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  • 借入金は最大20億円! 「父の3医院を超えたい」から始まって今や40以上の歯科医院を運営。トンデモ拡大路線が成功した理由とは?

2026.08.31

■「千賀デンタルクリニック理事長」 千賀誓人さん

借入金は最大20億円! 「父の3医院を超えたい」から始まって今や40以上の歯科医院を運営。トンデモ拡大路線が成功した理由とは?

2017年、27歳で東京・西新井に最初の歯科医院を開業した千賀誓人さん。その後、クリニックの「フランチャイズ化」に取り組み、現在は直営・フランチャイズを合わせて40医院を超える規模へと拡大。多額の借入金を抱えるなど大きなリスクを伴う急拡大を成功させた、その手腕の秘密に迫りました。

CREDIT :

文/安井桃子 写真/トヨダリョウ 編集/森本 泉(Web LEON)

千賀デンタルクリニック 千賀誓人 LEON

日本全国の歯科医院の数はおよそ6万5000医院、コンビニよりも多いと言われています。患者にとっては「どこを選べばいいのか」が悩みの種。一方、開業医にとっても、患者を診療しながら医院を経営していくことは簡単ではありません。


そんななかで、歯科医院の「フランチャイズ化」に取り組み、患者の悩みも歯科医師の悩みも解消しようと考えたのが千賀デンタルクリニック理事長の千賀誓人さんです。


2017年、27歳で東京・西新井に最初のクリニックを開院。現在は直営26医院にフランチャイズを加え、グループは40医院を超える規模へと拡大しました。歯科開業医といえば、ひとつの土地に根づき、自ら患者を診ながら医院を営むスタイルが一般的ですが、なぜ千賀さんは医院を複数持つという経営方針にいたったのでしょうか。自らは医療現場を離れて経営者に徹し、いっときは多額の負債を抱えながらも、医療のフランチャイズ展開を目指して突き進んできた、その理由を伺いました。

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小学5年生で亡くした父。「父より多くの医院を経営したかった」

── そもそも、千賀さんが歯科医師を目指したきっかけから教えてください。


千賀誓人さん(以下、千賀) 父が歯科医師だったんです。ひとりで3医院を経営していました。ただ、僕が小学5年生の時に交通事故で亡くなってしまって。結局、父の医院は3つとも売却されました。


── では千賀さんはお父様の医院を継いだわけではないんですね。


千賀 そうです。全部なくなって、本当にゼロの状態でした。でも子供の頃から自分も歯科医師になるという気持ちはありましたし、父が3医院を経営していたので、「自分は父の3医院より多くの医院を経営したい」と思うようになりました。


だから学生の頃から、ほかの歯学部生とは少し違っていたかもしれません。「どんな治療ができる歯科医師になりたいか」ということだけではなく、「どうすれば医院を複数展開できるか」ということも考えていました。

千賀デンタルクリニック 千賀誓人 LEON
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── 最初から、1医院の院長として終わるイメージではなかったんですね。


千賀 そうですね。また父の17回忌の際、父の医院のかつてのスタッフさんが集まってくださり勤務時代の思い出をとても楽しそうに語っていらしたんです。それを見て「とてもいい法人だったんだな」と知り、自分もこういう組織をつくりたいという思いが、より強くなりました。


── そして2017年、27歳で最初の医院を開業します。


千賀 西新井の駅前のイオンの中に開業しました。父から医院や資産を引き継いだわけではありませんから、僕個人で7000万円を借りて始めました。


── 27歳で7000万円。怖くなかったですか。


千賀 でも、最初の医院がすごくうまくいったんです。商業施設の中なので、そもそも集客力がある。さらに当時の歯科業界ではまだあまりやっていなかったWEBマーケティングやSEO対策にも力を入れました。その結果、通常の歯科医院の5倍ほど新規の患者さんが来るようになったんです。


口腔内カメラを使って患者さんにわかりやすい説明をし、患者さん自身が治療法を選べるようにすることも徹底。そうしていくうちにリピーターも増え、売り上げも上がっていきました。その時に「この成功は再現性があるのではないか」と思い立ち、「駅前」「商業施設」「説明の標準化」などの条件で2院目、3院目と増やしていきました。

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借入は最大20億円。「怖いより、増えていくことが楽しかった」

── 最初の7000万円を返し終えてから、次を出したわけではないですよね?


千賀 全然返していないです(笑)。融資を受けながら次々に開業していったので、借入は最大で20億円くらいまでいきました。


── 20億円!?


