たった2部屋の隠れ家宿。豊かな自然に囲まれて、おこもりにぴったり！

今月の宿は、まさしく、恋する大人の男のため、というべきところ。「奥湯河原 結唯」の離れ「秀邑(ほむら)」という知る人ぞ知る温泉旅館です。何が、恋する大人の男のためなのか、というと……。

まず、客室がたったの2つということ。もちろん、狭いわけじゃあないですよ。それどころか敷地は広々。隣に同経営の「奥湯河原 結唯」の本館と離れ「紫葉（しよう）」４棟もあり、合わせると1250坪。さらにまだ手をつけていない土地が2000坪もある。また宿の裏側には澄明な川が流れていて、対岸の山は手をつけてはならない保安林。要するに将来にわたって約束された美しい自然の木々の景色が広がっている。つまり、とってもゆったりとした造りで、他の客と顔を会わせることなど、まずないのです。

さらに、部屋の居心地がよい。客室は和室と和洋室の2種類で、どちらも70㎡と広くゆったりと取られ、専用の庭もある。その庭に貸切の露天温泉があり、前述の川がすぐ目の前を流れ、四季折々の景色を眺めつつ入浴ができるのです。新緑の美しさはもとより、6月中旬からは天然の蛍も楽しめ、それはそれはみごと。

室内にはワインセラーを備え、シモンズ社製のセミダブルベッドが2台完備と、居心地抜群。たった2室という密やかさと相まって、心から寛げるというわけ。それこそ、部屋から一歩も出ない、という過ごし方も楽しい。実際、常連のほとんどはそうなのだそう。つまり、ふたりだけの隠れ家、になるのです。

到着時の対応も素晴らしい。クルマの到着を待つ係がいて、すぐに部屋に通してくれる。そうです、彼女と宿を訪れた時の、最大の鬼門、チェックインを楽々クリア。部屋でチェックインできるのです。さらに、その宿帳がこれまた素晴らしい。宿からの季節の挨拶などを「希望しない」という欄がわざわざ設けてある。そうなんですよね、宿から年賀状が届いたりして家人が「これは、なぁに」なんてことになると非常にややこしい。そういうあたりも「秀邑」は完璧に繊細に配慮しているのです。

念のために言うと、この一連の件は、こちらの勝手な受け取り方。「秀邑」は温かいおもてなしを信条とする正しい宿というだけ。そして温かいおもてなしのために、到着時に素早く部屋に案内してくれる、というわけなのです。

で、そんな正しい宿の夕食は、とても正しい会席料理。流行りの創作懐石などではなく、出汁にこだわった本来の日本料理なのです。その時期に採れる最高の食材を吟味して、優しい出汁で、素材本来の味を楽しんでもらおうというのがコンセプト。その美味しさたるや、まさに特筆ものです。季節感にあふれ、滋味にあふれた最高の料理は、それだけでも行く価値あり、なのです。

また器は有田焼など窯元に出向いて調達したこだわりの逸品ぞろい。なかには高名な作家の一点ものもある。そして酒やワインも豊富。それで、ひと休みして、快い温泉に浸かって、あ～しあわせだぁ、と。さらに朝ご飯も美味。

ちなみに、バスアメニティは、「MIKIMOTO」を使用。これぞラグジュアリーです。

というとこで、本当に良い宿でした。この連載でもトップクラスでしょう。ただし、それだけに常連がとっても多い。しかも、たった2部屋ですから予約は相当に大変。でもその価値は絶対にある。恋する大人の男はもちろん、そうでない大人の男も、一度、泊まってみてくださいな。