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2023.10.20

【vol.17】和の礼法を学ぶ(1)

小笠原流礼法【基本編】 和の礼法は荒くれ武士たちを鎮めるために始まった

モテる男には和のたしなみも大切だと、小誌・石井編集長(49歳)が、最高峰の和文化体験を提供する「和塾」田中康嗣代表のもと、モテる旦那を目指す連載です。今回のテーマは「和の礼法」。前編では礼法の歴史から学びます。

CREDIT :

文/牛丸由紀子 写真/トヨダリョウ 編集/森本 泉(LEON.JP) 指導協力/小笠原流礼法宗家本部 撮影協力/醍醐

モテる旦那養成講座 小笠原流礼法 LEON.JP
▲ 小笠原流礼法宗家・小笠原敬承斎先生(左)、和塾代表・田中康嗣さん(右)、LEON編集長・石井 洋(中)。
かねてから「和のたしなみを学びたい!」と熱望していた石井洋編集長が、和の達人から様々な知識と心得を学び、旦那、つまり一枚上手の上級なオヤジを目指す連載「モテる旦那養成講座」。案内役は、本物の日本文化体験を提供する「和塾」の田中康嗣代表です。

第17回のテーマは「和の礼法を学ぶ」。もう大人なんだから、ある程度の礼儀作法は身についている……と自信を持って言えるオヤジさんはどれくらいいるでしょう。いざ格式高い料亭に招かれた時に「お椀の蓋ってどう置くんだっけ?」など、悩んだことはないでしょうか? 

いくら素敵なファッションに身を固めていても、お辞儀ひとつ、あるいは箸の使い方ひとつが雑だったり自然でないと、その印象は一気にガタ落ち。逆に遊んでばかりのオヤジに見えて、和室での所作や食事の振る舞いが自然にできるのはかなりの高ポイントかと。

そこで和の礼法の第一人者である小笠原流礼法宗家・小笠原敬承斎(おがさわら・けいしょうさい)先生に礼法の基本を教えていただくことに。先生、よろしくお願いいたします!
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失礼ながら厳格なおじいさん先生と思っていたら

田中 さて今回の和のたしなみは礼法ですが、実践で教えていただくために、愛宕にある精進料理の名店「醍醐」さんにお邪魔しました。

石井 虎ノ門ヒルズのすぐ近くにこんな和の素晴らしい空間があるとは! 日本庭園を望む和室にいると、東京のど真ん中にいることを忘れてしまいそうです。

田中 和塾ではこの日本庭園にホタルを放して、蛍狩りの会もしたことがあるんですよ。お部屋もお料理も歴史ある和の風情が堪能できますので、今回の小笠原流礼法を学ぶには最適だと思います。教えていただくのは、小笠原流礼法の宗家でいらっしゃる小笠原敬承斎先生です。先生、今回はよろしくお願いいたします。

小笠原先生 こちらこそよろしくお願いいたします。
石井 礼儀作法の先生かつ難しいお名前から、厳格なおじいさん先生かと思っていたのですが、お美しい先生で驚いています(笑)。礼儀作法は知っているようで知らないことも多そうなので、今日は基本から叩き直していただこうと思っています。
モテる旦那養成講座 小笠原流礼法 LEON.JP 醍醐
▲ 愛宕にある精進料理の名店「醍醐」
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武士が知るべきあらゆる作法がそのルーツ

田中 まずは礼法というものが、どういう成り立ちで伝承されてきたのか、教えていただきましょう。

小笠原先生 礼儀作法やマナーと聞くと、どちらかというと女性が身に付けるものという印象を持つ方が多いのですが、小笠原流は武家社会の中で確立したものなのです。

石井 なるほど、本来は武士の生活上知るべきルールというわけですね。

小笠原先生 鎌倉時代から室町時代の武士と言えば、大変個性的な方も多かったわけです。

石井 優しい言葉でおっしゃっていただきましたが、要は“荒くれ者”っていうことですね(笑)。
田中 なにしろ田舎侍や野武士たちもたくさんいましたしね。

小笠原先生 そのような武士たちも、京都で公家の文化を目の当たりにすると、教養を身につけたいという思いが高まり、一方では彼らをまとめる将軍や幕府も、礼儀作法を浸透させ協調性を身につけさせることで、社会生活を円滑にすることができると考えたわけです。このように双方の思いが合致して、礼儀作法が武士の間に伝えられるようになりました。

田中 京都に行って恥をかきたくないですしね。

小笠原先生 私どもでは、室町期に記された古文書をすべての教えのルーツとして指導しています。その中には食事の作法や手紙の心得などという日常的なものもあれば、「実検門」という項目があり、討ち取った首の改め方など武士特有の作法も残されています。さらに蹴鞠の項目などもあるところは、やはり公家の方たちの文化も意識していたことが推察できます。このように朝起きてから寝るまで、日々のあらゆる場面で必要な心得が確立されたのが、今から約700年前のことなのです。
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田中 そもそもは、基本的には男たちが知るべきものだったのですね。

小笠原先生 はい。今の時代においても、ぜひ男性の方々にも礼儀作法を身につけていただきたいと思っていますので、この機会をいただいいて、とてもうれしく光栄でございます。ありがとう存じます。

