のせてもらえるのでいいんです。でもその後は、無音でやる機会もたくさんあって、ここはウケてるはずから大丈夫って思ったら、大勢お客さんがいる時と同じようにのってきて。結局は、気持ちの切り替えだなと思うようになりました。
── 最後に、今後について教えてください。どんな噺家でありたいと思っていますか?

一之輔 まだ43歳ですしね。流れるままにやっていければと思っています。僕は、この落語界を変えてやるとか、そういう目標は全然ないんですよ。真打になった時もそうだけど、今まで周りにお膳立てしてもらって、のせられてやって来たんで、これからも流れのままに穏やかに着陸していきたいです。

最期は70歳くらいでなんとなく仕事もなくなってきて、一応寄席で15分ぐらい喋って、帰りに上野の「吉池」で刺身買って家でお酒飲みながら食べて、8時には寝るっていう生活が目標(笑)。それまでは、もうちょっと頑張りますよ。

●春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)

落語家。1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。寄席から全国各地の落語会まで年間900席以上もの高座をこなす。ラジオ「春風亭一之輔 あなたとハッピー!」(ニッポン放送)にレギュラー出演するなど、テレビやラジオでも活躍中。著書に『まくらが来りて笛を吹く』(朝日新聞出版)、『人生のBGMはラジオがちょうどいい』(双葉社)
など多数。YouTubeチャンネル「春風亭一之輔チャンネル」も人気。

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