2018.02.02

自転車でスピード違反

ロードバイクに惹かれた若き日の筆者。その速さに夢中になっていると、まさかのスピード違反に! しかし警官からは驚きの言葉をかけられて…。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

自転車なのにスピード違反で捕まったことがある。もちろん大昔の話。20才代の終わり頃、血気盛んな頃のことだ。

自転車がとくに好きだったわけではないし、スポーツ的な乗り方をしたこともなかったが、ロードバイクのカッコよさには惹かれていた。

だから、自転車がほしいと思ったのも、走りを楽しみたかったためではない。部屋に置いたらカッコいいだろうなと思ったからだ。


となれば、カッコさえよければいいのかということになるが、それでは収まらない。外見と同時に中身もまた自慢できるスペックがほしかった。

バイク好きの友人にショップを紹介してもらい、相談に行った。そのショップはプロ仕様に近いものまで扱っていた。望めば「いかようにもいたします!」ということ。

そして、多くのパーツを見せてもらい、説明を受けた。「自転車ってすごいんだ!」と驚き、さらに惹かれる気持ちは強くなった。

その結果、けっこうなスペックのロードバイクを注文することになってしまった。
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どんな自転車だったか、詳しくは覚えていないが、ひとつの大きな指標になる重量は覚えている。「12kg」だった。

現在のロードバイクで「軽いね」と言われるのは10kgがボーダーラインといわれているよう(プロ仕様は7kg)だが、50年前の12kgは軽かったはず。


初めは、部屋に置いて眺めているだけで嬉しかったし、満足していた。でも、しばらく経つと無性に乗りたくなった。ま、当然だろう。

で、乗ったのだが、想像していたよりずっと楽しく、けっこうなスピードもでた。長距離ツーリングはやらず、もっぱら、空いた道路でスピードを楽しんだ。

そしてある日、あろうことか、「スピード違反で御用!」になってしまった。40km/h 制限のところを60km/h で。20km/h オーバーである。

そこは広い道路でゆるい下り坂。僕は全力で漕いでいた。そうとうスピードが出ているのはわかっていた。スピードを出そうと頑張っていたし、それを楽しんでいたのだから。


赤旗を持った警官が突然目の前に出てきて「止まれ!」の合図。もちろん止まったが、その理由がわからず、「いったい、なんなのこれ!?」といった気持ちだった。

クルマの運転中なら意味は当然わかるし、「やばい、やっちゃった!」とガックリくるところ。でも、自転車でスピード違反なんて考えたこともなかった。

自転車を車道に置いて歩き出したら、旗を出した警官が自転車を歩道に移動してくれた。
そして、車道と歩道の段差で持ち上げたとたん、「オッ、軽いね!」と驚いたようなそぶりと笑顔。

その一瞬、取り締まり現場の空気は和らいだ。
数人の警官も僕もなんとなく笑顔になった。

「速いですねー、この自転車もキミも!」から話しは始まった。「どのくらい出てたんですか?」と僕。「60km/h 。ほら」と速度を記録した紙切れを見せてくれた。

60km/h …ピンとこなかった。自転車には速度計がついていないので、「何キロ」という具体的速度はわからなかったし、それを意識したこともなかった。

意識していたのは「速いか遅いか」だけ。捕まった時も「速かった」とは思っていたが、60k m/h を示す記録紙を見て唖然とした。
「自転車でもこんなスピードが出るんだ!」と驚いたことを覚えている。

でも、自転車がスピード違反で捕まることはどうしても理解できなかった。「速度計もついていないのだからスピードはわからない」などと反論を試みたのだが、自転車も違反の対象であることを懇々と説明されて納得せざるをえなかった。

結局「ごめんなさい」と頭を下げたのだが、その後に意外な展開が待っていた。
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「ほんとうは違反切符切られてもしょうがないんだよ。でも、今日はなしにするから、これから気をつけて走ってよ。自転車もキミの脚力もすばらしいけど、競技場でやってね」。警官はみんな笑顔だった。

メチャメチャ嬉しかった。違反をなしにしてくれたことより、最後の括りの言葉が嬉しかった。公道でこんな走り方をするのは絶対にやめよう、と素直に思った。

ゆっくり走って家に帰り、細かいところまでピカピカに磨き上げた。そして部屋に戻した。以後部屋からは出さなかった。

「60km/hのスピード違反」は、苦い思い出ではなく、良き思い出として、ちょっぴり自慢したい思い出として心に残っている。

●岡崎宏司/自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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