石井 いやいや、本当に年齢を重ねていろんな場所に招かれるようになると改めて「あれ?」と悩むことも多いので、ぜひ勉強させていただきたいと思います。

田中 LEON読者のようなオトナこそ自然な所作を身につけて、粋に振舞っていただきたいですな。

【ポイント】

■ 礼法は室町時代から武士の教養かつ武士の統制をはかるものとして伝わる
■ 約700年前から伝わる小笠原流の伝書には、日常的な作法から蹴鞠や首の改め方に至るまであらゆる作法が書かれている

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“礼儀”と“作法”、その違いと両立が礼法の真髄

小笠原先生 作法と聞くと、どうしても形ばかりが優先的に思われがちなのですけれども、礼儀作法の“礼儀”と“作法”はどのような違いがあると思われますか?

石井 う~ん、何だろう。改めて聞かれると難しいですね。どちらも相手に対しての動作というか、相手を慮ることに大事さがあるのかなとは思いますが……。

小笠原先生 そうなのです。例えば明日どちらかに伺って会議や会食があるという時、どのような服がふさわしいかなど、前もって行く場所や自分の立場を、まず心で考えると思います。そのように、お相手のことを慮るのが礼儀作法の“礼儀”です。そしてその思った心を形に表すというのが“作法”なのです。したがって、心と形が存在しないと“礼儀作法”は成り立たないのです。

石井 なるほど! 形だけじゃ駄目ということ。
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小笠原先生 またその心を伝えたくても個人個人異なる表現方法だと、せっかくの思いもなかなかうまく伝わらない。ですので基準となるものが必要なのです。

田中 いわゆる共通の認識を持つことが大事なわけです。

小笠原先生 そうです。ただその基準の作法を知ったうえで、行く場所や相手に対してどうふるまうかを考えることも必要です。100の引き出しがあっても、今日は一つだけ開ければいいのか100全部使うべきなのかという判断もきちんと持っていないと相手に失礼がありますから。ですので作法は一辺倒ではなく、自分の判断によっていかようにも自然に行動するというのが小笠原流の考えなのです。
石井 そこにはある程度の自由度があるんですね。

田中 型をちゃんと身につけたうえだからこそ、“型破り”もありだということですな。

小笠原先生 実は尊い人の前では礼を省略するべきだという教えもあります。自分より社会的立場や年齢の高い方を前にした時に、どうしても礼を尽くしたいと思いがちなのですが、時にはそれが自己満足になってしまい相手に負担がかかってしまうこともあるかもしれない。そこで、時には礼を省略することも礼の一つであるということも考えられます。礼儀作法は、必ずしもこうでなければならない、という堅苦しいものではないとわかっていただければうれしいです。

石井 ただ、どこを省略していいのかが難しい(笑)。

小笠原先生 そうですね。例えばお買い物にいらして、購入した品物を店員の方が、出入口のところまで持っていってくださることがあります。ただし、急いでいるお客様に対してなら、出入り口手前で速やかにお渡しする方が好ましいかもしれない。あるいはレストランなどで食事後、お店の方が玄関先まで見送ってくださる時、お互いのこころの負担にならないよう「どうぞお戻りください」とお声をかけ、お店の方も「ありがとうございます」と感謝の気持ちの余韻を残しながら、その場をあとにする、ということもあるでしょう。
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田中 タクシーの席順も、お客さまを奥にとは言いますが、時によっては悩ましい。

小笠原先生 例えばご一緒の方がお着物の場合は、「今日はお着物をお召しなのでお先に失礼いたします」と言って自分が先に奥の席につく、あるいは道路の状況で右側のドアが開けられるのであれば、その方に先に手前に座っていただいてから、自分が右側に回るなど、様々なかたちがあると思います。いずれの場合も、お相手のことを大切に思うこころが基本なのです。

石井 何かひと言、気持ちを添えながらというのも結構大事かもしれませんね。

【ポイント】

■ 相手を慮る心が“礼儀”、その思いを形にするのが“作法”。その両立で成り立つのが礼儀作法
■ 知識一辺倒ではなく、臨機応変に自分の判断で自然に行動するのが小笠原流礼法の考え方
■ 相手のことを考えれば、時には礼の省略も必要

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理由がわかれば、自分で答えを導き出せるのが礼儀作法

田中 こういう和室での振る舞いも、知っているようで実はちゃんと知らないかもしれません。こちらのような格式あるお店に来て、初めて「どうするんだっけ?」と悩む方も多いのではないでしょうか。

小笠原先生 例えば「畳の縁は踏んではいけない」とお聞きになったことがあると思いますが、それはなぜだと思われますか?

石井 きれいな織物なので、すぐ傷んでしまうからとか?

