• Twitter
  • Facebook
  • Instagram
  • LINE
  • YouTube
  • Feedly
  • TOP
  • PEOPLE
  • 樋口毅宏×山崎洋一郎対談【前編】「何故、樋口さんは昭和40年代をそこまで真剣に背負うんですか?」

2026.08.03

樋口毅宏×山崎洋一郎対談【前編】「何故、樋口さんは昭和40年代をそこまで真剣に背負うんですか?」

作家・樋口毅宏さんの新著『なぜ本を読むのか、なぜ映画を観るのか、なぜ音楽を聴くのか──100年後、カルチャーの参考資料になる本』発刊を記念して、敬愛するロッキン・オン社代表で音楽評論家の山崎洋一郎さんとの対談が実現。前・後編2回に分けでお届けします。

CREDIT :

写真/興梠真穂 文/井上真規子 編集/森本 泉(Web LEON)

樋口毅宏×山崎洋一郎対談【前編】「何故、樋口さんは昭和40年代をそこまで真剣に背負うんですか?」

Web LEONの人気連載、樋口毅宏の「手玉にとられたい!」でもおなじみの樋口さんが新刊『なぜ本を読むのか、なぜ映画を観るのか、なぜ音楽を聴くのか──100年後、カルチャーの参考資料になる本』というメチャクチャ長いタイトルの本を出しました。御年55歳というまさにLEON世代である樋口さんが、これまでの人生で愛してきた音楽、映画、本などについて語り倒した本書は同年代のオヤジ世代はもとより、若者にも是非読んでほしい内容。


刊行を記念して、樋口さんが音楽面で最も影響を受けてきたという音楽評論家で編集者の故・渋谷陽一氏とともに「ロッキング・オン」社を舵取りしてきた、現ロッキング・オン社代表、山﨑洋一郎さんとの対談が実現しました。実は山崎さんは樋口さんにとって渋谷さんと並ぶ“大きな影響を受けた”憧れの人なのです。渋谷駅前の高層ビルに入った超カッコいいロッキング・オン社を訪ねた対談の行方は? 前・後編2回に分けてお届けいたします。

PAGE 2

「そうかな~とか、なるほどねとか、わかってねえな~とか(笑)」(山崎)

── 今回の樋口さんの新刊はいかがでした?


山崎洋一郎さん(以下、山崎) これは連載コラムとインタビューをまとめたものなのでよいのですが。なんだろうな、こういう言い方は失礼かもしれないけど、樋口さんの小説を読む時って緊張するんですよ。事故らないかな、大丈夫かなって(笑)。それはクオリティに対する不安とかじゃなくて、必要以上に逸脱したりとか、壊したりとか、爆発したりとか。その爆発も逸脱もいいんだけど、それを必要以上にやっちゃいすぎていないかなっていう不安、親心じゃないんだけど。


── 本人を知っているがゆえの。


山崎 そう、元気なのはいいんだけど、崖から落ちないかなっていう、そういう不安を持って小説は読んじゃうんですよ。もちろんそんなことはなくて、アンバランスのバランスというか、最後は見事な着地を決めるんですけど。


でも今回のようなコラムに関してはそういうものはないから、心配はなくて、逆にこういう音楽コラムって自分もやってる同種の仕事だから、なんていうか、そうかな~とか、なるほどねとか、わかってねえな~とか(笑)、ま、並んで歩いている感じというかね、歩きながら「お前、それ違うよ」とか喋ってる感じ。


樋口毅宏さん(以下、樋口) 苦笑。


山崎 僕は樋口さんと違って、テリトリーがすごく狭いんですよ。マンガ読まない、映画もろくに見ない、音楽も好きなものと自分が担当したものしか聴かないから。それこそ(本で対談している)阿川佐和子とかもよく知らないので、よくわかんないなりに読めて、よかったです。江口寿史さんもちゃんと読んだことないですからね。

樋口毅宏×山崎洋一郎対談【前編】「何故、樋口さんは昭和40年代をそこまで真剣に背負うんですか?」
PAGE 3

樋口 それは意外ですね。江口さんはジャパン(『ROKIN' ON JAPAN』)とロッキング・オン(『rokin' on』)で連載されてましたよ(笑)。

── 樋口さんの本にはエレカシ(エレファントカシマシ)の章もありましたが。


山崎 そういうものは“どうなんだろう? そうかな?”と思いつつ (笑)。樋口さんは僕よりもテリトリーが広いので、少年の頃からカルチャーユーザーだったんだなあと思いながら、読んでました。僕は今でこそいろいろ発信してますけど、育ちはカルチャーユーザーじゃないんですよ。どちらかというとチンピラ系というか。音楽雑誌読んで知識を増やすというより、クラブでDJとかやってたんで、そっち派でしたね。


樋口 山崎さんはもともと海外で暮らしてた経験がありますよね。


山崎 子供の頃、エルサルバドルにいたんですけど、新聞も一週間遅れでしたから、当然音楽情報なんて活字じゃ入ってこなくて、ラジオで曲を聴くだけなんですよ。勉強のしようがないから、どこまでも自分で考えるんです。曲を聴いて、考えて考えてるとだんだん理解してくる。だから日本に帰ってきてからも、何かで勉強する必要を感じないっていうか、聴けばわかるよって気分になっちゃってたので、(今の評論も)それの延長線ですね。

── というと?


