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2023.03.28

窪川勝或

前川國男建築を昭和レトロモダンに仕上げたセカンドハウス

インテリアスタイリストとして活躍する窪川勝或さんがアトリエ兼くつろぎの場として活用しているセカンドハウス。日本を代表する建築家・前川國男が建てたテラスハウスにモダンな要素を取り入れています。

CREDIT :

文/浦本真梨子 写真/平郡政宏 編集/秋山 都

すべては名建築との出会いから始まった

窪川勝或
▲ 四季折々の変化を見せてくれる庭付きのテラスハウスで窪川勝哉さん。ソファに座って庭を眺めているとしばしば時間を忘れてしまうと言う。
“もの選びのプロ”がプライベートで過ごす空間はどんな工夫がされているのでしょうか。インテリアスタイリスト、プロップスタイリストとして雑誌やテレビ、広告等で活躍する窪川勝哉さんがアトリエ兼くつろぎの場として活用しているセカンドハウスは、日本を代表する建築家・前川國男が建てたテラスハウス。昭和の風合いを生かしながらモダンな要素を取り入れた空間には、プロのこだわりが詰まっていました。
窪川勝哉 デュッセン・バイエルン・マイスター
▲ クルマも好きという窪川さん。愛車のデュッセン・バイエルン・マイスターは、外見はメルセデス・ベンツ・190SL、ベース車両はBMW・Z3という希少な車。
よく晴れた春の某日、愛車のデュッセン・バイエルン・マイスターを駆って現れた窪川勝哉さん。「趣味は中古物件探し」だそうで、2018年頃、偶然出合ったのが日本モダニズム建築の巨匠、前川國男設計が手がけた集合住宅でした。1957年に建てられた三角屋根を持つテラスハウスは建築史にも名を残す存在。窪川さんは歴史が息づく建物だけでなく、立地にも惹かれたそう。

窪川勝哉
▲ 1957年当時の雰囲気が残る外観。
「もともと別荘が欲しくて住宅情報サイトを見てたんです。すると、自宅近くにあったこの住まいが出てきました。前川國男が設計したテラスハウスが現存することは知っていたのですが、まさか売りに出るとは。すぐに内見に行って、惹かれたのが抜け感のある庭。気持ちのいい庭が部屋から見渡せて、ここだったら別荘のように過ごせそうだと即決したんです」
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窪川勝哉
▲ 小上がり感のあるリビングでは、通称“サーフボード”ことイームズの《エリブティカルテーブル》を中心に籐の座椅子をレイアウト。
前川住宅は2階建の連棟式のテラスハウス。2DKの間取りにプラスして、1階には前オーナーが増築した20平米ほどの和室がありました。窪川さんは竣工当時の雰囲気を大事にしつつ、今のライフスタイルに合うようプランニング。意識したのは光の取り入れ方と言います。
窪川勝哉
▲ 2階の寝室から1階のダイニングを見下ろした様子。室内をやさしく照らすのはジョージ・ネルソンのライティング。
「最初に内見に来た時、室内の暗さが気になりました。そこで、思い切って2階の一部屋の床を取り払い、吹き抜けを作ることにしたんです。そのおかげで室内に開放感が生まれて、明るくなりました。そして、早い段階で照明の位置や電源の場所も決めたんです。プランニングが終わった後に照明を選んでも、電源が遠かったり、サイズが合わなかったりして、選択肢が狭まってしまう。壁につけたシャルロット・ペリアンのウォールランプはあらかじめつける位置を決めてプランニングしたので、配線を壁に収納でき、アートピースのような雰囲気が楽しめています」
窪川勝哉 シャーロット・ペリアン
▲ シャルロット・ペリアンのウォールランプ《CP-01》は1963年にデザインされたもの。シェードは自由に傾きを変えられる洗練されたデザイン。
「さらに、意識したのはフォーカルポイント。室内に入って、まずどこを見るか。この家だったら、庭に視線が集まるようにしたい。もともと増設部分の和室に小さな窓がいくつかあったのですが、あえて塞いで庭に面した部分に大開口の掃き出し窓を取り付けました。視線が散漫にならず、庭の光景を存分に味わえるようになりました」
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モダンな要素を取り入れて自分らしい空間に

