2026.08.21
シンガポールの美食を一気に味わう!「ラッフルズホテル」が究極のデスティネーションホテルである理由
シンガポールを代表する名門「ラッフルズ・ホテル・シンガポール」は、泊まるだけじゃもったいない! インド、中国、東南アジアから最先端のガストロノミー、そして名物シンガポール・スリングまで。多彩な食文化をひとつのホテルで味わえる、“デスティネーションホテル”としての魅力を食いしん坊目線でご紹介します。
「デスティネーション・レストラン」ならぬ、「デスティネーション・ホテル」については、先日コチラの記事でご説明した通り。そもそもホテルとは、旅先で快適かつ安全に滞在するための、いわば旅を支える場所でした。けれど、いまやホテルに求めるものはそれだけではありません。そこを訪れ、泊まり、食べ、飲み、その空間に身を置くこと自体が旅の目的になる、そんなホテルがあってもいいのでは、と。そこで私は、食べることを目的に旅をするレストランを「デスティネーション・レストラン」と呼ぶように、旅の目的地となるホテルを「デスティネーション・ホテル」と呼んでいます。え、ピンと来ない? では一番わかりやすい例を探してみましょう。

▲ シンガポールの街に優雅に佇む「ラッフルズ・ホテル・シンガポール」。1899年に完成した白亜の本館は、1987年に国の記念建造物に指定された街のランドマーク。
そう考えた時、真っ先に思い浮かぶのが「ラッフルズ・ホテル・シンガポール」。
1887年創業。白亜のコロニアル建築に足を踏み入れれば、高い天井からゆっくりと回るファン、磨き上げられた床、緑豊かな中庭。約140年の歴史を誇るシンガポールのランドマークであり、一度は泊まってみたい憧れのホテル——というだけなら、皆さまもよくご存じでしょう。けれど、今回注目したいのは、このホテルの「食」です。というのも、この館内を見渡してみると、実に多彩な食の世界が広がっているのです
▲ 2017年から大規模な改装工事を行い、2019年8月1日に全館リニューアルオープンした「ラッフルズ・ホテル・シンガポール」
▲ 緑豊かな中庭を囲むように延びる、美しい回廊。白亜の列柱と端正なアーチが連なる光景は、「ラッフルズ・ホテル・シンガポール」を象徴する風景のひとつ。
▲ 歴史あるパームコート・ウィングに位置する「パームコート・スイート」。70㎡ほどのゆったりとした室内はリビングとベッドルームに分かれ、ベランダからは宿泊者だけが楽しめる緑豊かなパームコートを望む。都会の真ん中とは思えない静けさも魅力。
▲ 全室スイートのため、ゲストはバトラーサービスを利用できます。ランドリーや洋服のプレスはもちろん、「バブルバスをつくって」なんてわがままリクエストもOK!

▲ 2017年から大規模な改装工事を行い、2019年8月1日に全館リニューアルオープンした「ラッフルズ・ホテル・シンガポール」

▲ 緑豊かな中庭を囲むように延びる、美しい回廊。白亜の列柱と端正なアーチが連なる光景は、「ラッフルズ・ホテル・シンガポール」を象徴する風景のひとつ。

▲ 歴史あるパームコート・ウィングに位置する「パームコート・スイート」。70㎡ほどのゆったりとした室内はリビングとベッドルームに分かれ、ベランダからは宿泊者だけが楽しめる緑豊かなパームコートを望む。都会の真ん中とは思えない静けさも魅力。

