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2026.06.12

柄本 佑インタビュー。「カッコいい大人は『諦めのつく人』。諦めるというのは、自分を明らかにしていくということ」

数々の映画やドラマで観る者に鮮烈な印象を残し続ける俳優・柄本佑さん。最新主演映画『メモリィズ』で、家族の記憶と記録を巡る繊細な物語を体現している柄本さんに、自身の写真を巡るストーリーを伺いました。

CREDIT :

文/飯田帆乃香 写真/江森康之 スタイリング/ ヘアメイク/ 編集/鎌倉ひよこ、森本 泉(Web LEON)

柄本佑  『メモリィズ』  WebLEON  カッコいい

独特の佇まいと確かな演技力で、スクリーンに鮮烈な印象を残し続ける柄本佑さん。最新主演映画『メモリィズ』(6月12日より公開)では、家族の記憶と記録を巡る繊細な物語を体現しています。


もし人生で一枚だけ写真を残すとしたら、何を選ぶか──。そんな問いへの答えから見えてきたのは、活力の原点や、仕事の支えとなる日々の暮らし、飾り気のない美学でした。


ほどよく肩の力が抜けていて、どんな問いにもフラットに答えてくれる柄本さん。「昔は自意識過剰で、現場では誰とも口をきかないような奴でした」と、若き日の自分を振り返る彼が、結婚という節目を経て辿り着いた“大人”の境地とは? 夫婦円満の秘訣や、対人関係のしなやかな内面にも迫ります。

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日常を愛でる写真の魅力。『残すべき一枚』はあのテレビ番組

── 主演映画『メモリィズ』は写真を通して記憶の尊さを描いていますが、柄本さんはプライベートで写真を撮るタイプですか?


柄本 佑さん(以下、柄本) めっちゃ撮ります。学生時代(早稲田大学芸術学校空間映像科)はフィルムカメラの撮り方や現像のやり方を習っていたので、当時、Nikon FM2というカメラを買って、それを片手に海外にもよく行っていました。カンボジアやミャンマーでいっぱいシャッターを切ったのを覚えています。初心者の自分が、森山大道さんや荒木経惟さんの本を読み漁って写真を知った気になっていたのがいい思い出です。


── 撮った写真の楽しみ方は?


柄本 ふとした時に見返します。スマホに溜まったデータよりも、わざわざ現像して紙に焼いた一枚のほうが、案外手に取る機会が多いかもしれません。

柄本佑  『メモリィズ』  WebLEON  カッコいい
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── スマホではどんなものを撮ることが多いですか?


柄本 家族を撮りますね。あとは風景とか映画とか、人の足とか。うちの母ちゃんも足を撮るのが好きだったので、そこは似たのかもしれません。森山直太朗さんの『カク云ウボクモ』という曲のミュージックビデオは僕がiPhoneで撮り溜めた写真を編集してもらったもので、あの時も日常の「キレイだな」と思う風景を切り取りました。自分のプライベートのスマホに入っている写真も、その映像の雰囲気に近いと思います。


── 日常の欠片を拾い上げるような柄本さんの写真が、森山直太朗さんの情緒的な楽曲と融合して話題となりましたね。ではもし、人生で一枚だけ写真を残せるとしたらどんな瞬間を選びますか?


柄本 一枚だけ⁉ 難しいですね……。でも、初めて買ったFM2で撮った一枚目の写真かな。被写体はテレビ画面に映っていた『爆チュー問題』。今でも家にあって、思い出すたびに見返しています。

── 原点のような一枚なんですね。


柄本 森山大道さんの「写真は複写でしかない」という言葉に感銘を受けたことがあります。「撮りたいものがあれば何でもいい。例えば今、昭和の名優を撮りたいと思ったら、映画の中に存在するその人物を撮ればいい。画面越しであれ何であれ、好きなものがあったらシャッターを切れば、それはお前のものになる」というようなお話で。それもあって、僕が最初に撮ったのはテレビに映る『爆チュー問題』でした。


たまに見返すと、当時の自分の幼さや活力に触れて、一気にその時の気持ちに戻れるんですよ。そういう意味でも写真はいいなと思います。戻ることでまた前進できて、元気になりますね。

柄本佑  『メモリィズ』  WebLEON  カッコいい
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── 写真が人生の記録になる、まさに今回の『メモリィズ』のようですね。本作は、柄本さんがこれまで出演された作品の中で、台詞の少なさは群を抜いていたのではないでしょうか。


