2026.07.11
高橋一生インタビュー。「カッコいいと思うのは“子どもみたいな人”。体裁を捨てて自分らしく生きている人には説得力がある」
Prime Originalドラマシリーズ『犯罪者』に主演した高橋一生さんにインタビュー。監督と共演者に恵まれた素晴らしいチームだったという撮影現場での体験談とともに、俳優としての演技へのこだわりと、カッコいい大人像についても話を伺いました。
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文/飯田帆乃香 写真/土屋崇治(TUCCI) スタイリング/小林新(UM) ヘアメイク/田中真維(MARVEE) 編集/鎌倉ひよこ、森本 泉(Web LEON)

佇まいひとつで、観る者を物語に引き込む俳優・高橋一生さんが、Prime Originalドラマシリーズ『犯罪者』で、また新たな境地を切り拓こうとしています。本作への取り組み方をはじめ、第一線で活躍を続けるプロフェッショナルな思考回路を紐解きます。
俳優業のこだわりを聞くと、「自分の仕事を崇高だと思わないこと」と語ってくれた高橋さん。先日出席したという同窓会でのプライベートな一面も含め、緊張と緩和が同居する、彼の妙味に迫ります。
俳優としてのこだわりは、お芝居を高尚なものにしないこと
── 社会構造に翻弄される人々を描くドラマ『犯罪者』で、高橋さん演じる相馬は、職場で孤立しながらも事件を追う刑事です。彼のその行動力の源は、やはり自身の中にある“正義”だと思いますか?
高橋一生さん(以下、高橋) 相馬は正義を貫こうとしているわけではなくて、自分の中で“おかしい”と感じることを、どうしても見過ごせない男なんだと思います。その姿勢が結果的に周囲には正義として映って、煙たがられてしまう。正論を口にすると、「そんなこと言われても……」と受け流されてしまうような空気に対して、彼は常にどこか憤りを感じている。そんな感覚がずっと僕の根底にありました。
── ご自身はそういう相馬と重なるところはありますか?
高橋 融通の利かない、面倒くさい男なのはシンパシーを感じますね(笑)。クランクイン前に監督の(松永)大司さんと話した時、「一生は相馬の側面を持っているから、変に作り込まずそのまんまで(この役を)やっちゃうのも、ありかもよ」と言われたので、「“僕”が警察官だったら、どうするだろう」という考え方を取っていて。要するに役を“作っていない”感覚です。
── 相馬は芯がブレない人物ですが、高橋さんご自身が俳優という仕事において、これだけは譲れないこだわりはありますか?
高橋 お芝居を高尚なものにしないこと、でしょうか。言ってしまえば“ごっこ遊び”のお芝居を、ある人は芸術と呼び、ある人は「楽しそうな仕事だね」と言います。そういう評価は受け取る側が決めることなので、自分で必要以上に価値づけしないようにしています。真剣にやることと、神聖視することは別だと思うので。

── 子役時代からキャリアを積み、現在45歳になる高橋さんが活動を続けるモチベーションは?
高橋 お芝居で別人を生きると、自分の人生にフィードバックできるものがたくさんあるんです。人生を補完してくれるような経験は貴重です。
── まさに俳優業の醍醐味!?
高橋 そうはいっても、みんな日常で何かを演じているように思います。会社だったら“部長”という役だったり、“社長”という役だったり……。実はこのあいだ、生まれて初めて同窓会に行ったんです。
── なぜ急に行ってみようと思われたのですか?
高橋 なんとなくです。今まではやめておこうと思っていたけど、参加してみたらどうなるかなと思って。
── 緊張しました?
高橋 いえ、たくさん人が集まっていて楽しかったですよ。みんな当時の面影が残っていました。そこで特に興味深かったのが、配送業をやっている人は、やっぱり運動ができそうな体つきだし、企業の役員になった人は、よくあるイメージ通り、ちょっとお腹が出ていたりするんです。「ああ、彼らもずっと“自分”というひとりの役を職掌に合わせて演じ続けているんだな」と思うと、僕ら役者は気が楽だなと思いました。毎回違う役職を与えられて、毎回クラス替えをするように、違うスタッフやチームと仕事をしているわけですから。
── その視点で考えると、俳優は役ごとに関係性や立場をより更新できる仕事なのかもしれないですね。このインタビュー前に、ドラマの第1話を拝見しました。先ほど高橋さんは役を“作っていない”とおっしゃっていましたが、まぶたの動きひとつから感情がじわじわと伝わってきて、そのミリ単位の演技に圧倒されました……。
高橋 今回は特に“ポーズ”を意図的に削っているので、そうした機微が際立ってくるのかなと思います。

