2026.08.09
【第104回】 赤湯の「吾助」と「壹傳」
山形で出会った懐石料理の料理人が作る絶品醤油ラーメンとは?
日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。
BY :
- 文/山本益博
- CREDIT :
写真/山本益博 編集/森本 泉(Web LEON)
日本初の料理評論家、山本益博さんが、B級グルメから一流の料理へと変貌を遂げつつある街のラーメンに注目し、自ら実食しつつラーメンの最前線をリポートする連載。今回は筆者が山形の赤湯で出会った懐石料理の料理人が作る素晴らしいラーメン専門店「吾助」をご紹介します。

山形の赤湯で出会った日本料理の料理長が作る 「冷やしラーメン」の最高峰
山形の温泉街・赤湯といえば、ラーメンファンなら真っ先に思い浮かべるのが「龍上海」である。今回はその「龍上海」に勝るとも劣らない赤湯のラーメン専門店をお知らせしよう。その名を「吾助」という。
話は遡ること10年以上前、赤湯と同じ南陽市の米作農家・黒澤信彦さんのおすすめで、東京は新宿にあるホテル、パーク ハイアット 東京の日本料理店に出かけていった。黒澤さんのお米は2000年秋田県大潟村で開かれた「日本一米作りコンクール」の減農薬米部門で最優秀賞に輝き、その時の審査委員長が私だったため、それからのご縁で、黒澤さんのお米が使われているとの理由で店を訪れたのだった。
食事の後に伺えば、料理長・大江憲一郎さんが南陽市出身だった。その後、おうちの事情で、大江さんは赤湯に帰ることになり、地元で日本料理店「壹傳(いちでん)」を開いた。

▲ 手間右が「吾助」。奥が「壹傳」。
音沙汰なしが続いたが、この6月、私が赤湯に用事で出かけると、駅でばったり大江さんにお会いした。日本料理店を開いているとばかりおもっていたら、なんとラーメン専門店も軒を並べてやっているとのことだった。これはなんとしてでも出かけなくてはと駅からそのまま出かけたのが「吾助」だった。
6月末とはいえ、かなりの暑さだったから、山形特有の「冷やしラーメン」、店でのメニュー名「冷たい中華そば」を注文した。これが、今までいただいた「冷やしラーメン」の最高峰! 調味料である醤油の味が前面にでしゃばらない、実に穏やかな「冷たい中華そば」だった。さすが、日本料理の料理長、懐石料理の店主だけある、出汁の取り方をわきまえた素晴らしく調和のとれたスープだった。
食べ終えてすぐに、懐石料理「壹傳」の予約をした。

▲ 「吾助」の「冷たい中華そば」 。
1週間後、再び赤湯へ出かけ「壹傳」で夏の懐石を味わった。山形の食材を中心に、旬の味わいを大切にした料理の数々。とりわけ、「鮎の塩焼き」と「はもとじゅんさいの煮物椀」が見事だった。「壹傳」の料理に唸りながら、頭のどこかに「吾助」のラーメンが残っている。「もういちど、ラーメンを食べてみたい」と。

▲ 「壹傳」でいただいた 「はもとじゅんさいの煮物椀」。
赤湯に滞在中、大江さんに内緒で、今一度「吾助」へ足を運んだ。注文したのは「中華そばしょうゆ」。
これが、文句なしに美味しかった。さすが、日本料理人が作り出す「醤油ラーメン」だった。

▲ 「吾助」の「中華そば しょうゆ」。
日本料理出身のラーメン店といえば、葛西の「ちばき屋」が有名だが、私は店主が銀座の日本料理店で店長を務めていた時代から通っていて、日本料理とラーメンの両方の腕前を知っているが、そのどちらも現役で務めているというのは、大江さんのほかにいるのだろうか。もし、いるとしても、このレベルで「懐石料理」と「ラーメン」を展開しているのは、小さな奇跡といえるかもしれない。
赤湯へ出かけたら、「龍上海」の前に「吾助」で「中華そばしょうゆ」を召し上がることをお勧めしたい。

▲ ちなみにこちらは、「吾助」の「中華そば みそ」。

▲ 「壹傳」で店主の大江さんと。
吾助

● 山本益博(やまもと・ますひろ)
1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

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