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2022.02.02

なぜ、渋沢栄一は成功できたのか? ビジネスに活かす偉人の生き方【後編】

テクノロジーや価値観の変化の真っ只中にある現在、私たちはどのように生きるべきか? そんな時には、歴史上の変革期に活躍した人物から学ぶべき、と語るのが歴史家・作家である加来耕三先生。時代を切り拓く大人の条件を伺いました。

CREDIT :

文/牛丸由紀子 イラスト/ゴトウイサク

テクノロジーの急激な進化と価値観の変化に伴って、変革の真っ只中にある現代。でも歴史を振り返れば、武将による勢力争いが続いた戦国時代や、近代国家へと大きく舵を切った明治期など、日本は大きな変革期を何度も乗り越えてきました。

ならば、そこに現代の我々も学べる部分はきっとあるはずと、歴史家・作家である加来耕三先生に、時代を切り拓く大人の条件を掘り下げていただきます。

先生がタイプ別に選んだ4名の偉人たちの秘訣を伺いましょう(前編:織田信長、伊達政宗はこちら)。
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◆ タイプ 03 坂本龍馬

混乱期こそ、貪欲に最先端を学ぶ

「幕末の志士といえば、数々の小説からもファンが多いのが坂本龍馬。薩長同盟や大政奉還に貢献した人物として知られています。

彼が幕末の混乱期に活躍できたのは、とことん最先端の科学を学ぼうという気概があったから。土佐から江戸へ遊学し、入門した佐久間象山のもとでは西洋流砲術を、その後、勝海舟には海軍について学んでいきます。時はペリー来航によって、日本が大きく揺らいでいた頃。オランダ語も習得し、弾道計算や武器の設計図まで引け、国際情勢にも明るかった龍馬は、株式会社の祖とも言われる亀山社中や土佐海援隊を立ち上げ、次々と新たな事業をはじめます」
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「近年、龍馬の業績と言われるものは彼がいなくても実現していたとの解釈から、教科書から外そうという話も出たようですが、歴史に学ぶときに重要なのは、“何をしたか”ではなく、“何をしようとしたか”だと思います。

どういう行動をしていたのか、そしてどういうところで悩み、どこで失敗し、結果に繋がらなかったのか。そこから私たちが学べることは多いはずです。

わずか33歳の若さで暗殺され、短い生涯の中では成し遂げたというより、やりたくても成し得なかったことの方が多かったことでしょう。

龍馬が目指したのは、幕府でも薩長でもなく、第3の道を行くこと。のちの明治政府が国の目指す方向として示した「五箇条の御誓文」の“広く会議をおこし、万機公論に決すべし(人々の声を大事にし、優れた意見を取り入れて政治を行うこと)”が表すように、その他大勢の声なき声をどう代弁するか、それが彼の考える第3の道だったのです。

幕末のように大きな転換期にこそ、ひるんで歩みを止めるのではなく、最先端の知識を貪欲に学び、自分のものとする。その気概と知識の蓄積がさまざまな人を刺激し、自分が成し遂げられずとも人を動かす力になることを、龍馬が教えてくれているのかもしれません」
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◆ タイプ 04 渋沢栄一

歩みを止めなければ、答えは導き出されるもの

「第一国立銀行など500もの企業を設立・経営し、“日本資本主義の父”とも称されたのが渋沢栄一です。でも彼は若い頃に、攘夷蜂起のために高崎城を乗っ取り、横浜の外国人を皆殺しにする計画を練った過激な一面もありました。

そんな彼が、最後の将軍となる一橋慶喜の家臣となり、フランスで見識を深め、帰国後は財界を率いることになります。ある意味、この転向は凄いですよね(笑)。

その理由のひとつが、いい意味で彼が独りよがりだったこと。自分の能力があれば、時の将軍の気持ちさえも変えられる、と強く思い込んでいたのでしょう。独善的だったからこそ、自分が信じるものへ向かっていける。だから180度異なる考えにも転向できたのだと思います。

彼のその力を育てたのは幼少期の学び方、捗遣り(はかやり)主義にあると思います。当時の勉強は『論語』などを暗唱するのが一般的でしたが、栄一の先生(栄一の従兄・尾高惇忠)は『南総里見八犬伝』や『三国志』、『水滸伝』など、子どもが読みたがるものや楽しいと思うものを積極的に読ませていました。

子どもですから、途中でわからない単語が出てきます。しかしそこで止まらず、例えばXやYといったん置き換えておき、そのまま読み進める。好きな本ですからどんどんと読んでいくうちに、次第にその言葉の意味がわかってくるものです。数学でいう代入のような考え方ですね。わからないことは一旦保留しておいて、周辺の情報を集めていくことで答えを導き出していく。それが、捗遣り主義です」
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「彼の大きな功績のひとつが、公債証書を発行し廃藩置県を実現したこと。明治4年、それでやっと本当の明治維新が完成しました。新政府にとって藩は、江戸時代の行政区分ですから切り替えたかったものの、当時の藩には商人への莫大な借金がありました。さらに、各々の藩士の家禄(いわゆる給料)もどうすればいいのか、明治政府は解決策をもっていなかったのです。

そこで栄一は、フランス留学で学んだ公債の仕組みを実践しました。明治政府が藩政の頃の借金証書や家禄を公債証書に換え、支払いを待ってもらう間は利息を払います。これもフランスで公債の仕組みを知り、100%の理解はできずとも、帰国後まず静岡で銀行と商社を作り、実務の中で理解を深めていったからこそできたことでしょう。

それから、独善的ながら柔軟性を持っていた点も、渋沢栄一のすごいところです。助言を冷静に聞き、理解し受け入れる能力もあるだから思考を変えられる。先の見えない時代では、時にこれまでとは異なる考えを受け入れることも必要になるでしょう。まさに、渋沢栄一の通ってきた道が参考になるのではないでしょうか」

◆◆◆

「タイプの違う4名の偉人を紹介しましたが、人それぞれに性格や気質がありますから、ぜひ自分に合う歴史上の人物を参考にしてみてください」と加来先生。仕事で、人生で迷ってしまったときに、偉人の選択に倣ってみてはいかがでしょうか。

● 加来耕三(かく・こうぞう)

1958年大阪府出身。奈良大学文学部史学科卒業後、学究生活を経て、1984年より奈良大学文学部研究員に。現在は大学・企業の講師を務めながら、歴史家・作家として独自の史観に基づく著作活動を行っている。『鎌倉殿を立てた北条家の叡智』(育鵬社)、『日本史に学ぶ リーダーが嫌になった時に読む本』(クロスメディア・パブリッシング)、『歴史の失敗学』(日経BP)など著書も多数。BS11『偉人・素顔の履歴書』などテレビ・ラジオ番組の出演・監修も多い。

BS11『偉人・素顔の履歴書』

戦国武将や幕末志士など、日本史にその名を刻む英雄・偉人たちの【偉大な功績】 と 【意外な素顔】 に迫る歴史教養番組。歴史好きなナビゲーターと歴史家・加来耕三が、自由なトークを展開しながら、偉人の本質的な性格や価値観、趣味・特技など、パーソナルな“履歴書”をまとめ上げていきます。偉人の人生哲学から、現代ビジネスにも通じる組織マネジメントまで学びを凝縮した60分です。

放送局/BS11(全番組が無料放送、BS放送対応なら、全国どこでも視聴可能)
放送時間/毎週土曜日20:00〜20:55
オンデマンド配信(視聴無料)はこちら

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