モテたい背中に愛の16文キック♥

レノンブレンドとフィッツジェラルド

冨永麻由
ウェブ担当。オヤジにかまけて日々妄想と仕事に励む。

最近、イヤホンの調子が悪く、右側だけ音が出ないのだけれど、これがすごく気持ち悪い。気づいたのは、ビートルズの曲が流れていたときで、気持ちのいいイントロから、さあいよいよというところで歌声だけが聴こえなかった。なるほど、ステレオ再生のアルバムとはこういうことかと思ったはいいものの、やはり気持ちが悪い。

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先日、コーヒーがとても美味しい喫茶店を見つけて、以来そこのコーヒーの虜になっている。いかにもジャズが流れていそうな店内で聴こえるのはロックンロール。壁には一応テディ・ウィルソンのレコードジャケットが掛かっているけれど、それでもやっぱりロックンロールだ。店主は変わったおじさんで、いつもお気に入りのCDをかけて鼻歌を歌っている。

コンロの奥にかかっている写真が気になって話しかけると、わりに会話がはずんだ。途中、うしろでビートルズのカバーが流れたので「4月にポール・マッカートニーのライブに行くんです」と言うと、どうやらビートルズ世代らしく、色々話してくれた最後に「でもやっぱり、俺はジョン派だなあ」と、ロックおじさん。

「かわいそうだけど、ポールは永遠にジョンを超えられないよ。だってジョンは死んでるからね。生きてる人間は伝説には勝てないよ」

そういうものかと思ってコーヒー(「レノンブレンド」らしい)を飲んだ。開いていた雑誌は、デヴィッド・ボウイの回顧展を大々的に特集していた。

山本耀司氏が、自身のブランド「ヨウジヤマモト」のコレクションで披露した、「傑作残して早く死ぬヤツ、マジむかつく」の力強い文字が頭をよぎった。

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そういえば、アーネスト・ヘミングウェイとスコット・フィッツジェラルドはしばしばアメリカではウィナーとルーザーの対比として引用される。ヘミングウェイは最後には心の病に苦しみ、その手で握った拳銃によって人生に幕を降ろしたが、作家としては素晴らしい作品を生み出し続けた勝者だった。

それに比べると、フィッツジェラルドは若くして彗星のように現れ、ジャズエイジを華々しく駆け抜けたけれど、その後天命を全うするまでかつてのような名声を得ることはなかった。しかし、晩年のフィッツジェラルドはアルコール依存症に苦しみ、周囲に敗者の烙印を押されようと、最後までペンを握り続けた。

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少ししてから、「でも、ポールのライブ、行きたかったなあ」と店主のおじさんがボソリと言った。「チケット、まだあるんじゃないですか」と言うと、「行けないよ。俺はほら、店、空けられないからね」とのこと。こんなに趣味全開の店で、いつも鼻歌を歌っているのに、営業時間は守るのか、と虚を突かれた心持ちだった。

好きなことを勝手気ままにやることに自由の面影を見ていたけれど、長い人生で好きなことをやり続けるというのはそんなに簡単なことでもないらしい。

ポール・マッカートニーはもう74歳だ。4月のライブで聴く歌声は、私のiPodに収まっている、かつての突き抜けるようなそれと同じというわけにはいかないだろう。

「でも、ポールはすごいよ。ずっと歌ってるもん」と、ロックおじさんがボソボソ言っていた。

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