• TOP
  • STAY&TRAVEL
  • ヴェネツィア行きを決めたのは、「アマン ヴェニス」にどうしても泊まりたかったから

2025.06.15

ヴェネツィア行きを決めたのは、「アマン ヴェニス」にどうしても泊まりたかったから

誰もが憧れる水の都・ヴェネツィア。旅先としてトップクラスの人気を誇るその街に、ホテル好きが羨望するホテルが存在します。それが、「アマン ヴェニス」。ホテルを目指し、結果、街も好きになる流れがあると教えてくれた滞在をレポートします。

BY :

文/大石智子(ライター)

3キーホテルに認められた「アマン ヴェニス」へ

ヴェネツィア アマン ヴェニス
ヴェネツィアといえば、コロナ前も後も、オーバーツーリズムが取り沙汰されやすい街。「モテすぎて困ってしまう」という話じゃないですが、何かしら弊害が起こるほど魅力的というのは凄いことです。確かに絵画のように美しいヴェネツィアの写真を見たら、誰もが自分の目で見てみたいと思うでしょう。

それと同じ感情を筆者にもたせたのが、「アマン ヴェニス」。初めて写真を見た時、「本当にホテルなのか?」と疑わざるを得ませんでした。どう見ても宮殿と思ったら、本当に宮殿。16世紀に豪商が建てた宮殿がアマンになっていたのです。宿泊済みのホテル好きからは、絶賛の口コミが相次ぎます。影響を受け、いつか行きたいと思い続けていたらコロナ禍に。
PAGE 2
やがて観光が完全復活した2024年5月。イタリアで初めて発表されたミシュランキーホテルにおいて、「アマン ヴェニス」は3キー(3つ星レストランに相当)を獲得します。ある意味、最大影響力の口コミですから、決定打となりヴェネツィア行きを決意。ホテル好きから覆面調査員、そして私もまた魅了された理由をお伝えしていきます。
右に見えるのはサン・マルコ寺院。
▲ 右に見えるのはサン・マルコ寺院。
PAGE 3

475年前に建てられた宮殿に泊まる

ヴェネツィアの一等地サン・ポーロ地区に立つ「アマン ヴェニス」。
▲ ヴェネツィアの一等地サン・ポーロ地区に立つ「アマン ヴェニス」。
「アマン ヴェニス」に宿泊するゲストの理想の交通手段は、ヴェネツィア・マルコポーロ国際空港からホテルの送迎によるクルマとボートを乗り継いでの到着。カナルグランデ(大運河)沿いに佇むホテルですから、水の流れに揺られながら、「見えてきましたよ」なんて言われ目にする第一印象はどんなに素敵か。

そんな話をしたあとで突っ込まれるかもしれませんが、リアルなところ、筆者は「アマン ヴェニス」に徒歩で着きました。空室状況の都合で前日まで近所のホテルに泊まっていたからです。ホテルの門に着くと、水上チェックインとは違った驚きが。
PAGE 4
門の向こうに庭と巨木が見えるのです。普通ならなんら珍しくないことですが、ここは水上都市・ヴェネツィア。地中に土は存在せず、植物が生える場所は極めて少ないのです。その街で、なぜ「アマン ヴェニス」が庭をもっているか探ることは、建物の歴史を知ることに繋がります。
ヴェネツィアでは稀少な庭。
▲ ヴェネツィアでは稀少な庭。
2013年に開業した「アマン ヴェニス」の歴史は16世紀に遡ります。その建物は、1550年にベルガモ商人のコッチーナ家が、巨匠建築家ジャン・ジャコモ・デ・グリージに依頼してできた宮殿。1864年に銀行家のパパドポリ伯爵が所有すると、伯爵は華麗なネオルネッサンス様式へと改築を施しました。さらに、どうしても欲しかったのが庭。隣に建っていた建物まで購入し、その場所に庭を造らせたのです。なぜパパドポリ伯爵がそこまで宮殿造りにこだわったかといえば、妻への贈り物だったから。
PAGE 5
1922年にはパパドポリ家の娘が宮殿を持参金にアリヴァヴェーネ伯爵と結婚し、現在もその一族が所有しています。土を運んで造った庭は160年以上大切にされ、いまでは木は5階までの高さに。

いったん荷物を置くためホテル内に入ると、時間を伝えていたわけではないのに「Good Morning, Ms.Oishi」と名前を呼んで歓迎してくれたのは、流石アマン。温かなホスピタリティと時代を超越した美しさに包まれる時間が、入って5秒で始まります。

