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2023.01.28

堤 幸彦「そもそも理屈っぽいんで、“楽しいぞ”だけでは動けない」

「ケイゾク」「TRICK」「SPEC」など多くの大ヒットドラマを演出してきた堤幸彦さん。コミカルでシニカルな作風ばかりに目が行きますが、本人は「僕は笑いの監督ではない」とピシャリ。常に人々の思いの裏をかきつつ本気で作りたいと思ってきたものとは? 最新舞台『巌流島』の話とともに伺いました。

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文/浜野雪江 写真/内田裕介(Ucci) 編集/森本 泉(LEON.JP)

堤幸彦 LEON.JP
「ケイゾク」や「TRICK」、「SPEC」など、コミカルとシニカルの入り混じった独特な作風の大ヒットドラマから、脳死を扱った映画『人魚の眠る家』や、原発の是非を問う『天空の蜂』などの重厚な人間ドラマまで、幅広いジャンルで数々の名作を世に送り出してきた演出家で映画監督の堤幸彦さん。

その堤さんが、宮本武蔵と佐々木小次郎の決闘の真実に迫る、横浜流星さんと中村隼人さんの主演舞台『巌流島』の演出を手掛けます。

いまなぜ『巌流島』が、堤さんの挑戦心を刺激したのか。作品のこと、ものづくりのこと、そして、長きにわたり第一線を走り続けるご自身が、「70代を目前にして気づいたこと」などを語っていただきました。

今回の「巌流島」は警官とヤクザのバディストーリーに近い⁉

── 巌流島の決闘は、過去、複数の映画や舞台で扱われてきましたが、堤さんは、『巌流島』という作品のどんなところに興味をひかれましたか?

堤 幸彦さん(以下、堤) 巌流島は、関門海峡に位置する小さな島で、壇ノ浦の源平合戦以降、武蔵と小次郎が対決をし、闘いの象徴として有名な対決の島になったわけです。関門海峡は非常に流れが速く、船の操舵が難しいといわれる難所で、僕としては、そういう場所に宿る“何かを巻き上げていく特別な力”に惹かれました。

それは例えば、ライン川の奇岩に宿るローレライ(美しい歌声で舟人を誘い破滅させる伝説の魔女)みたいなもので(笑)。何かそういうものを背負いながら、二人が巌流島で対決していくのは面白いとまず思いました。

── 場所そのものに魔力的な力があったと?

 そうなんです。そしてもちろん、(脚本の)マキノノゾミ先生のオリジナルストーリーが、通常皆さんが思っているものとは別の、より深いテーマを持った人間青春群像劇として描かれているので大変興味を持ちました。

まず唸らされたのは、武蔵と小次郎が持つ背景です。武蔵は、時代が戦国から徳川体制に移り、世の中が平定していく中で、あくまでフリーランスの剣豪として、腕一つで身を立てるという、戦う者の基本スタイルを貫きます。でもそれは、世の中に受け入れられずにどんどん荒んでいく。

一方、小次郎はまさにその逆で、藩の中で士官して、位をあげていくことで生き様を見つけていきます。出自的な出発点は同じにも関わらず、両者、生き様が分かれていくわけです。しかし、どちらも剣士で、侍として戦うことがあくまでも存在証明であり、ルートは違っても、“その究極の相手はお前なんだ”と何年も闘志を燃やし続け、最後に巌流島で相対す。とても皮肉なストーリーであり、面白いなと思ったんですよね。
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── 人間ドラマとして面白かった?

 現代劇でいえば、警官とヤクザのバディストーリーなど、それに近いストーリーがよくありますが、そういうところにもテーマは通底してて。どの道を行っても、それぞれに息苦しさみたいなものがずっとあり、それがものづくりの原点であるということにはとても共感ができるので。あまり何もかも認めたうえで楽しいぞっていうものは作りづらいというかね。
── 武蔵を演じる横浜流星さんと、小次郎役の中村隼人さんの印象はいかがですか?