柄本 すごく少ないです。かといって動きで見せるわけでもなく、あえて手持ち無沙汰な感じが演出に含まれているような気がします。だから撮影中、「俺、何すればいいんだろう」みたいな(笑)。いつもなら台詞を覚えることを頑張れるけど、この作品は台本も隙間だらけで、演じることは「歩く」「ご飯を食べる」「手を振る」「会釈する」くらいの描写なんですよ。


── ある意味、難しそうですね。


柄本 「ただ歩く」という芝居はシンプルがゆえ、実はすごく難しい。僕も25年くらいキャリアを重ねているので、どうしても分かったつもりになってしまう瞬間があるんですけど、そういう慢心が出ないように注視して、俳優という根本に触れるような作業でした。


── 柄本さんが演じられた主人公の雄太は、義父をサポートするために田舎町で暮らすという役柄です。どんな人物だと捉えて演じましたか?


柄本 おおらかで図太い人のような気がしました。奥さんは東京にいて、自分だけ義理のお父さんのところに来るなんて、なかなかすごいことですよね。嫌々なそぶりもないのが脳天気というか、天然なところもあるんじゃないかと。

── 義父を演じたイッセー尾形さんとの独特な空気感も見どころです。現在、74歳のイッセーさんとのお芝居はいかがでしたか?


柄本 初めて現場をご一緒させてもらって本当に光栄でしたし、とても楽しかったです。シャイでチャーミングな印象ですね。イッセーさん、74歳なんですか。それにしては若いなぁ!

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柄本佑  『メモリィズ』  WebLEON  カッコいい

── 近年は、テンポの良さやオチを重視した作品が人気ですが、その流れに逆らうかのように、本作はどこか懐かしさを感じられる、余白のある映画だと思います。柄本さんはどう感じられましたか?


柄本 たしかに、最近は重いテーマであったり、観る人に訴えかけるような映画も多いけど、この作品はそういう強烈なメッセージ性というより「気持ちよく映画館を出てもらいたい」という監督の想いが反映されているように思います。もうひとつ大きな特徴は、フィルムで撮影していること。もしこれがデジタルで撮っていたらもう少し平面的な映像作品になっていそうだけど、フィルムならではの独特の奥行きや深みが、凝縮した情報をスクリーンに映し出しています。やわらかいトーンの中に、しっかりとした芯のある作品です。

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自分史上最高の「カッコいい」をみんなやってる。その上で大人に必要なのは「諦め」

── 柄本さんは日常の“生活”を大事にしているイメージがありますが、それは仕事にもいい影響を及ぼしていますか?


柄本 高校時代の僕は、とにかく学校よりも芝居の現場に立つほうが楽しくて仕方がなかった。そんな僕を見て、母が「今は学校が楽しくないって言うけど、続けていれば、だんだん学校生活が大事だって気づくはずだよ」と言いました。当時はピンとこなかったけど、卒業してひとり暮らしを始めてからは、目の前の日常をちゃんと生きることの大事さに気が付いて。それは今でも、人間らしい生活をしてこそ、お芝居は生まれるものだと身に沁みています。


── 仕事のクオリティを保つには、生活の土台を整えるのが第一だと。


柄本 加藤泰監督のエピソードなんですけど、一番重要なシーンを撮る時にある役者さんに「君、朝、新聞読んできた?」と聞いたそうです。その人が「いや、読んでないです」と答えたら、「じゃあそこに場所を設けるから、新聞をちゃんと読んでから現場に入りなさい」と言って新聞を読ませたとか。


それって、監督はその役者さんを見て「こいつアップアップしてるな」と見抜いたんでしょうね。だから新聞を読ませて、日常の落ち着きを取り戻させようとした。これを聞いて、大事な局面に浮き足立つことなく取り組むには、やっぱり土台が大事だと思いました。実際、生活者でいることが今の仕事の支えになっていると感じています。

柄本佑  『メモリィズ』  WebLEON  カッコいい
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── では人間関係において、人生で影響を受けた出来事はありますか?


柄本 結婚と子供が生まれたことは大きく影響しています。ひとりだった時は「カッコよく見られたい」とか「モテたい」とか、そういう自意識で動いて、現場でもひと言も口をきかないような奴でした。でも家族ができると自分の優先順位がどんどん下がってきて、それが結果的に対人関係でも「自分ができる仕事はこんな感じです、何かあれば言ってください。押忍!」みたいな(笑)。腰が低くなるというか、とっつきにくい感じが取れたのは自覚しています。この状態は結構、心地いいものですね。


── 今回、映画では心温まる夫婦の関係もうかがえますが、柄本さん流の夫婦円満の秘訣を知りたいです。


柄本 秘訣ですか……(笑)。う~ん。円満であろうとしないこと、じゃないですか? 理想を求めると、無理が出てくる気がする。仲が良い時もあれば、喧嘩する時もある。そのタイミングを受け入れて、一緒に生きていく。それでいいんじゃないかなって思います。

── たしかに、円満にしようと思うほど空回りしそうですね……。家族観についてはどうですか?


