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2026.08.15

尾上右近インタビュー。「我ながら“自己愛”高めだと思うけど、その姿を人は喜んでくれるだろうと」

歌舞伎俳優・尾上右近さんが23歳の時に立ち上げ、大人の役者への階段を駆け上がる原動力となった自主公演『研の會(けんのかい)』が、今年いよいよ10回目のファイナルを迎えます。役者人生に「区切りをつける」初めての経験について、熱く語っていただきました。

CREDIT :

文/木村千鶴 写真/田中駿伍(Maettico) 編集/森本 泉(Web LEON)

尾上右近 研の會 LEON 鷺娘 藝阿呆 歌舞伎

歌舞伎の枠を超え、映画やドラマ、ミュージカルの世界でも目覚ましい活躍を続ける尾上右近さん。今年は「芸術選奨文部科学大臣新人賞」と「読売演劇大賞・杉村春子賞」をW受賞するなど、まさに破竹の勢いを見せています。そんな右近さんが23歳の時に立ち上げ、大人の役者への階段を駆け上がる原動力となった自主公演『研の會(けんのかい)』が、今年いよいよ10回目のファイナルを迎えます。


その節目となる記者発表の場でのこと。前日に眠れなくなってしまったという右近さんは、なんと「23歳の自分に向けた手紙」を自ら書き下ろして朗読!……が、感極まって自分自身で涙してしまうという、なんともピュアで熱すぎる一幕がありました。


「終わることは、次なる何かの始まり」と語り、二刀流のルーツである清元への思いや世界への夢まで、お茶目に語る右近さんの思いをお届けします。

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終わることは、次なる何かの始まりだと肌で感じている

── ファイナル公演おめでとうございます。ライフワークとも言うべき「研の會」が終わります。無事やり終えられる喜びと、終わってしまう寂しさ、どちらが強いのでしょう。


尾上右近さん(以下、右近)  役者の家業というのは、ずっと続いていく「無限階段」のようなものだと思っています。常に課題と向き合って、「秀でるためには何が必要か」を考え続ける。もっともっと、という気持ちの繰り返しです。


ただ、自分の人生の中で「自分で区切りをつける」ということを、これまで一度もやったことがありませんでした。だからこれが役者人生において「初めての区切り」になるんだなと感じています。普段は振り返っている暇なんてあってはいけない、常に前を向いていなければいけない世界ですが、今回ばかりは振り返るっていうのもいいもんだなって。よく頑張ったと思います(笑)。


自主公演を10回続けたという実績は、僕自身の誇りや自信になるだけでなく、役者仲間や後輩たちにも“夢や目標を持つ楽しさ”として示せることも喜びとしてあります。世間一般でも「継続は力なり」と言われますが、物事をまず一区切りつくところまで続けることの大切さは、おこがましいかもしれないけれど、ひとつの形として伝えられたのかなとうれしく思っています。

尾上右近 研の會 LEON 鷺娘 藝阿呆 歌舞伎
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── 定年がない役者の世界だからこそ、「自分で区切りをつける特別さ」があるのですね。


右近 それが「次のステップは何なのか」を感じる時間にもなります。今まさに「終わることは、また次なる何かの始まりだ」ということを肌で感じています。ずっと同じ熱量で頑張り続けるのは無理ですから、一回着地して、次の「頑張る種類」を変える。それがあった方が、健康的に長く表現を続けられるんじゃないかなって思っています。


── この10年で、右近さんを取り巻く環境や立場も大きく変わったと思います。自分の中で「変わらないこと」と「変わった自覚」を教えてください。


右近 変わった部分は、「自分に正直になった」ということ。10年前は実績も自信もなくて、いろんな力が足りない自分を認識していたので、いろんなことに遠慮しがちでした。そこから回数を重ねて、少しずつ自信がついたなと感じています。


逆に変わらないところは……「自分自身への手紙」を自分で書いて、自分で泣いちゃうあたりですね(笑)。そういう神経、我ながら「自己愛が高めだな」と思っています。でも、きっとその自己愛高めな姿を、人は喜んでくれるだろうという人への期待、そういう「人間愛」みたいなところは変わっていないんだなと。


立場が上がっていくと、どうしてもその立場にハマった「それっぽい振る舞い」をしなきゃいけなくなっていきますよね。それってやっぱり嫌なので、自分自身をあえてかき混ぜて困惑させて、もちろん、責任を持たなければいけない立場に変わってきているのは確かですが、これからも人にたくさん良い意味での迷惑をかけながら、楽しんでやっていきたいと思います(笑)。

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清元との二刀流、そして外部の舞台がもたらす「相乗効果」

── 右近さんは清元節宗家の家に生まれ、歌舞伎俳優にして、清元唄方「清元栄寿太夫」としても活動する二刀流です。この両方を修めることはご自身にとってどのようなプラスや相乗効果があると思いますか?


