2026.05.15
【第46回】
似て非なる永遠のライバル? イタリアとフランスの本当の関係をぶっちゃける!
イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。
BY :
- 文/マッシ
- CREDIT :
写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)
血は繋がっているけどあいつらのやり方は気に食わない
「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのマッシさんが今回お話してくれるのは、イタリア人とフランス人の関係について。ともにヨーロッパを代表するお洒落と美食の国。でも両国のイメージはずいぶん違うような。仲がいいのか悪いのか、本音で教えてください!

▲ Eatalyのジェラートを食べているマッシ。
多くの日本人は、一度はこう思ったことがあるはずだ。「イタリア人とフランス人、どっちもオシャレで美味しいものを食べていて、結局何が違うんだ?」と。たしかに、日本人から見れば、どちらも彫りの深い顔立ちで、昼間からワインを飲み、女性を見れば呼吸するように口説く「ラテンの兄弟」だ。しかし、本人たち(僕も含めた)に言わせれば、その答えはNOだ。それも、全力のNOである。
僕たちはお互いを「Cugini(クジーニ=従兄弟)」と呼ぶ。だけど、この言葉の裏には、「血は繋がっているけどあいつらのやり方は気に食わない」という、最高に面倒くさくて面白い愛憎劇が隠されているんだ。今回は、イタリア人のフィルターを通した「フランス人像」をぶっちゃけてみよう。

▲ 世界中で知られているイタリアの観光地コモ湖。
フランス人は、僕たちが教えるまで手づかみで肉を食べていた
イタリア人と食事中、フランス料理を褒めるのは少し注意が必要だ。なぜなら、イタリア人にとってフランス料理は、「自分たちが教えてやったもの」という強烈な自負があるから。
僕たちイタリア人が必ず持ち出す鉄板ネタがある。16世紀、フィレンツェのメディチ家からカテリーナというお姫様がフランス王室に嫁いだ際、お抱えの料理人と「フォーク」を持ち込んだという話だ。「フランス人は、僕たちが教えるまで手づかみで肉を食べていた。ソースで誤魔化す術を覚えただけで偉そうにしすぎだ」。過激に思われるかもしれないけど、これがイタリア人の言い分。
イタリア料理の本質は「素材」だ。最高のトマトや搾りたてのオリーブオイル、獲れたての魚。これさえあれば、あとは塩だけでいい。対してフランス料理は、複雑なソースや技法を重ねる。イタリア人からすれば、それが理屈っぽくて、素材の味を殺しているように映るわけだ。
実際、イタリアの市場に行けば、おっちゃんたちが「このアーティチョークを見ろ! パリの高級レストランの皿より、この1個の方が価値がある!」なんて息巻いている光景によく出くわす。イタリア人にとって、ミシュランの星よりも「マンマが今朝作ったパスタ」の方が、常に格上なのだ。

▲ こちらはフランス・パリにあるエトワール凱旋門。
デザインはパリだけど、魂を吹き込んでいるのは僕たちだ
ファッションについても、この「従兄弟」のライバル心は凄まじい。パリは「モード(流行)」を作る街であり、ブランドという巨大なシステムを構築した。対してイタリア(特にミラノやナポリ)は、職人の「仕立て」と、それをいかに無造作に着こなすかという「スプレッツァトゥーラ(計算された無頓着)」の文化だ。
イタリア人から見たフランス人の着こなしは、「キメすぎ」で「窮屈」に見えることもある。「フランス人は鏡の前で1時間かけて『完璧な自分』を作るが、僕たちは5分でジャケットを羽織り、1日中それを忘れて楽しむんだ」。これがイタリア男のプライドだ。
面白いのは、フランスの超高級メゾンのバッグや靴が、実はイタリアの町工場で作られていることを、イタリア人は決して忘れないことだ。「デザインはパリだけど、魂を吹き込んでいるのは僕たちだ」という優越感。この「下請けだけど、実力は上」という絶妙なポジションが、イタリア人の対抗心をさらに燃え上がらせる。

