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2026.08.19

西島秀俊インタビュー。「本当にすごい脚本。このオファーをいただいて断るという選択肢はないと感じた」

『下妻物語』『嫌われ松子の一生』『告白』の中島哲也監督が18年間温めてきた企画を映画化した『時には懺悔を』(8月28日公開)で主演を務めた西島秀俊さん。作品の試写を見て「感動した」という西島さんに本作の撮影で経験した特別な時間についてお話しいただきました。

CREDIT :

文/浜野雪江 写真/平郡政宏 スタイリング/オクトシヒロ  ヘアメイク/HARUKO ICHIKAWA(ひつじ)  編集/森本 泉(Web LEON)

西島秀俊 時には懺悔を 中島哲也 LEON ドライブ・マイ・カー

2021年公開の映画『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督作品)で、思いを内に秘めた主人公を独特の存在感で演じ、世界的な注目を浴びた西島秀俊さん。今回は『下妻物語』や『告白』などで知られる中島哲也監督が18年間温めてきた企画を映画化した『時には懺悔を』(8月28日公開)で、激しい自責の念を抱えて生きる主人公の探偵・佐竹三雄役を演じています。


物語は、佐竹の元同僚の探偵・米本洋一(佐藤二朗さん)が何者かに殺害された事件から始まります。その真相を探る過程で、佐竹と助手の中野聡子(満島ひかりさん)がたどり着いたのが、9年前の新生児誘拐事件。殺された米本が死の直前に調査していたのは、9年前に連れ去られ、今は“父親”の明野哲夫(宮藤官九郎さん)と暮らす、重い障がいのある少年・新のことでした。


やがてミステリーの枠をはるかに超え、親子の絆や命の尊さについて問いかける本作で、西島さんが障がいのある子どもたち(スペシャルニーズ)との共演を通して感じたことや、演じることへの思いについて伺いました。

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綺麗事でない世界を描きながらも、その先にはかすかな希望が

── 本作は、自らも障がいのある息子を育てた作家・打海文三さんの同名小説に強い感銘を受けた中島哲也監督が18年間温めてきた構想をようやく実現させた作品とのこと。脚本を読んでの感想から伺えますか?


西島秀俊さん(以下、西島) 本当に素晴らしい、すごい脚本だと思いました。俳優をしていると、“この作品からオファーが来たらどのパートであっても受けたい”と強く感じる脚本に出会うことがあるのですが、これはまさにそういう脚本でした。


原作では、僕が演じた佐竹はどこか外から事態を見ている立場だったのを、監督が佐竹自身もある意味で当事者的な位置づけの役にしています。原作をもう1回再構成して、原作が持つ綺麗事ではない部分を抽出してより濃度濃く表現していると感じました。そして綺麗事ではない世界を描きながらも、その先のかすかな希望も描かれている。このオファーをいただいて断るという選択肢はないと思いました。


それから、スペシャルニーズの子どもたちが、実際にその役として出演するということを聞いたので、それもぜひ参加したいと思う理由の1つでした。

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西島秀俊 時には懺悔を 中島哲也 LEON ドライブ・マイ・カー

── 西島さん演じる佐竹はいつも苦しそうで、とにかく飲んだくれているシーンが多いですが(笑)、その心情や人物像をどのようにとらえましたか。


西島 佐竹は、過去に取り返しがつかないことをしてしまった男です。その逃れようのない現実と、探偵という仕事をする中で世の中の淀みのようなものを見続けてきたことで、まるで灰色のような世界で生きている人だと思います。


その取り返しのつかないことから生じた責任が自分にはあり、まだ背負っているものがあるから生きてはいますが、本人の中ではもう自分は生きていないような感じなので、周りに何を言われても、どう思われても別に何も感じることはない。ただ、だからこそ、心の奥底では救われることや、世界はそんなものではないと思える瞬間をどこかで待っている、そんなキャラクターです。

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“映画だから”“演技だから”ついやってしまうことはやめましょう

── そんな佐竹を演じるにあたり、監督からはどのような要望がありましたか。


西島 最初のリハーサルで、監督から、「声のトーンがちょっと低くて強い気がします」と言われました。 佐竹は自分が話していることが相手に通じようが通じまいが、あんまり関係ないと考えている。満島さん演じる助手の聡子に一応指示は出しているけれど、伝えようとして伝えているわけではないと。


それは、映画だから通用する「リアルではないこと」をなるべく排除していきましょうということの一つだったと思います。ほかにも、例えば静かな住宅街の路上で口論するシーンで、大きな声で言い合ったりするのは、映画ではついそうやってしまうことがありますが、現実では起きにくい。それを監督は「普通は違いますよね?」と指摘された。


現実を理解したうえであえて大きな声を出すことを選択するのは構わないが、“映画だから”とか“演技だから”ということで、簡単に現実のラインを乗り越てしまうようなことはやめましょうということではないかと考えました。そのリアリティの追求にとても丁寧に時間をかけて、繊細に演出をされるところにも中島監督のすごさを感じました。

