2026.08.07
いよいよ会期後半。「杉本博司 絶滅写真」は見逃せない展覧会!
現代美術作家・杉本博司氏の創作の原点である写真作品にフォーカスした大規模展覧会「杉本博司 絶滅写真」が、東京国立近代美術館で絶賛開催中です。初公開の新作を始め、キャリア初期から現在に至るまで60点の作品が一堂に会する見逃せないチャンスです。
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文・写真/大塚綾子 編集/森本 泉(Web LEON) © Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

▲ 記者発表会に登壇する杉本博司氏(左)と、東京国立近代美術館 主任研究員の増田玲氏(右)。
現代美術作家・杉本博司氏の大規模展覧会「杉本博司 絶滅写真」が、東京国立近代美術館で絶賛開催中です。創作の原点である写真作品にフォーカスした国内での展覧会は、なんと実に21年ぶりのこと。初公開の新作を始め、キャリア初期から現在に至るまで60点の作品が一堂に会する充実した展示内容。いよいよ会期も後半を迎え、まだご覧になっていない方はぜひ!
「デジタル嘘つく、写真嘘つかない」。写真の証拠能力は絶滅した
建築や舞台芸術、書、陶芸、和歌、料理など、ジャンルの垣根を軽やかに飛び超えて活躍する現代美術作家・杉本博司氏。その創作の原点にあるのが銀塩写真です。銀の化合物(ハロゲン化銀)が光に反応する性質を利用する、モノクロ写真の最もポピュラーな技法である銀塩写真。杉本氏は、その撮影から現像、印画紙へのプリントまで自ら行い、これまでに数々の名作を世に生み出してきました。しかし、200年近い歴史を誇る銀塩写真もデジタル化の波にのまれ、今や「絶滅」の危機に瀕しています。
展覧会に寄せたステートメントの冒頭で、杉本氏はこう記しています。
「今、写真から何が絶滅したのか、それは写真の証拠能力に他ならない。写真は21世紀に入り急速にデジタル化した。デジタル画像は如何様にも変換可能である。西部開拓時代、アメリカ先住民は思った『白人嘘つく、インディアン嘘つかない』。今、私は同じ様に思う。『デジタル嘘つく、写真嘘つかない』」。
タイトルに「絶滅」というセンセーショナルな言葉を入れた理由について、図録内で「銀塩写真の終焉を告げるという意味と、人類文明が絶滅するという意味をもかけている」と現代社会の危うさをも鋭く見据えています。

▲ 会場風景より。、杉本博司《ホモ・エレクトス》 2025年
作品は3つの章と13のシリーズに分けられ、ゆるやかな時系列に添って展開。その歩みを通して、杉本氏の作品の変遷を辿ることができます。さらに、室町時代に禅僧の間で流行した「詩画軸」の形式にならい、一点一点の作品に合わせて杉本氏自身が狂歌や和歌を詠み、解説を行うというユニークな趣向も。古今和歌集や万葉集を巧みに本歌取りした歌も多く、日本美術への造詣が深いほど、そのユーモアにニヤリとさせられるはず。これまで何度も観てきた名作に、新たな魅力が立ち現れてきます。
第1章「時間・光・記憶」を構成するのは、初期の代表作である 〈ジオラマ〉、〈海景〉、〈劇場〉 。なかでも注目は、アメリカ自然史博物館のジオラマ展示を大判カメラで撮影した、デビュー作の〈ジオラマ〉 シリーズです。野生動物の生態をリアルに表現した模型を写真に収めることで、まるで生命が宿っているように感じられるこのシリーズには、初公開の新作が登場。撮影をスタートした1975年から半世紀もの時を経て、ようやく撮影許可が下りた「ポコット族」をはじめ3点の作品が加わることで、杉本氏による壮大な人類史がついに完成します。