田中 突っかかって、ひっくり返る可能性があるからでしょうね。

小笠原先生 その通りです。昔は繧繝縁(うんげんべり)、高麗縁(こうらいべり)など、厚さのある高価な錦を使うことがその家の格を表すと考えられていました。そうすると今よりも段差があるので、田中さんがおっしゃったようにつまずいてしまうからなのです。

昔は目通りといってお膳を目の高さに持って運ぶことがありました。したがって足元を確認しながら歩くことができず、日頃から畳の縁を踏まないように歩くことを身に付けていたのです。「踏んではいけない」ということが絶対ではなく、状況によっては、踏むこともあり得るという応用性も大切です。
和塾 田中康嗣
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石井 だからこそ、そこに何かしらの理由があることをきちっと知っておくべきですね。

小笠原先生 私どもが最も大事にしていることは、作法には理由があるということです。例えばこの部屋に入る時に右足でなければ駄目ですよと言われたら、右か左かを忘れた瞬間に答えがわからなくなってしまいます。しかし床の間から遠い側や相手から遠い側が下座だと知っていれば、そちら側の足から動くという答えを自分で導き出すことができるわけです。理由をしっかりと自分のこころの中に落とし込めているかどうかが重要なのです。

田中 作法というと「とにかく覚えろ」と理由なくやらされる感じがありますが、形だけ覚えても結局心が無いし応用も効かない。それが何故かというその心のところから入った方が、理解できると思います。
石井 やっぱり理由を知ると、その作法に納得できる。またお話を聞いていて、礼儀作法というもの自体が、心を伝えるコミュニケーションだということが良くわかりました。先生は海外でも講演されていますが、海外にもこういった礼儀作法のようなものはあるんでしょうか?

小笠原先生 ヨーロッパにもマナーは存在しますが、小笠原流のように流派として確立しているというよりは、各家々で決まっていることが伝承されているように思います。

以前パリでワークショップを行った時に、お箸の先はなぜ左に向けて置くのですかという質問をいただきました。実は日本人の方からは、これまで一度も聞かれたことのない質問でした。右利きの場合、お箸置きから取ったままの方向で用いることができるということも理由のひとつですが、ほかにもいくつかの理由が存在します。

例えば「天子は南面する」と言って、天皇など身分の高い方は常に南に面してお座りになる、という考え方があります。そうするとお箸の先が向く左側は東です。太陽が昇る方向に向けておくことで、お箸に太陽のエネルギーを蓄え、そのお箸で食事をすることで体内にそのエネルギーが入っていくとも信じられていたのです。このお話をいたしましたところ、ワークショップ後に、フランス人の方々が自然への恵みの感謝を感じる心は世界共通である、と皆様で語り合ってくださり、大変うれしく光栄に感じました。
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石井 いや、日本人としても初めて知りました。ただ行儀よくというのではなく、そこに歴史や自然から来る意味がある。遊んでいるように見えるオヤジでも、実はこういう話ができればやっぱりカッコいいですよね。

田中 海外の方に聞かれた時にもちゃんと伝えられるように、海外出張の多い石井編集長のようにグローバルに仕事をする方こそ、礼儀作法の知識は必要だと思いますね。さて、それでは次に実際にどういった立ち居振る舞いをするべきなのか、実践編とまいりましょうか。

石井 今まで間違ったまま使っている作法もきっとありそうなので、ビシビシご指導ください!

後編に続きます。

【ポイント】

■ 畳の縁をなぜ踏まないのか、お箸の先はなぜ左を向くのか……礼儀作法にはすべて理由あり。
■ 礼儀作法の理由を理解していれば、すべき作法は自然に導き出せる

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● 小笠原敬承斎(おがさわら・けいしょうさい)

小笠原流礼法宗家。小笠原忠統前宗家の実姉・小笠原日英尼公の真孫。聖心女子学院卒業後、英国留学。副宗家を経て、1996年小笠原流礼法宗家に就任。700年の伝統を誇る小笠原流礼法初の女性宗家となり、注目を集める。伝統ある礼法を現代に活かしながら、学校・各種団体・企業等における講演活動、執筆活動など、様々な分野に活動の場を広げている。聖徳大学・聖徳大学短期大学部客員教授。
著書に『親子で学ぶ礼儀と作法』(淡交社)、『外国人に正しく伝えたい日本の礼儀作法』(光文社)、『男の一日一作法』(光文社)他。
HP/小笠原流礼法宗家本部

● 田中康嗣(たなか・こうじ)

「和塾」代表理事。大手広告代理店のコピーライターとして、数々の広告やブランディングに携わった後、和の魅力に目覚め、2004年にNPO法人「和塾」を設立。日本の伝統文化や芸術の発展的継承に寄与する様々な事業を行う。

■ 和塾

豊穣で洗練された日本文化の中から、選りすぐりの最高峰の和文化体験を提供するのが和塾です。人間国宝など最高峰の講師陣を迎えた多様なお稽古を開催、また京都での国宝見学や四国での歌舞伎観劇などの塾生ツアー等、様々な催事を会員限定で実施しています。和塾でのブランド体験は、いかなるジャンルであれ、その位置づけは、常に「正統・本流・本格・本物」であり、そのレベルは、「高級で特別で一流」の存在。常に貴重で他に類のない得難い体験を提供します。
HP/http://www.wajuku.jp/

和塾が取り組む支援事業はこちら
HP/日本の芸術文化を支える社会貢献活動

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