▲ 全室スイートのため、ゲストはバトラーサービスを利用できます。ランドリーや洋服のプレスはもちろん、「バブルバスをつくって」なんてわがままリクエストもOK!
たとえば、1892年から続く「Tiffin Room」では北インド料理を。「藝 yì by Jereme Leung」では中国各地の食文化を現代的に表現した料理を。一方、「Butcher's Block」では薪火を駆使したコンテンポラリーな料理が供され、「The Grand Lobby」では英国の伝統を感じさせるアフタヌーンティー。そして夜になったら「Long Bar」へ向かい、このホテルで生まれたシンガポール・スリングを一杯……。インド、中国、東南アジア、英国、そして世界の最先端のガストロノミーまで。それぞれに異なる文化をもつ食が、ひとつ屋根の下に共存しています。アラ、これまさに、シンガポールという国そのものではありませんか。
▲ アフタヌーンティーは、「ラッフルズ・ホテル・シンガポール」が誕生したのと同じ19世紀の英国で生まれた習慣。そんな歴史に思いを馳せながら優雅なひと時を、もちろんシャンパンとともに!
▲ サマセット・モーム、キップリング、コンラッド、ヘミングウェイなど「ラッフルズ・ホテル・シンガポール」を愛した多くの文人たちにオマージュを捧げるバー「Writer’s Bar」。
▲ 食後に「Writer’s Bar」でカクテルを1杯。私も傑作を書けそうな気がしてきた!

▲ アフタヌーンティーは、「ラッフルズ・ホテル・シンガポール」が誕生したのと同じ19世紀の英国で生まれた習慣。そんな歴史に思いを馳せながら優雅なひと時を、もちろんシャンパンとともに!

▲ サマセット・モーム、キップリング、コンラッド、ヘミングウェイなど「ラッフルズ・ホテル・シンガポール」を愛した多くの文人たちにオマージュを捧げるバー「Writer’s Bar」。
▲ 食後に「Writer’s Bar」でカクテルを1杯。私も傑作を書けそうな気がしてきた!
シンガポールではマレー系、中国系、インド系をはじめ、さまざまなルーツをもつ人々が暮らし、それぞれの文化を大切にしながら、ときに交わり、この小さな島国に驚くほど豊かな食文化を育んできました。古くから東西を結ぶ交易の要衝として世界中から人やものが行き交い、そのたびに新しい食材や香辛料、調理法、食習慣が持ち込まれてきたことも、この国の食を豊かにしてきた理由のひとつでしょう。
▲ 「Long Bar」で、バーテンダーのニャム・トン・ブーンによって1915年ごろに誕生し、後にシンガポールを代表するカクテルとなった「シンガポール・スリング」。
▲ つまみのピーナッツのからは床に落としてよいため、床はからだらけになります。
▲ 名物「シンガポール・スリング」の注文が次々と入る「Long Bar」では、複数のシェーカーを一度に振ることができるユニークなシェイキングマシンも活躍。ハンドルを回すとシェーカーが一斉に動き出す様子は、思わず見入ってしまう楽しさ。

▲ 「Long Bar」で、バーテンダーのニャム・トン・ブーンによって1915年ごろに誕生し、後にシンガポールを代表するカクテルとなった「シンガポール・スリング」。

▲ つまみのピーナッツのからは床に落としてよいため、床はからだらけになります。

▲ 名物「シンガポール・スリング」の注文が次々と入る「Long Bar」では、複数のシェーカーを一度に振ることができるユニークなシェイキングマシンも活躍。ハンドルを回すとシェーカーが一斉に動き出す様子は、思わず見入ってしまう楽しさ。
「ラッフルズ・ホテル・シンガポール」のダイニングを巡っていると、そんなシンガポールの成り立ちまでが、ひと皿の料理、一杯のカクテルから浮かび上がってくるよう。しかも面白いのは、ここがこの街に人と文化が行き交い、混ざり合っていく、その舞台のひとつであり続けてきたことです。つまりラッフルズは、シンガポールの多文化性を“テーマ”として取り入れたホテルではありません。約140年に渡りこの街とともに歩み、その歴史そのものを館内に蓄積してきたホテルなのです。
そこで本記事では「ラッフルズ・ホテル・シンガポール」を代表する3軒のレストランに注目。深堀りしてご紹介してまいりましょう。
ミシュラン2つ星獲得の最新フレンチ「1887 by André」
▲ かつて「Raffles Grill」「Elizabethan Grill」として使われた歴史的なフォーマルダイニングを、ヴィクトリア朝の華やかさと南国の温室(tropical glasshouse)を融合させた空間としてよみがえらせた「1887 by André」。
▲ 「1887 by André」は基本アラカルトで、好きなものを好きなだけオーダーできるスタイル。今、ちょっとアラカルトがトレンドになりつつありますね。
▲ アンドレ・チャン氏を囲んで、台湾出身のシェフ、ベン・ワン氏(右)、スーシェフのロイ・クオ氏(左)。

