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2024.03.16

第29回

最高峰の高級時計の文字盤はなぜ「エナメル」なのか?【ハンドクラフト文字盤編】

腕時計選びでこだわるべきは、最も目につく「文字盤」。まさしく“時計の顔”だけあって、時計の印象を左右します。今回は、最高峰の高級時計に使われる「エナメル」をはじめとした、ハンドクラフト(職人の手仕事)によって作られる文字盤をまとめて紹介します。

CREDIT :

文/渋谷康人

「エナメル」ほか、芸術的な職人技が光る「ハンドクラフト文字盤」を解説

文字盤は、“時計の顔”。だから、オトコの時計選びは何よりも文字盤にこだわるべし。とはいえ、文字盤の種類は多種多様です。そこで文字盤選びに欠かせない基礎知識と、色気のある“モテる顔”な文字盤選びのコツをお伝えしましょう。

第4回では、特に最高峰の高級時計に使われる「ハンドクラフト文字盤」を解説します。
▲ パテック フィリップはアジアを中心にした地図をクロワゾネエナメルで文字盤中央に描いた。「ワールドタイム 5321」自動巻き、ホワイトゴールドケース、アリゲーターストラップ、3気圧防水。1389万円/パテック フィリップ(パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター)
▲ パテック フィリップはアジアを中心にした地図をクロワゾネエナメルで文字盤中央に描いた。「ワールドタイム 5321」自動巻き、ホワイトゴールドケース、アリゲーターストラップ、3気圧防水。1389万円/パテック フィリップ(パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター)
高級時計、なかでも複雑時計は最高峰の時計職人(時計師)だけが組み立て・調整が可能で、“職人技の結晶”ともいえるメカニズムを備えています。そして、こうした時計には文字盤も中身にふさわしく高級なものをという考えから、最高峰の職人技を使ったものが多く使われます。それこそが、“文字盤の芸術品”ともいえるハンドクラフト文字盤です。

今回は、時計愛好家が「スゴイ!」「素晴らしい」と納得、感心する代表的なハンドクラフト文字盤の種類とその魅力についてお届けします。
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釉薬を焼き付けて生み出される「エナメル文字盤」

ハンドクラフト文字盤の代表が「エナメル文字盤」。金、銀、銅などの金属にガラス質の釉薬を750〜850℃という高温で何度も焼き付けたものです。エナメルは化学的に安定していて、鮮やかな色や深みのある輝きを備えながら、磁器と同様に数百年を経ても変わらない半永久的な美しさを誇ります。日本語では七宝(しっぽう)とも呼ばれます。

ただ、エナメルという言葉は、皮革の着色に使われるエナメル塗料や、ステンドグラスやガラス工芸での絵付けに使われる低温エナメル(600℃前後で焼成)にも使われるため、時計の文字盤に使われるエナメルは800℃前後で焼き付けを行うことから「高温エナメル」「グラン・フーエナメル」(フランス語で“偉大な火”という意味)とも呼ばれます。

この技術はスイスには16世紀頃にフランスから持ち込まれ、ジュネーブで発展しました。しかし20世紀になって一度は失われかけた貴重な技術でもあり、スイスでも現在、最高峰の職人はごくわずかしかいません。

また、グラン・フー・エナメル文字盤は製作に手間がかかるだけでなく、釉薬の焼き付け工程にも注意が必要です。釉薬の焼成温度は色によって違うため、色の違う釉薬を何種類も使い分ける文字盤では、釉薬ごとに何度も高温のオーブンで焼かなくてはなりません。その際に割れや欠けが起きることは珍しくなく、だからグラン・フー・エナメル文字盤の時計は高価で希少なのです。

さらには「ブラックエナメル文字盤」のように、単色でも製造が非常に難しいものも少なくありません。そういった理由から、現在でも各社がエナメル文字盤の技術開発に取り組んでいます。
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手作業で彫られる「ハンドエングレービング文字盤」