千賀 今、CFOがいる状態で同じことをしようとしたら、絶対に止められると思います(笑)。当時は全医院が黒字だったので、事業そのものには確信があったんです。だから、ひたすら先行投資を続けていました。リスクを取ってでも、一刻も早く医院数を増やしたかった。

千賀デンタルクリニック 千賀誓人 LEON
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── そこまでリスクを取れるのはなぜなのでしょう。


千賀 単純に、医院が増えて、歯科医院のなかで売り上げの順位が上がっていくことが楽しかったんです。今振り返れば、リスクを見ずに前しか見ていなかったんだと思います。ちょうどいいタイミングでCFOになる人と出会えたから、ギリギリ壊れずに済んだという感じですね。


── 怖いというより、楽しかった?


千賀 そうです。次を出したくてしょうがなかったですね。


── とはいえ、本当に危ない局面もあったそうですね。


千賀 一時期、手元のキャッシュがほとんどなくなったことがあります。次の融資が下りる予定だったのに、銀行から突然「出せません」と言われてしまった。医院は全部黒字なのに、キャッシュフローが回らない。このままだと黒字倒産する可能性もある。さすがにその時は怖かったですが、なんとか資金を調達して乗り越えました。それでも、「もう医院を増やすのはやめよう」とは思わなかったです。成功するという確信のほうが強かったんですよね。

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歯科医師なのに、診療をやめた。「自分がいないと回らない組織にはしたくない」

── 急速に医院を増やしていた頃、千賀さん自身も患者さんを診ていたんですよね。


千賀 はい。ただ、開業から3、4年目くらいには診療から完全に離れて、経営に専念するようになりました。その頃には年に5、6医院を出すようになっていたので、診療との両立ができなくなったというのもあります。


── せっかく歯科医師になったのに、診療をやめることに迷いはありませんでしたか。


千賀 あまりなかったですね。僕は最初から、自分がいなければ回らない組織にはしたくなかったんです。僕自身がずっと患者さんを診て、僕が売り上げをつくっていたら、僕の時間以上には組織は成長できません。だから、できるだけ早く自分がいなくても回る仕組みをつくりたいと思っていました。


今はCFOやCTO、CMO、人事など、それぞれのプロに入ってもらっています。医療は歯科医師がやる。経営は経営のプロがやる。それぞれが得意なことに集中するほうがいいと思うんです。

千賀デンタルクリニック 千賀誓人 LEON
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「怒ることって、合理的じゃない」。開業以来、スタッフを一度も怒ったことがない

── その考え方は、千賀さん自身の働き方だけでなく、組織づくりにも表れているんですね。現在は40医院を超える大きな組織を率いていますが、人を動かすうえで大事にしていることはありますか。


千賀 うちには「ピリピリNG」という社風があるんです。


── 「ピリピリNG」?


千賀 僕、開業してから一回もスタッフを怒ったことがないんですよ。というか、誰にも怒ったことがないです。怒ることって、合理的じゃないと思っていて。誰かがミスした時に、その人を怒っても根本的な解決にはならないですよね。それなら、なぜそのミスが起きたのかを考えて、次に起きない仕組みに変えたほうがいい。だから僕自身が怒らないし、社内にもピリピリした空気が少ない。それが社風として根づいたことで、人間関係のトラブルや離職も減ったと思っています。

── 20億円の借入をするなど、大胆な決断を重ねてきた方なので、もっと強く人を引っ張るタイプかと思っていました(笑)。


千賀 (笑)。結局、自分のなかでは、「合理的であるかどうか」を一番考えているだけなのかもしれません。


── 経営者として、一番うれしいのはどんな時ですか。


千賀 スタッフから「ここに入ってよかったです」とか、「人生が変わりました」と言ってもらった時ですね。それが一番やりがいを感じます。


そもそも僕は父の17回忌でスタッフの方が楽しく語らっていたような、あの環境をつくりたい。「日本で一番スタッフ満足度の高い会社にする」という目標を掲げています。


そのためには売り上げを伸ばして、給与も上げてあげたい。そして、そのために日本で一番評価される歯科医療法人にならなければいけない。「スタッフ満足度」「評価」「売り上げ」の3つをずっと経営目標にしています。

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千賀デンタルクリニック 千賀誓人 LEON

自分がいなくても回る仕組みを日本中の歯科医院へ

── 経営は経営のプロに、医療は医療のプロに。「それぞれのプロが自分の分野に集中する」という合理的な考え方が、フランチャイズ化へとつながったのですね。


千賀 そうですね。そもそも日本では、歯科医師が開業すると、患者さんを診ながら採用もして、物件も探して、経営もマーケティングもやらなければいけません。


僕らのフランチャイズでは、駅前や商業施設など個人では取りにくい物件の誘致や、採用、教育、経営のノウハウなどを提供します。医院名も「千賀デンタルクリニック」である必要はありません。開業医自身の名前のまま、経営を続けることもできます。つまり、歯科医師にはできるだけ医療に専念してもらう。そうやって経営側が医師を支える仕組みです。


