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2020.01.28

「小股の切れ上がったいい女」って、どんな意味?

日本語は世界でも特に語彙の多い言葉なのだとか。特に感情を表す言葉の豊かさはピカイチで、女性を褒める言葉だって物凄くたくさんあるのです。とりわけ明治以前の日本語には今以上にユニークでシゲキ的な言葉がいっぱいです。

CREDIT :

取材・文/井上真規子

喜多川歌麿『歌まくら』/遊廓画 Wikipedia
日本語は世界でも特に語彙の多い言語として知られています。なかでも感情を表すことばが非常に豊かであるとか。例えば、男女の間でお互い想いを伝え合う言葉を探せば、実にユニークで繊細な表現が数多くあることに驚かされます。

とりわけ明治以前の日本では、日常会話とは別にさまざまな表現で男女の思いや行いを伝えていく文化が発達しました。
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万葉集の和歌に始まり、源氏物語や枕草子といった女性たちが著した文学、そして中世のさまざまな物語を経て、江戸時代には人情本と呼ばれる数々の恋愛物語が出版され、庶民の間で人気を得ました。

それぞれの作品の中ではときに言葉遊びも織り交ぜながら、人々のイマジネーションを刺激する新しい表現が次々に生まれ、感情表現は熟成されていったのです。

翻って現代においてはSNSが発達し、くどくどした会話よりも記号的なシンプルなコミュニケーションが主流に。日本人の語彙はどんどん少なくなっているという専門家の指摘もあります。

インターネットの発達で世界との距離が著しく縮まった今の時代、それは必然かもしれませんが、そのために日本語独特の細やかな表現が廃れていくのであれば、これは残念というほかありません。

こんな時代だからこそ、いま、改めて我々日本人が育んできた豊かな愛情表現に注目してみるのも、意味なきことではないでしょう。
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というわけで、今ではほとんど使われなくなった表現を中心に、愛と性を巡る個性的な言葉の数々を國學院大学の中村正明准教授に解説してもらいました。私たちの先祖が生み出した、その豊かな表現をぜひ味わってみてください。
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現代でも使えそう!?な愛と性にまつわる表現を紹介!

■女性を褒める言葉

あだっぽい【婀娜っぽい】
女性の容姿や身のこなしが、艶めかしく、美しい。色っぽい。「近世末期には、粋な感じも意味しました。『婀娜な年増』『花の色を婀娜なる物といふべかりけり』など」(中村先生、以下同)

うっつい【美っつい】
美しい女性のこと。うっつく、で美しい者をさす。

からすのぬればいろ【烏の濡れ羽色】女性の髪の褒め言葉。「水にぬれた烏の羽のように、真っ黒で青味のあるつややかな髪の形容です」

こまたのきれあがった【小股の切れ上がった】
女性の脚が長く、スラリとして粋な様。「解釈には色々な説があり、女性器や股の付け根のライン、膝の上、着物からちらっと見える部分を指すなど様々。ですが、見える部分でなければ褒められないので、膝から下の脚が長くすらっとしていることを言うのだと思います」
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しぶかわのむけた【渋皮のむけた】
洗練された容姿の女性のこと。「渋皮のむけたいいオンナじゃのう!」などと使う。「栗を食べる際、硬い皮の内側にある薄皮=渋皮をむいて綺麗にして食べることから生まれた表現です。昭和の映画でも使われていました」

そそ【楚々】、せいそ【清楚】
ともに飾り気がなく清らかで美しい様子。「楚々は可憐さがあり、清楚はより上品で清潔感が強い感じです」

たおやか【嫋やか】
動作がしなやかで美しい様。姿形がほっそりして動きがしなやかな様子。「たおやかな女性」「たおやかな身のこなし」など。

べっぴん【別嬪】
非常に美しい女。「普通のものとは違う、特別に良い品物の意味で使われていた語ですが、やがて女性の容姿のみを指すようになりました」
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ぼっとりもの 
愛嬌のある女性、男心をそそるような女性。「褒め言葉として用いられていました。ぼっとり娘などとも言います。江戸独特の面白い表現ですね」