▲ 現代最高峰のエングレーバーのひとり、ジュネーブ在住のキース・エンゲルバーツの「アルゲンチウム レーザー トゥールビヨン」(参考商品)。ハンドエングレービングと手動のレーザー加工機による彫刻加工が文字盤全面に施されている。
▲ 現代最高峰のエングレーバーのひとり、ジュネーブ在住のキース・エンゲルバーツの「アルゲンチウム レーザー トゥールビヨン」(参考商品)。ハンドエングレービングと手動のレーザー加工機による彫刻加工が文字盤全面に施されている。
続いて、製作工程のすべてが手作業で、その多くが一点ものの文字盤が「ハンドエングレービング文字盤」。つまり、手彫りの彫刻加工で作られた文字盤です。

職人の手作りなので製作に長い時間がかかり、大量生産もできないため、この文字盤を使った時計は一品もの(ユニークピース)、あるいは数量限定生産や受注生産されるものがほとんどで、価格もそれだけに高価です。また、受注生産の場合は注文主の希望に応じてカスタマイズ可能なのが一般的です。世界で「本当にひとつだけ」の時計が欲しい人にとって、これは究極の文字盤といえるでしょう。
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木を組み合わせて模様や絵を描く「マルケトリー文字盤」

▲ 2023年に開催された「パテック フィリップ ウォッチアート・グランド・エキシビション 東京2023」のために一品製作された懐中時計。武士の姿がケースバックに、約1000個の木片を組み合わせた木象嵌で描かれている。ユニークピース。参考商品。
▲ 2023年に開催された「パテック フィリップ ウォッチアート・グランド・エキシビション 東京2023」のために一品製作された懐中時計。武士の姿がケースバックに、約1000個の木片を組み合わせた木象嵌で描かれている。ユニークピース。参考商品。
フランス語の「マルケトリー」とは、地となる木を模様となる形にくり抜いて、そこにぴったりと違う木を嵌めていき、絵や模様を作る技法のこと。この技法を使った文字盤が「マルケトリー文字盤」です。日本語では「木象嵌」と言います。

天然石や鳥の羽根、花びらなど木以外の素材を使い、寄木細工の技法で作る場合も、時計の世界ではひとまとめに「マルケトリー」と呼んでいます。熟練した職人が時間をかけて手作りするため、この文字盤を使った時計は価格も高価で生産数もごくわずかです。
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日本の伝統技術の結晶「蒔絵文字盤」「螺鈿文字盤」

▲ 漆黒の夜空に無数の星が流れる情景を、幅わずか0.2mmの貝片を漆の中に埋め込んだ螺鈿蒔絵で表現したモデル。文字盤の製作者は、世界的な漆芸家の田村一舟氏。「アートピースコレクション 螺鈿ダイヤル 限定モデル Ref.GCBY997」手巻き、SSケース、クロコダイルストラップ、ケース径37mm、日常生活防水(3気圧)。世界限定60本。165万円/クレドール(セイコーウオッチお客様相談室)
▲ 漆黒の夜空に無数の星が流れる情景を、幅わずか0.2mmの貝片を漆の中に埋め込んだ螺鈿蒔絵で表現したモデル。文字盤の製作者は、世界的な漆芸家の田村一舟氏。「アートピースコレクション 螺鈿ダイヤル 限定モデル Ref.GCBY997」手巻き、SSケース、クロコダイルストラップ、ケース径37mm、日常生活防水(3気圧)。世界限定60本・製造終了
高級時計の文字盤として最後に紹介したいのが、日本伝統の装飾技法を使った「蒔絵文字盤」「螺鈿文字盤」です。

まず蒔絵は、表面に漆で絵や模様を描き、その上から金粉や銀粉などの金属粉や色の付いた粉を蒔き付けて定着させる日本の伝統的な装飾技法のこと。

もうひとつの「螺鈿(螺鈿蒔絵)」も漆を使った日本伝統の装飾技法ですが、これは真珠母貝やその仲間の貝片(=螺鈿)を漆を塗った地の上に埋め込んだものです。貝片のひとつひとつが漆の中から浮かび上がるように見え、光の当たる角度が変わる度にさまざまな色に煌めきます。

どちらの文字盤も、控え目であると同時に華麗でもある、日本の美意識から生まれた特別なもの。まだ実物を見たことがない方は、ぜひ一度ご覧になることをオススメします。

■ お問い合わせ

ヴァシュロン・コンスタンタン 0120-63-1755
パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター 03-3255-8109

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