コーヒーでもいただこうと2階へ向かいますが、階段が美し過ぎて立ちどまってしまう。壁にも天井にもフレスコ画が描かれ、光をもたらすのはシャンデリアとステンドグラス。まるで開館前の美術館に入ったようで、しかし階段はまだまだ序章です。
1階レセプション前。
▲ 1階レセプション前。
PAGE 6
2階へ続く階段。
▲ 2階へ続く階段。
階段の先にある「ボールルーム」が、さらに圧巻。かつて舞踏会が行われていた部屋の壁と天井は、壮大なフレスコ画で彩られ、天使の彫刻が点在し、窓の外にはカナルグランデの景色が広がります。贅沢にもそこが朝食の場ともなり、一杯のオレンジジュースすらもドラマティックに見え、写真に収めてしまう。
PAGE 7
館内で最も華やかな「ボールルーム」。
▲ 館内で最も華やかな「ボールルーム」。
館内のフレスコ画の大半は、“18世紀イタリア絵画における最大の巨匠”とも称されるティエポロによるものですから、ホテルであり本当に美術館的存在。写真や動画を撮りながらも、「ここはもうNHKの8Kカメラで撮った方がよいのでは……」という気になってきます。
スタッフのシルエットがボールルームを一層魅力的に見せます。シャンデリアにはムラーノガラスを多数使用。
▲ スタッフのシルエットがボールルームを一層魅力的に見せます。シャンデリアにはムラーノガラスを多数使用。
PAGE 8
卓上のグラスまで優雅に映る。
▲ 卓上のグラスまで優雅に映る。
館内には天使の絵や彫刻が多数。
▲ 館内には天使の絵や彫刻が多数。
PAGE 9
螺旋階段の天井にもフレスコ画が。
▲ 螺旋階段の天井にもフレスコ画が。

宮殿ホテルには、貴族一家がいまも住んでいた!

イタリアの雑誌の表紙も飾る姉妹。
▲ イタリアの雑誌の表紙も飾る姉妹。
PAGE 10
豪華な空間でありながら温もりも感じられるのは、実はいまも伯爵一族が最上階に住む“家”だからかもしれません。

「アマン ヴェニス」の誕生は、アマン創業者のエイドリアン・ゼッカが美しい宮殿に心奪われたことがきっかけ。しかし、そこはアリヴァヴェーネ伯爵が妻や5人の子供たちと住む大切な我が家であり、今後も住みたいと思う場所でした。その気持ちを尊重し、伯爵一家が居住したまま「アマン ヴェニス」として宮殿を借りることに。伯爵は「アマンであれば」との信頼関係を元に了承したのでした。

「ヴェネツィアは湿気が多く建築物を維持するには非常に難しい場所でもあります。かかる費用も相当なものになります。当時、アマンは伯爵に元の宮殿をなるべく忠実に再現する修復と保持を約束しました。改修方法の提案も含め、アマンは伯爵の哲学に沿った唯一のブランドだったと聞いています。伯爵は巨大組織とのビジネス的な話は好まず、歴史やカルチャーを尊重するパートナーに扉を開いてくれました」と、広報担当者。ちなみにこの話を広報担当者に聞いている時、背景が美し過ぎてドキュメンタリーフィルムを見ている錯覚に陥りました。
PAGE 11
現在ここに住む伯爵婦人はサヴォイア=アオスタ家の王女であり、4人の娘と1人の息子も品格溢れる風貌。長女ヴィオラさんのSNSなどを見ると、イタリア上流階級のライフスタイルが垣間見られます。

本物の貴族とホテルのゲストが共存する建物という点でも稀少な場所。開放されたライブラリーには代々集められた書籍が並び、読むことは出来ないですが、かつて貴族たちがめくった本に囲まれるという事実が贅沢です。足もとの大理石の切り替えを見れば、床からも当時の職人の技術や保持へのこだわりを感じられます。
天井や壁に精巧な木の彫刻が施されたライブラリー。
▲ 天井や壁に精巧な木の彫刻が施されたライブラリー。
PAGE 12
4層の大理石からなるライブラリーの床。
▲ 4層の大理石からなるライブラリーの床。
宮殿に住んだ貴族たちの姿を館内に展示。
▲ 宮殿に住んだ貴族たちの姿を館内に展示。
PAGE 13
▲ ゲストルームは計24室。こちらは天井にフレスコ画が配された「Alcova Tiepolo Suite」。
PAGE 14
泊まったのは庭に面した「Standard Room」。庭に通ずるドアがあるので、早朝などはプライベートガーデン気分に。エントリーレベルの客室でも50㎡以上あり、ヴェネツィアのなかでは各客室が広くとられています。
▲ 泊まったのは庭に面した「Standard Room」。庭に通ずるドアがあるので、早朝などはプライベートガーデン気分に。エントリーレベルの客室でも50㎡以上あり、ヴェネツィアのなかでは各客室が広くとられています。

人生イチ贅沢なビールとフリットを体験

魚介はホテルから徒歩10分のリアルト市場から調達。
▲ 魚介はホテルから徒歩10分のリアルト市場から調達。
PAGE 15
前述の「ボールルーム」では、レストラン「ARVA」のアラカルトを昼夜と提供。文化財でもあるフレスコ画に囲まれながら、ビールを飲む時間も与えてくれるから懐が深い。おつまみは現地のストリートフードである魚介のフリット“スカルトッソ”。ヴェネツィア近郊では小魚が多く獲れ、捨てるにはもったいないので揚げて食べる習慣が16世紀に始まったとか。その食文化を反映して小魚が盛られていますが、大きめの海老も入った少し贅沢な仕様なのがアマンらしい。