柄本 うちの親父なんかは、今思うと“昭和の親父”でした。いかにも厳格な感じ。父親の言うことを家族みんなが聞くんですよ。でもそれはたぶん、母ちゃんが“昔ながらの妻”だったから。そこで家族が形成されたんでしょうね。裏を返せば親父は自分勝手にいるだけで、一番主導権を握れるのは家族のバランスを取っている母ちゃんですよ(笑)。


── お父様である俳優・柄本明さんとの関係はどんな感じですか?


柄本 同じ職業なので、共通の話題がコミュニケーションの大枠にあります。僕としては、年齢を重ねるうちに父親のことを知っていく感覚で、今になってふと自分が記憶している“お父さん像”を思い返して、「あの時はこんな感じだったのかな」と理解できるようになっているので、父の印象は変わってきています。

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柄本佑  『メモリィズ』  WebLEON  カッコいい

── ひとりの男性、そして父親としてますます円熟味を増す柄本さん。「カッコいい大人」とはどんな人だと思いますか?


柄本 カッコいい振る舞いって、誰しもが日常的にしていますよね。自分なりのカッコよさ、正義感、情けないところも含めて、今できる限界の「カッコいい」を追求してる。ただ、若い時は体力が有り余って無理ができたり、自意識も過剰です。そこからだんだん地に足がつき始めて、なんとなく自分のことを俯瞰できるようになるのが「大人」になっていくこと、かな。


── 大人になるにつれて、力の抜きどころがわかってくるイメージですか?


柄本 それはあると思います。力んでいると視野も狭くなるし、耳の聞こえも悪くなるし、喉も細くなりますから。だから変に気張らず、「このことは僕には難しいので他の人に任せます。僕ができるのはここです」と、自分ができる範囲の中で立ち居振る舞いをする。


……あ、そうか。カッコいい大人は「諦めのつく人」ですね。これは山田太一先生の言葉ですけど、「諦めるというのはそんなに悪いことじゃない。むしろ前向きな言葉で、諦めるというのは、自分を明らかにしていくということだ」と言っていて。超カッコいいなと思った記憶があります。


年と共に体力は落ちて、全力疾走できる時間が短くなるのは自然なことだから、欲望をだんだん手放していく。そうやって自分を明らかにしていく方向におのずと進めるのが、カッコいい大人なんだと思います。

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柄本佑  『メモリィズ』  WebLEON  カッコいい

● 柄本 佑(えもと・たすく)

東京都出身。2003年、『美しい夏キリシマ』で映画主演デビュー。同作で第77回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞などを受賞。以後、数々の映画、ドラマ、舞台で唯一無二の存在感を発揮する。2018年『きみの鳥はうたえる』ほかで第92回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞、第73回毎日映画コンクール男優主演賞などを受賞。映近年の主な出演作に『火口のふたり』『痛くない死に方』『心の傷を癒すということ-劇場版-』『先生、私の隣に座っていただけませんか?』『真夜中乙女戦争』『ハケンアニメ!』『シン・仮面ライダー』、大河ドラマ「光る君へ」などがある。2026年は話題作となった『木挽町のあだ討ち』に続き、『黒牢城』が公開を控える。


柄本佑  『メモリィズ』  WebLEON  カッコいい

『メモリィズ』

東京で暮らす雄太は、足を骨折した義父・誠の世話をするため、ひとり九州の田舎町へと向かう。義父が営む古びた写真館の手伝いをしながら、東京に残した妻や娘と、スマホで撮った何気ない映像を送り合う日々。劇的な事件は何も起こらない。しかし、日々の些細な記録と記憶が積み重なるうち、家族が歩んできた長い時間の存在が、静かに、鮮やかに浮かび上がっていく。主演に柄本佑、義父役にイッセー尾形を迎え、言葉少ない交流の中に妙味を漂わせる。妻役には、配信ドラマ「SHOGUN 将軍」で国内外から高い評価を受けた穂志もえか。現代を懸命に生きる女性像を瑞々しく演じる。さらに、家族の記憶を象徴する存在として香椎由宇が彩りを添える。監督は、石井裕也監督らの現場で研鑽を積んできた新鋭・坂西未郁。

6月12日(金)より新宿ピカデリー他にて全国公開。配給/リトルモア

HP/映画『メモリィズ』公式サイト

©︎2026LittleMore

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