西島秀俊 時には懺悔を 中島哲也 LEON ドライブ・マイ・カー
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── 宮藤官九郎さん演じる明野と暮らす新役のしんすけくんをはじめとする、スペシャルニーズの子どもたちとの共演はいかがでしたか。


西島 最初にお会いした時に、ご家族から「俳優として接してください」と言われたんです。「だから、やりたいことは遠慮しないでください。何か迷うことがあったら私たちに相談してください。ただ、やる前から自分でストップをかけることはやめてください」と。確かにその通りだと思って、「わかりました」と答えて撮影に臨みました。


しんすけくんは、「本番」の声がかかると時々笑うんです。他の子どもたちも、本番で手を振ったり、笑顔を見せてくれる。それでありながら、自分がカメラの前でこういうことをしてやろう、といった意図的な演技ではないんです。本当にその瞬間に自然に出てきた演技をしていました。それはとても感動的で、自分もこんなふうにカメラの前にいたいと、心の底から思いました。

── 監督からは、しんすけくんたちに対して演出的な声掛けなどはあったのでしょうか。


西島 実際、監督が、どのように演出されていたのかはわかりません。ただ、僕個人として、求め続けている理想の演技がそこにはありました。意図的なものから離れて、役や物語に即した存在そのものとしてカメラの前にいる。彼らはそういう演技を自然にしていて、非常に感銘を受ける瞬間がたくさんありました。

西島秀俊 時には懺悔を 中島哲也 LEON ドライブ・マイ・カー
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満島(ひかり)さんは、本当に表現するために生まれてきた人

── 例えばしんすけくんの演技を受けて、思いがけない自分の感情が溢れたりするようなこともありましたか?


西島 基本的に佐竹というのは何も感じない人ですが、それでも心の奥底には柔らかい部分があって、そこに何か光のようなものが、この物語の中で届いてきます。それは、あるシーンで新と触れ合うことでも大きく感じましたし、満島さん演じる聡子や、いろいろな人の行動によって感じる場面もありました。


僕はそこで、何か感じる演技をしようということではなく、目の前で起きたことに反応しようと思っていました。感情を表に出さない佐竹という人物を演じていましたが、 映画の中の佐竹が何か反応しているように見えたのであれば、それは佐竹を通して僕自身が感じていることでもあったのではないかと思います。

▲ 『時には懺悔を』

▲ 『時には懺悔を』

── 助手の聡子を演じた満島ひかりさんとは初共演だったそうですね。満島さんや、新と暮らす明野役の宮藤官九郎さんとの共演はいかがでしたか。


西島 明野が新の世話に明け暮れながらも、それを当たり前の日常として送る様子に周囲の人間が救われていくのですが、明野本人は自分の行為の崇高さにまったく気づいていない。宮藤さんは、そういうありのままの明野を演じていました。


しみじみとした感じに行きそうなところを、そうではなく、自分の行為がもたらしているものに気づいていないままの明野として演じることで、周囲がその光をより強く感じる。本当に素晴らしかったです。一緒に演じていて心が動かされました。


そして満島さんは、表現するために生まれてきたと思うような人でした。まるで表現することが自分の人生の中にあり、生きることのすべてが表現として完成されている。表現することと生きることが本当に繋がっているのではないかと感じました。

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西島秀俊 時には懺悔を 中島哲也 LEON ドライブ・マイ・カー

── ご自身はいかがですか?


西島 僕はそういうタイプではないと思います。目指すような演技はありますが、自分に対してはまったく、そういうふうに思ったことはないです。


── その目指してるところを伺ってもいいですか。


西島 例えば、(ジョン・)カサヴェテス監督の映画の俳優と、(ロベール・)ブレッソン監督の映画の俳優は、それぞれ他の映画に出ている時の演技とは まったく違う。どうしたらこういうふうにいられるのだろう、と思うような素晴らしい演技をしています。こんな感じに自然なままカメラの前にいて、しかもそれがすべて物語と役からはずれずにいられたら……と思います。

── 映画では様々な親子の形が描かれますが、親であることや、家族とは何かについて感じるところはありましたか。


西島 映画でも、新のために常にケアしている場面がありますが、実際にスペシャルニーズの子どもたちのご両親からも様々なお話をうかがいました。大変なこともたくさんあると思いますが、皆さんとてもエネルギーがあって、明るい方たちでした。


映画の中の親たちのセリフには、綺麗事ではない厳しい言葉もたくさん出てきます。ご家族の方々と試写でご一緒した時に、「ここに描かれてる気持ちは私たちの本当の気持ちです」とおっしゃった方もいて。それは、“自分が支えているつもりが、実はその子に支えられている”ということも含めて、本当のことなのだろうなと思います。そういう親子や人と人の関係の様々な形や不思議さみたいなものも、この映画にはたくさん描かれています。

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西島秀俊 時には懺悔を 中島哲也 LEON ドライブ・マイ・カー

悪い人間だと思われている人が実は最も純粋な部分を持っていたり

── 試写をご覧になっての率直な感想を伺えますか?