── ポーズというと?
高橋 例えば、怒りに任せて勢いよくテーブルを叩いた時に「あれ、もしかして自分は想像以上に怒っているかもしれない」と、自覚することってありませんか。肉体の動作に精神が引っ張られるというか。そういうことをお芝居に組み込むのが僕の中でいうポーズです。内側から感情を作るんじゃなくて、先に身体を動かしてしまう。そこからお芝居につなげていくやり方です。
── 本作ではそのポーズを削った?
高橋 はい。そういうアプローチを取り払った先に出てくるものは、注意深く作品を観ないと気づかないくらい微々たるお芝居だと思います。現場でその表現が立ち上がってくる感覚は、やっていて面白かったですね。
── その方向性は、松永大司監督と話し合って決めたのですか?
高橋 かなり話し合いました。現場では毎回、「このシーンが目指しているものは何か」を大司さんと確認していて。共演した(斎藤)工さんと(水上)恒司さんを含め、4人で話す時間も必ずありました。ただ、僕はあまり質問をするタイプではないので、言葉で伝えるより、まずは一度やらせてもらいます。実際に演じたものを、大司さんがどう受け取るかを大事にしていました。
そこで普通なら「もっと分かりやすくやってください」と指示される場面でも、大司さんは「今ので全然伝わるから、もっと抑えて大丈夫」と言ってくださるんです。「え、本当?」って、こちらが疑いたくなるくらい毎回そう言われるので、「じゃあ、責任取ってくださいね(笑)」なんて冗談を交えてみると、一貫して「大丈夫、ちゃんと伝わるから」と返答してくれる。非常に安心感がありました。
── 強い信頼関係のうえで作り上げた作品ですね。
高橋 今回、大司さんと共演したおふたりと作品を作っていった記憶は、確実に貴重なものになりました。結果なんてどうでもよくて、その時間を過ごせたことで十分。そう思わせてくれる素晴らしいチームでした。

40歳を過ぎた頃から、クリーンでいようとする自分の殻を捨てられた
── 『犯罪者』は豪華なキャスト陣も話題です。「刑事」「記者」「生存者」という、交わるはずのない3人の不思議な関係性も見どころだと思いますが、記者・鑓水役の斎藤 工さんと、事件の生存者・修司役の水上恒司さんはどんな印象ですか?
高橋 (斎藤)工さんとは何度かご一緒していますが、絶対的な器の大きさをもった方です。工さんご自身も監督をされているからか、俯瞰の目線と、お芝居への没入を非常に理知的にコントロールされている。相手をリスペクトしながら、柔軟に受け止めてくれるところは本当に尊敬しています。
── 20代の水上さんはいかがでしたか?
高橋 (水上)恒司さんから学んだのは、分からないものを分からないままにしない姿勢です。つい空気を読んで分かった風に進めてしまいがちな社会で、恒司さんは「分かりません」「できないかもしれないけれど見ていてください」とはっきり口にされる。その純粋な姿勢は、非常に心強く、現場のチームワークを支える大きな力になっていました。なかなか出会ったことのない、稀有な俳優だと思います。
── 現場は強固なチームワークだった、と。
高橋 はい。僕は、時間をかけて練れば練るほど良いものができるとは限らず、時には瞬発力も必要だと思っています。この現場はそのバランスが良かったですし、みんなが参加しているという感覚も強かったです。照明部やカメラマンの方が「こうしたい」と提案したものを、監督の大司さんが尊重して、「一回試してみよう」と受け入れていました。絶対的な力でひっぱる体育会系でも、理論を立てる文系とも言い切れない、なんともいえない不思議な現場だったのははっきり覚えています。
── スタッフの誰もが対等に意見交換しやすい空気感、いいですね。
高橋 意見交換という、そんなに穏やかなものではないかもしれません。ディベートというか、討論に近いでしょうか。日本では意見すると自己主張が強いと受け取られることが多いですが、ここでは「なぜ意見を言わないの?」「意思はあるよね?」という前提が共有されていました。
4カ月という長丁場の撮影期間のおかげで、全員が対等にぶつかり合う時間をしっかり確保できたので、とても理知的に撮影が進んでいきました。

── 徹底的に議論を深める良質な時間と、その場で最適解を導き出す瞬発力。その双方が揃ってこそクリエイティブな仕事が生まれると思います。長い間、そういった現場でいろんな人々とお仕事をされてきた高橋さんにとって、“カッコいい大人”とはどんな人間ですか?
高橋 それは僕じゃなくて、本当にカッコいい人に聞いてほしいですね(笑)。
── めちゃくちゃカッコいいじゃないですか(笑)!
高橋 全然。いつも適当なことばかり言っていますから(笑)。……でもそうですね。自分より上世代の先輩たちを見ていて、あるいは自分が“オジサン”と呼ばれる年齢に突入した頃にカッコいいなと思う人って、みんな“子どもみたいな人”です。
35歳や40歳を過ぎたあたりのどこかのタイミングで、「もう人にどう評価されるかなんて、どうでもいいや」と思い始めた男は、カッコいいと感じます。どう見られているかをコントロールしようとしている時点で野暮ったさが出てしまうけれど、体裁を捨てて自分らしく生きていると、存在そのものに説得力が生まれます。それはつまり、自分自身に「納得している」かどうか。老けていくシワの一つひとつ、髪の毛が薄くなっていくこと、そういう変化をすべて受け入れて納得している姿が説得力を与える。それがきっと、感性や服装にも滲み出るんだと思います。

