2017.10.12

成功者のボクがワインを造る理由【前編】

実業家、脱サラ後のセカンドライフ、趣味……三者三様の「ワインを造る理由」とは?

文/秋山 都
スティング、フランシス・フォード・コッポラ、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリー、ジャン・アレジにフェラガモ一家……彼らの共通点、おわかりでしょうか? ショービジネス? う~ん、残念。正解は「ワインを造って」いること。
 
かつて大財閥のロスチャイルド家がシャトー・ラフィットやシャトー・ムートンを我が物にしたように、欧米では自分のワイナリーを持つことは最高のステイタスとされ、成功者の証のようにも言われています。でも、なぜワイン造りがそれほど人をひきつけるのか?
 
ここではワイン造りに取り組む3人の日本人に話を聞きました。三者三様のスタイルから、彼らがなぜワインを造るのか、その魅力が見えてくるようです。

辻本憲三さん(カプコン創業者、CEO)

辻本憲三/1940年生まれの実業家。カプコン創業者、代表取締役CEO。個人の事業として「ケンゾーエステート」(カリフォルニア、ナパ・ヴァレー)代表。
辻本憲三/1940年生まれの実業家。カプコン創業者、代表取締役CEO。個人の事業として「ケンゾーエステイト」(カリフォルニア、ナパ・ヴァレー)代表。
さて、まずひとりめは「ストリートファイター」や「モンスターハンター(モンハン)」など人気ゲームを生んだカプコン創業者にしてCEOを務める辻本憲三さん。辻本さんはワイン好きが高じてナパ・ヴァレー(カリフォルニア州)に470万坪(東京・中野区とほぼ同じ広さ!)ものワイナリー「KENZO ESTATE」を作ってしまった、ワイン業界でも有名な人です。
 
2008年に初リリースされた「紫鈴(りんどう)」「紫」「藍」と名付けられたワインは、予約がなかなかとれないレストラン「フレンチ・ランドリー」(ナパ・ヴァレー)のワインリストに加えられたことでも話題になり、日本人が生んだ“ナパの奇跡”と称されました。
 
と、書けば数行で終わってしまいますが、実際のところワイン造りは簡単には進まず、1990年に決意してからワインをリリースするまで実に18年もの月日が必要だったのでした。
ケンゾー エステイトのワイン全7アイテム。右から、明日香、紫鈴(りんどう)、紫、藍、結(ゆい)、あさつゆ、夢久(むく)。
ケンゾー エステイトのワイン全7アイテム。右から、明日香、紫鈴(りんどう)、紫、藍、結(ゆい)、あさつゆ、夢久(むく)。
―辻本さんはなぜワイナリーを作ったのですか?
 
「そもそもカプコンでは、アメリカでの成功を機に、ビデオゲームの会社という企業性格から、ユーザーをインドア志向にさせているといった無用なバッシングを受けないよう、並行してアウトドア向けの事業を展開しようと準備していました。そこで、ロサンゼルス五輪の公式練習場があったナパ・ヴァレ-の山間部に、470万坪の敷地を購入し、乗馬のテーマパークを開発しようとしていたのです。しかし、収益性が見込めず、その計画は頓挫してしまい、その広大な敷地だけが宙に浮いてしまったため、会社の負債を補うため、やむを得ず、私がその荒野同然の土地を買い取ったのが、事の始まり。
 
もちろん、最初は、そんな広大な土地の使い方など思いつくはずもありませんでした。しかし、ある時、ワイナリー関係者から、『敷地の一部を畑として使わせてほしい』とか『敷地内の湧き水を使わせてほしい』といった依頼が次々と来るようになったのです。未開の山林でしかないと思っていたこの場所が、実はブドウ栽培において、大きな可能性を秘めた環境であったことに気付かされたのです。
 
私は、昔からものづくりが大好きでして、ナパ・ヴァレーのワインにも以前から愛着を持っていました。そうなると『自分の手でワインを造ってみたい』という情熱がムクムクと湧き上がってきて。それが、この地で自らのワイナリーを立ち上げ、世界最高峰のワインづくりを目指す、私の長い挑戦の始まりとなりました。
 
―まず、なにから始めたのでしょう。
 
「470万坪もの広大な敷地の中から、ブドウ栽培に最適だと思われる場所を探すことが、第一歩でした。敷地には、豊かな緑に覆われた山々が広がっています。私は、その環境を壊すことなく、美しい大自然の中で、純粋なブドウを作りたいと考えていました。ですから、ブドウ栽培を始めるにあたって、畑として耕す場所はごく一部の場所に限る必要があったのです。結果的に、レオマレイクという湖に程近い、日当たりの良い丘陵地に12万坪ほどの畑を開墾していったのです。敷地の総面積のわずか2.5%ほどだけを畑にしていきました。
 
同時にワインの勉強も始めました。世界最高峰のワインを自らの手で造り出していこうと考えてから、私は、タッグを組んだブドウ栽培家のデイビッド・アブリューと、あることを約束していました。それは、世界中の良質なワインを飲み比べて、自分が本当に美味しいと思える味わいを見つけておくということ。そこで私は、1万円以上の値段のワインを世界中から買い揃えていきました。その数、トータルで1万本。それらを友人たちとともに、目の前にいくつものグラスを並べ、ダブル、トリプル・テイスティングしていくのです。ワインというものは、何種類かを同時に飲んでみると、味わいの違いがよくわかるものです。そして、人間というものは現金なもので、同時に何種類ものワインを飲み比べていくと、自ずと美味しいワインからなくなっていくものなんです。そうやって、ワインの美味しさを見つけ出していくのって、どこか楽しいでしょう?」
 
―1万円以上のワインを1万本…ということは1億!? ワイナリーを造るのにはずいぶんお金がかかったのでは?
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