▲ 会場風景より。杉本博司《ポコット族》 2025年
また「原始人が見ていた風景を、現代人も同じように見ることは可能か」という自らの問いに写真で回答するのが、世界中の海を同じ画角で撮影した〈海景〉 。水平線を境に上半分は空、下半分は海。それ以外は何も映っていないこの作品は、繊細なグラデーションを得意とする銀塩写真ならではの表現。ゆるやかなカーブを描く暗い展示室の壁に、いくつもの静かな海が浮かび上がる光景はまさに圧巻です。

▲ 〈海景〉 シリーズの展示風景。7点の作品が半円形の会場にずらりと並ぶ。

▲ 会場風景より。杉本博司《相模湾、江之浦》 2025年
続く第2章は「観念の形」。人間が生み出したさまざまなかたちをテーマに、「建築」、「観念の形」、「スタイアライズド・スカルプチャー」を、杉本作品の広がりをたどります。
「サヴォア邸」や「バラガン邸」など、20世紀のモダニズム建築を撮影した「建築」は、あえて「焦点をぼかすことで、建築が建つ前に建築家が脳内で描いていたビジョンを再現できるのでは」という杉本氏のアイディアから生まれたシリーズ。ぼんやりとした輪郭でもなお滲み出る名建築の造形美を感じられます。

▲ 会場風景より。杉本博司《シーグラムビル》 1997年
そして、最終章の第3章は展覧会の主題でもある「絶滅写真」。終焉を迎えつつある銀塩写真の始まりにさかのぼる「前写真、時間記録装置」、「フォトジェニック・ドローイング」から、「肖像」、近作の「Opticks」まで6つのシリーズで、杉本氏が「絶滅」を巡るヴィジョンの行方を探ります。
ロンドンのマダムタッソー蝋人形館などで撮影された「肖像」は、第1章〈ジオラマ〉 の系譜に連なる作品。石膏型として人物の容貌を写し取る蝋人形は、「時を止める」という写真の始まりにあった人類の欲望と重なります。

▲ 会場風景より。杉本博司《ダイアナ、プリンセス・オブ・ザ・ウェールズ》 1999年
最後の展示室に登場するのは、光の色彩を観測した「Opticks」。「光を絵の具として使った新しい絵を描くことができたように思える」と杉本氏が記したこちらは、撮影にポラロイドフィルムを使い、デジタルプロセスを介して画面のノイズを消してから大判のカラー印画紙にプリントした、異例の手法によるシリーズ。初めて登場したカラー写真の作品群が鮮烈な印象を残します。

▲ 会場風景より。杉本博司《放電場128》 2009年

▲ 会場風景より。「Opticks」シリーズの展示。白黒の世界から一転して、鮮やかな色が広がる。
展覧会に合わせて、3階の所蔵品ギャラリーでは、東京国立近代美術館所蔵の全作品に加え、撮影時や暗室での作業工程の覚え書きを記した資料「スギモトノート」も公開。今回のために特別に制作されたレプリカもあり、自由にページをめくって、杉本氏の貴重なアイディアや叡智の一端に触れられます。

▲ 撮影時の気付きや暗室での作業行程などを記した「スギモトノート」のレプリカ。 (所蔵作品展「 MOMAT コレクション」10室)

▲ 会場風景より。《CAMERAMAN》 2026年 「カメラは人間の眼の構造を映した装置である」という杉本氏の構想のもと、光学機器メーカーのシグマ、アイウェアブランドJINSと共同制作した眼鏡型装置。
展覧会に寄せてのステートメントを「私は銀塩写真の寿命と私の寿命とが響き合っていることに幸せを感じている」と締めた杉本氏。キャリアの集大成であるこの大規模個展は、9月13日まで。どうぞお見逃しなく!
「杉本博司 絶滅写真」
日時/開催中〜2026年9月13日(日)
会場/東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
開館時間/10:00〜17:00(金・土は〜20:00)入館は閉館の30分前まで。
休館日/月曜
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式HP/https://art.nikkei.com/sugimoto/
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