▲ かつて「Raffles Grill」「Elizabethan Grill」として使われた歴史的なフォーマルダイニングを、ヴィクトリア朝の華やかさと南国の温室(tropical glasshouse)を融合させた空間としてよみがえらせた「1887 by André」。
▲ 「1887 by André」は基本アラカルトで、好きなものを好きなだけオーダーできるスタイル。今、ちょっとアラカルトがトレンドになりつつありますね。

▲ アンドレ・チャン氏を囲んで、台湾出身のシェフ、ベン・ワン氏(右)、スーシェフのロイ・クオ氏(左)。
今の「ラッフルズ・ホテル・シンガポール」を「食べるために泊まりたいホテル」たらしめている、とびきり新しい理由、それが2026年3月に誕生した「1887 by André」。店名に冠された1887とは、もちろんラッフルズ・ホテルの創業年です。
シェフを務めるのは、かつてシンガポールの「Restaurant André」をアジアを代表するレストランへと押し上げ、2018年、二つ星の絶頂期に店を閉じたアンドレ・チャン。その彼が再びシンガポールへ戻り、ラッフルズという歴史ある舞台で掲げたのが「ヘリテージ・ガストロノミー」という考え方でした。
着想源となったのは、ラッフルズに残された100年以上にわたるメニューや、このホテルに蓄積されてきた食の記憶。例えばシンガポールを代表するバクテーをフランス料理のブランケットに仕立てた「Blanquette de 'Bak Kut Teh'」など、土地に根付く味やホテルの歴史を、アンドレならではのフランス料理の技法と感性で現代のひと皿へとよみがえらせています。
そしてオープンからわずか4カ月余り。2026年8月発表の「ミシュランガイド シンガポール」で、なんと初登場にして二つ星を獲得。さらに「オープニング・オブ・ザ・イヤー」にも選ばれました。アンドレ自身、この店を「自分を形作った街へのラブレター」と表現していますが、ラッフルズの約140年の記憶と、シンガポールという街の食文化、そしてこの地で料理人として名を馳せたアンドレ自身の記憶。そのすべてが重なった料理を味わえることこそ、ここを訪れる最大のモチベーションとなるでしょう。
中国各地の美味をモダンに楽しめる「藝 by Jereme Leung」
シンガポールにいながら中国各地を旅するような楽しさを味わえるのが、「藝 yì by Jereme Leung」。店名の「藝(イー)」とは、中国語で“アート”を意味します。
▲ 1本のきゅうりに100回ほど細かく包丁を入れる前菜。茹でたつぶ貝、醤油ベースのヴィネグレットソースとともに。持ち上げると、びよ~んと伸びるきゅうりに食卓も盛り上がります。
▲ 「清蒸魚」、この日の鮮魚はハタ。煮汁を白いごはんに乗せて食べたいほどおいしかった!
▲ エントランスを幻想的に彩るアートインスタレーション「Pale Garden」。トロントのアートスタジオMoss & Lamが手掛けたもので、約27mにわたって1,000もの手仕事による白い花のモチーフが連なる。
▲ 1本のきゅうりに100回ほど細かく包丁を入れる前菜。茹でたつぶ貝、醤油ベースのヴィネグレットソースとともに。持ち上げると、びよ~んと伸びるきゅうりに食卓も盛り上がります。
▲ 「清蒸魚」、この日の鮮魚はハタ。煮汁を白いごはんに乗せて食べたいほどおいしかった!

