2026.08.27
軽井沢で注目のデスティネーションレストラン「L’inflexion」。わざわざ訪れたい、その理由とは?
そのひと皿を味わうために、わざわざ旅をする——いま注目の「デスティネーションレストラン」。東京から新幹線で約1時間、軽井沢駅からタクシーで約5分という絶妙な距離に誕生した「L’inflexion(ランフレクション)」を訪ねました。フランス料理の技法、日本料理の美意識、信州の食材、そして軽井沢の自然が織りなす、美しい“抑揚”を味わいます。
- CREDIT :
撮影/長谷川 潤
いま、食の世界で注目されている「デスティネーションレストラン」。そのひと皿を味わうためだけに、わざわざ旅をする価値のある店のこと……とはみなさん、すでにご存知でしょう。わざわざ出かけるとなれば当然、少しくらい遠いほうが気分は盛り上がる。けれど、クルマで山道を何時間も走ったり、飛行機を使ったりとなれば、時間も交通費もそれなりに覚悟が必要です。美食を求める旅は楽しいけれど、できることならスマートに行きたい。それが大人というものでしょう。
そこでいま、東京の食いしん坊なオヤジさんにおすすめしたいのが、軽井沢です。東京駅から新幹線に乗れば、軽井沢までは約1時間。そこからタクシーを走らせること約5分。旧軽井沢の木々に囲まれた一角に、今回目指すレストラン「L’inflexion(ランフレクション)」はあります。
つまり、お昼前に東京を出たって、お店に着けばまだランチどき。そこはもう都会の日常とはまるで違う、新鮮な森の空気に包まれています。大切なあの人を「おいしいものを食べに行かない?」なんて誘い出すには、この近すぎず、遠すぎない距離感と、美しい自然が生み出す非日常感がたいへん効果的かと。

▲ 旧軽井沢の別荘地、雲場池のほど近くに建ち、印象的な三角屋根の「L’inflexion」。
東京から1時間ちょいという、絶妙な距離感にある「L’inflexion」。この店を訪れたなら、コースが始まる前から軽井沢に来たことを実感することでしょう。旧軽井沢の別荘地、木々に囲まれて佇む建物でひときわ目を引くのが、大きく切り立った三角屋根です。これは軽井沢のシンボルのひとつ、聖パウロカトリック教会へのオマージュでもあるそう。
扉を開ければ、高い天井に大胆な梁が走るモダンな空間が広がり、大きく取られた窓の向こうには白樺や松など信州の木々を配した庭。店名の「L’inflexion」とは、フランス語で抑揚を意味するそうですが、三角屋根にラウンドシェイプの食卓、木地をむき出しにした梁と黒く塗られた床や壁、窓の外の緑と室内の現代的な装飾……と、周囲を見渡せば、そこかしこに心地よい抑揚が。これからディナーをいただく私の胸もトトトッとリズミカルに弾みだしました。
さて、肝心のお料理です。面白いのは、「L’inflexion」を名乗るのはディナーのみで、ランチは「L’inf-tech(ランフテック)」と名前を変えていること。夜と同じ素材やプロセス、フランス料理のテクニックをベースにしながら、昼はもう少し自由に、軽やかに楽しんでもらいたいという思いからだそう。
▲ コースの幕開けを告げる小さな2種のアミューズ。この日は「鯉 桜海老」。
▲ 食事の時間に合わせて焼き上げられるパンも美味!
▲ 「鼈 姫筍」。すっぽんは木の芽のオイルでコンフィに。濃厚ながら上品なうまみ。
▲ 「トマト 鞍掛豆」。信州食材である鞍掛豆はすり流しにし、上田産のアスパラガスとともに。
▲ 長野・和田宿産のチョウザメを炭火焼に。チョウザメの骨でとったスープの中で、キャビアをたっぷり乗せた贅沢なチョウザメ親子の競演。」
▲ 「カンテサンス」などでも研鑽を積んだ支配人、戸田健太郎さんによるワインのセレクトもお見事!

▲ コースの幕開けを告げる小さな2種のアミューズ。この日は「鯉 桜海老」。

▲ 食事の時間に合わせて焼き上げられるパンも美味!