やなぎごし【柳腰】
女性の細いしなやかな腰。また、細腰の美人。

らうたし【労たし】
か弱く無力なので、心が痛いほど愛情を感じること。可愛らしい、愛おしい、いじらしい、可憐な様。
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■男性を褒める言葉

いき【粋・意気】
上品で控えめ、さっぱりとした様子。反対語は、野暮。「江戸時代の美意識となった表現。江戸時代のいい男とは、現代のように顔やスタイルで評価されるのではなく、身につけていたもので判断されていました。いい男の描写では、何を身につけていたかが事細かく説明されています」

きよらなり【清らなり】
気品があって輝くように美しい様子。「髪いと清らにて長かりけるが」など。

けなげなり【健気なり】
勇ましく気丈な様子。殊勝な様。心がしっかりしている様子。「現代では、特に年少者や力の弱いものが困難なことに立ち向かっていく様を言いますね」

だて【伊達】
江戸の洒落た身なりの男を指す。「派手好みな男性に対しても使われていたようです。『伊達に着こなす』など。また、意気や侠気(弱いものを助けようとする気性)をひけらかすことも『男伊達』『伊達な若い衆』などと言われていました」

ますらを【益荒男】 
心身ともに人並み優れた強い男性、立派な男性のこと。ますらたけお、ますらおのこなどともいう。

みずもしたたる【水も滴る】
美男のみずみずしい魅力形容。「特に、若くてハンサムな男性や男性の役者などについて言います」
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ぼっとりもの 
愛嬌のある女性、男心をそそるような女性。「褒め言葉として用いられていました。ぼっとり娘などとも言います。江戸独特の面白い表現ですね」

やなぎごし【柳腰】
女性の細いしなやかな腰。また、細腰の美人。

らうたし【労たし】
か弱く無力なので、心が痛いほど愛情を感じること。可愛らしい、愛おしい、いじらしい、可憐な様。
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■恋愛に関する言葉

あきのちぎり【秋の契り】
秋に逢おうという約束、転じて冷めてきた男女の情、またその関係。「風情のある表現ですね」

あずまおとこにきょうおんな【東男に京女】
たくましく意気な江戸の男と美しく情のある江戸の女を褒める表現、またその取り合わせがお似合いであること。「他にも、伊勢男に筑紫女、越後男に加賀女、北男南女など、土地ごとで様々な組み合わせがあったようです。男女とも地域によって気質が違ったことがわかります」

いちゃつく【徒付く】
イチャイチャする。異性に戯れかかる。浮気する。「これは今でも言いますね」

おかぼれ【岡惚れ】
親しく接したことのない人や他人の恋人を密かに恋い慕うこと。また、その相手を指す。使い方としては「同僚の妻君に岡惚れする」など。
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ききおとこ【利き男】
色道の達人。「特に江戸時代の遊里で粋の道に達した男をいいました」

きぬぎぬ【衣衣・後朝】
男女の別れ。離ればなれになること。 「衣を重ねて掛けて共寝をした男女が、翌朝別れる時に、それぞれ身につける衣、から派生して、朝の別れや男女や夫婦の離別を表す言葉として使われていました」「きぬぎぬの別れ」など。

くらいこむ【食らい込む】
心を奪われる。夢中になる。

くらごと【暗事】
秘密の色恋沙汰、男女の密会のこと。「昔は蝋燭の明かりで生活していたため、夜は今よりもずっと暗かったわけです。秘密の関係はその暗がりの中で行われていたことから、こうした表現になったのでしょう」

こいぐさ【恋草】
草が茂ることに例えて、恋心の募ることをいう表現。恋愛や恋人のことを指す場合もある。
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ことのまぎれ【事の紛れ】
人目を忍ぶ男女関係。密通。