 さすが横浜流星さんは、あの抜き差しならぬ顔つきといい、ものすごい存在感です。彼は、空手を通して子どもの頃から磨いてきた武術の心得があり、その型のはまりの良さというのはもう、最近見たことのない秀逸なタイプだなぁと。

そして、隼人さんはやはり、子どもの頃から歌舞伎の舞台に立ってきた経験のなせる技がある、とてもスペシャルな存在です。そのお二人が、武蔵と小次郎という、しょって立つものがまったく違う者を演じる中で、戦う個性、戦う塊みたいにそれぞれなっていく。

見どころはまずその二人であるとはっきり申し上げることができるし、面白い舞台に巡り合ったなと思ってます。

「この枠だからこうでしょ?」と言われることに対してものすごく腹が立つ

── ところで堤さんと言えば「トリック」や「SPEC」を始め、どれも他の演出家とは違う独特のセンスに溢れています。その堤流の演出スタイルは、どのように確立していったものなのでしょう。

 もともと僕は、舞台やドラマの演出家、あるいは映画監督としては、(学校や組織で理論を学んだわけでもなく)ずっと素人なんです。もう70近くになってこんなことを言ってるのは失礼な話なんですが、逆に素人でいいと思っているフシもあって。

だから、「この枠だからこうじゃなくちゃいけない」というものはないし、逆に言うと、「この枠だからこうでしょ?」と言われることに対してものすごく腹が立つタイプでして(笑)。じゃあ、その裏をかいてやろうじゃないかということで、顔はにこやかだけれど、その実、そうじゃないんじゃないか? というのを、ずっと作風として作ってきたと思うんですね。で、それが笑いを誘ってきた。
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── 「TRICK」で生瀬勝久さんが演じた警部補 矢部謙三なども、まさにそういう立ち位置でした。

 例えばお通夜でね、友達の身内の死を悼んで、みんなが通夜振る舞いの席でしゅんとしているところに、喪主の親友がやってきて、「お前ら、なんでそんなに沈んでんだよ、通夜じゃねぇんだから」っていうひと言。これは僕の実話なんですが(笑)、みんなどうしていいかわからないと。(僕の思う笑いには)そういう、「ここで笑うのか!?」的な状況が第一にあって。

それは作品で言えば、イギリスならコメディ集団のモンティ・パイソンとか、シェイクスピアの中にもその流れはあるだろうし。アメリカだったら、バラエティ番組の「サタデー・ナイト・ライブ」とか。日本でそれをやると、僕なんかは80年代に、とんねるずのコントの演出を延々とやって、それがある種のパターンを大きくぶち壊していく戦術のひとつになっていったわけです。

で、それが一番炸裂したのが「TRICK」だろうし、他のいろいろな作品群だったと思うのですが、まぁそれもあくまで方便なのであって。

── と、いいますと?

 実際は、勝負するところで真剣勝負をすべきだというのは常日頃、ずっと頭の片隅ではあり、それは今でもあり。これでもし、この先もっと自由に作品を提案し、資金が集まり、ものが作れる状況になったら、やはり見たことのない存在感でもって作品を作りたい。それは、笑いがあるとかないとか、自分のタッチがどうだということは関係なく、作品を作るということはやっていきたいですね。

もちろん、先駆的にはいくつかやってきたつもりですし、今回の『巌流島』における表現も、それに近いかもしれません。むしろ自分なりの、クスッと人を笑かしたりみたいなことは必要ないと思える台本だし、浮かび上がるものも大きいので、とてもシリアスな挑戦だと思います。
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別にコメディだけの専門家ではないし、笑いの監督ではない

── シリアスな作品も作っていきたいという思いは、若い時からあったのですか?

 別にコメディだけの専門家ではないし、笑いの監督ではないので、それ自体も意識していないです。たまたまそういうものが多かったにすぎないということですかね。例えば、『望み』や『ファーストラヴ』、『天空の蜂』など、まったくそうじゃない作品もたくさんやっていますので、なんでもかんでも笑い飛ばすということではもちろんないです。

── そういう中で、「TRICK」をはじめ、コメディ的な要素が入ったものが世間的には堤さんのカラーのように受け止められ、それを期待される部分もあると思うのですが、それに対してはどう感じているのでしょう。