▲ 「鼈 姫筍」。すっぽんは木の芽のオイルでコンフィに。濃厚ながら上品なうまみ。

▲ 「トマト 鞍掛豆」。信州食材である鞍掛豆はすり流しにし、上田産のアスパラガスとともに。

▲ 長野・和田宿産のチョウザメを炭火焼に。チョウザメの骨でとったスープの中で、キャビアをたっぷり乗せた贅沢なチョウザメ親子の競演。」

▲ 「カンテサンス」などでも研鑽を積んだ支配人、戸田健太郎さんによるワインのセレクトもお見事!
ランチの「Menu Déjeuner」(7700円)は、数種類の焼き立てパンに、信州の恵みを盛り込んだサラダとブルーテ、選べるメイン、デザート、食後の飲み物という構成。対してディナーは、全11品前後のシグネチャーコース「Menu Confiance」(4万1800円)と、その世界観はそのままに品数とボリュームを抑えた全8品前後の「Menu Découverte」(2万9700円)の2コースが用意されています。
その根底にあるのは、「五味・五法・五色・五覚・五適」という日本料理の美意識と、フランス料理のロジック、そして信州の風土。たとえば夏なら鞍掛豆や北信の郷土食である「やたら」、旬を迎えたトマト。春には筍と浅間のすっぽん、蛍烏賊、南信濃・遠山郷の茶葉、独活などなど……この土地、この季節だからこその食材がコースに織り込まれています。
フレンチでありながら、日本料理のように季節の移ろいを繊細にすくい取るお料理は、日本人にとってはどこか心地よく、外国の人には非常に新鮮に映るはず。けれど、この店で味わうべきは、皿の上の料理だけではありません。私がディナーに訪れた日は、まだ明るかった窓の外が、ひと皿、またひと皿と進むうちに夕暮れを迎え、やがて深い闇をたたえた森へとその表情を変えていきました。料理に季節があり、食事には時間がある。そのふたつの移ろいを味わっていると、なるほど、ここでのディナーは東京では成立しないのだと気づきます。料理だけではなく、その料理を味わう時間と風景まで含めて目的地になる。それこそが、わざわざ訪れるデスティネーションレストランの醍醐味なのかもしれません。

▲ 柏木暢介 シェフは1983年東京生まれ。「Broc長谷川稔Lab.」では立ち上げからシェフを務め、その後、白金「アマンディエ」のシェフに。2018年には若手料理人の登竜門「RED U-35」でSILVER EGGを受賞。
「L’inflexion」の厨房を率いるのは、柏木暢介シェフ。北海道・洞爺の「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」で料理人としてのキャリアをスタートさせ、札幌でクラシックなフランス料理を学んだ後、26歳で渡仏。オーヴェルニュ地方ヴィシーの「メゾン デコレ」で約3年間研鑽を積みました。
休暇中のある日、研修先のシェフから「なぜ日本料理という素晴らしい食文化があるのに、君はフランス料理を作っているのか?」と聞かれたことがあったとか。フランス料理を学ぶために渡った本場で、逆に気づかされた日本人としてのアイデンティティ。この問いは柏木シェフの中に残り続け、現在の料理哲学の原点になったといいます。
北海道、フランス、東京と約20年にわたり料理と向き合ってきた柏木シェフが、ひとつの答えを出す場所として選んだのが軽井沢。西洋文化と日本の美意識が古くから交わり、豊かな信州の自然にも恵まれたこの土地だからこそ、「日本人の美意識×フランス料理の理論×信州の風土」という、彼ならではの唯一無二の料理が生まれたのでしょう。つまり「L’inflexion」は、東京にあっても成立するレストランではなく、軽井沢という土地があって初めて完成するレストラン。いつもの街を離れ、その料理を目指して旅をする。そんなひとときの「抑揚」こそ、大人にとって何よりのご馳走なのかもしれません。

L’inflexion(ランフレクション)
住所/長野県北佐久郡軽井沢町大字軽井沢1203-6
予約・問い合わせ/0267-46-9955
営業時間/17:30〜21:30(料理L.O.19:00)/
ランチは「L’inf-tech(ランフテック)」として営業(11:30~14:00)
定休日/水曜ほか不定休(休業日は公式サイトのニュース欄にて告知)
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