スペイン人シェフが作るラーメンが想定外に美味かった！

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

CREDIT :: 文・写真／山本益博　編集／森本泉（LEON.JP）

サンセバスチャンという街をご存知だろうか？フランス国境と接したスペインの北西バスク地方に在って、美食で世界に知られた街である。日本からも、サンセバスチャンの「美味しい街」のヒントをもらおうと、このところ大勢の人が訪れている。

美食の街の頂点には「ミシュラン」の3つ星レストランが3軒もあり、その裾野には、街中に「ピンチョス」と称するつまみを食べさせる「バル」が軒を連ねていて、連日昼夜、観光客が押し寄せて賑わっている。

PAGE 2

有名な生ハム、アンチョビはじめ、秋のこの季節はカウンターに茸が山盛りになっていた。これを、地元のチャコリと呼ばれる白ワインかビールを飲んで談笑し、バルをはしごするのだ。

PAGE 3

私は10月にここで開かれた「サン・セバスティアン・ガストロノミカ」という料理学会に招かれ、「日本の料理」の講演をしてきた。いま世界中で人気の「鮨」を始め、「とんかつ」「ラーメン」についても、人気の理由を伝えてきた。

「とんかつ」では、イベリコ豚まで揚げられている話をしたあと、「ラーメン」は、日本料理、フランス料理、イタリア料理のシェフまでが参入して、いまや百花繚乱だと。そして、なにより「自由」であることが一番の魅力で、それだからこそ、ニューヨーク、フランス、ロンドンまで、行列を作るほど人気の高いラーメン店が出現しているのだと。

PAGE 4

サンセバスチャンに4日いる間に、ラーメンを2度食べた。どちらも美味しかった！「サン・セバスティアン・ガストロノミカ」の会場になったすぐ近くにあったのが「TAKUMA」で、「RAMEN SUSHI」と店の入り口にある。ここでいただいたのが「RAMEN TRADICIONAL TOKIO」。スープは豚骨ベースの醤油味で塩味がほどよく、豚バラのチャーシューが美味かった。さすが、イベリコ豚の国である。バルをはしごして、締めに食べるのにちょうど良い感じだった。

TAKUMA

Restaurant Guru／TAKUMA

PAGE 5

翌日出かけたのが「SHIBUYA RAMEN」。店の前に「ラーメン」と書かれた板看板が目印だった。オープンキッチンの厨房にはスペイン人のシェフがひとり。私はここでも「醤油ラーメン」を選んだ。これが当たりだった！豚骨ベースの醤油味だが、スープが澄んでいて、とてもいい香りがするスープで、麺の茹で加減も申し分なく、これまた豚バラのチャーシューが3枚、ことのほか美味かった。「味噌ラーメン」を注文した仲間も、私同様大満足の一杯だったと笑う。

帰り際、店主に訊ねると、「渋谷」のラーメン屋で修業したとのことで、店名にしたという。そして、「うまみ調味料」は一切使っていないことを強調して、「美味しかった」ことを伝えると、とても誇らしげな様子だった。

PAGE 6

SHIBUYA RAMEN

Tripadvisor／SHIBUYA RAMEN

● 山本益博（やまもと・ますひろ）

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ２００』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル東京横浜＆近郊96-2001』『至福のすし「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ　想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章（メリット・アグリコル）シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP／山本益博　料理評論家　Masuhiro Yamamoto Food Critique