 もちろん、それもありがたいことですね。病院に行って、お医者さんから、「『TRICK』の人ですよね」と言われて、「ま、そうなんですけども、病気治してくれませんか?」っていう(笑)。ありがたいことだとは思うんですけども、特に60代に入り、いま70歳を目前にして、そういうカテゴライズ自体が、もう、ちょっと、どうでもいいというか。

そしてまた同時に、ここ数年、コロナで仕事が初期化していたし、エンタメ自体がこの世には不要不急であると限定された中で、メジャーの人々のほうがどんどん萎れていって。私どもの周りでも、仕事を再開するのがなかなか難しいということが多かったんですね。

しかし、そこで立ち上がったのが逆にインディーズの役者で、文化庁から得た限られた支援金(※)で作ったインディーズ映画(『truth~姦しき弔いの果て~』)が世界8カ国で賞をもらったりとか。
※「文化芸術活動の継続支援事業」の助成金。一人150万円の枠があり、団体で申請することによって最大1500万円まで助成。
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── 『truth~』は、プロデューサー兼役者の広山詞葉さんら3人の女優さんが、表現の場を求めて自ら立案した企画に、堤さんがさまざまなノウハウを提供する形で実現した作品だと伺いました。事前にzoomで稽古を重ね、70分の本編を2日間で撮りきる濃密な撮影だったそうですね。

 結局、大事なことって、カテゴリーとか、与えられた仕事にどう向き合うか、ではない。やっぱり、作品をどう生み出していくかという情熱そのものなんだっていうのを、この数年でもう一回学び直した。ただそれは、60代ですることじゃない。本来は10代、20代で、大学の片隅のテントの劇団や、青き自主映画で学ぶことであって。

そういう経験がない、ホントに不埒なエンタメ生活を送ってきた私が、やっとそこで学ばせてもらったということ自体が遅いんだけど。しかし、まだ元気でできるうちは、改めてもう一回、立ち上がろうじゃないかというので、いろんなことをまた始めている中で、この『巌流島』や、今ちょうど放送しているTBSのドラマ(「Get Ready!」)とかがあるというふうに思っていただいてよいと思いますね。

そもそも理屈っぽいんで、「楽しいぞ」だけでは動けない

── 腕ひとつで身を立て、戦うことを存在証明とした武蔵の生き様は、22歳でテレビ業界に入った時から、自分の信じるやり方で作品を作り続ける堤さんご自身の在り方でもあるように思えるのですが。

 そうですね(笑)、師匠もいませんしね。たまたま仲間としては、秋元 康さんと20代の頃から一緒にやり始めて。彼も裏切りとコンサバの専門家で(笑)、「人の行かないところに宝がある」と10代、20代の頃から言っていた。だから、アイドル不毛の時にアイドルを仕掛けるとか、コンサバ的なことをココにもって来るの!? っていう裏切り自体を利用してうまくものを作る。

やっぱり、そのマインドみたいなものは僕の中にもずっとあって、作品を作る時に、たぶんほとんどの皆さんがパッと想像するところには自分の行くべきところはないというふうに思うんですね。で、それをエンタメ的に現実化していくのは、ホントに想像という範囲でしかない。

でも、想像するにもそのベースとなる知見がないとアカンと思うんです。それで、57歳の時に通信教育で法政大学の地理学科に入り直して、何年か地理学を学んだのですが、あまりにも忙しくて、コロナ前で一回閉じまして。コロナ中に、もう一回行こうかなって真剣に考えました(笑)。

── 地理はどういうところが興味の対象なんでしょう。

 地球は常に固定しておらず、固定してない中で、地面と海というのが醸し出され、それ自体も、ひとつでは語れない無数の形があって。ということは、そこに住まう人も、ひとつではくくれず、無数のさまざまな生き様がある。それを文化や文明、地域と呼んだりしますが、そこにはホントに面白い、興味深いエピソードがいっぱいあるのです。

僕は歴史についてはとても疎いんですが、地理と歴史というのはものすごく物理的に結びついている。例えば、巌流島の“巌流”ってなんやねんと。もともとは船島と言ってたじゃないかと(正式名称は船島)。でも、そこには関門海峡の早瀬があって、何か変な力学が働いているんじゃないか。だから歴代、対決の場所になるのかな、とかっていうところを借りたいと思うのです。

