2016.10.10

モータースポーツが 教えてくれること

※本特集は2016年10月号で掲載した企画の抜粋です。

時に"走る実験室"と例えられるモータースポーツの世界。
そこで培われたテクノロジーは、いまもスポーツカーを中心とする
量産車へ確実にフィードバックされている。トヨタの惜敗が話題となった
「ル・マン24時間レース」に挑戦し続けるアウディは、
そのもっとも顕著な例といっていいだろう。

アウディが先行した技術は全世界で採用された

モータースポーツの世界は時として非情だ。わずか1秒差で勝敗が分かれ、勝者には栄光が、敗者には辛酸と落胆が待ち構えている。数百億円の予算と1年もの時間を費やしながら数百円のパーツが壊れたために勝利を取りこぼすこともあれば、時にはライバルチームに襲いかかったトラブルによって幸運な勝利が転がり込むこともある。いずれにせよ、勝利の美酒は限りなく甘美で、それを逃した時の敗北感はたとえようもなく苦いはず。にもかかわらず、世界の名だたる自動車メーカーはなぜレースに挑むのだろうか。

逆説的な話ながら、その理由のひとつには勝者と敗者がきっぱりと分かれる冷酷さにある。1秒差だろうと1000分の1秒差だろうと、勝ちは勝ち。それは彼らのドライバーが、マシンが、そしてマシンに投入された技術の数々が優れているからにほかならない。レースを戦うエンジニアたちにしてみれば、自分たちのテクノロジーの優秀性をこれほどはっきりとした形で世に示す術はほかにないくらいだろう。

Super GTスーパーGT



レースで輝くAMGの"ワンマン・ワンエンジン"

LEONチームが走らせるメルセデス-AMG GT3は、AMGのロードカーにも採用されている“ワンマン・ワンエンジン”のコンセプトに基づいて組み立てられる。その優れたパフォーマンスと傑出した信頼性により世界中のGT3レースを席巻中。市販車と共通の思想で成功した典型的な例といえよう。

例えば今年もル・マン24時間レースを戦ったアウディ。1999年に“世界でもっとも過酷なレース”と称されるこの耐久イベントに初出場した彼らは今年、通算出場18回目にして18年連続表彰台という快挙を成し遂げた。つまり、これまで1度も表彰台を逃したことがないのだ。そればかりではない。通算13度の総合優勝は、あのポルシェに続く歴代2位の成績だし、そもそも参戦18年で13勝を挙げた勝率の高さはポルシェをも凌ぐ大記録なのである。

しかもアウディには、量産車と同じキーテクノロジーを用いてル・マンを戦うという伝統がある。例えばダウンサイジングターボ・エンジンで2001年のル・マンを制覇。これは量産化されるより3年も前のことで、アウディが先行したこの技術がやがてライバルメーカーにも採用されたことはご存知のとおり。それ以降も、直噴ターボディーゼルのTDI(2006年)、超軽量化技術のultra、プラグインハイブリッドに代表される電動化技術のe︲tron、アウディ独自の4WDシステムであるquattro(いずれも2012年)などを次々と投入。それらにより、これまで13回に上る栄冠を積み重ねてきたのである。

今年は優勝を逃し、最上位車は3位。その理由を端的に述べれば、レギュレーションの変更が大きい。ディーゼル・エンジンが不利になったことを承知のうえで、自分たちのコアテクノロジーであるTDIで敢えて挑戦し、ガソリン・エンジンで挑むライバルに肉薄する健闘を示したことは賞賛に値する結果だろう。

Formula 1F1



ハイブリッドとミッドシップを極めたホンダ

世界最高水準のハイブリッド技術で覇を競い合うF1。日本メーカーとして唯一、F1に参戦している

ホンダは日本のスーパーGTに次期型NSXを先行して投入。これまでミッドシップスポーツカーの可能性を探っていた。その成果は、新型NSXにも大いに受け継がれている。

さて。モータースポーツの世界で技術を磨き、それを量産車にフィードバックしているメーカーはアウディばかりではない。LEON RACINGがスーパーGTに投入する、メルセデス︲AMG GT3に搭載されるV8 6・3リッター・エンジンは、AMGの根源ともいうべき“ワンマン・ワンエンジン”の思想を踏襲。たったひとりのメカニックの手でエンジンを組み立てることで、より高いクオリティを実現している。F1では、高度なハイブリッドシステムによる戦いが繰り広げられているが、ホンダはここでパフォーマンスと効率をかつてないレベルまで引き上げるための飽くなき挑戦を続けているところだ。

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