▲ 故郷であるピエモンテ州、カザーレ・モンフェッラートにある歴史的な塔。
「モナ・リザ」はフランスに盗まれた絵。さあ、返してもらおうか!
気質の違いも面白い。フランス人はとにかく「理屈」が好きだ。カフェで煙草を燻らせながら、政治や哲学について延々と議論を戦わせる。イタリア人からすれば、それが「鼻持ちならないインテリ気取り」に見える。
「フランス人は、愛を語るためにまず定義を考える。僕たちは、愛を伝えるためにまず歌う」。この言葉が、両者の違いを一番よく表している。イタリア人も古代ローマの血を引く知の塊だけど、僕たちの知性は「人生をいかに楽しく、美しく過ごすか」という方向に向けられている。
恋愛に関してもそうだ。フランス人の恋愛は、どこか心理戦のような駆け引きを楽しむフシがある。対してイタリア人は、もっとストレート。素敵な女性がいれば褒める。目が合えばウィンクする。そこに小難しい理屈なんていらない。「フランス人とデートすると、食後まで愛の哲学を聞かされる。イタリア人とデートすれば、前菜が終わる頃にはもうキスしてるぜ」なんてジョークがあるくらいだ。

▲ パリのモンマルトルの丘にあるサクレ・クール寺院。
そして、忘れてはいけないのが、ルーヴル美術館にある「モナ・リザ」だ。イタリア人は、いまだに「あの絵はフランスに盗まれた」と冗談半分に(半分は本気で)思っている。実際には作者のレオナルド・ダ・ヴィンチがフランスに持ち込んで売却したのだけど、そんな史実よりも「僕たちの宝がフランス人の手元にある」という事実の方が、イタリア人には重要なのだ。
サッカーの国際試合でイタリアがフランスに勝つと、SNSには「さあ、モナ・リザを返してもらおうか!」という書き込みが溢れかえる。フランス人の「自分たちが世界の文化の中心だ」という態度をイタリア人は「傲慢」と呼び、それをからかうことで自分たちのアイデンティティを確認しているわけだ。
大事なのは自分のルーツとスタイルに、執着と自信を持つという姿勢
ここまでイタリア人の「フランス人への毒」を並べてきたけど、誤解しないでほしい。これは、心の底からの嫌悪ではない。もし世界にフランスがいなくなったら、一番寂しがるのはイタリア人だろう。イタリア人は、フランス人の洗練されたセンスや、国家としてのプライド、そして自分たちと同じように「美しく生きること」に執着する姿勢を、誰よりも理解している。ただ、似すぎているからこそ、ちょっとした違いが鼻につくし、絶対に負けたくないのだ。

▲ ピエモンテ州アルバといえば、トリュフの地域。
いわば、出来のいい兄(フランス)と、自由奔放な弟(イタリア)のような関係。兄貴が高級車でスマートに乗り付ける横で、弟はエンジン音のうるさいスポーツカーで派手にドリフトして現れる。「まったく、あいつは……」と互いに呆れながらも、結局は同じテーブルで最高のワインを飲み交わす。それが、この2つの国の正体だ。
さて、この「従兄弟論争」から、LEON読者のみなさんが学ぶべきことは何か。それは、フランス的な「論理的な美意識」と、イタリア的な「本能的な情熱」の、どちらが正解かということではない。大事なのは、「自分のルーツとスタイルに、これほどまでの執着と自信を持つ」という姿勢そのものだ。
フランス人のように堂々と自分の美学を語り、イタリア人のように屈託なく人生を謳歌する。その両方を、シーンに合わせて使い分けられたら、それこそが最強の「LEONな男」だろう。
次にイタリア製のジャケットを着て、フランスのシャンパンを開ける時、心の中でニヤリとしてほしい。この一着と一瓶の背景にある、数世紀にわたるラテン男たちのマウント合戦を、「結局、どっちも最高なんだよな」と言って笑い飛ばせる余裕こそが、大人の嗜みというものだ。

▲ ご存知パリのシンボルであるエッフェル塔。

● マッシ
本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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