山崎 インタビューってそのアーティストが作った最新の音源さえ誰よりも理解してたら、もう怖いものはないんですよ。なぜなら、インタビューを受けるアーティストはそれだけ(最新作に対する評価)を求めてるから。自分のバイオグラフィーに詳しいとかはどうでもよくて、自分が一生懸命作ったものをわかってくれる人なんだってだけで信頼関係ができるので。

PAGE 4

「新しい時代の作り手について語るのは新しい語り部がいい」(樋口)

── 最近の音楽についていけない中年の人は、結局昔聴いた90年代の曲を聴いてたりするんですが、そういう傾向はどう思います?


山崎 でもまあ、その人が音楽に何を求めるかなんで、自分の好みの音を聴いていい気持ちになりたければ、自分が好きだった時代に居続けることもいいんじゃないかな。例えば僕は、エルサルバドルにいた時にセックス・ピストルズの音を友達が送ってくれて、それを聴いた時、カッコいいとも思ったし、今ロンドンでこんなことが起きてるんだってニュースでもあったわけです。


最新の世界を音が見せてくれたっていう。音楽に対してそういう感覚があるから、僕は常に新しい音は聴いていたい。古いニュース番組をいつまでも見ていてもしょうがないだろうっていう。ポップミュージックに関してはそうですね。クラシックとかジャズはまた別なんでしょうが。


── その点、今回の樋口さんの本はこれまで見たり聞いたり読んだりした過去作品への想いを語った本ですが。


山崎 雑誌の連載を集めたものなんですよね?

樋口毅宏×山崎洋一郎対談【前編】「何故、樋口さんは昭和40年代をそこまで真剣に背負うんですか?」
PAGE 5

樋口 はい。『散歩の達人』(交通新聞社)で連載してきた原稿の最近の分(以前の分はすでに出版済み)と、小山田(圭吾)さん、阿川(佐和子)さん、小西(康陽)さんのインタビュー原稿3本は『昭和40年男』(ヘリテージ)に掲載された原稿です。


山崎 樋口さん自身が昭和40年男なんですよね?


樋口 40年代というか、正確には昭和46年生まれですね。

山崎 樋口さんの文章を読んでいつも思うのが、樋口さんは典型的な昭和40年男で、異常なまでの時代への執念があるなと。今回の本もそうだし、小説の中にも唐突に当時の時代背景やエピソードが出てくる。もちろん誰でも自分が育った時代への思い入れはあるものだけど、樋口さんは今もほぼ100%そこにいる。そこがずっと不思議だったんです。


樋口 確かに、本で取り上げているネタは自分の人格を形成してきたものです。でも、自分はノスタルジーとは程遠い人間です。映画もポップミュージックもプロレスも、今の方が断然好きですし。音楽だとジョージ(Joji)、最高です。あとはザ・ウイークエンド。


山崎 それがさらに不気味なんですよ。それにザ・ウイークエンドもジョージも、今、原稿で語ってくださいっていってもやらないでしょ? 


樋口 う〜ん、そうですねぇ。

山崎 普通は過去をノスタルジーとして語るのに、樋口さんはまるで目の前に起きていることのように語り続けるじゃないですか。書き手・樋口毅宏として、なぜ今の時代を背負うより、なぜ昭和40年代をそこまで真剣に背負うのかが知りたいんです。樋口さんはそこに居続けているように見える。


樋口 僕って、そんな後ろ向きに見えているんですか⁉︎(笑) 背負うとかはないですけど、自分でも不思議なことに当時を鮮明に覚えてるんです。新しい時代の作り手について語るのは新しい語り部がいい。今更僕が話す必要もない。だから僕は、僕の時代の語り部でいようと思っています。


山崎 なるほど。

PAGE 6

「自分は何を求められているのか、という役割に基づいてものを書いてきた」(山崎)