右近 一番は「客観性が拡大される」ということです。歌舞伎は歌(うた)と舞(まい)と伎(技わざ)で歌舞伎と書きますが、その歌(音楽)の部分は歌舞伎の大前提であり、歌舞伎は本質的に音楽劇なんですね。無音や効果音だけで進むことはあまりなくて、常に音楽が流れている。その「音の中で泳ぐ」というのが役者の基本なんです。


清元としてプロの演奏側の視点を持つことで、「泳いでいる音の構造」が深く理解できるようになりました。演奏している時は、役者さんが泳ぎやすいように演奏することが大事。役者として舞台に立つ時は、伴奏してもらっているだけじゃなく、自分の舞踊に関わることが演奏として楽しいと思ってもらえるような役者でありたいと思います。


相手の立場になって考えるというのは人間として必要なことですが、それを芸の、仕事上で感じられるようになったのは、ものすごく大きいです。


音楽の構造を理解するだけで、振りを踊る時の解像度が劇的に変わります。例えば雨の歌詞がついているなら、その雨を手で感じる振りとして、どういう雨かを想像する。想像力の幅が広がるので、音楽を理解することは役者にとって非常に重要なことです。それを単なる勉強ではなく、仕事として向き合えているのは、自分にとって本当に幸せなことだと思います。


── 右近さんが考える「伝統を守ること」と「時代に合わせて革新を続けること」のバランスについて教えてください。


右近 めちゃくちゃ責任感のない、正直な話をすると……どっちかひとつだけやっていると、やっぱり「飽きる」んですよ(笑)。


伝統だけに凝り固まると、いつの間にか自分の中で見えないハードルをたくさん作ってしまって、息苦しくなっていくんです。一方で、革新的なものや新しいものに挑む時は、すごく自由で、自分自身の感覚のまま表現できる楽しさがあります。でも、それと同時に古典の持つ本質的な力の強さというものを感じて、「やっぱり古典って本当にすごいな」と改めて思うのです。だから伝統が「7」、革新が「3」という割合のバランスで、僕はやっていくんだろうなと感じています。

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── 歌舞伎だけでなく、現代劇、ミュージカル、映像など幅広くご活躍ですが、外で演技の仕事をすることは、歌舞伎に対してどのような影響を与えていますか?


右近 外部のお仕事をすることは、例えるなら「日本人が海外に行って、初めて日本の素晴らしさを再確認する」という感覚にすごく近いです。外部の仕事では役者さんとコミュニケーションをとることで理解が深まります。実は、歌舞伎俳優同士ってお互い子供の頃からずっと知っているという安心感があるからこそですが、今さら「関係値を深めるためのコミュニケーション」ってわざわざやらないんですよ。


でも、外部を経験したことで「歌舞伎の仲間たちも、今この瞬間、何を感じていて、何がきついんだろう?」ということに目を向ける大切さに気づけました。それを知ることで、歌舞伎の舞台においてももっといい仕事ができる。これは歌舞伎の中にだけいたら絶対に気づけなかったことです。だから、やっぱり僕にとって“多流試合”は絶対に重要だと思います。

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ここで芝居を観たいんじゃない、ここで芝居をやりたいんだ!

── 今後の展望として考えていることはありますか。


右近 『研の會』は本当に“自己投資”の公演だったので、自分にありとあらゆる負荷をかけてきました。スタッフのみんなにも本当に大変な思いをさせて、ついてきてもらったので……次は、もうちょっとみんなが楽できるような公演も目指していきたいなと思います(笑)。こんなに自己負荷をかけない、ありがたい公演を(笑)。


でも、応援してくれているお客様が満足できる公演を、自分で発信していくという姿勢は絶対に持ち続けたいです。


歌舞伎の公演でも必要とされる立場になってきて、僕はまだ座長はやったことがありませんが、今後は責任ある立場を任せていただけることもあるでしょう。そのうえで、自分から発信する場所を持っていることは、お客様のためにも絶対にいいことだと思っています。

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── 近年は海外での歌舞伎への関心も高まっています。海外公演など、世界への発信についてはどうお考えですか?


右近 実はずっと行きたかったフランスに、今年だけで2回も行くことになって、場所との縁を感じています。フランスに行った際、ずっと夢だったオペラ座(パレ・ガルニエ)の劇場見学をしたんです。行く前は「ここでいつか観劇したいな」という思いだけだったのですが、いざその空間に立ったら、「ここで芝居を観たいんじゃない、ここで芝居をやりたいんだ!」という気持ちが湧き上がって、それが今の夢になりました。ガルニエは来年(2027年)から改修に入って、2029年頃に終わるそうなので……。


── こけら落とし狙いですか(笑)?


