2026.07.10
【第50回】
「男の手料理」、イタリアと日本じゃこんなに違う!
世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさんが、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。
BY :
- 文/マッシ
- CREDIT :
写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)
「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのマッシさんが今回お話してくれるのは、イタリア版「男の手料理」について。料理はすべてマンマにお任せかと思えば、実はイタリア男子も厨房に入るのが好きなのだとか。でもそこには日本男子とは違う傾向もあるようで……。

▲ その日に食べたい味を作り出すマッシ。
イタリアは「世界で唯一、男性が女性よりも頻繁に料理をする国」⁉
「男子厨房に入らず」の表現は、日本のシニア世代なら一度は耳にしたことがあるだろう。かつて日本の家庭で、台所に男がに立ち入ることはタブーとされていた。
しかし、時代は変わり、今の若い世代を見渡せば、料理を趣味にする男は珍しくもなんともない。それどころか、共働き夫婦の間で「平日の晩飯は完全に僕の担当だ」という誠実な男たちも存在する。男がエプロンを締め、包丁を握る姿は、現代の日本ですっかりスマートなライフスタイルの一部として定着したと言えるだろう。
では、世界を代表する美食の国であり、僕の故郷であるイタリアではどうだろうか。
「イタリアのマンマの味」という言葉があまりにも有名なため、イタリア家庭の台所はすべて恰幅のいい女性たちが支配していると思われがちだ。しかし、実際のところその常識は覆りつつある。それどころか、とある海外メディアの調査によれば、イタリアは「世界で唯一、男性が女性よりも頻繁に料理をする国」とまで報じられているのだ。

▲ .適当に調理していると思うかもしれないが、実は完成形に向かって頭の中でロジックを組み立てながらフライパンと向き合うマッシ 。
イタリア男は美味しいところだけ持っていきたがる
日本で男性が料理を始めるきっかけといえば、「一人暮らしを始めて外食に飽きたから」「節約のため」「妻も働いていて忙しいから」といった、どちらかといえば実用的な理由が先行しがちだろう。もちろん、イタリアでも女性の社会進出に伴い、パートナーのために料理をする男は増えている。けれど、イタリア男にとって、料理とは単なる家事ではない。僕たちにとって料理は、「愛」そのものなのだ。
僕たちは、幼い頃から祖父母や両親が市場で美味い食材を選び、時間をかけてソースを煮込む姿を見て育つ。美味しいものを食べることは人生の最優先事項であり、それを自分の手で作り出すことは、男としての「最高の愉しみ」なのだ。さらに言えば、愛する家族や恋人に「マンマミーア!なんて美味いんだ!」と言わせることこそが、僕たちのプライドを満たす至高の瞬間なのである。ただ、ここでイタリアの社会学者たちがクスリと笑いながら指摘する、ある「お約束」がある。
イタリア男は、料理のプロセスや、美しく盛り付けられたテーブルを前にパートナーが喜ぶ顔を見るのは熱狂的に大好きなのだが、「皿洗い」や「シンクの掃除」といった後片付けのフェーズに入ると、綺麗さっぱり気配を消してしまう傾向があるらしい。

▲ 多くの野菜をカットして塩胡椒とオリーブオイルをかけてオーブン焼きにする。
「美味しい料理を作って場を盛り上げる、クリエイティブな仕事は僕の役目。でも、汚れた鍋を洗うのは…」というわけだ。このあたりの「美味しいところだけ持っていきたがる」という性質は、イタリア男らしさと言えるかもしれない。日本の「料理男子」の多くが、後片付けまで含めてきっちりとこなす真面目さを持っているのとは、実に対照的だ。
現代のイタリア料理男子たちは、驚くほど調理家電やガジェットにこだわる
日本男児が「よし、今日は僕が腕を振るうぞ」となった時、定番となるメニューといえば何だろう。スパイスを何種類も調合したこだわりの本格カレー? あるいは豪快なステーキ? はたまた手作りの羽つき餃子? 日本の男の手料理には、どこか「男のロマン」を具現化したような、ガッツリとした重量級のメニューが多いように思う。
対するイタリア男たちの定番は、意外にも極めてシンプルだ。僕たちが最も頻繁に作るのは、やはりパスタ、そしてリゾットや肉料理。特に週末になれば、じっくり時間をかけて煮込む「ボロネーゼ」や「ジェノベーゼ」などに情熱を注ぐ。

▲ 野菜とチーズを組み合わせた揚げ物。
イタリアの男たちが料理で最もこだわるのは、実は「最新テクノロジー」と「厳選された食材」のマッチングである。現地の大手新聞などのリサーチによると、現代のイタリア料理男子たちは、驚くほど調理家電やガジェットにこだわっているという。真空調理器を使いこなして完璧な火入れの肉料理を作ったり、温度管理が徹底できるハイテクなオーブンで完璧なピッツァを焼いたりする。
そして何より、「レシピのルール」に対して異様なほど厳格だ。たとえば、日本人がカルボナーラを作る際、冷蔵庫にあるものでアレンジして生クリームや牛乳、あるいはキノコを入れてみたりする。それはそれで家庭の味として日本の日常では大正解なのだが、イタリア男の前でそれをやったら大変なことになる。
「カルボナーラに生クリームを入れるなんて正気の沙汰じゃない! 必要なのはグアンチャーレ(豚頬肉の塩漬け)とペコリーノ・ロマーノ、そして卵と黒胡椒だけだ!」と、まるで国家の法律を破られたかのように熱弁を振るい始めるだろう。
日本の男が「俺流のアレンジ」を好むのに対し、イタリアの男は「伝統的なクラシックを、いかに完璧な技術と素材で再現するか」に命をかける。料理へのアプローチにおいて、この違いは非常に面白い。

▲ ソースはインスタントではなく、トマトから作り出すのが一般的。
自分の手で誰かを笑顔にし、豊かな時間をプロデュースしたい
もう一つ、近年のイタリアの調査で明らかになった興味深い傾向がある。それは、イタリアの男たちは「妻と一緒にキッチンに立つこと」をあまり好まない、ということだ。理由は明快である。こだわりが強すぎる男と、現実的な家庭の台所を預かる妻が同じ空間に立つと、確実に「料理の主導権争い」という争いが勃発するからだ。「パスタの茹で汁の塩分濃度が違う」「トマトソースを煮込む時間が足りない」などと夫がこだわりを爆発させれば、妻から「能書きはいいから早くして!」と一喝されるのがオチである。
日本とイタリアの男たち。アプローチや後片付けへの姿勢に違いはあれど、根底にある共通点は一つだ。それは、「自分の手で誰かを笑顔にし、豊かな時間をプロデュースしたい」という、格好いいマインドである。
以前は義務や家事の延長として捉えられがちだった料理は、今や僕たち男にとって最高の自己表現であり、人生を豊かにするための最も手軽で深いエンターテインメントとなった。
LEON読者のみなさん。もし、まだ「食べる専門」でいるのなら、それはあまりにも勿体ない。ウンチクを語るだけの男よりも、最高の食材をスマートに買い出し、キッチンで完璧な一皿を仕上げて見せる男の方が、どう考えても魅力的だ。まずはこの週末、こだわりのクラシックなパスタあたりから、あなたの「男の手料理」を始めてみてはいかがだろうか。

● マッシ
本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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