文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト)
イラスト/溝呂木 陽
僕が「初めて買った大型バイク」はHOSK GA500。憧れはトライアンフ、BSA、ノートンといった英国車だったが高くて買えない。
で、HOSK GA500に。17才のときだ。
当時、神田に輸入バイク販売最大手の山田輪盛館(通称ヤマリン)があり、よく顔を出していた。顔を出すといっても、顧客でもないし、品定めのためでもない。憧れのバイクを眺めるためだ。ヤマリンもそんな僕を文句も言わずに受け容れてくれた。嬉しかった。
ヤマリンではトライアンフやBSAに乗る人たちとも知り合えた。「おい、俺の乗ってみろよ!」とキーを渡してくれたりもした。
感激だったのは、トライアンフT110タイガーのオーナーとの出会い。中年のナイスガイだが、ある週末、彼とワンマン道路で待ち合わせした。目的は「タイガー110(ワンテン)を全開で走らせること」。彼が「やってみる?」と誘ってくれた。最高の誘いだ!
むろん全開で走った。500ccバーチカルツインの鼓動感とレスポンスにはドキドキした。中速回転域の力感と切れ味も最高だった。
160k m/h 出るとされていたが、そこはさすがに遠慮した。140k m/h でアクセルを緩めた・・・「夢の時間!」だった。
当時の僕は2サイクル・250ccの国産バイクに乗っていた。でも、ワンテンに乗ってからは大排気量バイクを夢見るようになった。
とはいえ、外国車など買えっこない。で、目をつけたのがHOSK。ヤマリンが開発に携わり、販売した国産バイクだ。外国車ファンも注目したカッコと性能の持ち主だった。
500ccモデルには2気筒と単気筒があったが、単気筒の方が安くカッコよくも見えた。
仲のいいヤマリンのスタッフに頼んだら、すぐ「お買い得中古」を見つけてくれた。
シートをタンデム式に変えただけで、トライアンフやBSAにも引けをとらないほどカッコよく見えた。大排気量の単気筒バイクに乗る「通っぽさ」も得意だった。
マーロン・ブランドが暴走族を演じる「乱暴者」(日本公開1954年)は、当時のバイク乗り必見の映画。むろん僕も見た。カッコよさに痺れた。それからアメ横通いを始めた。
マーロン・ブランドが着けていた、キャップ、革ジャン、ジーンズ、ブーツに似たものを探した。キャップだけは見つからず、オーダーした。HOSKはけっこう安く手に入れたが、そこから先の小物の出費がかさんだ。
17才の頭は空っぽ。後先構わずカッコよさを追いかけるだけの日々だった。
●岡崎宏司/自動車ジャーナリスト
1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。