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2018.12.15

なぜジャガーEタイプは世界一美しいクルマと言われるのか?

美しいクルマの代名詞としてつとに知られるのが、ジャガーが1961年のジュネーブショーで発表した名車「Eタイプ」だ。何せ、フェラーリの創始者であるエンツォ・フェラーリをして、「世界で最も美しいクルマ」と言わしめたのだ。では、なぜEタイプはかくも世のクルマ好きを魅了するのか。その秘密をひも解いてみた。

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文/小川フミオ

歴史上もっとも価値あるデザインとは

スタイリッシュなクルマと、格好いいクルマとは違う。あえてそう言いたい。

スタイリッシュなクルマにはトレンドが加味されているものだ。だからSUVにもそれにふさわしいモデルがある。他方、格好いいクルマとは、ひと目見ただけで心を騒がせるデザインがある。それは古典的な美と言ってもいいかもしれない。時代を経ても古びず、僕たちを夢中にさせる美しさだ。
それを踏まえて“もっともエキサイティングでビューティフルなクルマ”は?と言う問いに、英国のデザイン史家であり自動車デザインに関する著書が多いスティーブン・ベイリーは「ジャガーEタイプだ」としている。僕たちが少年時代からずっと惹かれてきたのは、ロングフードの、ジャガーEタイプのようなスポーツカーであるのは、まぎれもない事実だ。
とはいえ、ロングフードでキャビンが小さいEタイプのスタイリングは突然空から降ってわいたわけではない。オリジナルはアルファロメオ1900ディスコボランテ(1952)あたりと、先のベイリーは書いている。

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ロングフードのカーデザインの源泉

ロングフードのカーデザインの源泉

遡れば、ピニンファリーナは40年代にロングフードで、かつキャビンがコンパクトで後退しているプロポーションのデザインをさかんに発表していた。
戦前から50年代にかけてのグランプリカーはどれも後輪の上に座るぐらい、エンジンフードが長くてキャビンは後ろに位置している。このあたりがデザイン上の源泉ではないだろうか。
フェラーリはロングフードのスポーツカーを作り続けてきて、1950年代は世界中で名声を獲得した。グランプリレースを続けるための資金かせぎにスポーツカーを作るという“ストーリー性”も魅力的だった。

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ミドシップレイアウトの登場がスポーツカーデザインを大きく変えた

ミドシップレイアウトの登場がスポーツカーデザインを大きく変えた

1961年にデビューしたフェラーリ初のミドシップF1マシン「156 F1」
1961年にデビューしたフェラーリ初のミドシップF1マシン「156 F1」
フォーミュラワンでは、しかし、50年代の終わりごろから重いエンジンをシート直後に配置し、コーナリング能力に優れたミドシップレイアウトのマシンが出てきた。それが市販スポーツカーの世界に広がり、カーデザインの潮流は大きく変わっていく。
いち早く呼応したのはやはりフェラーリだった。フェラーリのスポーツカーは、市販用といっても、市販車ベースのツーリングカーレースで勝つことが求められていた。246SP(1961)はこうして登場する。カーデザインの新しい路線の誕生だ。
もちろんミドシップにはそれなりの美がある。市販モデルをみても、206GT(1967)から365GT/4BB(1973)を経て、308GTB(1975)、360モデナ(1999)そして現在の488にいたるまで、フェラーリは綿々と機能に裏打ちされた美しいミドシップを作り続けてきているし、それを定着させてきた。

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常にロングフードのFR車をラインナップしてきたフェラーリ

常にロングフードのFR車をラインナップしてきたフェラーリ

とはいえフェラーリは、ミドシップ一辺倒になったわけでなかった。ロングフードのフロントエンジン車をずっと並行してラインナップに留めてきたのも事実だ。250GTO(1964)、275GTB(同)、365GTB/4デイトナ(1968)など名車も多く排出している。それらはいまもなお、高価格で取り引きされるモデルだ。

大きなエンジンの存在を感じさせるロングフード

古典的なスポーツカーの美の正体はなにか。ベイリーはEタイプのスタイル上の特徴をして「ファリックシンボル(男根的象徴)」と分析めいたことを書いている。それでは、しかし、説得力にいまひとつ欠ける。弾丸的なシェイプは速度を象徴していることに加え、ロングフードゆえに中にある(大きな)エンジンの存在を直感的にわかるのだろう。メカニズム信仰である。その証拠に、日本人には多くないけれど、欧米では農業用トラクターの人気が高く、コレクターも多い。
大きなエンジンの収まったボンネット、巨大なタイヤ、そして単一目的のために開発されたという合理性。どれもスポーツカーと相通じるものがないだろうか。

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人間にとってクルマの美は普遍的なもの

人間にとってクルマの美は普遍的なもの

メルセデスAMGもBMWもジャガーもロングフードのスポーツモデルを今も作っている。フロントエンジンにはメリットがある。ハイスピードドライビングにおいてコントロールが比較的容易とか、大きなエンジンを許容するとか、キャビンが広くとれるとか、理由はいろいろ思いつく。加えてロングフードのプロポーションの美しさも、高い人気とあながち無関係ではないだろう。
ロングフードのスポーツカーという主題から少し離れてしまうが、昨今、ベントレーやボルボといったメーカーのデザイナーがさかんに「黄金比」という言葉を使う。フロントタイヤと前席ドアのパーティングラインとの距離は、ある程度離れていたほうがいいと彼らは言う。それは突き詰めると、セダンにおいてもロングフードを強調して、古典的な美を追究することが現代のクルマにおいても重要だという主張である。
新型ベントレー「コンチネンタル GT」も長いフードを強調したフォルムが特徴だ
新型ベントレー「コンチネンタル GT」も長いフードを強調したフォルムが特徴だ
ここから導きだされることは、人間にとってクルマの美は(意外にも)普遍的なものだという事実だ。もちろん古いスポーツカーは個々の物語を持っている。フェラーリならエンツォ・フェラーリの、ジャガーならウィリアム・ライオンズの持っていた、レースでの勝利をはじめとした崇高な夢の具現化と言う物語だ。そしてその物語もまた、美への強烈なフレーバーになっているように思える。

● 小川フミオ / ライフスタイルジャーナリスト

慶應義塾大学文学部出身。自動車誌やグルメ誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。活動範囲はウェブと雑誌。手がけるのはクルマ、グルメ、デザイン、インタビューなど。いわゆる文化的なことが得意でメカには弱く電球交換がせいぜい。

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