西島 自分の出た作品の試写を初めて見る時は、やはり自分のパートや自分の演技の細かいところに目が行ってしまい、あまり客観的に見れないのですが、この映画に関しては、そんなことを考えずに見ていました。


それは、素晴らしい俳優の皆さんの演技や脚本のすごさ、子どもたちの本当に素晴らしい演技や笑顔に感動して、自分の演技がどうなっているかは、気にならなかったのだと思います。


この映画には欠点だらけの人間がたくさん出てきますが、その中でも本当に悪い人間だと思われている人が実は最も純粋な部分を持っていたりします。前科持ちの人間が、周囲を突き動かすような行動をしたり。人間というのはいろいろな面を持っていて、一面だけを見た時の印象でははかれないということが伝わってきました。しかも、綺麗事ではないことを突き詰めた先にそれが見える。素晴らしい作品に参加させてもらったと思っています。

── 実際に当事者である子どもたちが出演し、こういう作品ができたことの価値についてはどのように感じていますか。


西島 今回、理学療法士でスペシャルニーズの子どもたちがもっと様々な体験ができるように活動している安田一貴さんという方が尽力してくださいました。安田さんが行っているデイケアでは、安全面をしっかりクリアしたうえで、身体を結構動かすような遊びなどもされています。


スペシャルニーズの子どもたちの世界はどうしても狭くなりがちな中で、映画に出るという新しい体験は彼らにとっても喜びであると同時に、大変な挑戦だったと思います。そして、共演した僕らにとっても本当に楽しい豊かな経験でした。共演者として、お互いにそういう体験ができたことはとても良かったのではないかと思います。社会への影響というような大きな意義についてはわかりませんが、この作品が世に出ることで少しずつ見えてくればと思います。

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西島秀俊 時には懺悔を 中島哲也 LEON ドライブ・マイ・カー

── 試写を見て、そこまで思われた作品への出演は、ご自分のキャリアの中でどういうものになると予感しますか。


西島 この作品が自分のキャリアの中でどういう影響を及ぼしていくかはわかりません。ただ、自分にとっては大きな体験でしたし、今もスペシャルニーズの子どもたちとの関係が続いているというのはうれしいことです。 そのことでこれからも影響を受けるでしょう。具体的に何が、ということはまだわかりませんが、そのことはたぶん何らかの形で僕の一部となっていくのだと思います。

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西島秀俊 時には懺悔を 中島哲也 LEON ドライブ・マイ・カー

● 西島秀俊(にしじま・ひでとし)

1971年3月29日生まれ。東京都出身。1994年に映画『居酒屋ゆうれい』で映画初出演を果たす。以降、『ニンゲン合格』(99)、『Dolls ドールズ』(02)、『帰郷』(05)、『CUT』(11)などに出演し、様々な賞を受賞。さらには、映画化もされたドラマ「MOZU」シリーズ(14~15/TBS・WOWOW)、「きのう何食べた?」シリーズ(19~23/TX)、「奥様は、取り扱い注意」(17/NTV)などにも出演。近年では、映画『首』(23)、『スオミの話をしよう』(24)、『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー 』(25)、配信『Sunny』(24)、『人間標本』(25)などに出演し、『ドライブ・マイ・カー』(21)では、第56回全米映画批評家協会賞主演男優賞、第45回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞など国内外で多くの賞を受賞している。

西島秀俊 時には懺悔を 中島哲也 LEON ドライブ・マイ・カー

『時には懺悔を』

打海文三の小説『時には懺悔を』を原作に、『下妻物語』『嫌われ松子の一生』『告白』 の中島哲也監督が構想18年をかけて映画化した人間ドラマ。探偵がひとり、殺された。「死んだほうがマシな人間」と呼ばれた男・米本(佐藤二朗)。調査することになったのは、元同僚の一匹狼・佐竹(西島秀俊)と、助手で修行中の聡子(満島ひかり)。調べを進めるうちに、9年前に起こった新生児誘拐事件にたどり着く。殺された米本が死の間際に調査していたのは、9年前に失踪し今は父親の明野(宮藤官九郎)と二人で暮らす、重い障がいのある少年・新。過去に傷つき、誰かを傷つけ、孤独に彷徨う大人たちが出会った「新」という小さな命。家族から目を背けた男、娘に捨てられた女、子を生きる糧にした男、産んだ子を愛せなかった女。「生きているのが奇跡」と言われたそのひとつの小さな命が、逃げ場のない現実にもがき苦しむ大人たちの心を動かしていく。出演は他に黒木華、柴咲コウ、役所広司ら。

配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

©︎2026 映画「時には懺悔を」製作委員会

8月28日(金)全国公開

HP/映画『時には懺悔を』公式サイト

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