和室だった部屋は洋室に。ダイニングより3cmほど床が上がっていましたが、さらに段差をつけました。そうすることで、ドアで仕切らずとも自然とゾーニングできるように。また、床のレベルが上がることで、ダイニングにいる人とリビングの床に座る人との目線が合いやすく、会話しやすいようにもなっています。そして、この部屋で目を引くのが、鮮やかなブルーのカーペット。
窪川勝哉
▲ ダイニングからもリビングの大きな窓から庭の木々の様子が楽しめる。
「カーペット、好きなんですよ(笑)。これはきっと山梨にある実家の影響だと思います。古き良き昭和の香りが残る実家は床のほとんどがカーペット敷きで、そこにいると落ち着くんですよね。だから、自分の家にもそういった要素を取り入れたかった。前川建築に惹かれたのも昭和という時代に憧れがあるからかもしれません」
窪川勝哉
▲ キッチンは向きを変え、壁側に移動。友人から譲り受けたヴィンテージの琺瑯キッチンを取り付けた。
昭和に建てられたテラスハウスに同時代に造られた家具や照明を取り入れているところも窪川さんのこだわりです。

「プランニングの時点で置きたい家具はほぼ決まっていました。イームズのオーバルテーブル、セルジュ・ムーユのフロアスタンド、TONのベントウッドチェア、ジョージ・ネルソンのライティング。いずれも1950〜60年代までに作られた名作です。また、解体予定の家から、同年代に造られたサンウェーブの琺瑯製キッチンを譲り受け、それを新たに取り付けました。シンクは柳宗理デザインなんですよ」
窪川勝哉
▲ 形違いの《ネルソン バブルランプ》を吊り下げるアイデアは六本木の「グランドハイアット東京」から着想を得たそう。
ここまで徹底しながらも “レトロ”一辺倒でまとめてしまうのではなく、モダンな雰囲気も感じられます。それにはこんな工夫があるそう。

「たとえばチーク材のテーブルに合わせて椅子もチークを選びがちですが、そうするとちょっとヴィンテージ感が強くなりすぎる。椅子をブラックにすることで、モダンな雰囲気がアップします。ジョージ・ネルソンの照明も本来コードは白なんですが、黒に変更。白い壁に対して黒いラインがすっと入ることで部屋のアクセントになりました。また、現代の生活に欠かせない家電も色を統一。空気清浄機やロボットクリーナーなど、見える場所に置く家電は黒に揃えて空間で浮かないようにしています」
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ヴィンテージへの愛情が心地よさを作る

窪川勝哉
▲ 2階の寝室。ベッドはハンス・J・ウェグナーの《GETAMA》。手前のモビールは真鍮板のプレートが連なったもの。真鍮ならではのエイジングが魅力的。 
隅々までこだわりぬいた空間。撮影場所として活用したり、最新家電の使い心地を試したり、また、友人を誘ってホームパーティーを開くなど、自宅とは違う過ごし方を楽しんでいます。

「30代前半で初めて東京でヴィンテージハウスを購入し、リノベーションしたんです。エイジングされた家をブリティッシュ・ヴィンテージテイストに仕上げたのですが、そこからリノベーションの楽しさに目覚めました。そして、この住宅に出合った時、自宅とはまったく違う雰囲気にしようと思ったんです」
窪川勝哉
▲ 2階の廊下にはコーア・クリントの《KK47000 サファリチェア》、前川國男の師でもあるル・コルビジェのスツール《LC14》も。
「マンションは共有部に接する窓やドアなど、どうしても手を加えられない場所がありますが、戸建は自由度が高い。また、前川建築という価値あるものの住み手になるという特別感もあります。正直、庭の手入れは大変なこともありますが(笑)、季節の流れとともに葉が芽吹き、色づき、花が咲き、散っていく。都会に居ながらにして四季折々の変化を楽しめるのはいいですね」
時間を積み重ねることで生まれた風合いを残しつつ、モダンな感性を吹い込み、さらに住み良い場所へ。これこそがリノベーションの醍醐味。「昭和好き」の窪川さんが時代へのリスペクトを込めた空間には、心地よく穏やかな時間が流れていました。

前川國男 窪川勝哉
▲ ル・コルビュジエの元で学んだ前川國男。「東京文化会館」、「東京都美術館」など大きな商業施設や公共施設の設計で知られているが、住宅においては温かみのあるデザインを重視した。
窪川勝或

●窪川勝哉(くぼかわ・かつや)

インテリアスタイリスト。1974年山梨県生まれ。バンタンデザイン研究所インテリア学部在学中より、空間プランナーの赤松珠抄子に師事。独立後は雑誌やテレビなどでのインテリアスタイリングやウィンドーディスプレー、メーカーとのコラボによる家電プロデュースなど多方面で活躍。

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