2026.05.24
【第100回】 「東京味のグランプリ」から44年
時代を超えて愛される、最新流行とは無縁のラーメン。西荻窪「はつね」の素晴らしさとは?
日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。
BY :
- 文/山本益博
- CREDIT :
写真/山本益博 編集/森本 泉(Web LEON)
日本初の料理評論家、山本益博さんが、B級グルメから一流の料理へと変貌を遂げつつある街のラーメンに注目し、自ら実食しつつラーメンの最前線をリポートする連載。今回は連載が100回を迎えるにあたり、自身の24年前の著書「東京・味のグランプリ 勝ち抜いた59軒」 をもとに東京のラーメンを振り返っていただきました。

時代の流れに耐えて勝ち残る店は何が違うのか?
1982年、私は「東京味のグランプリ200」(講談社刊)というガイドブックを上梓した。「すし、そば、てんぷら、うなぎ、とんかつ、ラーメン」といった東京の郷土料理を取り上げ、掲載した200軒を星印でランキングしたガイドブックだった。
それから20年経った2002年、こんどは「東京・味のグランプリ 勝ち抜いた59軒」(講談社刊)と題して、21世紀に入ってもなお健在な店をあらためて紹介した。
この連載が100回目となったところで、今一度、振り返って、東京のラーメンに思いを寄せてみようと考えた。ちなみに、「勝ち抜いた59軒」に選んだラーメン店は3軒(荻窪「丸福」「春木屋」西荻窪「はつね」)だが、1982年刊の「東京・味のグランプリ」に掲載し、2002年当時健在だったラーメン店は9軒(荻窪「丸福」「春木屋」上荻「丸信」西荻窪「はつね」渋谷「喜楽」銀座「萬福」永福町「大勝軒」千駄ヶ谷「ホープ軒」日本橋「たいめいけん」)だった。
「東京・味のグランプリ 勝ち抜いた59軒」の「まえがき」の一部をここでその一部を再録させていただく。
心に響く「職人仕事」と「隅々まで清掃の行き届いた清潔感 」
「東京・味のグランプリ200」を上梓したのが1982年。今年はちょうど20年目の節目に当たります。その間、途絶えることなく食べ続け、出版を続けてまいりました。そこで、20年ひと区切り、いまいちど東京の味を再確認。職人仕事を再評価しようと、20年前に訪ねた飲食店を再び訪れました。
するとどうでしょう、あえなく消えていった店、残念ながら評価をかなり下げてしまった店が多いなか、20年の時の流れに耐えて勝ち残った店がたくさんあったのです。

▲ 西荻窪「はつね」。
(中略)
本篇をご覧いただければわかる通り、本書は、すしの「すきやばし次郎」にはじまり、中華そばの「はつね」でしめくくっています。
わたしが、“東京・味のグランプリ”を通して、読者のみなさまにお伝えしたかったことが、この2軒の紹介文に集約されているように思います。
それは「職人仕事の尊さ」と、「飲食店の基本は清潔にある」ということです。この2点についてすし屋であろうと中華そば屋であろうとかわりはありません。
「まえがき」にある「すきやばし次郎」と「はつね」のコメントは次の通り。
銀座「すきやばし次郎」
主人小野二郎さんは、大正14年(1925年)生まれだから、今年77歳である。70歳を越えていまだ現役どころか、ますます円熟味を加え、現在でもすし職人として、日本最高峰の仕事を示している。
「次郎」さんのにぎるすしは、どれも宝石のように美しい。ごく軽くにぎられたすしは、空気をいっぱいに含んでいるから、そのすしがつけ台(カウンター)に置かれた瞬間、ゆっくりと軟着陸する。
(中略)
伝説として残るだろう名人のすしを味わう、いまがラストチャンス。酒飲みには無縁の店で、日本全国から、この店目指して客がやってくる。店は隅々まで清潔で、日本中の飲食店の手本といってよい。

▲ 「はつね」のラーメン。
西荻窪「はつね」
カウンター7席、それも肘を張れば隣の客に触れる狭さ、品書き7品、夫婦ふたりで作る中華そばは、派手さのまるでない、流行とはまったく無縁の、慎ましいともいえるほどの、食べ終えて心に響く東京の味である。40年変わらぬ志で作り続けたこの職人仕事と、隅々まで清掃の行き届いた清潔感溢れる店内こそ、“東京の食文化財”に指定したいほどである。
(中略)
その仕事の主が、2002年の2月から交替した。2年ほど前から調理場に入っている若き二代目は、「はつね」の味をまったく変えることなく、黙々とマイペース。淡味のしょうゆ味のスープ、細めの麵、美味のチャーシュー、きぬさや、ちくわ、のり、すべてが渾然一体の、これぞ中華そばの典型。東京人の誇りである。最新流行のラーメンとは無縁の、さりげないが、しかし極上の東京の味。
「すきやばし次郎」の小野二郎さんは、今年101歳でお元気だが、現在は店で握っていない。コメントでは「ラストチャンス」などと書いたが、今から思えば80歳代が絶頂期で、90歳を越えてから、世界中からお客様がやってきたほど。
「はつね」は、コメントにある二代目はすでに円熟期を超えたのか、いま三代目と呼んでよい若者に調理を任せて、補佐についている。「はつね」は近年「タンメン」の人気が高く、つい先日出かけたときも、ラーメンよりタンメンを注文する客が圧倒的に多かった。そのタンメンだが、キャベツともやしが中心の野菜そば、そこに味わい深い「焼豚」を追加注文する客がいる。これが現在の「はつね」の最上メニューかもしれない。

● 山本益博(やまもと・ますひろ)
1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

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