▲ エントランスを幻想的に彩るアートインスタレーション「Pale Garden」。トロントのアートスタジオMoss & Lamが手掛けたもので、約27mにわたって1,000もの手仕事による白い花のモチーフが連なる。
シェフ・コンサルタントを務めるジェレミー・レオンはシンガポール出身。13歳で香港の厨房に入り、点心、焼味、鍋振りといった中国料理の基礎を身につけた後、1990年代には中国各地を巡り、その土地ならではの料理や食材、調理技法を探究。2002年からは上海を拠点に活躍してきた、現代中国料理を代表する料理人のひとりです。
そんな彼が故郷シンガポールへ“帰還”して表現するのは、広大な中国に息づく地方料理の多様性。広東料理だけにとどまらず、中国各地に伝わる郷土料理や古典料理を掘り起こし、旬の食材と現代的な技法を用いて、軽やかに再構築しています。たとえば、1本のキュウリに細かな包丁を入れ、切り離すことなくジャバラ状に仕立てる中国北方の伝統料理をアレンジした前菜など、その料理には長い歴史のなかで培われた中国料理の技と知恵が随所に。中国料理イコール広東や四川、といったおなじみのイメージを軽々と越え、その奥にある地域ごとの豊かな食文化に出会わせてくれます。
なかでも印象に残ったのが、ハタの清蒸。蒸した魚に葱や生姜、醤油を合わせるという、極めてシンプルな料理ですが、だからこそ素材の質と火入れの技量がストレートに表れます。ふっくらと蒸し上がった身はみずみずしく、醤油ダレと香味油は魚の旨みを邪魔することなく、素材の持ち味を鮮やかに際立たせていました。華やかな料理が並ぶなか、こうしたひと皿にこそ料理人の力量が表れるのだと、しみじみ感じ入ったのでした。
シンガポール最古の北インド料理レストラン「Tiffin Room」
そしてラッフルズの食を語るうえで、欠かすことのできない存在が「Tiffin Room」です。その歴史は古く、始まりは1892年。1910年にはラッフルズへと場所を移し、以来100年以上にわたってこのホテルでティフィン・カレーを供してきました。
そもそも「ティフィン」とは、インドで昼食や軽食を意味する言葉。英国統治下のシンガポールでは、日曜日にカレーを楽しむことがひとつの習慣となっていたそうですが、現在の「Tiffin Room」は、そんな歴史を受け継ぎながら、マハラジャの時代の食文化に着想を得た北インド料理を楽しませてくれます。
メニューにはタンドールで焼き上げる肉料理やビリヤニ、濃厚な豆カレー、ラムを使ったローガンジョシュなど、香り豊かな料理がずらり。なかでも伝統的な4段重ねのティフィンボックスで供される「Mera Dabba」は、ぜひ味わいたい名物のひとつ。100年以上にわたり受け継がれてきたラッフルズの食の記憶まで、一緒に味わえるように感じました。

▲ 食べて飲んでばかりの滞在ですが、合間には本館3階のプールへ。南国の緑に囲まれた25mの屋外プールは、シンガポールの街の中心にいることをしばし忘れさせてくれる心地よさ。
以上、「ラッフルズ・ホテル・シンガポール」でのおいしい記憶を振り返りました。今、しみじみと感じるのは、ここでは慌てて街へ観光に出ず、館内でゆっくり過ごすのが𠮷だということ。昼はインドへ、午後は英国へ。夜には中国を旅し、最後はシンガポール生まれのカクテルで一日を締めくくる……ひとつのホテルに滞在しながら、いくつもの国と時代を旅することができるのが「ラッフルズ・ホテル・シンガーポール」の醍醐味です。
「デスティネーション・ホテル」という言葉がまだピンと来ないのなら、まずはここを訪れてみては。ここには、わざわざ泊まりに行く理由があり、わざわざ食べに行く理由があり、そしてホテルそのものを目的地にする理由があります。

ラッフルズ・ホテル・シンガポール
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