2017.05.16

マクラーレンが愛した公道のF1

2017年3月7日(火)〜3月19日(日)まで第87回「ジュネーヴ・モーターショー」がパルエキスポ・コンベンション・センターにて開催された。

サロン・アンテルナショナル・ド・ロト(Salon International de l'Auto)、通称「ジュネーヴ・モーターショー」とは、スイス・ジュネーヴで毎年春に開催される大規模な国際自動車見本市(モーターショー)で、世界5大モーターショーのひとつだ。クルマの“今”が見える場所から、自動車ジャーナリストの大谷達也がお届けする最新レポート第三弾。

スーパースポーツを普段使いした天才

マクラーレンといえば、F1でフェラーリに次ぐ歴代2位の通算182勝を挙げた“超”名門チーム。そんなマクラーレン、実は公道を走るロードカーの開発にも長年取り組んできていて、創業者のブルース・マクラーレンはスーパースポーツカーのM6GTを1969年に作り上げると、その翌年にレーシングカーのテスト中に事故死するまで日常的に愛用していたとされる。

彼らはその後も1993年デビューのマクラーレンF1、2004年発売のメルセデスベンツSLRマクラーレンなどを世に送り出してきたが、2010年には体制を一新して再出発を図った。その第1作目が2011年にデビューしたMP4/12C(単に12Cと呼ばれることも多い)で、以来、カーボンモノコックにV8 3.8ℓツインターボエンジンをミッドシップした美しいスーパースポーツカーを次々と生み出している。


MP4/12C(カラー:バーミリオン・レッド)

ただし、決して大規模な自動車メーカーとはいえない彼らは、12Cに用いたカーボンモノコックとエンジンを丁寧にチューニングしながら活用。その完成度は驚くほど高かったが、初代の登場から6年を経て、最新テクノロジーを投入した次世代モデルの登場が次第に待たれるようになった。

その待望のニューモデル“720S”がジュネーブショーでデビューした。モノコックはこれまでの“モノセル”から“モノケージⅡ”に置き換えられ、コクピット上部に一種の支柱を追加することで軽量化と高剛性化を同時に達成。さらに、ドアを開けたときに現れるサイドシルと呼ばれる部分を従来型よりも低く抑えて乗降性も改善した。

720S(カラー:ダーク・シルバー)

モデル名の由来ともなった最高出力720psのV8ツインターボエンジンは、既存のユニットをベースにしつつも40%以上のパーツを新開発。さらに、吸気系とキャビンを4本のパイプでつなぐことで美しいサウンドを響かせることにも成功したという。

F1スピリットの宿るニューマシン720S

ジュネーブショーで720Sのドライバーズシートに腰掛けた際、もっとも驚いたのがその広々とした視界だった。ミッドシップスポーツカーは斜め後方の視界が決定的に悪く、これが市街地を走るときのひとつの障害となっていた。ところが720Sはピラーを徹底的に細くするとともにリアサイドウィンドウを設け、斜め後方の視界を格段に改善したのである。

720S(カラー:ボルケーノ・オレンジ)

デビュー作の12Cに比べれば、はるかに華やかなスタイリングが与えられた720Sだが、フェラーリのようにエクステアリア・デザインやインテリア・デザインにF1と共通のモチーフを見つけることは難しい。しかし、マクラーレンは見た目のデザインよりも一歩深い部分まで掘り下げてF1のスピリットを取り入れているように私には思える。

そのスピリットとは、無駄なく効率的で、見た目の派手さよりも科学的根拠に基づいた設計手法といえる。たとえばナビゲーション・システムなどを映し出すモニターは縦型とされているが、これは比較的幅の狭いセンターコンソールに収めるうえで実に合理的で、しかもナビゲーションを使用中は自分の進行方向を縦型モニターに長く映し出せるというメリットがある。

 エクステリアも徹底的に効率にこだわったデザインだ。720Sでは、最高出力が引き上げられたことでエンジンが発生する熱量も増えた。この場合、ラジエター容量を拡大し、ここに冷却気を導く開口部も大きくするのが一般的な手法だが、開口部が大きくなれば空気抵抗も増えるので、せっかくエンジンをパワーアップしても増大した空気抵抗と相殺されて運動性能は大して変わらない事態になりかねない。

そこでマクラーレンは、冷却気をもっとも効率的に取り入れられる構造を新たに考案。これまでより小さな開口部から最高出力720psのエンジンを冷やすのに十分な冷却気の取り入れに成功したという。

720S(カラー:ボルケーノ・オレンジ)

歴代マクラーレンは、どれもドライバーをいたずらに刺激することなく、むしろ超高速で飛ばしていても冷静でいられるハンドリングに仕上げられていた。300km/hでバトルを繰り広げるF1マシーンも、同じくドライバーが冷静にコントロールできるハンドリングとされているはず。そんなところにも、F1を長年戦ってきたマクラーレンらしさが現れているといえるだろう。

取材・文/大谷達也

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