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2022.07.10

どんな高級車より目立っていた、あの頃の「スマート」!

1998年ダイムラー・ベンツ(当時)から発売され、世界中を驚かせた超コンパクトカー「スマート(SMART)」。特に初代の欠点/弱点をカバーした2代目は、筆者に多くの物語を語りかけ、楽しい想像力を掻き立て、夢想を膨らませてくれた素晴らしいクルマだったといいます。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第188回

2代目スマートが好きだった!!

僕はスマート(SMART)が好き。1998年に最初の「シティクーペ(後のフォーツークーペ)が出た時からのファンだ。

スイスの時計メーカー「スウォッチ」とダイムラー・ベンツ(当時)が、「共同でシティカーを作る」と聞いた時はワクワクした。

スウォッチは、特徴あるデザインと安い価格で1980年台半ば頃から急成長を遂げた。ファッション性の高さによって、幅広い世代/人たちを虜にした。

いつもは高価な時計を付けているような人たちでさえ、一時期、熱烈なスウォッチファンになった人は多い。

ダイムラー・ベンツの関係者たちはもちろん、ライバルメーカーの人たちにまで、スウォッチ人気は拡大していった。

とくに欧州メーカートップの腕にスウォッチを見るのは珍しくなかった。

スウォッチ人気は、ブームというか、ある種の社会現象のような勢いで拡がっていった。

スウォッチの爆発的成功で、安価でファッション性のある時計を送り出すメーカーが次々に誕生。
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「時計は一生もの」という堅苦しさから抜け出し、その時々の装いに合わせていくつも所有する、、、スウォッチは、今につながる、新たな時計の世界の創造者になった。

そんなスウォッチとダイムラー・ベンツ(当時)が組むとなると、当然期待は膨らむ。

ところが、スウォッチが求めた、「ファッション性は追っても、多くを削ぎ落とした安価なクルマ」の実現は困難だった。

結局、スウォッチは計画から離れ、ダイムラー・ベンツが単独で計画を進めることに。

そして、1998年、、全長が2.5m、全幅が1.51m、全高が1.52mという超コンパクトな2人乗りモデルが欧州で発売された。

初代モデルは、1998年から2007年まで生産されたが、最初のラインナップは2人乗りの「フォーツー」のみ。

2004年から4人乗りの「フォーフォー」が加わったが、この稿では「フォーツー」のみをピックアップし、「スマート=フォーツー」として話をさせていただく。

それに、僕個人のイメージとしても「スマート=フォーツー」であり、フォーツー以外のイメージはあまり浮かんでこない。それも「2代目フォーツー」が中心になる。

多くの物語を僕に語りかけ、楽しい想像力を掻き立て、夢想を膨らませてくれたのは2代目フォーツーであり、これから書くあれこれも、そこに焦点を当てたものになる。

2代目は2007年にデビューしたが、初代の欠点 / 弱点を見事にカバーしていた。初代はセンセーショナルではあったが、物理的にも感覚的にも「我慢を強いられる」ところが目立った。
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キャビン空間にしても、走り味にしても、乗り味にしても、、、日々を共に過ごすことに喜びや楽しさを感じるのは難しかった。

しかし、2代目は、すべての面で「ひとまわり大きくなり、大人になり、磨きがかかった」。品質感も大幅に上がった。

ユニークながら我慢を強いられる初代から、2代目は、日々を楽しめて、周りに自慢もできるクルマへと、大きく進化したのだ。

全長が190mm、全幅が50mm、全高が40mm、ホイールベースが60mm、、サイズはひと回り大きくなったが、それでもスーパーコンパクトであることに変わりはなかった。