卓上にビールがあると、夢のような空間をこの瞬間の現実と思えるから不思議です。それはホテルになったからこそ叶う一杯。こんな高貴な場所でビールを飲むことは、もう二度とないはずで、一杯が染み入ります。
赤いシルクの壁に囲まれ、特注シャンデリアが吊るされた「THE BAR」。
▲ 赤いシルクの壁に囲まれ、特注シャンデリアが吊るされた「THE BAR」。
PAGE 16
「THE BAR」は、宮殿の歴史や芸術を体現するカクテルをそろえます。ヘッドバーテンダーはヴェネツィアの隣町パドバの出身。パドバのグルメも教えてくれますし、ここで開業時から働いているので、ヴェネツィアや宮殿のこともよく知っています。宮殿への尊敬をカクテルに込め、例えば「デヴォツィオーネ」という一杯では、バーの天井に描かれたチェーザレロッタのフレスコ画と同じ絵柄をオン。天井と見比べながら、食べられる絵を口にするのが楽しいです。
「デヴォツィオーネ」にはテキーラやアプリコットビネガーを使用。
▲ 「デヴォツィオーネ」にはテキーラやアプリコットビネガーを使用。
PAGE 17
朝食のエッグベネディクト。
▲ 朝食のエッグベネディクト。

曇天にも惚れてしまう

冬から春は高潮となるヴェネツィア。
▲ 冬から春は高潮となるヴェネツィア。
PAGE 18
長らくヴェネツィア行きに踏み切れなかったのは、おそらく混み合った街という印象があったから。しかし、「アマン ヴェニス」には静寂が保たれ、穏やかに過ごせます。12月の滞在が自分に合っていた気も。夏と比べると人は格段に少なく、小道はクリスマスのイルミネーションに彩られ幻想的。何より、冬らしい曇天や霧が発生する時期にしか感じられない景色に見惚れました。

通常、旅先では晴天を望みますが、ヴェネツィアではその欲がなくなったのです。「ヴェネツィアのオレンジの屋根は青い空と一緒だと強い印象。でも、太陽に照らされていない色もまた美しいです」と前述の広報さん。確かにオレンジとグレーの空もいい塩梅なのです。その景色を、「アマン ヴェニス」の様々な窓から眺める時間が至福。
絶えず船が行き交うカナルグランデ。
▲ 絶えず船が行き交うカナルグランデ。
PAGE 19
ダイニング、ラウンジ、階段の踊り場etc. 館内には向きも形も異なるたくさんの窓があり、息づく景色のなかで、自分だけのお気に入りの瞬間を見つけられます。宮殿の窓という額縁が合ってこそ、その眺めが一層絵になるのです。

そして一度は、小さな廊下を抜けて、街を一望する共用テラスへ。宿泊者のみが知る絶景ポイントで、運河と逆側の街もまた美しいと発見します。
オレンジ色の屋根や教会を見渡す共用テラス。
▲ オレンジ色の屋根や教会を見渡す共用テラス。
以上が、滞在から感じた主な魅力でした。なぜ「アマン ヴェニス」が特別視されるのか、想像していただければうれしいです。このホテルへの滞在は人生でたった一度の経験。どれだけ貴重だったか、時間が経つほどに自分のなかで価値が増してきている気がします。形にはすべて表せないものを養ってくれるホテル。この場所で守り続けられる歴史と文化が、そう思わせてくれます。
PAGE 20
「Grand Canal Suite」のリビングは大きな鉄細工の窓を設置。
▲ 「Grand Canal Suite」のリビングは大きな鉄細工の窓を設置。
運河沿いに庭を設け、くの字型に建物が立つため川を見渡す窓が多い「アマン ヴェニス」。
▲ 運河沿いに庭を設け、くの字型に建物が立つため川を見渡す窓が多い「アマン ヴェニス」。
PAGE 21
2階に向かう階段を見上げた時の景色。
▲ 2階に向かう階段を見上げた時の景色。
1月初旬から2月初旬までの1ヶ月間は清掃とメンテナンスのために全館休業。芸術作品である意匠に変化がないかをチェックし、必要あれば修復されていきます。
▲ 1月初旬から2月初旬までの1ヶ月間は清掃とメンテナンスのために全館休業。芸術作品である意匠に変化がないかをチェックし、必要あれば修復されていきます。
PAGE 22

■ AMAN VENICE

宿泊料金/1泊€1700〜(税別)
アマン共通日本語フリーダイヤル(月~金10:00~17:00)/0120-951-125
HP/https://www.aman.com/ja-jp

大石智子(ライター)
出版社勤務後フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、毎月海外に渡航。スペインと南米に行く頻度が高い。柴犬好き。Instagram(@tomoko.oishi)でも海外情報を発信中。

こちらの記事もオススメです

PAGE 23

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

Web LEONの最新ニュースをお届けします。

SPECIAL

    おすすめの記事

      SERIES:連載

      READ MORE

      買えるLEON

        ヴェネツィア行きを決めたのは、「アマン ヴェニス」にどうしても泊まりたかったから | 旅行 | LEON レオン オフィシャルWebサイト