── 患者側には、医療のフランチャイズ化はどんなメリットがありますか。


千賀 一番は「医療の標準化」です。歯科医院って、技術にも設備にも差がありますよね。患者さんからすると、いい先生に出会えるかどうか、ある意味で運のようなところもある。僕らはそれをできるだけなくしたいと思っています。


教育チームをつくり、症例を提出してもらって上級医が確認する。口腔内カメラで患部を撮影して、患者さんにも治療前後を見てもらう。そして「保険にしますか、自費にしますか」「被せ物は白にしますか、銀にしますか」だけではなく、それぞれの治療についてきちんと説明したうえで選んでもらう。説明そのものも標準化しています。


どの医院に行っても、一定の質の治療と説明を受けられる。例えばユニクロのように、日本中どこにあっても「ここなら安心」と思ってもらえる歯科医院をつくりたいんです。

── 千賀さん自身が早くから「ひとりの歯科医師に依存しない仕組み」を考えていたことと、かなりつながっていますね。


千賀 そうだと思います。ひとりの先生にすべてが依存する形では、広げていけないですから。

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日本ではまだ成功例が少ない。だからこそチャンスだと思った

── 海外では、こうした「医療と経営を分ける」という考え方は進んでいるのでしょうか。


千賀 アメリカなどでは「DSO」と呼ばれる、歯科医療と経営を分離する仕組みが広がっています。経営側が採用やマーケティング、財務などを担って、歯科医師は診療に集中する。経営を担う会社は外部から投資を受けることもできるので、その資金でM&Aをして、何百医院という規模まで一気に広げることもできます。


一方、日本の医療法人は株式会社のように外部の投資家から出資を募ることができません。僕も拡大資金は基本的に融資でしたから、それで借入が20億円くらいまでいったんです。


── そこでフランチャイズという方法に行き着いた。


千賀 世界のDSOを見たり、韓国のネットワーク型の歯科(各医院が独立しながら、共通の経営システムで連携する仕組み)を見たりして、「その中間のようなものを日本でもつくれるんじゃないか」と思いました。当時、日本には複数展開の医院は少なく、最大でも30くらい。それより大きなものをつくれる余地がある。そのポジションが日本で空いているなら、すごくチャンスだと思ったんです。

千賀デンタルクリニック 千賀誓人 LEON

▲ 千賀デンタルクリニック 新宿駅東口医院

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── 千賀さんの「借入20億円」はあまりにリスクがありますから、追随する人も多くはないのでしょうか。


千賀 今後は増えていくと思いますよ。今は材料費、人件費、家賃が全部上がっています。小さな医院は同じ売上のままだと利益がどんどん圧迫されていきます。実際、開業より廃業の方が増えてきている印象です。一方、勤務医の給与はこの8年ぐらいでかなり上がっています。だったらリスクを負って小さな医院を開業するより、勤務医でいた方がいいという人も増えてくる。これからは資本力のある大規模な医院が強くなり、DSOのような仕組みも一般的になっていくと思います。


── 今後、どこまで大きくするつもりですか。


千賀 今は5年後に150医院、売上450億円というビジョンがあります。10年後なら300医院くらいになっているかもしれません。ただ、今は単純に医院数を増やすことだけが目的ではありません。歯科医師が医療に集中できて、患者さんはどこに行っても安心して治療を受けられる。その仕組みを全国に広げていきたいと思っています。

── 小学5年生の頃、「父の3医院より多く」と思ったところから始まって、これからは150医院、300医院を考えている。


千賀 ずいぶん増えましたね(笑)。でも、まだ途中だと思っています。


── これだけ医院拡大をしていると、仕事以外の時間はあるのでしょうか。


千賀 ありますよ。最近、息子が生まれたので、今は家庭の時間をすごく大事にしています。家には犬も2匹いますし。あとはバスケですね。自分でもやりますし、Bリーグの試合も見に行っています。好きが高じてサンロッカーズ渋谷のスポンサーもしているんですよ。自分の時間はちゃんと楽しんでいます。そうでないと仕事はできないですからね。

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千賀デンタルクリニック 千賀誓人 LEON

● 千賀誓人(せんが・ちかと)

医療法人社団誓栄会理事長。1989年東京都生まれ。日本歯科大学生命歯学部卒業後、三井記念病院歯科・歯科口腔外科に勤務。2017年、27歳で東京・西新井にクリニックを開院。2019年に医療法人社団誓栄会を設立。直営・フランチャイズを合わせ40医院以上を展開する。


千賀デンタルクリニック

HP/seieikai-group.com/clinics/


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