右近 そうそう、こけら落としに、ぜひ僕の個人公演をぶち込ませてもらいたいなと(笑)。タイトルは『研の會』で。


── あれ、戻っちゃうんですか(笑)。


右近 はい、『エピソード0』で。本当にやりたいですよ。

── そちらも楽しみにしています(笑)。その前に、今回の『研の會』 についての思いを!


右近 自主公演『研の會』 は今年でファイナル公演を迎えることとなりました。自分のために始めた公演が、少しずつ歌舞伎のために、そして自分への道のりとなる公演になったら、と思っています。

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第10回『研の會』 本人による演目解説

阿呆(げいあほう)』

これは僕が子供の時に、亡くなった(中村)勘三郎のおじさまが踊られたのを観て、すごく鮮明に覚えていた作品なんです。タイトルの通り、芸の道をがむしゃらに生きる男たちの物語で、文楽の竹本大隅太夫と豊澤團平という三味線引きの2人を中心に、あらゆる面で芸に向き合う人間たちを泥臭く描いています。


僕は清元(清元節宗家)の人間でもありますので、「歌舞伎俳優が役者として舞台に立つうえでの演奏は、どこまでも生演奏にかけるべきではないか」という強い思いがあります。たとえ名人の音源がどれだけ素晴らしいものであったとしても、生にこだわる姿勢を持たないと、自分自身のルーツやあり方を自己否定することになってしまう。今生きている先輩方、同じ古典芸能という土俵の中に共存している先輩方や仲間と一緒に、この『藝阿呆』を作り上げていきたいと思った次第です。

『鷺娘(さぎむすめ)』

映画『国宝』の大ヒットで有名になりました。僕は流行りに乗っかることも歌舞伎の大切な文化だと思いますし、僕自身も流行りには常に興味を持っていたい。なので、シンプルに「流行ってるからやります!」と(笑)。ある意味、『藝阿呆』とは対極にある存在感の作品かなと思います。現段階でお話しできることとしては、クライマックスの最後の幕切れには「死ぬパターン」と「死なないパターン」の2つがあるのですが、「そのどちらでもないこと」をやりたい、そして派手に終わりたいと思っています。


『春興鏡獅子』

『鏡獅子』は第1回でやらせていただいて以来、ずっと本公演でやりたいと思っていました。それが昨年の4月、歌舞伎座の舞台で、本当に願ってもない形でやらせていただきました。そのうえで、今回の第10回でまた演じさせていただくというところが、我ながら『藝阿呆』っぽいなと言いますか(笑)。純粋にまだ踊り足りないですし、一生やっていくお役として見つめると、まだまだ課題ややり残したことがいっぱいあるなと感じたからです。自分の自主公演として「鏡獅子に始まり、鏡獅子で終わる」というひとつの区切りという意味もあります。

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尾上右近自主公演 第十回「研の會」

尾上右近自主公演 第十回『研の會』

【大阪公演】

会場/国立文楽劇場

9月5日(土)昼の部 11:00開演 夜の部 16:30開演

9月6日(日)昼の部 11:00開演 夜の部 16:30開演

【東京公演】

会場/明治座

10月2日(金)昼の部 11:00開演 夜の部 16:30開演

10月3日(土)昼の部 11:00開演 夜の部 16:30開演

■料金

【大阪公演】

特別席 2万3000円(特典付き)/1等席 1万3000円/2等席 9000円

(全席指定・税込)

【東京公演】

特別席 2万5000円(特典付き)/1等席 1万5000円/2等席 7500円/3等A席 5000円/3等B席 3000円

(全席指定・税込)

尾上右近 研の會 LEON 鷺娘 藝阿呆 歌舞伎

● 尾上右近(おのえ・うこん)

1992年5月28日、東京都生まれ。曽祖父は六代目尾上菊五郎。母方の祖父に鶴田浩二。7歳で初舞台。歌舞伎伴奏音楽の清元唄方も務める歌舞伎界の二刀流。昨年の四月大歌舞伎『春興鏡獅子』で小姓弥生・獅子の精を好演。その活動は歌舞伎界のみにとどまらず、大河ドラマ「青天を衝け」「豊臣兄弟」をはじめ、ミュージカル『衛生』『ジャージー・ボーイズ』、バラエティ、情報番組など多方面に活躍。映画『燃えよ剣』にて日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。2026年、「第33回 読売演劇大賞」において杉村春子賞を受賞。第76回文化庁芸術選奨において、演劇部門の「文部科学大臣新人賞」を受賞。 大のカレー好きとしても知られる。

HP/尾上右近 公式サイト | Onoe Ukon OFFICIAL SITE

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