フォトグラファー仁木岳彦のイタリア日記

FORMAでの写真展『Fashion』

仁木 岳彦
上智大学新聞学科卒。旅の途中、イタリアにただならぬ縁を感じ、2000年からミラノ在住。撮影対象は興味の赴くまま、テーマはむしろ神々しい光の空気感。

FORMAとは、ミラノのウオーターフロント「ナビリオ運河地区」にある
写真美術館の事。美術館と言っても、さほど大きいものでもなく、
パーマネントコレクションの展示なども基本なし。入場料を取る特別展が主体で、
写真のオリジナルプリントを売るギャラリーも併設してますんで、
美術館と画廊の中間を行く活動をしていると言えばいいのかな。。。


とにかく、彼らFORMAから特別展「Fashion」の報道陣用の
プレビューの招待状が来てたので、喜び勇んで行ってきました。
なんてたって、展覧会のタイトルが大げさで良いじゃないすか???

とりあえず、ぐるりと回ってみて、、、「あれれ」っと、これまた
予想したものとは一風、違う感じで、余計に興味をそそられました。
その時代それぞれの有名なアイコン的な写真が並んでいるわけではなく、
とても落ち着いた知的なセレクションなんすよね。


「モデルが有名な誰で、彼らが、どれだけ重要なブランドの服を着ているのか」
なんて、全く知る由もなし。ここまでくると、もう関係ないんっすよね。
タイトルチケットには、「写真家の名前と年代、そして、どの雑誌に掲載されたか」
だけが書いてありました。ファッションビジネスのギラギラした自己顕示の空気が、
時代と共に、きれいすっきり洗い流されてしまった感じで、、、時代の気分を
斬ってきた写真達が、芸術として純粋に浮かび上がってました。


聞くと、この展覧会の写真のセレクションをしたキュレーターは、
八百万枚の写真から選んだそうです。。。写真の海に溺れそうな数っすよね。
冗談抜きに尊敬、申し上げます。千枚の写真からセレクトするのだって
かなり疲れるのにね、八っ百万枚っすよ。


ファッション誌の「Vogue」や「Glamour」、スタイル情報誌の「Vanity fair」や
「GQ」などを擁するコンデナスト社のニューヨーク本社に、この八百万枚の写真の
アーカイブがあるんだそうです。世界中のコンデナスト社の雑誌で使った写真を
ニューヨークに集めてきて、可能な限り保存を試みたと言う事らしい。

キュレーターは、一例として「Vogue」の最大のライバル誌である
「Harper’s Bazaar」にも、この手のアーカイブは存在しなく、、、世界でもほとんど
例をみない規模のアーカイブに、「まずは多大な敬意を表する」と言ってました。
考えてみれば、雑誌の売り上げには、あまり寄与しない、過去の写真の保存に
エネルギーを注ぐと言うのは、並大抵な事ではないですよね。時代を切り拓いてきた、
パイオニアの使命感によるものなのかな? そして、こうして今、文化、芸術として、
ファッションを振り返る時、彼らに依存せざるを得ないわけですから。。。
先見の明もあったとも言えますしね。結果的には、随分昔から、
未来と対話していた事にもなるわけです。いやあ、まさにファッションの生き証人???


ただ、今回の展覧会は、写真のアーカイブでは全面的に協力を
お願いしたものの、コンデナスト社が企画したモノではないので、あくまで
自由な編集権限が与えられていたとの事。ですので「Vogue」やコンデナスト社を
讃えるようなセレクションは、あえてしなかったそうです。

なるほど、展覧会の第一印象に理由がわかりました。とにかく、ファッションの
世界にありがちな「どう、凄いでしょ!」って言う脂ぎったムードが、全然ないんすよ。
知性はもちろん、どことなく品性なんかも感じるわけです。


あと、ダイアンアーバスや、スタイケン、サラムーンなどの作家性の
強い写真界のヒーロー達も、こんな頼まれ仕事をしてたんだなあなんて思うと、
微笑ましく感じてしまいました。

八百万枚の写真を眺めたキュレーターの話は、さすがに面白く、、、


「これらの写真の中には、ファッションには全く興味がないと公言していた
フォトグラファーが撮ったものも数多くあり、ファッションを媒介にした、
それぞれの時代のイメージメーカーの格闘を見せたかった。多分、
雑誌に関わっていた人は、その写真が芸術だとも思っていなかったはず。
すべての写真は、芸術的な個人的な衝動からではなくて、、、
いわゆる頼まれ仕事として撮られたモノ。なのに、それが時代の歴史的証言としての
イメージになる事がある。そして、雑誌に印刷する事を前提に撮影されたものなので、、、
もう亡くなっているクリエーターも多いし、もし、彼らがこの展覧会を見たら
どう思うか想像もできないけれど、、、そんな写真を大きなサイズで
プリントして額に入れ、特別なライトを当てて、美術館に飾ってみて、、、
それが、美術の歴史の文脈上に押し込める事ができるかどうか???」
そんな試みが、この展覧会の主旨だそう。。。

あと、デジタル技術の成熟も、この展覧会を実現できた陰の立役者とも。
タイトルチケットにも、インクジェットプリントと書いたものが大半だったので、
スキャンやリタッチの技術、インクジェットプリンターなどの
デジタルテクノロジーの性能が、ミュージアムクオリティーに成熟しつつある
2013年と言うタイミングも意味深いのかもしれません。


なんと言っても、アダムとイブの楽園の追放以来?からか、、、服飾には
長い長い歴史がありますが、この写真展のタイトルの「Fashion」と言う言葉には、
デザイナーがデザインする洋服や香水、それにファッションジャーナリズムや、
写真と印刷技術、そして流通販売のコラボで、流行の変化を加速度的に速めて
いった20世紀の一大ムーブメントとしての定義を与えたいところなのでしょう。


数百年後の人類が、美術館なんかで、私たちの時代を振り返った時、、、
「Fashionって、要はコルセットとかからの女性の解放の歴史なんだって。
理想の体のラインも、活動的になっていったのが、よくわかるしね。
20世紀後半なんて、半年ごとにコレクションを発表したりして、
トレンドが目まぐるしく変わってたらしいよ。まさにFashion Obsessionの時代。。。
でも、色んな才能が吸い寄せられていて面白いよ」なんて、言われてるのかも知れません。

つい、そんな事まで、妄想してしまう写真展でした。「Fashion Obsession」の
時代は、まだまだ続いているのでしょうが、気軽な値段で買えるグローバルな
Fast Fashionの台頭以外には、時代をひっくり返すような大きなうねりもなく、、、
まあ、もちろん、まだまだ分かりませんが、もしや成熟爛熟期に
達しているのかもしれませんしね。いずれにしても、シャネルの設立からも
ほぼ一世紀が過ぎた今、ちょうど過去を振り返る段階にあるのかもしれません。

ミラノFORMAにて、2013年4月7日まで開催中。

ちなみに展覧会のカタログと言うか、分厚い写真集の表紙は、
こちらの写真を使ってました。展覧会が見られなくても、どこかの
写真集売り場で見かける事があるかも。。。

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