山崎 でも、せっかく今のリアルタイムも知っているんだから、書き手として繋げる役割をやってほしいです。「中村一義を聞いていた自分が、今のこの米津玄師の世の中をこういう風に思っている」みたいな原稿を読みたい。そうすれば今に繋がってきますよね。樋口さんは言葉の人だから、言語化できるでしょ。今の若い世代でも、音楽でもファッションでも「あの時代って何か好きなんだよね」という人は結構いるけど、まだきちんと言語化されていないと思います。


樋口 あ、僕の出番?(笑) でも、若い人たちの話は「そうなんだ」と気付かされることが多いんです。渋谷(陽一)さんと僕の世代がジャニス(・ジョプリン)やドアーズの受け止め方が違うように、今の若い世代もニルヴァーナやオアシスを自分たちの音楽として受け止めている。それでいいと思うんです。

樋口毅宏×山崎洋一郎対談【前編】「何故、樋口さんは昭和40年代をそこまで真剣に背負うんですか?」
PAGE 7

山崎 だからこそ批評家の出番で、例えば渋谷がジャニスを語る言葉、ドアーズを論理的に解明する言葉によって、リアルタイムでは聞いてなかった後の世代の人が「ドアーズってこういうバンドだったんだ」ってわかったわけです。その役割をしてほしいんです。


樋口 橋渡しをしてない?(苦笑) でも正直に言ってしまうと、僕はもう90年代の音楽に興味がないんです。血肉になって排泄したから。それに今の音楽の方がすごいから。ミセス(Mrs. GREEN APPLE)も藤井 風も、もし彼らの音楽を20代前半で聞いていたら自分の神になっていたなと。僕が若かった頃は限られたこづかいで、どのレコードとCDを買うか毎日悩み、結果取りこぼしがあった。Spotifyがあるから今の人たちは音楽環境に恵まれていますね。


山崎 つまり樋口さんは、一生活者としての樋口さんのまんまで文筆活動をやっているんですね。僕はその感覚はなくて、「自分は何を求められているのか」という役割に基づいてものを書いてきたんです。90年代に電気グルーヴや小沢健二やスーパーカー、いろんなものをアホみたいに盛り上げたのは、自分が一番適任だと思ったから。でも一生活者として大好きだったかと言えば違う。僕は個人的にはほぼ洋楽しか聞かなくて、邦楽リスナーではないです。


樋口 そうですか! だけど僕は「本当に山崎さんはジャパン(『ROCKIN'ON JAPAN』)誌面に取り上げるミュージシャンを理解しているな〜」って思ってましたよ。一生活者の山崎洋一郎と、一編集者の山崎洋一郎は全然別なんですね。


山崎 まったく違います。今は『rockin’on』、『ROCKIN'ON JAPAN』の両方の編集長をやっているけど、僕は『ROCKIN'ON JAPAN』の方が作るのがうまいんです。邦楽にそこまで興味がないから、何をやればいいのか手に取るようにわかります。でも、洋楽は好きだからめっちゃ間違うんです。みんなAを求めているのにBだと思い込んじゃって、Bの本を作っちゃったりして。

PAGE 8

「ポップミュージックも映画もプロレスも今の方が絶対面白いのに」(樋口)

樋口 四半世紀前、ダフト・パンクが「one more time」で世界的ブレイクを果たした時、『rockin’on』で満を持して表紙にした数カ月後の「激刊!山崎」で、山崎さんが反省してるって書いてましたよね。あれ、読者はノッてくれなかったのかな? って当時思ったんです。

山崎 全然売れなかった!(笑) ダフト・パンクもそうだけど、ザ・ストーン・ローゼズ、ザ・スミス、ニュー・オーダーとか『rokin’on』の思い出に残ってる表紙の号は全部めちゃくちゃ売れてないです。よく「当時はすごく冒険的な表紙でガンガン攻めてたのに、最近は保守的だ」って言われるんだけど、あれはやっては失敗して、やっては失敗しての繰り返しだったんです。客観的に見ると当時の表紙って実はストーンズ(ローリング・ストーンズ)ばっかりだし、実は結構保守的だったんですよ。


樋口 覚えています。90年代、増井 修さんが編集長だった時も、一年に2回ずつ、ビートルズかジョン・レノンとストーンズが表紙でした。


山崎 つまり、今も変わってないんです。何号かに1回はマネスキンとか、ビリー・アイリッシュを表紙にしてる。実は昔からその割合変わってないけど、かつて読んでた人はダフト・パンクの表紙とかが印象に残っているから、「攻めてる雑誌だった」って記憶してるんですよね。

樋口毅宏×山崎洋一郎対談【前編】「何故、樋口さんは昭和40年代をそこまで真剣に背負うんですか?」
PAGE 9

樋口 そういう人たちが陥りやすいのは、やはり回顧なんです。でも僕は、そういうのすごい嫌です。当時は感性が若くて元気だったからアジャストしていたけど、いまは老けたからそれができなくなったということに気づいていない。ポップミュージックも映画もプロレスも今の方が絶対面白いのにっていつも思ってます。それを教えてくれたのが渋谷さんと山崎さんでした。


山崎 それをもっと仕事に出していきましょう!!