── 年齢を重ねることをネガティブに捉えるのではなく、納得して受け入れる姿こそが、その人本来の魅力を引き出すということですね。
高橋 あと経験を積むほど遊び心が出てくるし、駄々もこねる。知ったかぶりしない素直さもあって、その姿に、アリストテレスのような知性を感じてしまいます。だから僕自身、ずっとそういう大人に憧れていましたし、周りに求められるクリーンな自分を取り繕うのはもういいかと思い始めたのが、ちょうど40歳を過ぎた頃でした。
── 一度身につけてしまった世間体や、過去のパブリックイメージをなかなか崩せない大人も多いと思います。
高橋 僕の例で言うと、若い頃にメディアで話した『一日一食』という食事の習慣が、いまだに高橋一生のイメージとして定着していたりするんです。
── 今は三食食べてますか?
高橋 食べています! 情報が昔のまま更新されないのは、人がいつまでも自分を追い続けているわけではないから。でもそれは当たり前のこと。そういう気づきがあった時に、わざわざ周りに合わせる必要なんてないな。このままでいいや、という境地になりました。
── なるほど。そうして鎧を脱いだある種の“子ども性”は、カッコいい大人に共通する要素かもしれません。
高橋 人間が本来あるべき素直な状態ですから、とても美しいなと思います。

── にもかかわらず、いつの間にか社会的な鎧や理屈がいつの間にか身についてしまう。
高橋 早い人は10代からどんどんついてきますよね。それで、30代くらいで一度立ち止まって、考えたりして。
── 高橋さんご自身も、かつては色々なものをくっつけていたのですか?
高橋 もちろんです。10代や20代の頃は、とにかく何かを身につけなきゃいけないと思って、たくさん理論武装をしていました。でも同時に、誰かに叩きのめしてほしいと、待っていた気がします。実際にこっぴどく叩きのめされたり、理屈じゃ通用しないという圧倒的な物事にぶち当たったりしたときに、「あ、やっぱりそうだったよね」と、いい意味で諦めていく。その諦めからじゃないと始まらないことが、人生にはたくさんあります。
僕は幸いなことに、そういう背中を見せてくれる“素晴らしいオジサン”たちに恵まれて過ごしてきました。だから今も、僕の周りはカッコいい大人だらけです。

● 高橋一生(たかはし・いっせい)
1980年12月9日生まれ、東京都出身。ドラマ、映画、舞台と幅広く活躍。舞台『天保十二年のシェイクスピア』で第45回菊田一夫演劇賞、NODA・MAP『フェイクスピア』で第29回読売演劇大賞最優秀男優賞を受賞。近年の主な出演作に、ドラマ「6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱」「ブラック・ジャック」「1972 渚の螢火」「零日攻撃 ZERO DAY ATTACK」「リボーン~最後のヒーロー~」、映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』『岸辺露伴は動かない 懺悔室』『脛擦りの森』『ラプソディ・ラプソディ』などがある。

『犯罪者』
白昼の駅前広場で、フルフェイスのヘルメットを被った男が4人を刺殺する無差別通り魔事件が発生。辛うじて一命を取り留め、病院に搬送された被害者の繁藤修司(水上恒司)は、突然現れた見ず知らずの男から「あと10日生き延びれば助かる」という奇妙な宣告を受ける。一方、事件を追う刑事・相馬亮介(高橋一生)は、警察の保護を頑なに拒む修司に強い違和感を抱いた。そして彼の身を守るため、元テレビマンの鑓水七雄(斎藤工)に協力を要請。姿なき見えない敵へと挑み始める。犯人はすでに薬物中毒で死亡が確認されたにもかかわらず、なぜ修司は再び命を狙われなければならないのか。10日間のカウントダウンの中で、事件の驚愕の真相と、その裏に潜む深い社会の闇が暴かれていく── 。
7月17日(金)よりPrime Videoにて世界独占配信
監督/松永大司、出演/高橋一生、斎藤工、水上恒司 ほか
原作/太田 愛『犯罪者』(角川文庫/KADOKAWA)
Ⓒ PROTX
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