初代が求めた「我慢」から解き放たれた2代目スマートは、市場から大きな拍手で迎えられた。

短時間の間に、ミラノ、ローマ、パリ、ロンドン、、、欧州の大都市で、スマートは急速に繁殖していった。道路事情のいいドイツの街でも、、。

当時、上記のような欧州の都市には、公私ともによく行っていた。なので、2代目スマートの繁殖ぶりをダイレクトに目にすることができた。

スマートは小さいが非常に目立つ。極端な言い方をすれば、RRよりも、メルセデス Sクラスよりも、ポルシェ911よりも目立つ。

例えば、モナコのカジノ前広場は、RRも、フェラーリも、ポルシェも、アストンマーチンも、、日常の光景のひとコマであり、とくに目立つことはない。、、が、そこに、艶やかな装いを纏ったスマート・カブリオレが入ってくると、、俄然目立つ。

スマートが似合う街を挙げるとすれば、ミラノ、ローマ、パリがベストスリーだろう。
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いずれの街も、駐車事情が極めて厳しいことは共通しており、それがスマート人気と結びついていることは間違いない。経済面でのメリットももちろんあるだろう。

でも、ミラノでは、ハイエンドモデルが多く見られた。例えば、チョコレートとシルバーの2トーンカラーに上等なアルミホイール、内装は革仕立てのカブリオレ、、といったところだ。

これは、経済面よりも、ファッション面やインテリジェンス面でのアピール、、つまり、カッコよさに照準を当てての選択と言っていい。そして、そんな人たちの家のガレージには、きっともう1台、プレミアムなクルマが駐っているはずだ。

ミラノほどではないが、パリも上級モデルの比率は高かった。例えば、モンテーニュ通りやサントノーレ通りといった高級ブランド店が軒を連ねる通りでは、とくに上級モデルに多く出会った。

ところがローマでは、ファッション嗜好よりも実用嗜好をより強く感じた。上級モデルよりも標準的モデルが多く見られ、さらには「乗りっぱなし状態のまま」が多かった。

古代から受け継いだ都市遺産を大切にするローマは、道路事情も駐車事情も、世界でもっとも厳しい街として知られる。

なので、より多くの人たちが「実利」を求めてスマートに乗っていたのだろう。そう考えれば、スマートの、ミラノとローマでの佇まいの違いは納得できる。

スマートは巨大なクルマが道路を埋め尽くすアメリカでも人気があった。ディーラーは、いくつかの大都市にしかなかったと記憶しているが、LAのディーラーを訪ねたことがある。
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裕福な人たちが住むビバリーヒルズエリアのディーラーだった。

アメリカでのベース価格は1.4万ドルくらいだったが、訪ねたディーラーの話によると、「ほとんどのお客様はフルオプションを注文する」とのこと。軽く2万ドル超えになる。

4万ドルもする限定特注モデルもあったが、「すぐに売れてしまった」そうだ。

「アメリカではスマートは売れない」と、僕は予想していたが、見事に外れた。訪ねたディーラーの担当者は、「大いに儲けさせてもらっています」とホクホク顔だった。

でも、アメリカでスマートが愛された理由は実用価値ではない。スマートに乗ることは、時代にミートした「ファッショナブルでクールなこと!」と受け止められたからだ。

それは、「高価なモデルから売れていく」とのディーラーの証言が裏付けている。

僕がいちばん惹かれたのは、2012年から販売されたEV仕様の「フォーツーed」。

航続距離は135kmで、走りもまずまず。だが、乗り心地の粗さは気になった。

とても気に入ったのは、白と明るい若草色のボディカラー。加えて、ボディサイドに貼られた「electric drive」(同じ若草色)のデカール(OP ?)にもビビッときた。

表参道や銀座を走っていても多くの視線が集まった。「ほんとうにクールだ!!」と思った。もう少し出足加速が良くて、乗り心地が優しければ、、買っていたかもしれない。

3代目SMARTのEVモデル(EQと呼ばれる)にはまだ乗っていない。でも、白と若草色のカブリオレもあるようだし、走りも快適性も上がっているようだし、、気になっている。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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開催日:7月21日(木)〜7/31(日)月曜休館
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