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2021.05.16

もう一度行きたい、ヴェネチアの魅力

イタリア・ヴェネチアの一等地にある美しく優雅なホテル「ダニエリ」。このホテル、なんだか傾いている!?

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第159回

ベニスと「傾いたホテル」が好き! 

ベニスには二度行った。でも、ずっと昔のこと。だからもう一度行きたい。今のベニスがどんな表情に変わっているのか見てみたい。

初めて行ったのは1971年冬。2度めは1986年春、、だったかと。50年ほど前と35年ほど前。いずれにせよ大昔のことだ。

まずは50年前のベニスから、、記憶をたどってみよう。

息子も一緒だった。71年なら5才だが、ほとんど記憶にないらしい。まぁ、そうだろう。

僕の記憶は、ゴンドラから始まっている。「水の都」の移動手段は水上バスと水上タクシー、そしてゴンドラだが、手漕ぎのゴンドラがベニスの風情には合う。絶対に。

もし、今後行く機会があり、最新のモーターボートのタクシーに出会っても、僕はゴンドラを選ぶ。

それにしても、単純な構造の頭脳では、ベニスが「ラグーン(干潟)の上に建設された都市」とは、なかなか理解し難い。

「丸太の杭を打ち込んで土台を造り、その上に建物を」、、小さなものを何戸か、程度ならわかる。だが、贅沢華麗な都市を造ってしまうとは、、。往時の権力の凄さと建築技術の凄さにただただ圧倒されるばかりだ。

泊まったホテルは「ダニエリ」。ラグーンに面した一等地に建つ。サンマルコ広場も「隣り」といえる距離感だ。

14世紀のベネチアンゴシック様式とされる建物は古色蒼然としていた。だが、美しく優雅でもあった。前に立っただけで、否応なく歴史の重みを実感できた。

歴史の重みというと、なんとなく重苦しく肩が凝るようなイメージかもしれない。でも、それはない。「美しく優雅」ではあるが、重々しさ、重苦しさはないということだ。
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ダニエリに足を踏み入れて、いちばん驚いたのは「傾いていた!」こと。目で見ても、歩いてもハッキリわかるほど傾いていた。

入り口も明らかに歪んでいたが、なぜかドアはスムースに開閉したことを覚えている。
ロビーも傾いていたし、階段も傾いていた。

常識的には「ありえない光景」だ。ベニス最高の、とまで言われるホテルが傾いているとは、、信じられなかった。

部屋に向かう時も、廊下が傾いていることはハッキリわかった。ベルアテンダントに「傾いてますね!」と言ったら、「ええ、でも大丈夫ですよ。滞在、お楽しみください!」と笑顔で返された、、ように思う。

だいぶ後になってからだが、、ベニスの建築物は「軟構造」で、多少歪んだり傾いたりしても問題ないことを知った。地震の多いイタリアなのに、ベニスの建築物が倒壊したことはないそうだ。

部屋のインテリアも古色蒼然としていた。でも、「贅沢な感じ」「非日常感」は文句なしだったこと、壁紙が鮮やかなようなくすんだようなグリーンだったこと、、そんなことを漠然とだが思い出す。

広い部屋ではなかったが、ラグーンビューなので眺めには満足したはずだ。部屋に入ってしばらくは、目の前に広がるラグーンを、行き交うゴンドラを眺めていたに違いない。

サンマルコ広場といえば、ドゥカーレ宮殿やサンマルコ寺院が立ち並ぶベニスの中心地だが、ハトの群れを思い出す人も少なくないだろう。

10数年前から、ハトへの餌やりは禁じられているようだが、昔は子どもたちの楽しみのひとつだった。

広場で売っている餌を買って手のひらに乗せるとハトが群がる。鳥嫌いは身がすくむだろうが、息子は大いに楽しんでいた。たしか、1度では足らずに、2度か3度、餌の催促をされたはずだ。

小さな島々と運河、無数の橋、細い路地に軒を並べる個性的な店、運河沿いのカフェ・レストラン、、、観光地巡りはあまり好きではないが、ベニスの風情には惹きつけられた。
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2度めのベニス行きは15年後の1986年。息子は大学生で運転免許証も取っていた。なので、ヨーロッパでの運転を体験させることも旅の目的のひとつだった。

ミュンヘンでクルマをピックアップ。ザルツブルグ、ボローニァ、フィレンツェ、パルマ、ミラノ、サンモリッツ、、、等々を巡る旅だったが、その間ベニスに立ち寄った。

その時もホテルはダニエリを選んだ。1度目のベニスは冬だったので空いていた。だから、ゆったりと楽しむことができた。

しかし、2度めは3月下旬。息子の春休み中の旅だった。一般的な旅行シーズンであり、いわゆる「修学旅行時期」とも重なっていたので、ベニスは大混雑。とくに、サンマルコ広場の混雑ぶりはウンザリするほどだった。

2度めのダニエリだが、「傾いていたかどうか?」、覚えていない。1度目で驚いたので2度めは驚かなかったのか、それとも修正されていたのか、、内外装が小綺麗になっていたのはなんとなく覚えているが、それ以外の記憶がない。

ベニスにはもう1度行きたいが、春や秋の旅行シーズンは嫌だ。静かな冬がいい。少々寒くても、静かにベニスの風情を味わいたい。

ホテルもダニエリがいい。ホテル検索サイトで現在のダニエリを見たが、外見のイメージは昔のままに保たれている。当然だろう。

しかし、内装は大きく変わった。美しく優雅、、は以前のままだが、そこに華やかさとモダンさが加わっている。以前の重苦しさはなく、とても明るい感じに変わっている。

肝心の「傾き」だが、どうやら今も傾いたままのようだ。補強等はあれこれやっているのだろうが、、。

でも、ダニエリは、いつまでも傾いたままがいい。もう一度訪れる機会があったら、傾いたロビーを歩きたいし、傾いた階段を上りたい。50年前の記憶を辿りながら、、。そうすればきっと、楽しさは倍加するだろう。
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2019年11月、ベニスは記録的な高潮に見舞われ、建物の85%以上が浸水の被害に遭ったという。

その時の映像をTVで見たが、まさに「惨状」だった。ダニエリを始め、古くからのホテルが立ち並ぶ前の広場には、多くのボートやゴンドラが打ち上げられていた。

運河沿いのレストランでは、テーブルや椅子が、物置に乱雑に放り込まれたように散乱していた。そして、商店街の狭い路地にまで、ボートやゴンドラが、、。

サンマルコ広場では、膝の下まで水に浸かりながら歩く人の姿が、、。大聖堂の礼拝堂床も完全に水に浸かっていた。

「ベニスが沈む」といったタイトルでの報道もあった。確かに、地盤沈下、地球温暖化による水害、建物の老朽化、、、等々、心配な要素は多い。、、でも、ベニスが沈むなんてありえない。

いろいろ検索してみると、可動式防潮堤の工事は進んでいるようだし、地盤のかさ上げも試験段階に入っているという。期待しよう。

静かな冬のベニスに行って、ゴンドラに乗って、傾いたダニエリを楽しんで、ラグーンを目の前にしたテラスで朝食、、、想像するだけでワクワクしてくる。

ダニエリの他にも傾いているホテルはいくつもあるのだろう。でも、もっとも優雅で、かつ格式あるホテルが傾いている、、そこに僕は惹かれる。ベニスという素晴らしい歴史の遺産の象徴のように思えるからだ。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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