じゃらくら
男女が戯れ合う様。でれでれする、いちゃいちゃする様子。「じゃらくらして女郎の腐ったやうなが」など。

たわれ【戯れ】
不倫関係を結ぶ。色恋におぼれる。

ちぇちぇくり【乳繰り】
男女が密会して情を通じること。私通すること。「ちぇちぇくり合う」など。「今は『ちちくりあう』と言いますね」

ちんちん【珍珍】
極めてねんごろなこと。男女が情を通じて親密な様子。「今でも、『ちんちんかもかも』とか、『ちんかも』とか言いますね」

ふためぐるい【二妻狂】ふたりの女に溺れて色に耽ること。
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■性的な営みに関する言葉

あらばちをわる【新鉢を割る】
処女を奪うこと。

いいおかし【言い犯し】
言いよって無理に女性に通じること。

きをやる【気を遣る】
性交時の陶酔境に入ること。

ぎょくもん【玉門】、しゅもん【朱門】、ほと【女陰】
女陰。女性の陰部。「ほと」は「ほ」=大切な+「と」=処(ところ)。

きぬかつぎ【衣被】
包茎のこと。

くちくち【口口】、こうじるし【口印】
キス、接吻の隠語。

ししきがんこう【紫色鴈高】
怒張した男性器、亀頭の大きな男性器。「理想的とされて、北斎が春画を描く時の一時の雅号にもなりました」
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つるび【交び】
交接する。交尾する。「交通は性交することでした」。

てごめ【手籠め】
強姦。無理矢理ことに及ぶこと。「よく時代劇に出てきますね」

とつぎ【嫁ぎ】
男女の交合。「と」=陰門、女性器。「つぐ」=継ぐ、欠けたところをふさぐ。

ぬれごと【濡事】
情事。情交。

ひめはじめ【姫始】
新年始めて情交すること。

ふぐり【陰嚢・不久利】
陰嚢。睾丸。「ふぐりなし、は意気地のない男のことです」

ほてくろし 
情交にしつこくいやらしい様。
まら【魔羅】
陰茎。男根。
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江戸時代にたくさんの表現が生まれた

「江戸以前は、文学は上流階級の人たちのものでしたし、文学に登場する言葉と会話言葉は別ものでした。そのため、会話でどんな言葉が交わされていたか、よくはわかっていません。江戸時代になると会話中心の文学が成り立ち、人情本などの中にリアルな話し言葉が再現されているため、江戸の生活は手に取るようにわかります」(中村先生、以下同)。

実際、江戸の言葉はバラエティに富んでいる、と中村先生。江戸では、上流階級だけでなく、庶民もたくさん本を読むようになり、言葉の量は一気に増えていったのだとか。

「恋人同士が交わす恋文など、裏で様々な表現が生み出されたようですね。よく、業界用語を隠語といったりしますが、特定の集団やふたりの間でだけ伝わる言葉を作ろうとすると、独自の表現が増えてきます。それが広がることで一般語になり、定着していくわけですね」
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また、江戸時代には粋という概念があり、恋愛でもガツガツいくより、控えめにアプローチするのがよしとされていたのだとか。

「江戸人は、控えめで上品に遊ぶことが格好良かったのです。愛情表現もストレートなものではなく、間接的に表現することが多かった。そうした粋の概念があったことも江戸に表現が豊かになった理由の一つでしょう」

また、日本は島国という閉鎖的な環境の中で、知った同士で、より濃密な感動共有を求める方向に言語が発達した、ということもあるかもしれません。

「ただ、会話で異性を口説いたり、褒めたりするような言葉は現代でも使われているものがほとんど。人情本で有名な『春色梅児誉美』などでは、『可愛い』『いいおとこ』『惚れている』などもよく登場しています」
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● 中村正明 (なかむら まさあき)

國學院大学文学部日本文学科准教授。近世文学の中でも江戸時代後期の戯作、明治初期文学が専門。江戸の庶民が娯楽のために生み出した、黄表紙、滑稽本、洒落本、人情本を研究し、庶民の暮らし、言葉を探る。

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