樋口 僕は、本当に自分を客観的に見れてないんですね……。言い訳をしますと、ポップミュージックは若い人のものだっていう意識が強くあるんです。だから若い人にお任せしますっていうところが大きいです。たまにXでいまのプロレスのことを書いたりするんですが、ほんっとに反応がないんです。

山崎 あ、じゃあ、一個アドバイスすると、いま樋口さんは55歳だからそういう感覚になると思うのね。例えば自分の息子の世代からすると親父世代の感覚やファッションって嫌じゃないですか? こっちがこれカッコいいだろうって言っても、聞く耳持たないじゃないですか? そうすると、あ~俺の感覚は古いから若い世代に任せようって思いがちなんです。


でも孫の世代になるとそれが変わってくる。おじいちゃん、その帽子カッコいいねえとか、おじいちゃんの聴いてる音楽いいねえとか、そういう風に「孫ウケ」する年齢になったら、また語る回路が生まれると思う。僕、Vaundyにインタビューする時、そういう感覚なんですよ。


樋口 僕の息子はまだ10歳ですからねえ。孫は先だなぁ。


山崎 いや、実際の孫じゃなくて、カルチャーの世代のほうね(笑)。


樋口 そういう意味ね。つくづく俺ってボケてる……。


※後編に続きます。

PAGE 10
樋口毅宏×山崎洋一郎対談【前編】「何故、樋口さんは昭和40年代をそこまで真剣に背負うんですか?」

● 山崎洋一郎(やまさき・よういちろう)

1962年、東京都生まれ、神戸育ち。編集者、ライター。株式会社ロッキング・オン代表取締役社長。上智大学卒業後、1986年に出版社・ロッキング・オン入社。1991年より『ROCKIN’ON JAPAN』編集長、2000年より『rockin’on』編集長を歴任、両誌の総編集長として現在に至る。数々のアーティストのインタビューやライナーノーツ執筆を務め、多くの読者からの熱い支持を得ている。また、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」や「COUNTDOWN JAPAN」をはじめとするフェス、イベントのプロデュースも行なっている。

X/@rockinon_com

樋口毅宏×山崎洋一郎対談【前編】「何故、樋口さんは昭和40年代をそこまで真剣に背負うんですか?」

● 樋口毅宏(ひぐち・たけひろ)

1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ケ谷』で作家デビュー。11年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補、12年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補に。著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』『東京パパ友ラブストーリー』『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』など。妻は弁護士でタレントの三輪記子さん。新刊『なぜ本を読むのか、なぜ映画を見るのか、なぜ音楽を聴くのか── 100年後、カルチャーの参考資料になる本』(POST刊)が5月28日に発売。雑誌『LEON』で連載した小説「クワトロ・フォルマッジ-四人の殺し屋-」も単行本化予定。

X/@byezoushigaya

『なぜ本を読むのか、なぜ映画を観るのか、なぜ音楽を聴くのか──100年後、カルチャーの参考資料になる本』

『なぜ本を読むのか、なぜ映画を観るのか、なぜ音楽を聴くのか──100年後、カルチャーの参考資料になる本』

『さらば雑司ヶ谷』『中野正彦の昭和92年』などの小説ででテロとバイオレンスを描き、『凡夫 寺島知裕 BUBKAを作った男』ではノンフィクションに挑み、そして『タモリ論』『さよなら小沢健二』でカルチャーへの造詣の深さを知らしめた作家・樋口毅宏による最新カルチャー・コラム集。ブルーハーツ、山下達郎、長渕剛、エレファントカシマシから、北野武、とんねるず、松本人志、村上春樹まで、日本のカルチャーを「サブカルの語り部」樋口毅宏が忖度ぬきで書き尽くした一冊! 小山田圭吾、阿川佐和子、小西康陽との対談も収録。表紙は江口寿史の描き下ろし。

発行/POST 価格/2200 円(税込)


PAGE 11

樋口さんのこちらの記事もいかがですか?

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

Web LEONの最新ニュースをお届けします。

SPECIAL

    おすすめの記事

      SERIES:連載

      READ MORE

      買えるLEON

        樋口毅宏×山崎洋一郎対談【前編】「何故、樋口さんは昭和40年代をそこまで真剣に背負うんですか?」 | 著名人 | LEON レオン オフィシャルWebサイト