そこが、あえて差別化するなら、自分の立ち位置にしたいなぁと思っていて。地理と自分の演出というのは、非常に深く結びついているんです。
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── 「TRICK」や「神の舌を持つ男」にも土着信仰的な描写が頻出しますが、地理に結びついた表現も、若い頃から持っていた感覚ですか。

 そうですね。そもそも理屈っぽいんで、「楽しいぞ」だけでは動けないというか(笑)。

── 今後、ご自分の行くべきところはどんな風にイメージされているのでしょう。

 もちろん、いただける仕事は、ちゃんとセグメントして、方向を見定めて、仕事を依頼してくれた方や出てくれる方、見てくれるお客さんに楽しんでいただくことを基本としながらも、自分なりの球の投げ方をしたいなという、スタイルの問題がまずひとつ。

それから、マインドの問題としては、やはり日本人の不条理性みたいなところを扱う作品を、もっと力をつけて作りたい。というのも、日本人ってえらい不条理だなというふうに思うんですね。もちろん、世界中、問題も矛盾もたくさんあるけれども、とりわけ日本人って問題がなさそうで一番問題があるような感じがとてもします。

最近ですと、象徴的にはコロナ禍の自粛などを例に、鴻上尚史さんはそれを“同調圧力”なんておっしゃって、日本社会の息苦しさに対して鋭い眼差しを投げかけています。僕自身も、子どもの頃から感じてた矛盾みたいなものを、かつては政治的に戦うことで何か表現できないかと思った時代もあるし、あるいは音楽という手を使えないかと思ってロックをやっていた時期もあるし。

しかし今は、それは心の在り方の問題になっているというふうに思うので。70代になったら死んじゃっているかもしれないけど(笑)、「あ、最後にあの人はコレがしたかったのね」というところに結び付けたいなと思っています。
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● 堤 幸彦(つつみ・ゆきひこ)

1955年、愛知県生まれ。1995年のドラマ「金田一少年の事件簿」(日本テレビ)で注目を集め、その後も「ケイゾク」(TBS)、「池袋ウエストゲートパーク」(TBS)、「TRICK」(テレビ朝日)、「SPEC」(TBS)、「神の舌を持つ男」(TBS)など次々と大ヒットドラマを演出。他に映画『明日の記憶』、『20世紀少年』」三部作、『イニシエーション・ラブ』、『天空の蜂』、『真田十勇士』、『人魚の眠る家』、『十二人の死にたい子どもたち』、『望み』、『ファーストラヴ』、『truth~姦しき弔いの果て~』、舞台『電車男』『テンペスト』『悼む人』『真田十勇士』『魔界転生』など数多くの作品を制作してきた日本を代表する演出家・監督のひとり。ドラマ「Get Ready!」(TBS)が現在放送中。映画『ゲネプロ★7』が4月21日公開。

堤幸彦 LEON.JP 巌流島

『巌流島』

宮本武蔵と佐々木小次郎、歴史に名を残すふたりの剣豪による世紀の対決「巌流島の戦い」。武蔵と小次郎はどこで出会い、どんな人生を歩んで来たのか? なぜ戦わなければならなかったのか? 闘いの裏に隠された人間ドラマ、決闘の真実を捉え、関門海峡に浮かぶ「巌流島(船島)」で繰り広げられた大勝負、その壮絶な戦いを、壮絶かつ画期的なアクション時代劇として描き出す舞台作品。
脚本はマキノノゾミが新解釈、新設定をもとに新たに創りあげたオリジナル。演出は大型スペクタクルエンタテインメントを次々世に送り出し、人物造形にも定評のある堤幸彦が担当。これまでにも『真田十勇士』や『魔界転生』でタッグを組んだ最強コンビでの制作が実現した。主演の宮本武蔵は横浜流星、佐々木小次郎は若手歌舞伎俳優の中村隼人が演じる。
東京公演/2023年2月10日~22日。明治座にて。その後、金沢、新潟、秋田、名古屋、神戸、高松、福岡で。
企画・製作/日本テレビ
HP/『巌流島』公式サイト (ganryujima-ntv.jp)

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